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第二部
第70話:黒田、目覚める
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推し成分過剰摂取によって失神した私は、保健室で目を覚ましていた。
「クロエお嬢様。本当にご無事でよかったです……」
ハンカチで涙を拭くポーラには、本当に心配させてしまっただろう。
でも、大変申し訳ない。空腹状態に耐えていたとはいえ、とても幸せなひとときを過ごしていただけだ。
なお、現在はポーラの照り焼きバーガーを貪り、スッカリ体調がよくなっている。
食べ物が喉に通らなかったポーラが自分の分まで差し出してくれるけれど、さすがに私も断っていた。
最近は食べてばかりだし、ハンバーガーというジャンクフードは危険だとよく知っている。ましてや、空腹で倒れたと思われているだろうから、クロエのイメージ的にもよろしくはない。
よって、必死に誤魔化すつもりだ。
「ごめんね、ポーラ。聖魔法と剣術大会の訓練ばかりで、エネルギーを過剰に放出していたみたいなの。まさか倒れてしまうなんてね」
「気のせいです、クロエお嬢様。体系が変わっておりませんので、ただ空腹に勝てなかっただけかと」
冷静なツッコミはやめていただきたい。過剰な推し成分で死にかけた真実は伝えられないし、もうその方向で逃げるしか道はなかった。
こうなったら、やけ食いするわよ。照り焼きバーガー、いただきます!
結局、ポーラの分の照り焼きバーガーもおいしく食べ始める頃、授業が終わったのか、ルビアがやってくる。
その表情はとても真剣で、ササッと近づいてくると、ニューッと亀のように首を伸ばしてきた。
「お姉ちゃん、もう私のことを天然と言えなくなったね」
クロエのイメージ大崩壊である。まさか天然のルビアと同系列に並べられてしまうなんて。しかも、反論することができない。
「私だって人間なの。弱点の一つや二つくらいはあるわよ」
当然のことながら、食べ物と推しである。
「そ、それで? アルヴィくんとはどうだったの? 体育館倉庫で二人きり、だったんだよね?」
黒田の影響を受けているのか、期待に満ちた眼差しをルビアが向けてきた。でも、これには文句を言いたい。
推し成分過剰失神と空腹という情けない状態だったけれど、私は事件に巻き込まれた身よ。アルヴィと二人きりだったからといって、軽々しく聞かないでほしいわ。
これには、さすがにポーラが注意するはず――。
「………」
めちゃくちゃ興味津々じゃない。薄々気づいていたけれどね。
「別に何もなかったわよ」
「ほ、本当は?」
「私とアルヴィは体育館倉庫に閉じ込められていたのよ。事件に巻き込まれたんだし、変な期待はしないでよね」
「そっか……。ごめん」
いや、いい雰囲気になったこともあって、素敵な時間ではあったのよ。でも、アルヴィのお腹がなったんだもの。先になってくれたおかげで助かったけれど。
「じゃ、じゃあ、グレンくんはどうだった? すごい勢いで飛び出していって、お姉ちゃんたちを探しに行ってくれてたんだよ?」
鼻息が荒いルビアを見て、私は悟った。略奪スイッチがONになっている、と。
お姫様抱っこされたことを知って、完全に嫉妬しているわね。ここは良い印象を抱かせつつ、私には興味がないことを伝えなければならないわ。
「とても一生懸命探してくれていたみたいで、大量の汗を流していたわ。でも、彼は仕事をしただけよ」
「そうでもないんじゃないかな。お姉ちゃんを心配してたから、必死に探していたとか。もしかして、気があったりして」
「あり得ないわ。仮にそうだったとしても、空腹で失神するような貴族令嬢を見つけたら、恋心はどうなると思う?」
「はぁ~。百年の恋も冷めるかもしれないね……」
どうして残念そうにするのかしら。私に恨みがあるわけではないわよね。そこまで略奪しようと思わなくてもいいと思うわ。
「いつからクロエお嬢様は食いしん坊になったのでしょうか……」
ポーラまで落ち込まないでよ。グレンはルビアとくっつく予定であって、私は姉妹喧嘩をしたくないの。
「まさかお姉ちゃんが花より団子だったなんてね」
「昔のクロエお嬢様の方がしっかりしていた気がするのは、私の思い違いでしょうか」
はぁ~と大きなため息を吐く二人を見ながら、私は照り焼きバーガーを食べるのだった。
「クロエお嬢様。本当にご無事でよかったです……」
ハンカチで涙を拭くポーラには、本当に心配させてしまっただろう。
でも、大変申し訳ない。空腹状態に耐えていたとはいえ、とても幸せなひとときを過ごしていただけだ。
なお、現在はポーラの照り焼きバーガーを貪り、スッカリ体調がよくなっている。
食べ物が喉に通らなかったポーラが自分の分まで差し出してくれるけれど、さすがに私も断っていた。
最近は食べてばかりだし、ハンバーガーというジャンクフードは危険だとよく知っている。ましてや、空腹で倒れたと思われているだろうから、クロエのイメージ的にもよろしくはない。
よって、必死に誤魔化すつもりだ。
「ごめんね、ポーラ。聖魔法と剣術大会の訓練ばかりで、エネルギーを過剰に放出していたみたいなの。まさか倒れてしまうなんてね」
「気のせいです、クロエお嬢様。体系が変わっておりませんので、ただ空腹に勝てなかっただけかと」
冷静なツッコミはやめていただきたい。過剰な推し成分で死にかけた真実は伝えられないし、もうその方向で逃げるしか道はなかった。
こうなったら、やけ食いするわよ。照り焼きバーガー、いただきます!
結局、ポーラの分の照り焼きバーガーもおいしく食べ始める頃、授業が終わったのか、ルビアがやってくる。
その表情はとても真剣で、ササッと近づいてくると、ニューッと亀のように首を伸ばしてきた。
「お姉ちゃん、もう私のことを天然と言えなくなったね」
クロエのイメージ大崩壊である。まさか天然のルビアと同系列に並べられてしまうなんて。しかも、反論することができない。
「私だって人間なの。弱点の一つや二つくらいはあるわよ」
当然のことながら、食べ物と推しである。
「そ、それで? アルヴィくんとはどうだったの? 体育館倉庫で二人きり、だったんだよね?」
黒田の影響を受けているのか、期待に満ちた眼差しをルビアが向けてきた。でも、これには文句を言いたい。
推し成分過剰失神と空腹という情けない状態だったけれど、私は事件に巻き込まれた身よ。アルヴィと二人きりだったからといって、軽々しく聞かないでほしいわ。
これには、さすがにポーラが注意するはず――。
「………」
めちゃくちゃ興味津々じゃない。薄々気づいていたけれどね。
「別に何もなかったわよ」
「ほ、本当は?」
「私とアルヴィは体育館倉庫に閉じ込められていたのよ。事件に巻き込まれたんだし、変な期待はしないでよね」
「そっか……。ごめん」
いや、いい雰囲気になったこともあって、素敵な時間ではあったのよ。でも、アルヴィのお腹がなったんだもの。先になってくれたおかげで助かったけれど。
「じゃ、じゃあ、グレンくんはどうだった? すごい勢いで飛び出していって、お姉ちゃんたちを探しに行ってくれてたんだよ?」
鼻息が荒いルビアを見て、私は悟った。略奪スイッチがONになっている、と。
お姫様抱っこされたことを知って、完全に嫉妬しているわね。ここは良い印象を抱かせつつ、私には興味がないことを伝えなければならないわ。
「とても一生懸命探してくれていたみたいで、大量の汗を流していたわ。でも、彼は仕事をしただけよ」
「そうでもないんじゃないかな。お姉ちゃんを心配してたから、必死に探していたとか。もしかして、気があったりして」
「あり得ないわ。仮にそうだったとしても、空腹で失神するような貴族令嬢を見つけたら、恋心はどうなると思う?」
「はぁ~。百年の恋も冷めるかもしれないね……」
どうして残念そうにするのかしら。私に恨みがあるわけではないわよね。そこまで略奪しようと思わなくてもいいと思うわ。
「いつからクロエお嬢様は食いしん坊になったのでしょうか……」
ポーラまで落ち込まないでよ。グレンはルビアとくっつく予定であって、私は姉妹喧嘩をしたくないの。
「まさかお姉ちゃんが花より団子だったなんてね」
「昔のクロエお嬢様の方がしっかりしていた気がするのは、私の思い違いでしょうか」
はぁ~と大きなため息を吐く二人を見ながら、私は照り焼きバーガーを食べるのだった。
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