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第二部
第50話:黒田、妹のフェチを知る
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翌日の早朝、私とルビアはライルードさんと王妃様の元に訪れていた。
ルビアに事情を説明して、ライルードさんの治療をお願いしておいたのだ。
しかし、ライルードさんが年配の男性ということもあって、ルビアは人見知りムーブ全開である。
これには、王妃様も苦笑いを浮かべていた。
「ごめんなさいね、こんな朝早くに来てもらって。この件に関しては、公にできることではないの」
「気にしておりません。言いふらすつもりもありませんし、それだけ王妃様が信頼してくれている証として受け取ります」
「そう思ってもらえると助かるわ。ルビアちゃんもごめんね。急に呼び出して」
「だ、大丈夫だよ、お義母様」
待ちなさい! あんた、また変なところを崩しているわよ!
前回のお茶会で『お義母様』呼びはやめなさいと言ったでしょう? 崩してもいいのは、口調だけよ。
「ルビア、呼び方を崩すのはやめなさい」
「いいのよ、ルビアちゃん! それでいいの!」
どうして鼻息が荒くなるんですか、王妃様! 聖母キャラから違う何かに変わり始めていますよ!
これは本当にいけないと思った私は、ルビアの耳を引っ張り、小声で声をかける。
「ジグリッド王子と婚約するために外堀を埋めたい気持ちはわかるけれど、お義母様呼びはやめておきなさい」
「ううん。普通にお母様みたいだなって思って」
聖母ルートに入ってる場合じゃないのよ! そのまま行けば、現実でバブバブルートをやることになるわ!
そんなの羨ま……ダメに決まってるじゃないの。まったく。
一番キャラが崩壊しているのはクロエなのかもしれないと思いつつ、私は平然とした顔で王妃様と向かい合う。
「王妃様、ほどほどにしてくださいね」
「だ、大丈夫よ。安心してほしいの。私はクロエちゃん派よ」
「そこは心配していませんし、説得力がありませんよ」
少し嬉しいと思ってしまうのは、私が原作マニアの黒田だからである。
クロエのイメージを崩さないためにも、絶対にバブバブルートだけは通らないつもりだが。
王妃様もライルードさんも忙しい身なので、初めて会う二人の自己紹介を軽く済ませた後、早速ルビアに治療を始めてもらう。
といっても、闇雲に治療するわけではない。ルビアは回復魔法も出鱈目にかけている状態なので、王妃様に聖魔法の使い方を教えてもらうようにお願いしておいた。
「ルビアちゃん。お、お義母様でいいのよ」
「でも、お姉ちゃんが怒るから……二人の時だけね」
何の話をしとんねん、と心から突っ込みたくなるが、もう諦めよう。仲良くやってくれて、ライルードさんの呪縛が解けたら儲けものだから。
一方、治療される側のライルードさんは気にした様子を見せなかった。おそらく王妃様の性格を知っているのだろう。
むしろ、私のことを心配するように顔を向けてきている。
「本当に剣術大会に出場するつもりか? 仮にもグレンは大人の騎士と肩を並べる存在だ。短期間の練習で勝てるようなものではない」
「気にしなくても大丈夫です。やってみなければわかりませんし、一戦勝負なら可能性はあると思います。別に騎士のことを見下しているわけではありませんので、安心してください」
「ワシに同情しているのかもしれないが、騎士として、それは嬉しいことではないぞ」
同情していないことはないのだけれど、私にも複雑な思いがある。
グレンの騎士の心を目覚めさせるため、ルビアの恋愛を進めるため、ライルードさんの未練をなくすため、そして……。
「私がやりたいだけです。個人的に未練があるのかもしれません」
自分自身のためでもある。本当に私は秘密兵器だったのか、証明するいい機会だった。
「いったいどういう意味だ?」
そんなことを知らないライルードさんは、首を傾げるが。
「何でもないです。少し剣を握った経験があるだけですので。それより、大会までの練習相手、声をかけてもらえましたか?」
「あぁ。早朝と聞いて嫌そうな顔はしていたが、断れなかったみたいだな。借りがある、そう言っておったよ」
「そうですか。じゃあ、私は稽古を付けてもらいに行ってきます。ルビアも王妃様がいれば、一人でも大丈夫……よね?」
真面目に治療しているのかと思っていたのだけれど、ルビアは王妃様と一緒に鍛え抜かれたライルードさんの体をペタペタと触っていた。
この二人に任せて本当に大丈夫なのか、とても心配になったのは言うまでもないだろう。
「えっ? あ、うん。大丈夫だよ。いってらっしゃい」
「よくそんなに普通に言えたわね。もしかして、筋肉フェチだったの?」
「……ちょっとだけ、ね」
妹の意外な趣味を知った後、私は不安な思いで胸をいっぱいにして、部屋を退室した。
でも、そんな不安は黒田に通用しない。騎士団の訓練場に顔を出せば、一人の青年が待ってくれているのだから。
「悪いわね。付き合ってもらっちゃって」
「いきなり予定を入れてくるあたりが、一段と嫁にそっくりだよ」
アルヴィの兄、サウルである。私と似ているというお嫁さんに、少し興味を持ってしまう。
いや、王妃様と違って、変な趣味はないのだけれど。
まあ一つだけ確かなことは、外堀を埋めようとしているのはルビアではなく、間違いなく私という事実だけね。
ルビアに事情を説明して、ライルードさんの治療をお願いしておいたのだ。
しかし、ライルードさんが年配の男性ということもあって、ルビアは人見知りムーブ全開である。
これには、王妃様も苦笑いを浮かべていた。
「ごめんなさいね、こんな朝早くに来てもらって。この件に関しては、公にできることではないの」
「気にしておりません。言いふらすつもりもありませんし、それだけ王妃様が信頼してくれている証として受け取ります」
「そう思ってもらえると助かるわ。ルビアちゃんもごめんね。急に呼び出して」
「だ、大丈夫だよ、お義母様」
待ちなさい! あんた、また変なところを崩しているわよ!
前回のお茶会で『お義母様』呼びはやめなさいと言ったでしょう? 崩してもいいのは、口調だけよ。
「ルビア、呼び方を崩すのはやめなさい」
「いいのよ、ルビアちゃん! それでいいの!」
どうして鼻息が荒くなるんですか、王妃様! 聖母キャラから違う何かに変わり始めていますよ!
これは本当にいけないと思った私は、ルビアの耳を引っ張り、小声で声をかける。
「ジグリッド王子と婚約するために外堀を埋めたい気持ちはわかるけれど、お義母様呼びはやめておきなさい」
「ううん。普通にお母様みたいだなって思って」
聖母ルートに入ってる場合じゃないのよ! そのまま行けば、現実でバブバブルートをやることになるわ!
そんなの羨ま……ダメに決まってるじゃないの。まったく。
一番キャラが崩壊しているのはクロエなのかもしれないと思いつつ、私は平然とした顔で王妃様と向かい合う。
「王妃様、ほどほどにしてくださいね」
「だ、大丈夫よ。安心してほしいの。私はクロエちゃん派よ」
「そこは心配していませんし、説得力がありませんよ」
少し嬉しいと思ってしまうのは、私が原作マニアの黒田だからである。
クロエのイメージを崩さないためにも、絶対にバブバブルートだけは通らないつもりだが。
王妃様もライルードさんも忙しい身なので、初めて会う二人の自己紹介を軽く済ませた後、早速ルビアに治療を始めてもらう。
といっても、闇雲に治療するわけではない。ルビアは回復魔法も出鱈目にかけている状態なので、王妃様に聖魔法の使い方を教えてもらうようにお願いしておいた。
「ルビアちゃん。お、お義母様でいいのよ」
「でも、お姉ちゃんが怒るから……二人の時だけね」
何の話をしとんねん、と心から突っ込みたくなるが、もう諦めよう。仲良くやってくれて、ライルードさんの呪縛が解けたら儲けものだから。
一方、治療される側のライルードさんは気にした様子を見せなかった。おそらく王妃様の性格を知っているのだろう。
むしろ、私のことを心配するように顔を向けてきている。
「本当に剣術大会に出場するつもりか? 仮にもグレンは大人の騎士と肩を並べる存在だ。短期間の練習で勝てるようなものではない」
「気にしなくても大丈夫です。やってみなければわかりませんし、一戦勝負なら可能性はあると思います。別に騎士のことを見下しているわけではありませんので、安心してください」
「ワシに同情しているのかもしれないが、騎士として、それは嬉しいことではないぞ」
同情していないことはないのだけれど、私にも複雑な思いがある。
グレンの騎士の心を目覚めさせるため、ルビアの恋愛を進めるため、ライルードさんの未練をなくすため、そして……。
「私がやりたいだけです。個人的に未練があるのかもしれません」
自分自身のためでもある。本当に私は秘密兵器だったのか、証明するいい機会だった。
「いったいどういう意味だ?」
そんなことを知らないライルードさんは、首を傾げるが。
「何でもないです。少し剣を握った経験があるだけですので。それより、大会までの練習相手、声をかけてもらえましたか?」
「あぁ。早朝と聞いて嫌そうな顔はしていたが、断れなかったみたいだな。借りがある、そう言っておったよ」
「そうですか。じゃあ、私は稽古を付けてもらいに行ってきます。ルビアも王妃様がいれば、一人でも大丈夫……よね?」
真面目に治療しているのかと思っていたのだけれど、ルビアは王妃様と一緒に鍛え抜かれたライルードさんの体をペタペタと触っていた。
この二人に任せて本当に大丈夫なのか、とても心配になったのは言うまでもないだろう。
「えっ? あ、うん。大丈夫だよ。いってらっしゃい」
「よくそんなに普通に言えたわね。もしかして、筋肉フェチだったの?」
「……ちょっとだけ、ね」
妹の意外な趣味を知った後、私は不安な思いで胸をいっぱいにして、部屋を退室した。
でも、そんな不安は黒田に通用しない。騎士団の訓練場に顔を出せば、一人の青年が待ってくれているのだから。
「悪いわね。付き合ってもらっちゃって」
「いきなり予定を入れてくるあたりが、一段と嫁にそっくりだよ」
アルヴィの兄、サウルである。私と似ているというお嫁さんに、少し興味を持ってしまう。
いや、王妃様と違って、変な趣味はないのだけれど。
まあ一つだけ確かなことは、外堀を埋めようとしているのはルビアではなく、間違いなく私という事実だけね。
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