【完結】悲劇の当て馬ヒロインに転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、運命が変わり始めました~完璧令嬢は聖女になって愛される~

あろえ

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第一部

第19話:黒田、壁を乗り越える

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「早く教えてくださいよ。太るかと思って、心配したんですからね」

 ブーブーと文句を言う私はいま、ルベルト治療院で先生に愚痴を言っている。

「すまないね。食事でエネルギーを摂るのは当たり前の感覚だから、食欲に悩むとは思わなかったんだ。今後、女性の治療師を育成する機会があれば、そういうところを教えていくよ」

 ダイエット効果が証明されただけでなく、食欲旺盛な黒田のイメージがちょっぴり上がった瞬間である。

 次はお土産のケーキを買って、ポーラと一緒に食べるのもありだわ。なーんて考えてしまうあたり、黒田の食欲も上がってしまったが。

「クロエ嬢は随分と余裕ができたみたいだな。手を震わせていた頃に比べると、別人みたいだよ」

 どんな形で騎士と訓練しているのか、頻繁に治療を受けに来るジグリッド王子は感心していた。

 推しに褒められて悪い気はしないし、自分でもよく成長したなーと思う。

「あの頃は怪我の状態を観察するのも初めてだったし、聖魔法にも慣れてなかったもの。どこかの王族が治療に来るから、変な意味でプレッシャーをかけられた影響もあるわね」

「相変わらず手厳しいな。もっと愛想よく治療すれば、人気が出ると思うんだが」

「私は何を目指しているのかしら。そんなことより、もう少し訓練を見直したらどうなの? これほど一国の王子が怪我するなんて、訓練方法に問題があると思うわ」

「言い返す言葉が見当たらないね」

 苦笑いを浮かべたジグリッド王子は、両手を上げるように降参して、治療室を後にしていった。

 アルヴィスマイルに癒された影響か、ルビアとのケーキイベで癒された影響か、今日は随分と心に余裕が持てる。

 なんだかんだでジグリッド王子がやってくるため、仕事のモチベーションも高まっていた。

 仕事に慣れてきた影響もあるとは思うけれど、唐突に酷い患者さんが来ると足がすくんでしまうので、未熟なのは間違いないだろう。

 でも、それが自分で判断できるだけでも、成長している実感はあった。

「本当にこの短期間で随分と成長したね。失神していた頃とは別人だよ」

「その記憶は封印してください」

 ルベルト先生が一言多いのは、よくあること。色々と教えてもらっているとはいえ、適当に流しておいた方がいい。

「冗談はさておき、君はもう立派な治療師だ。ここまで傷を治せるようになるまで、普通なら一年は見習いをして、徐々に慣らしていく必要がある。精神的にも、魔法の扱いにもね」

 今ならルベルト先生が言いたいことが、本当によくわかる。特に精神的な意味での負担は、とてつもないほど大きかった。

 後者の魔法の扱いについては、思い当たる節があまりないけれど。

「光魔法ではなく、聖魔法を使っている影響かしら。魔力コントロールに関しては、最初から苦戦した印象がありませんでした」

「そこまではわからないが、君の信念の強さが成長を加速させているのは間違いないだろう」

 やめてください。逆ハーを目指す、という信念の強さを褒められても困ります。

「貴族令嬢が学業と並行して治療師を目指すなんて、三日も持たないと思っていたんだけどね。王妃様の招介状を持参してきただけあって、感銘を受けているよ」

 ここにいま、逆ハーの信念に感銘を受けた治療師が誕生した。少しルベルト先生が不憫に思えてしまうのは、仕方がないことだろう。

「……あ、ありがとうございます」

 思わず、ぎこちない返事をすることしかできない。

「ジグリッド王子はあんなことを言っていたけど、今やクロエくんの頑張りに元気付けられて、勇気をもらっている人もいるんだ。あまり気にすることはないよ」

 ルベルト先生に褒められるのは違和感が残るけれど、慰めようとしてくれているかもしれない。

 ジグリッド王子が、もっと愛想よく治療すれば、と言っていたから。

 元々クロエはそういうキャラだし、特に気にしてはいないのだけれど……、たまにそういう気遣いをしてもらえるとありがたいわね。

 私も一応女の子だし。

「私は普通に治療しているだけです。ジグリッド王子がおっしゃるように、愛想がないという自覚はあります。元気付けられている人なんて、心当たりのある人は一人もいないのですが」

「いやー、あれだけ盛大に三連続失神していた人が一人前の治療師に成長していたら、誰でも衝撃を受けるよ。クロエくんのいない場所で、同一人物かよく聞かれるんだ」

 ルベルト先生、やはり一言多いみたいですね。

「記憶を消す魔法が使えるんですけど、やってみてもいいですか?」

「頭を鈍器で殴った後に回復魔法をかけようと考えているなら、許可は出せないかな。今日はこれで終わりだし、その元気があるうちに帰るといいよ」

 読まれていたか、と思いつつ、私は治療室を後にするのだった。
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