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第一部
第4話:黒田、聖女を拒否する
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体育館の壇上に上がった私は、貴族らしい立ち居振舞いを意識しながら、堂々と水晶に触れる。その瞬間、白と黄色が混ざったような淡黄色に水晶が光った。
やっぱりそうなるわよね。聖魔法の適性だわ。
再び会場がザワザワとなり始めるのも、無理はない。この世界で聖魔法に適性があるのはかなり珍しく、女性にしか現れないから。
「嘘……。あれって、聖魔法よね」
「ま、待て。特殊な光魔法の可能性もあるぞ」
「でも、クロエ様は公爵家よ。聖魔法に適性があってもおかしくないわ」
聖魔法に選ばれた者は、損傷した腕すらも再生させてしまうと言われるほど、強い力を持つ。光魔法や水魔法でも回復魔法が使えるけれど、聖魔法の回復魔法は、それを遥かに凌駕すると言われていた。
よって、聖魔法を使いこなす者は、聖女と呼ばれている。
「せ、静粛に! クロエ・フラスティン、早くダグラス国王様の元へ向かいなさい!」
「はい」
校長の指示で私が動き始めると、会場は嵐が去ったかように静まり返っていた。
広い体育館にコツコツと歩く音が響きわたり、確認しなくても、会場の視線を集めているとわかる。
本当に聖魔法に適性があるのか、見間違いではないのか、その答えを国王様が出してくれるから。
「およそ三十年ぶりになるか。聖魔法に適性を持つ者が我が国に現れるのは。クロエ・フラスティンよ。我が妃から聖女の名を受け継ぎ、活躍することを期待しているぞ」
笑みを見せる国王様とは対照的に、私は真剣な表情を崩さなかった。
現代の聖女と呼ばれる王妃様から聖女の名を受け継げば、ジグリッド王子と婚約しなければならなくなる。クロエが公爵家の長女である以上、円満な形に見えるのだけれど……、破滅エンドが確定するのよね。
だって、略奪する側としては、ハードルが高いほど燃えるんだもの。略奪愛属性を持つルビアが見逃すはずもない。
ゲーム内の選択肢では、謙遜して濁す形が正解だったわね。でも、当て馬になると決めた私は、ここで独自の選択肢を作り出す。
この話、完全に蹴るわ!
「ありがとうございます。しかしながら、私は聖女の名を受け継ぎません」
静まり返った会場に、呼吸がしにくくなるほどの緊張感が走った。
王族にたてつく……いや、国と敵対するとも取れる発言をしたのだから、当然のこと。
「クロエ・フラスティンよ。自分が何を言っているのか、わかっているのか?」
国王様が険しい顔をしてくるが、凛とした表情で迎え撃つ。
「国王様が考えられる意味とは異なると思いますが、事実を述べただけです。聖女の名を受け継ぐのは、私ではなく、妹のルビアですから」
私の言葉を証明するかのように、今日一番のざわめきが会場を埋め尽くした。
ジグリッド王子並みに強い魔力を持ち、クロエと同じ聖魔法に適性を持つルビアが水晶に触れたことで、会場に希望の光が満ちているのだ。
その力強くも温かい淡黄色の光は、見る者を魅了するほどの慈愛に満ち溢れたものになる。
まさにルビアこそが聖女であるべきだと思わせられるほどに。
国王様にたてついた私が注目を浴びているなかで、普通は水晶を触らないんだけれど、ルビアは緊張で周りが見えていないのよね。
でも、作戦通りだわ。姉の発言を裏付けるような形で水晶を触るというファインプレーは、とても印象深く残ったはずよ。
いくらルビアが天然でも、取る行動さえわかっていれば、合わせることは簡単だもの。良い当て馬のスタートが切れたわね。
「え、ええっ!? ど、どうしよう。お姉ちゃん……」
なお、本人は自分で水晶に触れたにもかかわらず、パニック状態になってアタフタとしている。こういうところが男の子の守ってあげたい心をくすぐるのだろう。
今は大事な式典の最中なので、さすがに助けてあげられないが。
「なん……だと!? 二人も同時に適性者が現れるとは。それに、あの強い光はいったい……」
当て馬の私は、早くも国王様の眼中にない。けれど、公爵家が反旗を翻したと思われないように、もう一度ちゃんと伝えておく。
「彼女は妹のルビア・フラスティンです。王妃様より聖女の名を受け継ぐに相応しい女性です」
クールに決めた私は、完璧な当て馬ムーブだったわ、と自画自賛しながら席へと戻っていくのだった。
やっぱりそうなるわよね。聖魔法の適性だわ。
再び会場がザワザワとなり始めるのも、無理はない。この世界で聖魔法に適性があるのはかなり珍しく、女性にしか現れないから。
「嘘……。あれって、聖魔法よね」
「ま、待て。特殊な光魔法の可能性もあるぞ」
「でも、クロエ様は公爵家よ。聖魔法に適性があってもおかしくないわ」
聖魔法に選ばれた者は、損傷した腕すらも再生させてしまうと言われるほど、強い力を持つ。光魔法や水魔法でも回復魔法が使えるけれど、聖魔法の回復魔法は、それを遥かに凌駕すると言われていた。
よって、聖魔法を使いこなす者は、聖女と呼ばれている。
「せ、静粛に! クロエ・フラスティン、早くダグラス国王様の元へ向かいなさい!」
「はい」
校長の指示で私が動き始めると、会場は嵐が去ったかように静まり返っていた。
広い体育館にコツコツと歩く音が響きわたり、確認しなくても、会場の視線を集めているとわかる。
本当に聖魔法に適性があるのか、見間違いではないのか、その答えを国王様が出してくれるから。
「およそ三十年ぶりになるか。聖魔法に適性を持つ者が我が国に現れるのは。クロエ・フラスティンよ。我が妃から聖女の名を受け継ぎ、活躍することを期待しているぞ」
笑みを見せる国王様とは対照的に、私は真剣な表情を崩さなかった。
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だって、略奪する側としては、ハードルが高いほど燃えるんだもの。略奪愛属性を持つルビアが見逃すはずもない。
ゲーム内の選択肢では、謙遜して濁す形が正解だったわね。でも、当て馬になると決めた私は、ここで独自の選択肢を作り出す。
この話、完全に蹴るわ!
「ありがとうございます。しかしながら、私は聖女の名を受け継ぎません」
静まり返った会場に、呼吸がしにくくなるほどの緊張感が走った。
王族にたてつく……いや、国と敵対するとも取れる発言をしたのだから、当然のこと。
「クロエ・フラスティンよ。自分が何を言っているのか、わかっているのか?」
国王様が険しい顔をしてくるが、凛とした表情で迎え撃つ。
「国王様が考えられる意味とは異なると思いますが、事実を述べただけです。聖女の名を受け継ぐのは、私ではなく、妹のルビアですから」
私の言葉を証明するかのように、今日一番のざわめきが会場を埋め尽くした。
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まさにルビアこそが聖女であるべきだと思わせられるほどに。
国王様にたてついた私が注目を浴びているなかで、普通は水晶を触らないんだけれど、ルビアは緊張で周りが見えていないのよね。
でも、作戦通りだわ。姉の発言を裏付けるような形で水晶を触るというファインプレーは、とても印象深く残ったはずよ。
いくらルビアが天然でも、取る行動さえわかっていれば、合わせることは簡単だもの。良い当て馬のスタートが切れたわね。
「え、ええっ!? ど、どうしよう。お姉ちゃん……」
なお、本人は自分で水晶に触れたにもかかわらず、パニック状態になってアタフタとしている。こういうところが男の子の守ってあげたい心をくすぐるのだろう。
今は大事な式典の最中なので、さすがに助けてあげられないが。
「なん……だと!? 二人も同時に適性者が現れるとは。それに、あの強い光はいったい……」
当て馬の私は、早くも国王様の眼中にない。けれど、公爵家が反旗を翻したと思われないように、もう一度ちゃんと伝えておく。
「彼女は妹のルビア・フラスティンです。王妃様より聖女の名を受け継ぐに相応しい女性です」
クールに決めた私は、完璧な当て馬ムーブだったわ、と自画自賛しながら席へと戻っていくのだった。
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