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師走、大掃除、すべての埃を祓う
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神事の翌日、松里さんは少し出かけてくると言って、どこかへ行ってしまった。
高天原を探ってくるとかなんとか言い残していったので、その言葉を手掛かりに少し検索して調べてみる。
高天原というのは神様の国みたいなことのようだった。
ということは、出雲に調べに行ったのかな。
私には出雲のことはよく分からないのだけど。
ただ私に汐の行方について、出来ることは何もない事だけは確かだった。
それは松里さんたち、神様にお任せするしかない。
そして今の私にできる事は、いつものように過ごすこと。
いつも以上に仕事を頑張って、汐が帰ってきたときに備えるんだ。
仕事も、お正月の準備も、丁寧に念入りに。
年の瀬が迫ってくると、神社のバイトは加速度的に忙しくなっていく。
大掃除には村の人たちも来てくれたおかげで助かったけれど、蓮川さんと私だけだったら大変なことになっただろうな。
そしてとうとう事態に何の進展もないまま、十二月の最後の日曜日になった。
松里さんは、あれきり戻ってきていない。
スマホを持っているから連絡してみようかと思ったりもするのだけど、うるさく催促しているみたいで、それも憚られた。
何か分かれば知らせてくれるだろうし。
連絡がないということは、進展していないということなのだろう。
そしてその最後の休日、私は自宅の大掃除をして過ごしていた。
一年のホコリを払っていると色々なことが思い出されて、つい手が止まる。
そういう自分が、ちょっと可笑しい。
去年の今頃は、ここでこんな風に暮らしている自分を想像もできなかった。
就職できなくて焦って焦って、ひどく追い詰められていて。
お正月どころの騒ぎじゃなかった。
今年は今年で大変だけど、今は傍に居てくれる人がたくさんいる。
……そして、汐。
汐さえいてくれれば、後はもう何もいらないのに。
土地神様のいないまま、年を越すのだろうかと考えると憂鬱になる。
こぼれた溜息に、いかんいかんと自分を叱咤する。
身体を動かしている間は少しは気がまぎれるけど、気づくと手が止まって汐のことを考えていた。
だめだなあ、と自分に呆れる。
「里ちゃん、少し休憩して御茶にせんかね?」
そう言って三重子さんが、顔を出してくれた。
時計を見ると、ちょうど午後の三時だ。
「でもまだ、片付いてないから……」
「うちに来て、何かつまむとええんじゃよ。里ちゃん、このところ忙しくしすぎじゃないかね」
「……じゃあ、少しお邪魔します」
「栗きんとんが出来たんじゃよ、味見しておくれ」
「もうすっかり準備終わったんですか」
きんとん。三重子さんのことだから、きっと美味しくできたんだろうな。
「後は大晦日にそばを食べる準備くらいかね」
「さすが」
三重子さんのお家までを一緒に歩きながら、私は少しホッとしていた。
三重子さんは変わらない。
変わらず、それでいてこんな風に気遣ってくれる。
とてもありがたくて、穏やかな気持ちになれる。
汐がいなくて、松里さんがいなくて、そんな不安な気持ちを抱えていても、こうして何とか立っていられるのは三重子さんの御蔭だ。
「里ちゃん、きちんと寝てるかい?なんだか、顔色も良くないけど」
「食欲はあるんですけどね……どんな時も。でも、寝不足はそうかも」
「大晦日は、徹夜じゃろ?」
「年が明けたらすぐ、初詣の人とか来られますからね。ちょっと無理してでも頑張らないと」
「無理はいかんよ」
三重子さんはひどく真剣な顔で、そう言う。
夏に自分が倒れたことで、すごく敏感になっているのだと言っていた。
誰でも病気にはなる。
だから無理しちゃだめだと。
「御茶のんだら、少しだけ横にならんかね」
「ええー、牛にならない?」
「里ちゃんなら、可愛い牛になるよ」
「そこは、牛にならないくらいスマートって言ってくれないの」
言うと、さて、と笑ってごまかされてしまった。
うう、どんな時も食欲だけは衰えない自分が恨めしい。
だけど現金なもので、三重子さんのお家で御茶を飲んだら、本当にうつらうつらしてしまった。
寝不足なのは自覚があったけど、よその家で寝落ちてしまいたくなるほどだったろうか。
ものすごく強烈な眠気。
今にも、夢の世界に引きずり込まれそうな。
いいよいいよと言って、背中をさすってくれる三重子さんに甘えて、私は炬燵で横にならせてもらう。
少し。本当に少しだけ。
そう念じながら瞼を閉じた。
──そして、奇妙な夢を見たのだ。
高天原を探ってくるとかなんとか言い残していったので、その言葉を手掛かりに少し検索して調べてみる。
高天原というのは神様の国みたいなことのようだった。
ということは、出雲に調べに行ったのかな。
私には出雲のことはよく分からないのだけど。
ただ私に汐の行方について、出来ることは何もない事だけは確かだった。
それは松里さんたち、神様にお任せするしかない。
そして今の私にできる事は、いつものように過ごすこと。
いつも以上に仕事を頑張って、汐が帰ってきたときに備えるんだ。
仕事も、お正月の準備も、丁寧に念入りに。
年の瀬が迫ってくると、神社のバイトは加速度的に忙しくなっていく。
大掃除には村の人たちも来てくれたおかげで助かったけれど、蓮川さんと私だけだったら大変なことになっただろうな。
そしてとうとう事態に何の進展もないまま、十二月の最後の日曜日になった。
松里さんは、あれきり戻ってきていない。
スマホを持っているから連絡してみようかと思ったりもするのだけど、うるさく催促しているみたいで、それも憚られた。
何か分かれば知らせてくれるだろうし。
連絡がないということは、進展していないということなのだろう。
そしてその最後の休日、私は自宅の大掃除をして過ごしていた。
一年のホコリを払っていると色々なことが思い出されて、つい手が止まる。
そういう自分が、ちょっと可笑しい。
去年の今頃は、ここでこんな風に暮らしている自分を想像もできなかった。
就職できなくて焦って焦って、ひどく追い詰められていて。
お正月どころの騒ぎじゃなかった。
今年は今年で大変だけど、今は傍に居てくれる人がたくさんいる。
……そして、汐。
汐さえいてくれれば、後はもう何もいらないのに。
土地神様のいないまま、年を越すのだろうかと考えると憂鬱になる。
こぼれた溜息に、いかんいかんと自分を叱咤する。
身体を動かしている間は少しは気がまぎれるけど、気づくと手が止まって汐のことを考えていた。
だめだなあ、と自分に呆れる。
「里ちゃん、少し休憩して御茶にせんかね?」
そう言って三重子さんが、顔を出してくれた。
時計を見ると、ちょうど午後の三時だ。
「でもまだ、片付いてないから……」
「うちに来て、何かつまむとええんじゃよ。里ちゃん、このところ忙しくしすぎじゃないかね」
「……じゃあ、少しお邪魔します」
「栗きんとんが出来たんじゃよ、味見しておくれ」
「もうすっかり準備終わったんですか」
きんとん。三重子さんのことだから、きっと美味しくできたんだろうな。
「後は大晦日にそばを食べる準備くらいかね」
「さすが」
三重子さんのお家までを一緒に歩きながら、私は少しホッとしていた。
三重子さんは変わらない。
変わらず、それでいてこんな風に気遣ってくれる。
とてもありがたくて、穏やかな気持ちになれる。
汐がいなくて、松里さんがいなくて、そんな不安な気持ちを抱えていても、こうして何とか立っていられるのは三重子さんの御蔭だ。
「里ちゃん、きちんと寝てるかい?なんだか、顔色も良くないけど」
「食欲はあるんですけどね……どんな時も。でも、寝不足はそうかも」
「大晦日は、徹夜じゃろ?」
「年が明けたらすぐ、初詣の人とか来られますからね。ちょっと無理してでも頑張らないと」
「無理はいかんよ」
三重子さんはひどく真剣な顔で、そう言う。
夏に自分が倒れたことで、すごく敏感になっているのだと言っていた。
誰でも病気にはなる。
だから無理しちゃだめだと。
「御茶のんだら、少しだけ横にならんかね」
「ええー、牛にならない?」
「里ちゃんなら、可愛い牛になるよ」
「そこは、牛にならないくらいスマートって言ってくれないの」
言うと、さて、と笑ってごまかされてしまった。
うう、どんな時も食欲だけは衰えない自分が恨めしい。
だけど現金なもので、三重子さんのお家で御茶を飲んだら、本当にうつらうつらしてしまった。
寝不足なのは自覚があったけど、よその家で寝落ちてしまいたくなるほどだったろうか。
ものすごく強烈な眠気。
今にも、夢の世界に引きずり込まれそうな。
いいよいいよと言って、背中をさすってくれる三重子さんに甘えて、私は炬燵で横にならせてもらう。
少し。本当に少しだけ。
そう念じながら瞼を閉じた。
──そして、奇妙な夢を見たのだ。
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