83 / 88
王都を駆ける弾丸
王都ルナルの朝
しおりを挟む
ああ、そういえばメイナードの奴にまだ礼も言ってねえや。
こうなると知ってたら、着いた時に言っとけばよかったな。
あばよ、クソ騎士、とでも。
「……それで。裁判には間に合うのか?」
「わかりません」
メイドの答えは明瞭だった。
つまりは、余裕ができたとしてギリギリなんだろう。
「到着までは、まだ時間があります。今はもう少しお休みになってください」
「ああ……」
「姫様は、最後まで、あなたに護衛をお願いすると仰せです。
駅前に馬を用意するようにと」
……馬。
また乗るのかよ、あれに。
一生分くらい乗ったんだけど。
「俺、もう尻の皮がずる剥けなんだけど」
「薬を塗って差し上げましょうか」
「真面目な顔のまま言うの、やめてくんねえかな」
俺は、そのままベッドに倒れこんだ。
目を閉じると、また闇がおりてくる。
それでもさっきとは違い、風の音も何も聞こえない穏やかな闇だった。
少なくとも今は、間に合ったのだという安堵で。
◇
流れる景色は、朝焼けの金色に彩られて眩しいばかりだった。
窓の外には豊かだと噂の王都の姿が、鮮やかだ。
白が基調の建物が立ち並び、その間を縦横に水路が通り、緑が濃い。
乾ききった荒れ地しか知らない俺にとっては、御伽噺の国に来たような心地しかしない。
身支度を終え、いつものようにホルスターに銃を突っ込む。
部屋を出ると、メイドたちが忙しそうに立ち働いていた。
「お目覚めですか。朝食はどうなさいます?」
昨夜のメイドが気づいて、こちらに歩み寄る。
俺は肩をすくめて笑った。
「また馬に乗るんだろ。吐いちまいそうなんで遠慮しとくわ」
メイドは頷いて下がった。
別のメイドが姫様のお召しですと言って、先に立った。
俺はちらと窓の外へ一瞥投げて、部屋を後にする。
案内された主賓室では、すでに身支度を終えた姫さんとドチビが待っていた。
姫さんはいつものドレス姿ではなく、昨日、俺が着せられていたウェストブルック海軍のものだという軍服の女性用らしいものを着ている。
細身の姫さんに、それは随分重たそうに見えて、どこか痛々しい。
左手には包帯が巻かれたままで、その白さが妙に目を引いた。
「ダーク。よく眠れましたか」
「夢も見なかったよ」
俺が軽く返すと、姫さんはいつもみたいに微笑った。
昨夜の出来事が嘘のようだ。
「お疲れだとは思いますが。最後までお付き合いをお願いします」
姫さんが言うのへ、俺は頷いた。
返事なんて、決まってる。
「どこまででも」
姫さんはどこか朗らかに笑った。
開き直ったとでも言うべきか。
手は尽くした。
ここからは運がものを言う。
なら笑って、運を呼び込むしかない。
「ここまでついてきてくださったこと、感謝しています」
「それは、無事についてから言えよ。
……その手で馬なんか乗れるのか?」
訊ねると、姫さんは少し苦笑する。
ドチビが心得たように俺に頷く。
「手綱はダークに、お願いします。リィが前を先導してくれる手筈です。
時止めの魔道が効いていますので、あと五時間ほどは怪我はこのままの状態を維持できます。痛みはありません」
こうなると知ってたら、着いた時に言っとけばよかったな。
あばよ、クソ騎士、とでも。
「……それで。裁判には間に合うのか?」
「わかりません」
メイドの答えは明瞭だった。
つまりは、余裕ができたとしてギリギリなんだろう。
「到着までは、まだ時間があります。今はもう少しお休みになってください」
「ああ……」
「姫様は、最後まで、あなたに護衛をお願いすると仰せです。
駅前に馬を用意するようにと」
……馬。
また乗るのかよ、あれに。
一生分くらい乗ったんだけど。
「俺、もう尻の皮がずる剥けなんだけど」
「薬を塗って差し上げましょうか」
「真面目な顔のまま言うの、やめてくんねえかな」
俺は、そのままベッドに倒れこんだ。
目を閉じると、また闇がおりてくる。
それでもさっきとは違い、風の音も何も聞こえない穏やかな闇だった。
少なくとも今は、間に合ったのだという安堵で。
◇
流れる景色は、朝焼けの金色に彩られて眩しいばかりだった。
窓の外には豊かだと噂の王都の姿が、鮮やかだ。
白が基調の建物が立ち並び、その間を縦横に水路が通り、緑が濃い。
乾ききった荒れ地しか知らない俺にとっては、御伽噺の国に来たような心地しかしない。
身支度を終え、いつものようにホルスターに銃を突っ込む。
部屋を出ると、メイドたちが忙しそうに立ち働いていた。
「お目覚めですか。朝食はどうなさいます?」
昨夜のメイドが気づいて、こちらに歩み寄る。
俺は肩をすくめて笑った。
「また馬に乗るんだろ。吐いちまいそうなんで遠慮しとくわ」
メイドは頷いて下がった。
別のメイドが姫様のお召しですと言って、先に立った。
俺はちらと窓の外へ一瞥投げて、部屋を後にする。
案内された主賓室では、すでに身支度を終えた姫さんとドチビが待っていた。
姫さんはいつものドレス姿ではなく、昨日、俺が着せられていたウェストブルック海軍のものだという軍服の女性用らしいものを着ている。
細身の姫さんに、それは随分重たそうに見えて、どこか痛々しい。
左手には包帯が巻かれたままで、その白さが妙に目を引いた。
「ダーク。よく眠れましたか」
「夢も見なかったよ」
俺が軽く返すと、姫さんはいつもみたいに微笑った。
昨夜の出来事が嘘のようだ。
「お疲れだとは思いますが。最後までお付き合いをお願いします」
姫さんが言うのへ、俺は頷いた。
返事なんて、決まってる。
「どこまででも」
姫さんはどこか朗らかに笑った。
開き直ったとでも言うべきか。
手は尽くした。
ここからは運がものを言う。
なら笑って、運を呼び込むしかない。
「ここまでついてきてくださったこと、感謝しています」
「それは、無事についてから言えよ。
……その手で馬なんか乗れるのか?」
訊ねると、姫さんは少し苦笑する。
ドチビが心得たように俺に頷く。
「手綱はダークに、お願いします。リィが前を先導してくれる手筈です。
時止めの魔道が効いていますので、あと五時間ほどは怪我はこのままの状態を維持できます。痛みはありません」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる