大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

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王都を駆ける弾丸

王都ルナルの朝

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 ああ、そういえばメイナードの奴にまだ礼も言ってねえや。
こうなると知ってたら、着いた時に言っとけばよかったな。
あばよ、クソ騎士、とでも。

「……それで。裁判には間に合うのか?」

「わかりません」

 メイドの答えは明瞭だった。
つまりは、余裕ができたとしてギリギリなんだろう。

「到着までは、まだ時間があります。今はもう少しお休みになってください」

「ああ……」

「姫様は、最後まで、あなたに護衛をお願いすると仰せです。
駅前に馬を用意するようにと」

 ……馬。
また乗るのかよ、あれに。
一生分くらい乗ったんだけど。

「俺、もう尻の皮がずる剥けなんだけど」

「薬を塗って差し上げましょうか」

「真面目な顔のまま言うの、やめてくんねえかな」

 俺は、そのままベッドに倒れこんだ。
目を閉じると、また闇がおりてくる。
それでもさっきとは違い、風の音も何も聞こえない穏やかな闇だった。
少なくとも今は、間に合ったのだという安堵で。





 流れる景色は、朝焼けの金色に彩られて眩しいばかりだった。
窓の外には豊かだと噂の王都の姿が、鮮やかだ。
白が基調の建物が立ち並び、その間を縦横に水路が通り、緑が濃い。
乾ききった荒れ地しか知らない俺にとっては、御伽噺の国に来たような心地しかしない。

 身支度を終え、いつものようにホルスターに銃を突っ込む。
部屋を出ると、メイドたちが忙しそうに立ち働いていた。

「お目覚めですか。朝食はどうなさいます?」

 昨夜のメイドが気づいて、こちらに歩み寄る。
俺は肩をすくめて笑った。

「また馬に乗るんだろ。吐いちまいそうなんで遠慮しとくわ」

 メイドは頷いて下がった。
別のメイドが姫様のお召しですと言って、先に立った。
俺はちらと窓の外へ一瞥投げて、部屋を後にする。
案内された主賓室では、すでに身支度を終えた姫さんとドチビが待っていた。

 姫さんはいつものドレス姿ではなく、昨日、俺が着せられていたウェストブルック海軍のものだという軍服の女性用らしいものを着ている。
細身の姫さんに、それは随分重たそうに見えて、どこか痛々しい。
左手には包帯が巻かれたままで、その白さが妙に目を引いた。

「ダーク。よく眠れましたか」

「夢も見なかったよ」

 俺が軽く返すと、姫さんはいつもみたいに微笑った。
昨夜の出来事が嘘のようだ。

「お疲れだとは思いますが。最後までお付き合いをお願いします」

 姫さんが言うのへ、俺は頷いた。
返事なんて、決まってる。

「どこまででも」

 姫さんはどこか朗らかに笑った。
開き直ったとでも言うべきか。
手は尽くした。
ここからは運がものを言う。
なら笑って、運を呼び込むしかない。

「ここまでついてきてくださったこと、感謝しています」

「それは、無事についてから言えよ。
……その手で馬なんか乗れるのか?」

 訊ねると、姫さんは少し苦笑する。
ドチビが心得たように俺に頷く。

「手綱はダークに、お願いします。リィが前を先導してくれる手筈です。
時止めの魔道が効いていますので、あと五時間ほどは怪我はこのままの状態を維持できます。痛みはありません」
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