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弾丸より速く駆けろ
間に合わなかった
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飛び散った木屑が、俺たちを掠める。
軋んだ音を立てながら、それでも馬車は止まらない。
二発目。
バキッと音を立てて車軸が折れた。
途端にバランスを崩した馬車が、蛇行し始める。
制御しきれず、馬が街路樹に突っ込んだ。
馬車が横転し、中からクソ野郎と護衛が数人這い出てくる。
クソ野郎が俺たちに向かって銃を構えた。
さっきの、解呪の魔法陣を作る奴か。
馬鹿か、んなもの俺たちには何の効果もねえ。
腕ごと吹っ飛ばしてやろうかと思ったが、それより早くメイナードの撃った弾が、やつの銃を後ろへと吹き飛ばしてた。
手を押さえたクソ野郎のところへ、馬を駆けさせ、そこで飛び降りる。
奴の後ろには、巨大な伽藍である尖塔の群れが見えた。
悪あがきで、クソ野郎はその敷地内に逃げ込もうとしている。
護衛の連中は、もうとっくに散り散りに逃げてしまっていた。
俺は地面に落ちていた、奴の銃を遠くへ蹴り飛ばす。
「や……やめろ、ここは絶対中立の……」
「はじめに、それを破ったのは、てめえだろうがよ」
足元に一発。
地面を削った弾丸が奴の足元に食い込む。
まだ中立地帯には入っていない。
悲鳴を上げたクソ野郎に、俺は手の中でくるりと回した銃を今一度突きつけた。
「魔石を返せ」
「……お……お前、雇われただけなんだろう……。報酬を二倍出してやる……だから」
「うるせえよ」
「僕にだって……!!守らなきゃならない領民がいるんだ……!!」
「知るか」
耳元すれすれを狙って、撃つ。
クソ野郎が悲鳴を上げた。
腰が抜けたらしく、立つことも這いずって逃げることもできないでいる。
「今、それを言い出すなら、はじめから戦えよ。
正面から。
守らなきゃならないだと?
──姫さんが、てめえみたいに領民を盾にしたことなんか一度もねえんだよ」
追いついたメイナードが馬を降り、クソ野郎の前に膝をつく。
もう抵抗しなくなった奴の懐を探り、魔石を取り出した。
手に取って確かめてから、俺へと差し出す。
俺がそれを受け取った、その瞬間。
ごぉぉ……──ん、と聖堂の鐘が鳴り始めた。
「……!!」
呼応するように、全ての尖塔の鐘が鳴り響く。
鐘は時刻を知らせるものだ。
「……シルバーバレットの発車時刻だ」
メイナードが、苦く呟いた。
じゃあもう、列車は行っちまったってことか。
取り戻したこれは、間に合わないってことなのか。
「はは……ははは………、あははははは……!!」
不意にクソ野郎が笑い出した。
俺たちは、ちょっと呆気にとられて、その狂気じみた笑い声を聞く。
「もう間に合わないぞ。これでお前たちは終わりだ。
終わりだ、ざまあみろ……!!」
高らかに嗤う声に、俺はこの場で撃ち殺してやろうかと銃を向ける。
だが、クソ野郎は狂ったように笑い続けた。
「……ほっておけ」
メイナードが俺の肩をつかんで、行こうと指で指し示す。
「行くったって……もう」
取り戻しはした。約束は守った。
けど結局、俺は姫さんを守れなかった。
その苦い思いで、俺は唇を噛む。
「オイに、ひとつだけっちゃが、心当たりがあるっとよ」
メイナードはそう言うと、再び馬に飛び乗った。
軋んだ音を立てながら、それでも馬車は止まらない。
二発目。
バキッと音を立てて車軸が折れた。
途端にバランスを崩した馬車が、蛇行し始める。
制御しきれず、馬が街路樹に突っ込んだ。
馬車が横転し、中からクソ野郎と護衛が数人這い出てくる。
クソ野郎が俺たちに向かって銃を構えた。
さっきの、解呪の魔法陣を作る奴か。
馬鹿か、んなもの俺たちには何の効果もねえ。
腕ごと吹っ飛ばしてやろうかと思ったが、それより早くメイナードの撃った弾が、やつの銃を後ろへと吹き飛ばしてた。
手を押さえたクソ野郎のところへ、馬を駆けさせ、そこで飛び降りる。
奴の後ろには、巨大な伽藍である尖塔の群れが見えた。
悪あがきで、クソ野郎はその敷地内に逃げ込もうとしている。
護衛の連中は、もうとっくに散り散りに逃げてしまっていた。
俺は地面に落ちていた、奴の銃を遠くへ蹴り飛ばす。
「や……やめろ、ここは絶対中立の……」
「はじめに、それを破ったのは、てめえだろうがよ」
足元に一発。
地面を削った弾丸が奴の足元に食い込む。
まだ中立地帯には入っていない。
悲鳴を上げたクソ野郎に、俺は手の中でくるりと回した銃を今一度突きつけた。
「魔石を返せ」
「……お……お前、雇われただけなんだろう……。報酬を二倍出してやる……だから」
「うるせえよ」
「僕にだって……!!守らなきゃならない領民がいるんだ……!!」
「知るか」
耳元すれすれを狙って、撃つ。
クソ野郎が悲鳴を上げた。
腰が抜けたらしく、立つことも這いずって逃げることもできないでいる。
「今、それを言い出すなら、はじめから戦えよ。
正面から。
守らなきゃならないだと?
──姫さんが、てめえみたいに領民を盾にしたことなんか一度もねえんだよ」
追いついたメイナードが馬を降り、クソ野郎の前に膝をつく。
もう抵抗しなくなった奴の懐を探り、魔石を取り出した。
手に取って確かめてから、俺へと差し出す。
俺がそれを受け取った、その瞬間。
ごぉぉ……──ん、と聖堂の鐘が鳴り始めた。
「……!!」
呼応するように、全ての尖塔の鐘が鳴り響く。
鐘は時刻を知らせるものだ。
「……シルバーバレットの発車時刻だ」
メイナードが、苦く呟いた。
じゃあもう、列車は行っちまったってことか。
取り戻したこれは、間に合わないってことなのか。
「はは……ははは………、あははははは……!!」
不意にクソ野郎が笑い出した。
俺たちは、ちょっと呆気にとられて、その狂気じみた笑い声を聞く。
「もう間に合わないぞ。これでお前たちは終わりだ。
終わりだ、ざまあみろ……!!」
高らかに嗤う声に、俺はこの場で撃ち殺してやろうかと銃を向ける。
だが、クソ野郎は狂ったように笑い続けた。
「……ほっておけ」
メイナードが俺の肩をつかんで、行こうと指で指し示す。
「行くったって……もう」
取り戻しはした。約束は守った。
けど結局、俺は姫さんを守れなかった。
その苦い思いで、俺は唇を噛む。
「オイに、ひとつだけっちゃが、心当たりがあるっとよ」
メイナードはそう言うと、再び馬に飛び乗った。
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