大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

文字の大きさ
上 下
48 / 88
歓楽街の一夜

賭けをしましょう

しおりを挟む
「先日、お邪魔したあの酒場は……」

 ああ、あのばあさんの店か。
あの時のことを思い出して、目で問いかける。
店がどうかしたかと。

「あの紅茶。……ものすごく不味かったです」

「ごっふ」

 ばあさん、ブレないわー。
何だしても不味い店とか、ないだろ。
普通は、ひとつくらい美味いもんがあるものだ。

「紅茶なんてものがあったことに感謝しとけよ。
ンなものおいてる酒場なんて、ねえぞ」

「そういうものなのですか……」

 イマイチ納得していなさそうに呟いて、姫さんはとん、とダイスをテーブルの上に置いた。

俺はなんとはなしに、そのダイスに視線をやる。

「ダークは、お酒と賭け事がお好きなようですが、それはどういった点が楽しいのですか?」

「……そんなん、考えたこともねえよ。つか、いちいち考えることか?」

 真面目腐った質問には、俺は答えに困って混ぜっ返す。
だが姫さんは真面目な顔つきのまま、深く頷いた。

「わたくしにしてみれば、賭け事など悪い結果しか齎さないものを何故……と思ってしまいます。
取り締まる立場としては、すべて禁止としてしまいたい衝動にかられます」

「俺、絶対あんたの国には住めねえわ」

 即答で返すと、姫さんは実に微妙な表情になった。
不機嫌になったのではない。
ただ、困惑したとでもいうような。
座り心地の悪い椅子に腰を下ろして、それを言い出せないでいるような。

「でしょう?ですから知りたいのです。
──わたくしに賭け事を教えていただけませんか」

 街の賑わいは、この静かな場所にも漏れ聞こえる。
それはどこかしら浮き立つような空気と相俟って、常と違った、軽く何かを超えさせる力になるのかもしれない。

 俺たちはテーブル席に向き合って、しばし沈黙する。

「……けどよ、姫さん。賭け事なんてな、金額が吊り上がるほど盛り上がるもんだが。
俺とあんたの掛け金って、釣り合うのか?」

 言うと、姫さんは、はたと瞳を見開く。
その答えは予想外だったようだ。

「たしかに。ダークがどう頑張ったところで、わたくしにとっては、はした金と言わざるえません」

 そこ、はきはき言うの、やめてくんねえかな。
色々と虚しくなるから。
俺が不機嫌そうなツラになったことに気づいた姫さんは、だが小さく笑った。

「……ですが、ダーク。それはあくまで公人としてのわたくしです」

「公人?」

「はい。ウェストブルック家の娘としての、わたくし」

「なんか違いがあんのか?」

 訊ねると姫さんは、ほんの少しだけ視線を俯かせた。
表情は柔らかいままだったが、揺れる炎の明かりが睫毛に落ちて影を作る。

「大違いです。公人としてのわたくしは、領民七十万の運命を動かす立場にありますが。
私人としての、わたくし──オタンコナスのエフィには、あなたと比べても持っているものなど些少なものにすぎません」

 そう言って笑う顔には、自嘲の影はない。
ただ誇り高い自負があるのみだ。
つーか姫さん、さすがにオタンコナスが悪口だとは気付いたみたいだな。

「んじゃ、オタンコナスのエフィと勝負と行くか」

 そう言うと、姫さんが若干嬉しそうに笑う。
いや嬉しそうというより、楽しそう、か。

「で、オタンコナスは何が賭けられるんだよ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...