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歓楽街の一夜
宿探しから遣り直し
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姫さんは、手紙に視線を落とし、しばらく考え込んでから
「ミスターゴールドマン」
そう呼びかけた。
「今夜は、どこかお泊りの宿は決めていらっしゃいますか?
もし、空きがあるようならば、そちらに、わたくしたちも泊まりたいと思うのですが」
宿は手配されてるんじゃなかったのか?
そう思ったのだが、俺は黙っておいた。
ゴールドマンは姫さんの問いかけに頷く。
「馴染みのホテルがあって、そこに泊まるつもりでいたが。
部屋が空いているかは運だからな。
よければ一緒に行って訊いてみるかね」
「お願いいたします」
俺たちは、また爺さんについて歩きだす。
ドチビは案の定、とんでもない不機嫌ヅラになっていたが。
姫さんは本当に爺さんと同じ宿に泊まるつもりらしかった。
俺はつい、腰をかがめて姫さんに耳打ちする。
「……なあ、宿は手配されてたんだろう?
なんで、爺さんのとこに行くんだ?」
姫さんは前を向いたまま、少し表情を曇らせた。
「宿の手配はされています。支払いも済んでいますので、そちらも問題ありません。
ですが……先行した者たちからの連絡によると、妨害者に動きが見られない、と」
「妨害……?」
「グレネデンで、あれだけの妨害をしてきたのですから、何か動きがあると思ったのですけど。
影武者に引っかからなかったのかもしれません。
なら、手配のホテルに泊まるのは、面倒なことになりかねませんから」
「……なるほど」
それを警戒して、直で別のホテルを探すってことか。
この姫さん、貴族育ちのおっとりかと思うと、こういうところ下手な無法者より勘働きがいいな。
なんつーか、修羅場くぐってきてるって感じがする。
「このホテルなんだが。どうかね」
爺さんが案内してくれたのは、大通りからは少し離れた小さなホテルだった。
外観は派手な感じもそれほどなく、この歓楽街でも中流程度のランクのようだ。
立地が四つ角の一角なのも、悪くない。
何かあれば、逃げ道が二択にできる。
人数頼んで囲まれたら、どっちにしろアウトだしな。
爺さんが交渉してくれた結果、部屋は空いていたようで無事に押さえられた。
スイートって奴で、ワンフロアを丸々一部屋にしてあるものだった。
これは護衛としては、ありがたい。
同じ階の別の部屋を警戒しなくて済むからな。
もしかしたら、爺さんの配慮なのかもしれない。
自分自身も追われる身だからか。
寝室はふたつあるんで、俺と爺さん、姫さんとドチビが、それぞれに使うことにする。
ほとんどの荷物は列車に預けてきてあるから、持ち込んだものは少ない。
俺たちは近くの食堂で、のんびりと夕食をとった。
姫さんは、庶民食の鳥の香草焼きがいたくお気に召したらしく、二人前もたいらげていた。
意外と健啖家のようだ。
宿に戻ると、街の喧騒を背に、それぞれが寝室に引き取る。
爺さんも遊びに行くなんてことがなさそうで、本当に外の空気が吸いたかっただけのようだ。
まあ、年中、列車に乗ったままなんだから、外に出られるなら何でもいいって気にもなるか。
俺は後ろ髪を引かれなくもなかったが、どうせ、たった一週間ほどの仕事だと我慢することにした。
終われば、再びお尋ね者として逃げ回ることになるだろうが、そん時ゃあらためてこの街に逃げ込むのもありだな。
そんなことを考えながら、ソファに丸くなる。
街の騒めきを聞きながら目を閉じると、案外早く睡魔は訪れた。
◇
なぜだかは、わからない。
不意に意識がぽかりと戻ってきて、俺は瞬きをした。
眠りは深い方じゃない。
だが感じた違和感のような微かな感覚で、俺はひどくはっきりと目を覚ました。
見ると、ベッドでは爺さんが寝息を立てている。
「ミスターゴールドマン」
そう呼びかけた。
「今夜は、どこかお泊りの宿は決めていらっしゃいますか?
もし、空きがあるようならば、そちらに、わたくしたちも泊まりたいと思うのですが」
宿は手配されてるんじゃなかったのか?
そう思ったのだが、俺は黙っておいた。
ゴールドマンは姫さんの問いかけに頷く。
「馴染みのホテルがあって、そこに泊まるつもりでいたが。
部屋が空いているかは運だからな。
よければ一緒に行って訊いてみるかね」
「お願いいたします」
俺たちは、また爺さんについて歩きだす。
ドチビは案の定、とんでもない不機嫌ヅラになっていたが。
姫さんは本当に爺さんと同じ宿に泊まるつもりらしかった。
俺はつい、腰をかがめて姫さんに耳打ちする。
「……なあ、宿は手配されてたんだろう?
なんで、爺さんのとこに行くんだ?」
姫さんは前を向いたまま、少し表情を曇らせた。
「宿の手配はされています。支払いも済んでいますので、そちらも問題ありません。
ですが……先行した者たちからの連絡によると、妨害者に動きが見られない、と」
「妨害……?」
「グレネデンで、あれだけの妨害をしてきたのですから、何か動きがあると思ったのですけど。
影武者に引っかからなかったのかもしれません。
なら、手配のホテルに泊まるのは、面倒なことになりかねませんから」
「……なるほど」
それを警戒して、直で別のホテルを探すってことか。
この姫さん、貴族育ちのおっとりかと思うと、こういうところ下手な無法者より勘働きがいいな。
なんつーか、修羅場くぐってきてるって感じがする。
「このホテルなんだが。どうかね」
爺さんが案内してくれたのは、大通りからは少し離れた小さなホテルだった。
外観は派手な感じもそれほどなく、この歓楽街でも中流程度のランクのようだ。
立地が四つ角の一角なのも、悪くない。
何かあれば、逃げ道が二択にできる。
人数頼んで囲まれたら、どっちにしろアウトだしな。
爺さんが交渉してくれた結果、部屋は空いていたようで無事に押さえられた。
スイートって奴で、ワンフロアを丸々一部屋にしてあるものだった。
これは護衛としては、ありがたい。
同じ階の別の部屋を警戒しなくて済むからな。
もしかしたら、爺さんの配慮なのかもしれない。
自分自身も追われる身だからか。
寝室はふたつあるんで、俺と爺さん、姫さんとドチビが、それぞれに使うことにする。
ほとんどの荷物は列車に預けてきてあるから、持ち込んだものは少ない。
俺たちは近くの食堂で、のんびりと夕食をとった。
姫さんは、庶民食の鳥の香草焼きがいたくお気に召したらしく、二人前もたいらげていた。
意外と健啖家のようだ。
宿に戻ると、街の喧騒を背に、それぞれが寝室に引き取る。
爺さんも遊びに行くなんてことがなさそうで、本当に外の空気が吸いたかっただけのようだ。
まあ、年中、列車に乗ったままなんだから、外に出られるなら何でもいいって気にもなるか。
俺は後ろ髪を引かれなくもなかったが、どうせ、たった一週間ほどの仕事だと我慢することにした。
終われば、再びお尋ね者として逃げ回ることになるだろうが、そん時ゃあらためてこの街に逃げ込むのもありだな。
そんなことを考えながら、ソファに丸くなる。
街の騒めきを聞きながら目を閉じると、案外早く睡魔は訪れた。
◇
なぜだかは、わからない。
不意に意識がぽかりと戻ってきて、俺は瞬きをした。
眠りは深い方じゃない。
だが感じた違和感のような微かな感覚で、俺はひどくはっきりと目を覚ました。
見ると、ベッドでは爺さんが寝息を立てている。
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