大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

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銀の弾丸

真夜中の騒ぎ

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「……よか。来い。騎士のメンツにかけて、成敗してくれよるわ」

 バカめ。
思う壺だ。
またドバドバと酒を注いでやったが、この時点で飲み比べはしないという約束は、どこかへ消え去った。
わりと単純馬鹿っぽい騎士野郎は、気づいてねえみたいだけどな。

 そして、俺と騎士野郎との一騎打ちがはじまったのだ。
二戦目は俺の負け。

「クソが!!」

 叫んで、グラスの酒を一気に煽る。
騎士野郎が、ニヤニヤと笑いながら俺を見た。
なまじ優男なんで、見ただけで腹が立つ。
こいつ、生かして返さねえ。

「よーし、次こい、次」

 ノリは、もう完全に場末の酒場だ。
だが博打なんてものは、こうやって罵り合いながらやるもんだ。
お上品にやる賭け事なんざ、子供のお遊戯みてえなもんだ。

 別のテーブルで静かにチェス盤を囲んでいた一群が、騒ぎに腰を浮かせて、こちらを見る。
ドアを開けて入ってきた、これも非番らしい騎士の三人ほどが、ぎょっと立ちすくむ。
しかし奴らがギャラリーに加わるのには、さほど時間もかからなかった。

 品よく欲望なんぞ、どこにも感じない戦いしか知らなかった上流階級の方々には、物珍しい光景だったようだ。
気づけば、ギャラリーも一緒になって盛り上がる。
俺とクソ騎士の熱い戦いは、その後もヒートアップし続けた。

「おらあ!こいや、ロー!」

「ツキは、オイにあるっと!!ハイ!!」

 だが、そんな男たちの熱い空間に侵入するものがあった。

「馬鹿が、俺の勝ちだろ!!クソ……騎士……が?」

 勝ちに昂ぶり、カードをテーブルに叩きつけた俺は、不意に感じた冷ややかなものに視線をあげる。
そこには、あの笑顔を浮かべた姫さんが静かに佇んでいた。

「……楽しそうで、とても良いことですね。皆様」

「……」

 冷水のように、かけられた言葉。
それになぜか、そこにいた全員が『すみません』と声をそろえたのだった。





 そして俺たちはその後、廊下に並んで座らされた。
さすがに他の乗客たちは見逃されたらしく、そそくさと自室に戻っていく。
ずるくねえか。
思ったが、姫さんの笑顔を前に俺たちは何も言えなくなった。

「……娯楽室で大騒ぎをしているものがいる、と。乗務員の方から助けを求められました。
……このようなこと、前代未聞だそうです」

 静かに言った姫さんは笑顔のままだったが、声がかすかに震えていた。
たぶん、怒りで。
けっ、賭け事なんざ上品にやったって面白味がねえだろ。
そう思って俺は一人だけ横を向いていたが、騎士たちは真剣な表情で俯いている。
ったく、まじめな連中だ。

「ダーク……」

 反省なんてものは頭になく、そんな他所事を考えていたら、重々しい声が降ってきた。
思わず、首をすくめる。

「原因は貴方だというじゃありませんか。
……子供ですか」

 まさに悪童のように廊下に座らされてるわけだが。
いいじゃねえかよ、すこしくらい羽目を外したって。
さっきの乗客や騎士どもだって、楽しんでたんだし。

「罰として、今夜はここで反省なさい。部屋に戻ることは、許しません」

「嘘だろ、マジかよ」

 廊下で寝ろってか。それこそ、ガキへのお仕置きかなんかだろ、それ。
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