大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

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四辻にいるのは死神

臆病者は誰も信じない

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そいつは、慌てて抱えていた鞄をデスクの上に放り出す。
メイドの一人が進み出て、鞄の中身を改める。
目的のものを見つけたらしく、その包みだけを手に取って粛々と下がった。

「では、治療費も込みで二倍の価格で引き取らせていただきます」

「……あんた、はなっからその心算だったんだろ」

 突然の価格引き上げに、用心棒は苦笑いする。
姫さんはそれへは答えずに、ただかるく笑った。

「お騒がせいたしました。では」

 ごきげんよう、と静かに告げて、女たちは店を出て行った。
誰もいなくなってから、ボスの小娘が!という叫び声が聞こえたのも昼間と同じ。
他の連中は、そうなってやっと、やれやれと腰を下ろした。

「ボス。ありゃあ相手が悪かった。触らぬ神に祟りなしだ」

「お前たちがだらしないからだ!」

 怒鳴りつけられて、ほぼ全員がしらけたように視線を逸らす。
だが雇われている以上、文句は出ない。
こんな時、シドがいりゃあ何かくだらない冗談でも言って、少しはすっきりさせてくれるんだが。

「……」

 いらねえことを考えて、俺は無意識に首を振った。
ふらりと部屋を出ようとすると、ボスの尖った声に呼び止められる。

「なんスか。もう仕事は終わったんでしょう」

 今夜は愛想よくする気にもなれねえ。
肩越しに振り返って、胡乱な視線を向ける。
ボスはひどく苛立ったように、机を何度もたたいた。

「どこへ行く!まだ仕事は……」

「終わりでしょ。まさか、あの切符を取り戻して来いとでも?」

「……」

 さすがに、そうだとは言わなかったが。
ボスの表情がますます剣呑なものになる。

「ダーク……お前も、まさか、シドと……」

「は……?」

 きょとんとして訊き返したが、ボスの顔つきは険しいままだった。
いくらなんでも、そりゃねえだろう。
今夜は、結構働いたと思うんだがな。
ボスのお気には召さなかったか。

「……俺は、契約に背いたことなんか一度もなかったと思うが。
あんたがそう思うなら、それも悪かねえな」

 棒読みみたいに淡々と言ってやると、ボスも周囲も顔色を変えた。

「おい、やめとけダーク。洒落になってねえぞ」

 なんだかひどく、ムカついてる。
どうだっていい、と投げやりな気分でムカムカした。
疑うなら、勝手にすればいい。
いつもと違って吐き出すところのない感情が、胸の中で渦を巻いてる。

「頭を冷やせ、ダーク。俺たちゃ皆、ボスの後ろ盾があって、こうしてシャバにいられるんだからな」

 取りなすように言った用心棒仲間の男に背中を押され、それ以上のいざこざを避けて、俺は事務所を出た。





 そして酒も飲まずに行儀よく眠った朝の目覚めが、いいわけがない。
俺は狭い塒のベッドの上で、一睡もせずに夜明けを迎えた。
潰れそうなオンボロ商家。
その二階に間借りしている俺は、下の店が開店しているのを見たことがなかった。
ありていに言えば、無法者に住み着かれて元の住民はとっくに逃げ出しちまってたんだ。
だが、追い出された住民には気の毒だったが、それも今日で終わりのようだ。

 さっきから建物の周囲を取り囲んだ気配に、俺は神経をとがらせる。
ボス、あんたはいっつもそうだよな。
他人は信用しない。
契約なんか、クソくらえだと思ってるのは実はあんたの方だよ。
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