大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

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四辻にいるのは死神

待ち伏せの死神

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「伏せろ……!」

 低く命じると、残った三人があたふたと身を伏せる。
襲撃。
追い剥ぎじゃねえな。
やつらは、相手を見定めないと襲ったりはしない。
少なくともバーンズ商会のものを襲えば、無事に明日の朝日が拝めないことくらい分かってるはずだ。
なら、いったい、誰が。

 ――夜道に気をつけて。

 その言葉を思い出して、俺は物陰に逃げ込みながら眉を寄せる。
姫さんか?
だが、今夜あらためて交渉するつもりじゃなかったのか?
それとも、交渉するってこと自体がフェイクだったのか?

 ターン、とまた銃声が一発。
それは隠れた俺たちの足下の地面を抉る。

「……!」

 咄嗟に、護衛の男が見えた赤い小さな光に向かって撃ち返す。
残光。
火の妖精から作られた火薬は、暗い場所で発砲すると、赤くごく小さな燐光を発する。
夜の撃ち合いでは、こいつを目印に撃つ。
ガンナーの常識だ。
だから暗い場所では、撃った後は銃口を隠してすぐに移動する。
セオリー通りに、護衛の男は移動しようとしたのだが。

「うっ……」

 銃声の後、低くうめいて、男が前のめりに倒れた。

「……!?」

まさか、撃たれたのか!?
伏せたまま、男の身体を引っ張って引き寄せる。
だが、男はとっくに絶命していた。
予測で撃って、一発で倒したのか。
とんでもねえ凄腕だ。
こっちも迂闊に動けない。

「……動くな」

 荷物の鞄を抱えて震えている男と、もう一人の護衛に命じて、俺は改めて周囲を伺う。
どこだ。
どこから狙った。
赤い小さな光を探す。

 誰だ。
姫さんなら、撃ってきたのは、あのドチビか?
だが夜間戦闘のそれは、長い経験がモノを言う。
相手の動きを予測することが大事だからだ。
いくら早撃ちと狙いが正確だといっても、ガキにできる芸当じゃねえ。

 なら、誰だ。
この街で俺達バーンズ商会を狙う度胸のある、凄腕。
頭の中で心当たりを必死に探す。
探して思い出せなけりゃ、俺が殺られる。
誰だ。
誰が俺を――。

 不意に、名前が一つ浮かんだ。

 正確な狙い。余裕の感じられる銃撃。
暗い四つ辻。襲撃に選んだ場所も、手慣れている。
なにより、暗闇の戦闘に一日の長がある。
お前なのか?
まさか、本当に?

 そんな筈はない。奴は俺たちと同じボスに雇われた仲間じゃねえか。
そこまで考えて、俺は喉元にこみ上げたものに眉を寄せる。
笑いの衝動。
仲間だって。
いつからそんなものだと思ってた。
お笑いだ。

 ビッと硬質な音を立てて潜んでいた物陰、建物の木枠が弾ける。
動かないこちらに焦れて、撃ってきやがった。
いや、挑発か。
その銃撃の間隔から言って、相手は一人のようだ。
だが、その一人が問題だった。

 本当に、あんたなのか。
この護衛についてるのが俺だってことは承知してるはずだ。
つまり、確実に俺を殺す気で来たってことだよな。

「……お前等、伏せてろ」

 ひとつ、呼吸をしてから言う。
整えるには至らないが、それでも腹は決まった。

「ダーク……」
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