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ならず者は駆け引きしない
律義と正直のちがい
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「話にならねえな。姫さんは切符すらまだ手に入れてねえだろ。
んで、その七日の後、俺はどーなんの。どーすんの」
投げやりに言ったのだが、姫さんは少し考え込む様子を見せた。
俺は訊いてしまった自分の言葉に、また苦く笑う。
どうなんのも何も、そんなのは姫さんに訊くことじゃねえ。
俺が自分で決めることだ。
「では、報酬をひとつ足しましょう」
姫さんはそう言うと、にこりと口許を笑みの形にした。
形のいい唇の鮮やかさが、目の奥に残る。
「ダークに、わたくしの国の領民になる権利を差し上げます」
何を言い出すんだ、この女は。
呆れて半目で見下ろすが、姫さんは怯んだ様子もなく微笑んだ。
「――駄目ですか?」
「その条件、俺にメリットがあるように思えねえんだが、どうよ」
「まあ……」
言ってやると、姫さんはいかにも心外だとばかりに口許を押さえた。
「わたくしの領土では、領民にひとつ、約束事が御座います」
「……約束?」
「誇り高く在れ。そのために、自由を約束する、と」
「……自由?」
「ここで、笑うことにすら不自由しているのなら、わたくしの国で自由に暮らしませんか」
「……」
考えたこともなかった、自分自身の制限されていることに関して。
言葉にされて俺は、驚く。
そんなものが存在するとすら、考えたことがなかった。
──自由。
同時に、ついさっき、シドのおっさんが言った事を思い出す。
――はじめから諦めているお前が、不思議だよ。
思い出して、咄嗟に笑った。
何もかもを打ち消すように。
「馬鹿馬鹿しい。今さら、この街から出たところで、俺に自由なんてモンの使い道はわかんねえよ」
言ってから、手を伸ばす。
姫さんの鼻先、指で弾いてやろうとして。
それは、ドチビの銃口に遮られる。
こいつ、ほんっとに速いな。
仕方なく、俺は手を引いた。
それで銃口も下げられる。
「第一、護衛なら、こいつ一人いりゃ事足りるだろう」
「……リィ一人では、わたくしの全ての時間をカバーし切れません。
――ダーク、わたくしは本当に切実に、助けが必要なのです」
「あんたの護衛に雇われたいって奴なら、他にいくらでもいるだろうが」
「護衛にいい加減な腕のものを雇うつもりはありません。
あなたの腕は、リィに確かめてもらいました」
確かめる。
ああ、あの箱――エレベーターの中での一件か。
ようは御互い、相手を試してたってわけだ。
「だから、他にいくらでも腕のいい奴はいる。なんなら、紹介してやるぜ」
「わたくしは、あなたに御願いしているのです」
「……なんで俺にこだわる。理由はなんだよ」
めんどくさくなってきた。
だから投げやりに訊くと姫さんは、また少し笑む。
「ではダークは。
なぜ、わたくしの話をそんなに嫌がるのですか?」
訊かれて、俺は少し戸惑った。
本当に、何故だ。
領民になれなんて話は置いとくとしても、条件は悪くない。
だが自分の中で、ありえない、と反発する感情は何故だ。
んで、その七日の後、俺はどーなんの。どーすんの」
投げやりに言ったのだが、姫さんは少し考え込む様子を見せた。
俺は訊いてしまった自分の言葉に、また苦く笑う。
どうなんのも何も、そんなのは姫さんに訊くことじゃねえ。
俺が自分で決めることだ。
「では、報酬をひとつ足しましょう」
姫さんはそう言うと、にこりと口許を笑みの形にした。
形のいい唇の鮮やかさが、目の奥に残る。
「ダークに、わたくしの国の領民になる権利を差し上げます」
何を言い出すんだ、この女は。
呆れて半目で見下ろすが、姫さんは怯んだ様子もなく微笑んだ。
「――駄目ですか?」
「その条件、俺にメリットがあるように思えねえんだが、どうよ」
「まあ……」
言ってやると、姫さんはいかにも心外だとばかりに口許を押さえた。
「わたくしの領土では、領民にひとつ、約束事が御座います」
「……約束?」
「誇り高く在れ。そのために、自由を約束する、と」
「……自由?」
「ここで、笑うことにすら不自由しているのなら、わたくしの国で自由に暮らしませんか」
「……」
考えたこともなかった、自分自身の制限されていることに関して。
言葉にされて俺は、驚く。
そんなものが存在するとすら、考えたことがなかった。
──自由。
同時に、ついさっき、シドのおっさんが言った事を思い出す。
――はじめから諦めているお前が、不思議だよ。
思い出して、咄嗟に笑った。
何もかもを打ち消すように。
「馬鹿馬鹿しい。今さら、この街から出たところで、俺に自由なんてモンの使い道はわかんねえよ」
言ってから、手を伸ばす。
姫さんの鼻先、指で弾いてやろうとして。
それは、ドチビの銃口に遮られる。
こいつ、ほんっとに速いな。
仕方なく、俺は手を引いた。
それで銃口も下げられる。
「第一、護衛なら、こいつ一人いりゃ事足りるだろう」
「……リィ一人では、わたくしの全ての時間をカバーし切れません。
――ダーク、わたくしは本当に切実に、助けが必要なのです」
「あんたの護衛に雇われたいって奴なら、他にいくらでもいるだろうが」
「護衛にいい加減な腕のものを雇うつもりはありません。
あなたの腕は、リィに確かめてもらいました」
確かめる。
ああ、あの箱――エレベーターの中での一件か。
ようは御互い、相手を試してたってわけだ。
「だから、他にいくらでも腕のいい奴はいる。なんなら、紹介してやるぜ」
「わたくしは、あなたに御願いしているのです」
「……なんで俺にこだわる。理由はなんだよ」
めんどくさくなってきた。
だから投げやりに訊くと姫さんは、また少し笑む。
「ではダークは。
なぜ、わたくしの話をそんなに嫌がるのですか?」
訊かれて、俺は少し戸惑った。
本当に、何故だ。
領民になれなんて話は置いとくとしても、条件は悪くない。
だが自分の中で、ありえない、と反発する感情は何故だ。
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