大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

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ならず者は駆け引きしない

律義と正直のちがい

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「話にならねえな。姫さんは切符すらまだ手に入れてねえだろ。
んで、その七日の後、俺はどーなんの。どーすんの」

 投げやりに言ったのだが、姫さんは少し考え込む様子を見せた。
俺は訊いてしまった自分の言葉に、また苦く笑う。
どうなんのも何も、そんなのは姫さんに訊くことじゃねえ。
俺が自分で決めることだ。

「では、報酬をひとつ足しましょう」

 姫さんはそう言うと、にこりと口許を笑みの形にした。
形のいい唇の鮮やかさが、目の奥に残る。

「ダークに、わたくしの国の領民になる権利を差し上げます」

 何を言い出すんだ、この女は。
呆れて半目で見下ろすが、姫さんは怯んだ様子もなく微笑んだ。

「――駄目ですか?」

「その条件、俺にメリットがあるように思えねえんだが、どうよ」

「まあ……」

 言ってやると、姫さんはいかにも心外だとばかりに口許を押さえた。

「わたくしの領土では、領民にひとつ、約束事が御座います」

「……約束?」

「誇り高く在れ。そのために、自由を約束する、と」

「……自由?」

「ここで、笑うことにすら不自由しているのなら、わたくしの国で自由に暮らしませんか」

「……」

 考えたこともなかった、自分自身の制限されていることに関して。
言葉にされて俺は、驚く。
そんなものが存在するとすら、考えたことがなかった。

 ──自由。

 同時に、ついさっき、シドのおっさんが言った事を思い出す。
――はじめから諦めているお前が、不思議だよ。
思い出して、咄嗟に笑った。
何もかもを打ち消すように。

「馬鹿馬鹿しい。今さら、この街から出たところで、俺に自由なんてモンの使い道はわかんねえよ」

 言ってから、手を伸ばす。
姫さんの鼻先、指で弾いてやろうとして。
それは、ドチビの銃口に遮られる。
こいつ、ほんっとに速いな。
仕方なく、俺は手を引いた。
それで銃口も下げられる。

「第一、護衛なら、こいつ一人いりゃ事足りるだろう」

「……リィ一人では、わたくしの全ての時間をカバーし切れません。
――ダーク、わたくしは本当に切実に、助けが必要なのです」

「あんたの護衛に雇われたいって奴なら、他にいくらでもいるだろうが」

「護衛にいい加減な腕のものを雇うつもりはありません。
あなたの腕は、リィに確かめてもらいました」

 確かめる。
ああ、あの箱――エレベーターの中での一件か。
ようは御互い、相手を試してたってわけだ。

「だから、他にいくらでも腕のいい奴はいる。なんなら、紹介してやるぜ」

「わたくしは、あなたに御願いしているのです」

「……なんで俺にこだわる。理由はなんだよ」

 めんどくさくなってきた。
だから投げやりに訊くと姫さんは、また少し笑む。

「ではダークは。
 なぜ、わたくしの話をそんなに嫌がるのですか?」

 訊かれて、俺は少し戸惑った。
本当に、何故だ。
領民になれなんて話は置いとくとしても、条件は悪くない。
だが自分の中で、ありえない、と反発する感情は何故だ。
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