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ならず者は駆け引きしない
依頼と交渉
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「わたくし、こういったお店に入るのは、初めてなのです。
ワクワクします。
……店主の方。紅茶を」
「……ミルクを」
「待て」
待て待て待て待て。
とりあえず、待て。
どこから突っ込むか、考えるから。
「なんでお前等が、ここにいる」
「後をつけてきました」
「そういうことを、はきはき答えるんじゃねえよ。
もうちょっと、すまなさそうに言え」
全く悪びれずに言われて、俺は頭を抱えたくなった。
なんなんだ、こいつら。
「そんなことより、わたくし、こういうお店にはいるのが初めてで、ワクワクいたします」
今、そんなことよりって言ったぞ、この姫さん。
そんなこと、すごい大事なことだったと思うんだが。
あと、どんだけワクワクしてんだよ。
同じこと二回言うくらいか。
「はい、紅茶とミルクね」
あるのかよ。
ばあさんも置いてるのかよ、そんなものを。
しけてる癖に、品揃えが幅広いなオイ。
ふつうのバーに置いてねえぞ、んなもの。
「わたくし、ダークにお願いしたいことがあるのです」
「ああ、ちょっと分かってきたよ。
姫さんとこの外交術。基本的に相手の話を聞かないで、ごり押しすんだな」
いきなり、お願いしたいこととか言い出すあたり、こっちの話は全く聞く気がないな。
「ミルクを……」
「お前はお前で、どんだけミルクのオカワリすんだよ。
育ち盛りか。
いや、育ち盛りなんだろうけど」
「ダーク。わたくしの護衛の仕事をする気持ちはありませんか」
は……?
どさくさのようなタイミングで言われて、俺は面食らった。
まじまじと姫さんを見やるが、ヴェール越しの表情はいまひとつ読めない。
「なにを言い出すかと思えば。
さっき見たろう。俺はあそこのボスに雇われてるんだぜ。
用心棒として」
「ええ。でも……」
姫さんは、小首を傾げて少し微笑んだ。
「わたくしが長い目で見て取引相手を考えろ、と申し上げましたとき。
ダークはすごく笑ってらっしゃって」
「笑ってねえ」
ボスに殺されるわ。
確かに腹の中じゃ笑ってたが、顔に出した覚えはねえ。
「そんな筈ありません。
笑っていました」
「笑ってねえよ」
「笑ってらっしゃいました」
強情に言い張る姫さんを、いい加減に怒鳴りつけてやろうかと口を開いたときだった。
「ただ、笑ってらっしゃいましたが、楽しそうではありませんでした」
「……」
俺は言葉に詰まる。
その通りだ。
俺はボスのことを腹の底では笑ってたが、それを楽しいとは思わなかった。
笑えば笑っただけ、あんな男に使われている自分が惨めになっただけだ。
俺にボスを小さい器だと笑う権利などない。
俺も所詮、ボスと同類だった。
「王都まで、七日間。
移動は銀の弾丸で。経費はこちらがお支払いします。報酬は今の二倍以上をお約束します。
――いかがですか?」
訊ねられて、俺は苦笑した。
ワクワクします。
……店主の方。紅茶を」
「……ミルクを」
「待て」
待て待て待て待て。
とりあえず、待て。
どこから突っ込むか、考えるから。
「なんでお前等が、ここにいる」
「後をつけてきました」
「そういうことを、はきはき答えるんじゃねえよ。
もうちょっと、すまなさそうに言え」
全く悪びれずに言われて、俺は頭を抱えたくなった。
なんなんだ、こいつら。
「そんなことより、わたくし、こういうお店にはいるのが初めてで、ワクワクいたします」
今、そんなことよりって言ったぞ、この姫さん。
そんなこと、すごい大事なことだったと思うんだが。
あと、どんだけワクワクしてんだよ。
同じこと二回言うくらいか。
「はい、紅茶とミルクね」
あるのかよ。
ばあさんも置いてるのかよ、そんなものを。
しけてる癖に、品揃えが幅広いなオイ。
ふつうのバーに置いてねえぞ、んなもの。
「わたくし、ダークにお願いしたいことがあるのです」
「ああ、ちょっと分かってきたよ。
姫さんとこの外交術。基本的に相手の話を聞かないで、ごり押しすんだな」
いきなり、お願いしたいこととか言い出すあたり、こっちの話は全く聞く気がないな。
「ミルクを……」
「お前はお前で、どんだけミルクのオカワリすんだよ。
育ち盛りか。
いや、育ち盛りなんだろうけど」
「ダーク。わたくしの護衛の仕事をする気持ちはありませんか」
は……?
どさくさのようなタイミングで言われて、俺は面食らった。
まじまじと姫さんを見やるが、ヴェール越しの表情はいまひとつ読めない。
「なにを言い出すかと思えば。
さっき見たろう。俺はあそこのボスに雇われてるんだぜ。
用心棒として」
「ええ。でも……」
姫さんは、小首を傾げて少し微笑んだ。
「わたくしが長い目で見て取引相手を考えろ、と申し上げましたとき。
ダークはすごく笑ってらっしゃって」
「笑ってねえ」
ボスに殺されるわ。
確かに腹の中じゃ笑ってたが、顔に出した覚えはねえ。
「そんな筈ありません。
笑っていました」
「笑ってねえよ」
「笑ってらっしゃいました」
強情に言い張る姫さんを、いい加減に怒鳴りつけてやろうかと口を開いたときだった。
「ただ、笑ってらっしゃいましたが、楽しそうではありませんでした」
「……」
俺は言葉に詰まる。
その通りだ。
俺はボスのことを腹の底では笑ってたが、それを楽しいとは思わなかった。
笑えば笑っただけ、あんな男に使われている自分が惨めになっただけだ。
俺にボスを小さい器だと笑う権利などない。
俺も所詮、ボスと同類だった。
「王都まで、七日間。
移動は銀の弾丸で。経費はこちらがお支払いします。報酬は今の二倍以上をお約束します。
――いかがですか?」
訊ねられて、俺は苦笑した。
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