大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

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ならず者は駆け引きしない

ちょっと息抜きをする心算が

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「……小娘が!」

 ようやく出てきたボスの第一声が、それだった。
居る時に言えよ。
さて、俺は曲がりなりにも、この男に雇われている身なんで。
一応の忠告をしてみる。

 どう見たって、ありゃわざとだ。
わざと喧嘩をふっかけてきやがった。
怒らせて、こっちの動向を見るつもりなんだろう。
相手は、領地持ちの貴族だぜ。
外交ってやつに関しちゃ、俺たちチンピラなんかより一枚も二枚も上手に決まってる。

「ボス。どうも脅しは利きそうにねえ。
ここは下手に動かないのが得策じゃねえスか」

「うるさい……!こんな馬鹿にされて、黙っていられるか!」

 まあ、そうくるだろうなあ。
たぶん、あっちの思う壺だと思うけど。
俺の言うことなんぞ、聞くわけがねえか。
一応の義理は果たしたんで、これ以上は言うつもりもないけどよ。
俺は軽く肩をすくめて、ドアへと向かった。

「おい、どこに行くんだ、ダーク」

「ちっと外の空気でも吸ってきますよ。
いかついのばかりがいる部屋に、ずっと詰めてるなんて息が止まっちまう」

 ボスは聞こえよがしに舌打ちしたが、俺はかまわなかった。

「夜までには戻れよ」

「へーい」

 おざなりに返事をして、部屋を出る。
何人かの用心棒が、息抜きとばかり同じように部屋を出た。
その内の一人が俺の後を追ってくる。

「ダーク」

 呼び止められて、俺は店を出たところで足を止めた。
鷹揚に片手をあげたのは、用心棒仲間のシドと呼ばれている、おっさんだった。
俺と同じに通り名で、本名は知らない。
年はそこそこいってるが、とにかく腕が良かった。
足に傷があるとかで、少し歩くのに不自由があるために、こんなところでくすぶっている。

「酒場にいくんだろう?つき合えよ」

「奢りかい」

「あほう。お前が奢れ」

 俺はシドの足にあわせて、歩調をゆるめる。
ボスのところの用心棒は、どいつもこいつもロクでもない連中ばかりだが、シドのおっさんとだけはウマがあった。
顔あわせりゃ、一緒に酒を飲むくらいの付き合いはする。

「面白い見せ物だったな。
 俺ゃ、笑い出すのをこらえるのに必死だったぜ」

「あんたが先に笑ってくれりゃ、俺が我慢しなくてよかったのに」

「やめろ。俺がボスに殺される」

 俺以外にも、笑い堪えてたのは居たか。
ボスが知ったら、まさに噴飯モノなんだろうが。

「ま、傑作だったな。
脅したつもりが脅し返されて、怒り狂うあたり」

 言ってシドは豪快に笑う。

「メイドの姉ちゃんたちも、美人揃いで眼福だったし。
ああいう出入りなら、毎日だって歓迎なんだがな」

「どうだかねえ……」

 砂埃で煙たいような道を歩きながら、俺はつぶやく。
シドが怪訝そうに俺を見た。

「なんか気になることでもあんのかい」
「……あいつら、落ち着きすぎじゃねえか?ただのメイドにしちゃあ」

「表立ってウェストブルックに敵対するわけがない、と思ってるんだろう。
どうもボスの態度を見てると、依頼主はウェストブルック以上に力を持った相手のようだが」

「ならいいが。どうも嫌な感じがしやがんだよな」

 馴染みのバーにはいると、相変わらず客はいなくて居心地が良さそうだった。
この店を気に入っている、唯一のポイントだ。
食い物は不味いし酒も不味い。
気の利いた女もいなくて、居るのは仏頂面のばあさん一人。
だが、御陰で他に客はいない。
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