大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

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はじまりの街

道案内の報酬

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「……いいぜ。きちっと礼が頂けるんならな」

 答えると、女は軽く頷いた。

「御用意いたします」

「それと……」

 俺は、腰の銃を引き抜いた。
ドチビメイドほどじゃないが、一動作のそいつは、そこそこ速かったはずだ。
メイドが反応しかけたが、俺に銃口を向けるには至らない。

 銃声。

 同時に悲鳴が上がる。
弾は、倒れながらも女に銃を向けようとしていた追い剥ぎの一人、その手の中の銃を弾き飛ばした。
次の弾で、空に舞った銃を、さらに撃つ。
続けてもう一度。
三度、宙を踊るよう弾け跳んだ銃。
それは、もはや追い剥ぎの手の届かない道端に落ちてクルクルと転がっていった。

「こっちの礼には、酒でも一杯奢ってもらえるかい?」

 あたりに立ち込めた魔道硝煙の匂い。
それを、くるりと手の中で銃を回して断ち切る。
ホルスターにおさめて女達を見遣ると、ドチビメイドが俺を睨みつけてきた。
おお怖い。思って口許だけ歪めて笑う。
女は僅かに驚いて口を噤んだようだった。
けれど、すぐに唇が笑む。
白い手袋に覆われた指先が、顔を隠したヴェールを少しだけ持ち上げた。

 見えたのは、濃い青色の双眸。
群青――つうんだったか。
こんな濃い色合いの蒼瞳は、見たことがない。
珍しい色のその目が、和むように青色をやわらげる。
不覚にも、俺は女の顔に見入った。

「……それも。御用意いたしましょう」

 人形みたいに整った白い顔は、笑うと花が咲いたみたいだった。
俺はこんな綺麗な顔した女を、生まれて此の方、他に見たことがねえ。
なんだってわざわざ、ヴェールなんかで隠してんのかね。

「で。どちらに行きたいんですかね。お姫様」

 訊くと女は、また少し小首を傾げるようにしてから答えた。

「ホテル……コールドウェルに行きたいのですが。お分かりになりますか?」

「は?」

 お分かりになりますかも何も。
俺は呆れながら、背後を指差してやった。

「あそこに見えてるだろ」

 地べたに這い蹲るようにして低い建物がひしめく、この裏路地。
そんな場所からでも、遠く霞むように見える、高層の建物。
見下ろされてる感じが満載の白亜の建築。
この街で最高級の呼び声も高い、ホテルコールドウェル。
あんなところに御宿泊か。

 この街育ちで、それなりに色んなところへ顔が効く俺だって、あんな高級ホテルには一度も足を踏み入れたことがないってのに。
さすが姫様なんて呼ばれるだけのことはあるな。

「つうか、なんでこんな寂れた方に来ちまったんだよ。
 あきらかに、方向間違ってんだろ」

「えっ……」
「えっ……」

 戸惑ったような声が、ふたつ返ってくる。
あ、わかった。
こいつら、二人とも方向音痴だ。

「……しゃあねえなァ。連れて行ってやるから、ちゃんとついて来な」

「ありがとう御座います」

 さっきまでの落ち着きぶりはどこへやら。
うろうろと目を泳がせていた主従は、そう言ってやると安心したようだ。
俺に案内させて安心してるなんて、そこはやっぱり世間知らずだな。
とはいえ、このドチビメイドが護衛なら、そこらのチンピラじゃ歯が立たないだろう。

 ――なんて日だ。
なんだかクソ面白い拾い物をしちまった。
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