電子レンジ

アサツキ ホシナ

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電子レンジ

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 学校が終わり、私はいつも通り帰宅をしていた。

部活動をやっていない私は早急に帰るつもりだったが、委員会が長引いてしまって帰るのが遅くなった。そうは言っても、ただその場所にいただけで、書類の整理を淡々と誰とも話すことなく進めていただけだ。もう入学して半年になるが、友達はまだできていない。明日から夏休みなので、それは関係のない話になる。

 夕暮れの日が沈みかけの時間、なんとも言えない不安感が街の路地を照らし出している。ふと、10 mもないだろう先に何か箱型の物体が落ちているのを見つけた。

電子レンジだ。ここはゴミ捨て場じゃない。不法投棄だ。ひどいことをする人もいるものだと思い、通り過ぎようと瞬間、気付いた。

似ているのだ。私の家で使っている電子レンジと。

再度、電子レンジをよく見つめてみる。

やはり、似ている。あまりにも似ている。同じであるといってもよい。

同じ型番の電子レンジなら、そんなに珍しいことでもないと思う。しかし、傷の位置やシールの剥がし跡まで、まったく一緒なのだ。

「偶然?」と呟き、考えていてもしょうがないので、私は家へと帰宅した。


夕食が始まる前に夏休みの宿題をもう終わらせてしまおうと思い、帰ってからすぐに自分の部屋に行って、宿題に手を付ける。それと同時にさっき見た電子レンジが頭の中から離れない。

やっぱり偶然ではない。あれは完全に家の電子レンジだ。母親が帰ってきたらちょっと聞いてみようと思い、宿題に取り掛かった。

1時間後、たいていの課題を終わらし、明日には終わるなと目途をたてていたところ母から夕食に呼ばれた。

夕食中に帰り道に見た電子レンジのことを、母親に聞いてみた。

「お母さん、家にある電子レンジってどこで買ったの?」

「どうしたの急に?」

「いや、帰り道にさ、家にある電子レンジと全く同じ電子レンジを見かけたんだ。」

「そんなの、たまたま似てただけじゃないの?」

「私もそう思ったんだけどさ。ほら、私が小さい頃、シールを貼ったところあるでしょ、中学に上がる時に剥がしたけど、上手く剥がれなくて跡が残ってたじゃん。その剥がした跡が全く同じ剥がし跡なんだよ。」

母はなんだか気味悪そうな顔をした。

「それだけじゃないんだよ。家の電子レンジは、10分、1分、10秒ってボタンがついてるけど、1分のボタンだけ使いすぎて読めないぐらいまで擦れてるでしょ。そこも全く同じなんだよ。」

「・・・。」母は完全に黙り込んでしまった。そして、数秒後、口を開け、電子レンジを購入した経緯を話した。

「中古で買ったのよ。すごく安くてね。確かあの時はお客さんが近々来る予定があってすぐに欲しかったから、間に合わせのつもりで買ったの。1年もったらいいなと思ったんだけどね、10年ももったの。あなたがまだ6歳の時よ。流石に今よりはボロボロじゃなかったけど、それでも少し使用感があってね、まぁ中古だし当たり前なんだけど。今思うと、確かあの場にあった中で、最新の機種なのに、安すぎたわね。」

私は自分で話してほしいと言ったクセに、路地で見かけた電子レンジと繋がりがありそうだとは思わなかったことに不快感を抱いた。

「ふーん。そんな経緯があったんだ。小さい頃はなんとなく電子レンジが変わったなぁ、程度にしか思ってなかった。」

「中古だからいわくつきなんて怖い話やめてよね。」

「大丈夫だよ、通りかかっただけだもん。」私は即答した。幽霊の類はあんまり信じていないからだ。

――――まさか、あんなことになるなんて。―――――

私は、夕食後、自分の部屋に戻り、再び宿題に手を付けた。夕食前に目途を立てたので、やるべきことはもう決まっている。私は淡々と勉強を始めた。勉強に集中すると電子レンジのことはすっかり忘れて、何時間も勉強に集中できた。

数時間後、母が「おやすみー」と声が聞こえ、日をまたぎそうな時間であることに気付いた。私は遅れて「おやすみー」と返し、もう少し課題をやろうと、また数時間、勉強に没頭した。

課題の5割を終わらせた時、時刻は午前2時半を指していた。
しかし、集中しすぎてしまったせいか、まったく眠くない。何か食べようと思い、私はリビングへと向かった。
 私は電子レンジの近くを通り過ぎた。その時だった。



――――――何かいる。

勘違いではない。電子レンジの中に『何か』がいるのだ。
 
 動いている、電子レンジの扉を『何か』が叩いている!!今にも扉から出てきそうな『何か』に嫌な予感が走り、私は電子レンジから離れようとした。しかし、足がからまり、床に体が叩きつけられる。

 その音と同時に、私の足元、電子レンジの真下から、「グシャッ」という生々しい音がした。

 私は電子レンジの方を見る。電子レンジの扉が開いてるのを見てゾッとする。

 そして、その下には



―――――――人の首が落ちていた―――――――――――



 私は叫んだ。文字に起こせない悲鳴。喉が裂けるくらいに。

 その頭は電子レンジで加熱したようにジュクジュクと焦げた音を鳴らしている。目はくり抜かれ、顔の皮は剥がれ赤黒い肉がむき出し、髪の長さは短く、しかし、カミソリで無理やりズタズタにされたようにめちゃくちゃに切られている。特殊メイクとか、マスクではない、そいつの顔が歯をむき出しに笑っている。

 私は気絶した。


 気付いたら、真っ暗な中にいた。ここはどこだろうと体を動かしたが、体が全く動かない。仕方なく頭を振ってなんとか動こうとした。しかし、頭を振った瞬間、横、前後にガンガンと当たって痛い思いをした。

頭を抱えようにも体が動かない。

すると、前の方からガチャっという音がした。「あぁ、良かった。閉じ込められていたんだ。助かった。そう思った。」

しかし、その扉を開けた人は、母さんだった。

お母さんが私を閉じ込めた?いや、母さんの表情は、恐怖している。そしてそのまま叫び声をあげ、倒れ込んだ。

母が倒れ込んだことで気付く。あれ、この景色って。

あぁ、そうか。体が動かないわけだ。


だって、




































頭だけ、電子レンジに入れられているのだから。
























【中古の電化製品にはご注意を】
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