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3 どうしてこんな社会になったのかー吸血鬼と人間の共存に至るまでー
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「世界異民協定」
この言葉ができたのは、ほんの10年前。
地球上では5年に1度のペースで自然災害に端を発した感染症が流行し、結果として現在の人口はピーク時の半分以下となった。
急激な人口減少はまもなく労働や食料問題に直結し、世界共通の重要な問題として持ち上がる。各国は何度も会議を行い、対策を検討したが有効な手段は見つからないまま、時間だけが経過していき、状況は深刻化の一途を辿った。
そのような世界が暗いニュースで覆われる中、突如として異世界に住む吸血鬼たちからコンタクトがあった。
初めこそ人間たちは警戒したが、何度も言葉を交わすうちに吸血鬼側の事情が明らかになってきた。
彼らの住む世界でも諸々の事情で、吸血鬼を中心とした社会を継続していくことが難しくなったらしい。
そこで吸血鬼側の持ちかけた提案はこうだった。人間と吸血鬼の間に対等な協定を結び、吸血鬼から有り余る力を使って労働力を提供する。その対価に食料である人間の血液を融通して欲しい、と。
この提案に当初は人間側がパニックに陥った。しかし、吸血鬼たちが詳しく説明をすると、態度が変わった。
食料の要求と言っても、血液を直接人間から摂取するつもりはなく、輸血で余ったものや可能であれば人工の血液を提供してほしいということ。
これらの話に加えて、安心材料も提供された。
異世界の吸血鬼は日光や銀に弱いが、宗教的な弱点は無く、心臓も動いているという点だった。つまり、人間社会の言い伝えにある吸血鬼と同じ特徴もあれば、異なる面もあったのだ。
加えて人間側の様々な機関で検査を行った結果、生態は異なるが人間に近い種族と言うことが科学的に証明されたのである。
以上のことがわかると、人間たちの間に安堵の空気が徐々に広がり、並行して吸血鬼との交渉も進み、1年もせずに協定の締結に至った。
人間側の吸血鬼に対する恐怖は完全に消えたわけではなかったが、それ以上に彼らの労働力が欲しかったのである。
時間をかけて話し合った末、利害が一致した両者は具体的な共存計画を立て始めた。その中で絶対に守るべき条件が含まれた。
・異世界から来る吸血鬼は絶対に人間に害を及ぼさないこと。同時に人間も吸血鬼に害を及ぼしてはならない
・両種族は互いの生態に関する差異だけでなく、慣習や文化を理解し、尊重すること
・人間の社会に適応できない吸血鬼が発見された場合は、異世界へ送還する。人間に危害を加えた場合は裁判後、有罪が確定した時点で異世界へ強制送還される。また、人間が吸血鬼に危害を加えた場合は裁判の後に有罪が確定した後に刑罰に処す
・人間側は吸血鬼に血液を提供する際は、輸血の在庫に頼るのではなく、人工血液の技術開発を進めて高い質と安定した量を生産すること
・人工血液を製造する企業は異世界への輸出及び、現地製造を実行すること。同時に、地球上のあらゆる国家・企業も支援を行うことを義務付ける
以上の内容が取り決められ、これが「世界異民協定」の基礎になった。
そして異世界と人間の世界をつなぐ«扉»が改めて開通し、1000人以上の吸血鬼がやって来た。
これが吸血鬼と人間の共存の始まりである。とは言え、彼らが人間社会に馴染むには更に数年の時間を要した。
そして現在。吸血鬼と人間の生活が当たり前になりつつある世界では、社会の在り方も変容してきた。
朝から夕方までを人間中心で活動し、夜は吸血鬼たちが活動して共に経済を回す。数では人間の方が圧倒的に多いが、それでも労働市場を支える存在として吸血鬼たちは重宝された。
世界各地で労働力不足の解決の道筋がついた頃、吸血鬼を対象とした商売も本格的に始まった。夜の間しか行動できない彼らのために、世界中の至る所で地下街ができて、一部の都市では地上と変わらない賑わいを見せている。
他にも吸血鬼専用の美容品や娯楽商品の開発など、これまでにはない新規事業が次々と立ち上がり、世界経済は半世紀前よりも明るい兆しを見せている。
吸血鬼という種族を迎え入れたことで、様々な問題はあったが、今のところ人間たちは新しい時代を前向きに捉えていた。
この言葉ができたのは、ほんの10年前。
地球上では5年に1度のペースで自然災害に端を発した感染症が流行し、結果として現在の人口はピーク時の半分以下となった。
急激な人口減少はまもなく労働や食料問題に直結し、世界共通の重要な問題として持ち上がる。各国は何度も会議を行い、対策を検討したが有効な手段は見つからないまま、時間だけが経過していき、状況は深刻化の一途を辿った。
そのような世界が暗いニュースで覆われる中、突如として異世界に住む吸血鬼たちからコンタクトがあった。
初めこそ人間たちは警戒したが、何度も言葉を交わすうちに吸血鬼側の事情が明らかになってきた。
彼らの住む世界でも諸々の事情で、吸血鬼を中心とした社会を継続していくことが難しくなったらしい。
そこで吸血鬼側の持ちかけた提案はこうだった。人間と吸血鬼の間に対等な協定を結び、吸血鬼から有り余る力を使って労働力を提供する。その対価に食料である人間の血液を融通して欲しい、と。
この提案に当初は人間側がパニックに陥った。しかし、吸血鬼たちが詳しく説明をすると、態度が変わった。
食料の要求と言っても、血液を直接人間から摂取するつもりはなく、輸血で余ったものや可能であれば人工の血液を提供してほしいということ。
これらの話に加えて、安心材料も提供された。
異世界の吸血鬼は日光や銀に弱いが、宗教的な弱点は無く、心臓も動いているという点だった。つまり、人間社会の言い伝えにある吸血鬼と同じ特徴もあれば、異なる面もあったのだ。
加えて人間側の様々な機関で検査を行った結果、生態は異なるが人間に近い種族と言うことが科学的に証明されたのである。
以上のことがわかると、人間たちの間に安堵の空気が徐々に広がり、並行して吸血鬼との交渉も進み、1年もせずに協定の締結に至った。
人間側の吸血鬼に対する恐怖は完全に消えたわけではなかったが、それ以上に彼らの労働力が欲しかったのである。
時間をかけて話し合った末、利害が一致した両者は具体的な共存計画を立て始めた。その中で絶対に守るべき条件が含まれた。
・異世界から来る吸血鬼は絶対に人間に害を及ぼさないこと。同時に人間も吸血鬼に害を及ぼしてはならない
・両種族は互いの生態に関する差異だけでなく、慣習や文化を理解し、尊重すること
・人間の社会に適応できない吸血鬼が発見された場合は、異世界へ送還する。人間に危害を加えた場合は裁判後、有罪が確定した時点で異世界へ強制送還される。また、人間が吸血鬼に危害を加えた場合は裁判の後に有罪が確定した後に刑罰に処す
・人間側は吸血鬼に血液を提供する際は、輸血の在庫に頼るのではなく、人工血液の技術開発を進めて高い質と安定した量を生産すること
・人工血液を製造する企業は異世界への輸出及び、現地製造を実行すること。同時に、地球上のあらゆる国家・企業も支援を行うことを義務付ける
以上の内容が取り決められ、これが「世界異民協定」の基礎になった。
そして異世界と人間の世界をつなぐ«扉»が改めて開通し、1000人以上の吸血鬼がやって来た。
これが吸血鬼と人間の共存の始まりである。とは言え、彼らが人間社会に馴染むには更に数年の時間を要した。
そして現在。吸血鬼と人間の生活が当たり前になりつつある世界では、社会の在り方も変容してきた。
朝から夕方までを人間中心で活動し、夜は吸血鬼たちが活動して共に経済を回す。数では人間の方が圧倒的に多いが、それでも労働市場を支える存在として吸血鬼たちは重宝された。
世界各地で労働力不足の解決の道筋がついた頃、吸血鬼を対象とした商売も本格的に始まった。夜の間しか行動できない彼らのために、世界中の至る所で地下街ができて、一部の都市では地上と変わらない賑わいを見せている。
他にも吸血鬼専用の美容品や娯楽商品の開発など、これまでにはない新規事業が次々と立ち上がり、世界経済は半世紀前よりも明るい兆しを見せている。
吸血鬼という種族を迎え入れたことで、様々な問題はあったが、今のところ人間たちは新しい時代を前向きに捉えていた。
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