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第14章 アバター南華子登場。
第2話 こってりラーメンと、千歳防衛戦。
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■ ラーメン屋の暖簾の隙間から見える、カウンターに座るデカいオッサン2人と白い肌が眩しいOL。
「ところで、ズルズルッ、シー?オメー、今日さ。栗山さ、帰るんだべや。」
「んだべ。」
蓮華を使って上品にラーメンをニコニコ食べている南さん。その南さんを小林を挟んで、チラッと見てはうっとり、チラッと見ては、うっとりするきよし。
「なぁシーよ。オイ、なに見とれてる?はんかくさいべあ。」
「なんだべぇ?」
両肘ついて横目で南を見ながら、ニッコリ、フワフワ顔を乗せてるきよし。
「シー、ズルズルズルッ。南ちゃん別海出身だって。」
しゃべりながら、ラーメンをズルズルすする小林。
「あ~っお前!べっかいじゃねーよ。なっ南さん。べつかいっ、べつかい!南さんに失礼だべや。お前上司だべ!正しく北海道の地名言えや。営業マンは言葉で仕事すんべ。正しく言えや。」
「そうですょ小林課長~。うふふっ。課長も道産子でしょ。ウフフ。」
「あ、あぁ。ごめんなさい。」
謝る小林をよそに、店主の山口がラーメンと炒飯を持って来た。
「はい~!お待ち~。素ラーメンと、半炒飯セット!」
椎葉の前に太い腕を伸ばして、ラーメンと半チャーハンの皿を並べる店主。
「お~これか~。頂きます~。ラーメン、お~油っこそう。」
手の平を合わせていただきますポーズをする椎葉。
ニコニコと店主の山口が小林にいつもの様に親しく話した。
どうやら小林はこのラーメン店の常連の様だった。
「小林ちゃん、今日は何の治験やん?」
「山ちゃん、あれだわ、あれ、体内の血液酸素量を一定に保つ新薬の治験だべっ。感染症の患者でも一定の酸素量を保てるかっての、治験だべさ。」
小林の肩に、自分の肩をぶつける椎葉きよし。
「何っ?今、俺っ、酸欠なのか?なんで酸欠?」
「南ちゃん見て赤くなったべや!」
「コバ、はんかくさい事いう~なょ~オメーは、よ~。こっぱずかしいべや。」
店主が口に手を添えて大笑いする。
「ハハハー、こちらの旦那、痛い所つかれてもた!でもこの娘さんメチャメチャ綺麗やんか。小林ちゃんの会社ええなぁ。連れてくる子みんな美人さんばかりで。この間なんか、小林ちゃん飲んだ帰りに連れてきた、めっちゃ綺麗な金髪の外人さんとか。すんごいスタイルも抜群で、モデルさんかなんかの……」
あっ!と眉にシワを寄せて小刻みに顔を振り、店主の話を止めさせる小林。
「あ……。」
そんな小林のリアクションに気が付き、下唇を出してごまかし笑いでカウンターの奥に歩いて行く店主の山口。睨みながら店主の背中を目で追いかける小林。
しかし、眠たい100パーセントのボケきよしは、気が付かなかったみたいだった。
横目で椎葉をみる小林。
会話に気が付かずラーメンをすすっていた。
胸をなでおろす小林。
「南さん見たら誰でも赤くなるべさ。めっちゃめちゃ可愛いい。ほ~んまに。」
と、真面目に臆する事なくラーメンすすりながらデカい声で言い放つ椎葉。
頬を赤くして箸を止める南華子。
「あっ山ちゃん、また、高血圧の新薬の治験くるから奥さんに言うたって。山ちゃんも治験受けてや。会社の目の前だけど、5,000円交通費出すやんか。」
「おおきに、何時も有難うな。ゆっくりしたってや。」
( ガラガラガラ~ッ! )
( へぃ!らっしゃい相席空いてるで! )
まだお昼前でも客足が止まらない、こってりラーメン屋。
「もぅ椎葉さんったら。照れますわぁ。ズバっと褒める方好きです。嬉しいですぅ。うふふっ」
目を細めて、椎葉を見る小林。
「ふ~ん……。あっ!おめー南ちゃんにしっかりお礼言ったか?」
「あっ!えっ?あっ、有難う御座います南さん。気ィ効くわぁ。ホント助かりました。」
小林を超えて、のけぞって身を乗り出して話すきよし。
「いいぇぇ~。ウフフッ。」
ニコニコッパクッの南さん。
美味しそうにラーメンを食べている。
小林の反対側で腕や襟足の匂いを嗅ぐきよし。
「んあ~、んあ~良い匂い。これ、南さん選んだの?ワイシャツ、背広も全部?」
コクっと、ニコニコうなずく南さん。
「椎葉さんが脱がれた服は洗ってお返しします。何処にお送り致しますっ?ご自宅?御社ですか?」
「コイツに渡して下されば。」
小林へ、箸でツンツンと指すきよし。
( ブッ! )
吹きだす小林。
「オイ!吹いたべや!もう、シー!汚なっ!」
「汚いのこっちだ!ボケッ。南さん、汁、かからなかった?」
右腕のシャツを軽く確認する南華子。
「え~あ、あ、大丈夫、大丈夫です。」
「オラの脱いだ服いいべ、オメーんとこでいいべ、預かっておいてくれだべ、コバ。」
「……もう。南ちゃん、洗った服出来たらぁさぁ。」
ジロっと横目で椎葉を睨む。
「俺の机の横に置いて。」
「かしこまりましたぁ。ウフフッ。」
こんどは、南華子が、後ろに体を反らし小林の背中を超えてきよしに話しかけた。
「あの~椎葉さん、大阪にいらっしゃらないんですか?これからご出張?」
「あ~北海道の実家経由でポーランドへ行くつもりなんです。」
ズルズルッ。ラーメンを食べながら横目で答える椎葉。
「あらまぁ素敵。えぇポーランドって中央ヨーロッパですよね。素敵~っ。ポーランドといえばショパン!ポーランドに椎葉さんが行かれるのは、小林課長もご存じだったんですねっ。ウフフ納得ぅ。」
ニタ~とする椎葉。
「コバ、(ん~?ズルズル、なんじゃシー。)南さんの話方、俺、なんか凄い幸せな気分になる~。すんごい幸せ~。マジで。」
「ぇぇ?」
頬をポッと赤くする南さん。
「幸せって!初めて言われました。うふふっ」
ほっぺたに両手を着けて照れながら話す南さん。
( うわ~。めちゃくちゃ色っぽい、俺、完全にやられた。 )
と、南の仕草を覗きながら、とっさに思う椎葉きよし。
( シルビアゴメン! )
もともと、恋愛事には奥手な椎葉だった。
初恋の女性軍人と、妻のシルビア以外、他の異性に初めて感じた感情だった。
「いや~、ウチの会社のOL達、脳が筋肉というか、脳にロボスーツかぶってるツーか、何でも暴力で現状変更させる、武闘派というか。なんというか。」
ゴンっ!と椎葉にゲンコツするコバ。
「痛でっ!なんするべっコバっ!オメー!おー痛て~っ!」
「俺の嫁、エル姫は断じて脳筋娘ではない!」
「オー痛でっ。まぁそういう事でいいんでないかい!もう。たんこぶ出来たべや。痛ててっ。」
うふふっと、2人を楽しそうに見つめる南さん。
「あ~っ美味しかったです~。暫くぶりに楽しいお昼食でしたわ。うふふ。」
声を聴いて鼻を膨らませる椎葉。
そして、振り向いた。
「えっ!もう会社戻るの?食べるの早っ。んじゃ~さぁ、幸せ有難う代で、おごるべさっ!(小林を指差して。)また御飯ば、食べに行くべ。南さん!」
「はい、必ず誘って下さいね。絶対ですよ椎葉さん。うふふっ。」
サッ!と立ち上がり、椎葉の横につかつかと寄っていく南。
しゃがんで椎葉の手を色白の柔らかい両手でギュッと握る南。
「色んな意味で、ご馳走様でした。楽しみにしてますわ椎葉さん。私の連絡先は小林課長に聞いてくださいねっ。今は、一応仕事中で上司といっしょですので。朝でも夜中でも、いつでもお供いたしますわ。失礼します。ウフフッ。」
節々がピンク色の柔らかい手で、ずっと両手を離さず喋る南。
うふふで胸が揺れ、赤くなる椎葉。
その椎葉の両手を握りながら、おっとり優しい声で話した南華子。
「小林課長、有難う御座いました。お先ですぅ。ウフフ。」
( カラカラッ、スッ。 )
椎葉には、南が締める戸の音も優しく聞こえた。
「オイ、オイ。シー。お前~、シルビアいるべや!大丈夫か!」
( オイオイ、中身はお前が小さい頃から知ってる金髪のノーラ叔母さんなのに、大丈夫かコイツは。 )
と、我が親友ながら心配して、冷たい横目で椎葉きよしを見る小林未央だった。
「アホか。そんなんじゃない。あっ!オメーの餃子ひとつくれ。」
「栗山の法事、明日、俺も行くからな。叔父さんに線香あげるわ。叔父さんって失礼だな。師匠に。椎葉師匠、何回忌だったべか。」
「あ~親父の17回忌な。それと明後日、6月25日だろ?千歳の鎮魂碑に行こうと思って。献花しにさ。3年?暫くぶりにさ……。みんな、みんなに会いにな。」
きよしの脳裏には、一緒に大気圏再突入の急襲攻撃訓練し、苦労を乗り切った黄ルオや愉快なポーランド軍の兵士、米軍、台湾軍の先輩、上司、同僚の顔が浮かんだ。
また、初恋の女性機動モービルHARMORパイロットのジェシカの顔が浮かんだ。全て千歳の鎮魂石碑の下で眠る人たちだった。
一瞬止まり、真顔になり水を飲む小林。また食べ始める。
「……なぁ、シー。」
「ああん……。」
「俺は来月の7月の公式の慰霊式典も行くつもりだ。軍の案内来てた。なんで今年から7月に慰霊式典がなったのやら。」
「そうか……。あの日は6月25日なのにな。シルビアやポーランドの母親がどうしても千歳行きたいとかで。杉さんも熊もさ。妹のオディアも帰省してるみたいだし。あと、エラも。」
「んっ?何?俺の嫁、栗山来る?エルちゃんが栗山来るの?」
「身内だべ。法事で当たり前。」
「また綺麗になったんじゃないの?随分と可愛いくなったんじゃないの?この間、お前んトコの会社でチラッと見かけたけど。」
「何こいてんだオメーはよ。会社でチラッとなんて、キモー。オッサン。何こいてんだべ、オイ。」
「こくも何もさ、今度よ、オイ!今度、エルちゃん飲みに誘っていいべか?」
赤くなりながら喋るオッサンと残ったラーメンを食べ始める椎葉。
「ん。食わず嫌いだった。こってりラーメン。まま、食えるべさ。炒飯はもろ正解。あ!山ちゃん?山ちゃん!こんどさっきの娘とくるわ!」
麺の茹で上げをしている店主の山口が、きよしの話を聞いて手を上げて答えた。
( 椎葉さん、宜しく~! )
「何、俺の話ば、シカトしてる。聞いてるか、シー!コラッ。」
肩を椎葉に当てる小林。
「イテッ。もう。だけどコバ、俺さぁ10日休みで、会社から無理やり取らされた連続休暇だべ?」
「こらシー!会話になってないべ。だからエルちゃんとさ、札幌でデートするぞ!旭山記念公園で余市ワインさ、飲みながら語らいたいんだべさ。」
「なんでよ。旭山公園で今そんな所あんの?」
「あるべさ。お前の本宅は札幌だべや~。マンションから大倉山ジャンプ場の横に毎日見えてるべさ。裏にイージスのレーダーがある。ほらっ真っ白い建物。」
「ふ~ん。このタクランケ!いやらしい事考えてんべ!いい年こいてこのチョンガーオヤジ。この機会にエラと付き合ったらええべ。だけど妹、酒癖わんるいよ!嫁も別の意味で酒癖悪いけどぉ。」
「ええなぁほんまに~。あんな美人姉妹なら酒癖くらい……えっ(うわぁしまった失言)。」
突然、口を押える小林。英国のシラス加盟国軍のパーティで各国の観戦武官の前で絡まれるシーンを思い出す。
( コ~バ~、小林~飲んどるか~うりゃ~。 )
ハハハハハ~……ガクッ。
「ん?どうした?えって、なんで止まる。なんで急に勢い消えた?んで休みの話でさ、今晩から栗山だべ、明日法事で明後日が千歳。月曜日はのんびりしてから火曜日の夜、直行便でポーランド。嫁の実家で3泊4日するのさ。その後、何故かパラオで1泊する椎葉家の大移動だ。再来週の月曜日に札幌さ、帰るわ。」
「ポーランドの実家って何処だったっけ?」
とコバ。
「トルンだべ。」
「ワルシャワ?」
「トルン~!ワルシャワは首都。俺の大学の所。(ワルシャワだべよ。)イラっ!トルンだって。オメ~っ、イギリス留学の時、1回来たべや!憧れのエル様に会えた!エル様エル様って、気持ち悪い~ロリオタが!」
「うるせ~!あっちゃこっちゃに拠点があってええなっ!オイ!」
「あっ!んだ、エルジビエタはそのままウチのポーランド支店勤務になるわ。半年な!それもトルンの実家通いで!」
「はぁ?何?なんで~!ウソだべオイッ!俺も行く絶対行く!俺のポーランドの嫁~!」
「ったく、俺の嫁って、……なんのオタク……アホ。DV嫁じゃ~……」
と、最後の力を振り絞る椎葉きよし。腹が膨らんで、稼働限界がきた椎葉だった。
「俺の嫁の悪口言ったら許さん!」
「……そぉだね。」
へなへなへな……。
「シー、オメッ稼働限界かコラッ!シー!」
襟足をゆする小林。
バタンッとテーブルを手枕にしてイビキモード。
小林はつくづく自分の微妙な境遇を恨んだ。
ヨダレを垂らしながら寝る椎葉の顔を見て、自分はシーラス内ではシルビアとエルジビエタの上官であるし、椎葉は親友であり、命の恩人でもある。
その親友を、この自分が欺いている。ずっとだまし続けている。
腕を組んで寝始める椎葉の横顔を見て、また、あの日を思い出していた。
そうだ、あれは6月25日なのだ。
……真顔で、水が入ったコップを見る小林未央。
口の中に広がる血の、鉄の様な味。
鼻の穴にこびりついた血の臭い、……そして硝煙の臭い。
……忘れたくても忘れられない、深く心に刻まれた記憶。
未央の脳裏に思い出される、鮮明な戦場。
連射するカノン砲の音。
( タンタンタンタンッ!タンタンタンタンッ! )
( ドンドンドンドンッ!ドンドンドンドンッ! )
砲弾にくだかれる巨大ロボットHARMORの爆発音と振動。
( ガガガガガガガガッ! )
( ズガガーン!ドバーン! )
泣き叫ぶ、今は亡き戦友たちの叫び声。
( 何してるの~!ジュリー逃げて! )
( ジュリー何してる!逃げろ! )
( お願いだから正気を取り戻して~ジュリー!キャー逃げてー! )
( ヘイッ!兵隊っ!立ち上がれ!ジュリー!ジュリーッ! )
( 早く逃げろー! )
今も頭の中に残る、人が巨大ロボットに踏まれる音。
( ギュー、ガシンッ! )
目の前で起きた核爆発の衝撃波や、爆風の音、全てが吹き飛ぶ音。
( バッシン!ズバババババーッ!ゴゴゴゴーッ! )
そして、大勢の人たちを失った悲しい思い。
くやしさと後悔。胸を締め付ける思い。
結局、無力だった自分への思い……それは、心に刻まれた小林の悲しい追憶だった。
敵AXIS本隊、人民解放宇宙軍の機動モービル(HARMARと呼ぶ)の大群が苫小牧に飛来したのだ。
AXISの本目標は、占冠村トマムの女真帝國の臨時遠隔政府、いわゆるトマム幕府だった。
小林達はその北海道着上陸を千歳で防いだのだ。
いや、正確には敵の進撃を千歳で、くい止める事が出来たのだ。
若かりし小林と椎葉きよしたちにとって、その6月25日はまさにグランド・ゼロ、運命の日だった。
苫小牧・千歳防衛戦。
その犠牲は、決して小さくはなかったのだ。
その戦いで失った小林の右片腕。
その人工の義手、アームをゆっくりさする小林だった。
「ところで、ズルズルッ、シー?オメー、今日さ。栗山さ、帰るんだべや。」
「んだべ。」
蓮華を使って上品にラーメンをニコニコ食べている南さん。その南さんを小林を挟んで、チラッと見てはうっとり、チラッと見ては、うっとりするきよし。
「なぁシーよ。オイ、なに見とれてる?はんかくさいべあ。」
「なんだべぇ?」
両肘ついて横目で南を見ながら、ニッコリ、フワフワ顔を乗せてるきよし。
「シー、ズルズルズルッ。南ちゃん別海出身だって。」
しゃべりながら、ラーメンをズルズルすする小林。
「あ~っお前!べっかいじゃねーよ。なっ南さん。べつかいっ、べつかい!南さんに失礼だべや。お前上司だべ!正しく北海道の地名言えや。営業マンは言葉で仕事すんべ。正しく言えや。」
「そうですょ小林課長~。うふふっ。課長も道産子でしょ。ウフフ。」
「あ、あぁ。ごめんなさい。」
謝る小林をよそに、店主の山口がラーメンと炒飯を持って来た。
「はい~!お待ち~。素ラーメンと、半炒飯セット!」
椎葉の前に太い腕を伸ばして、ラーメンと半チャーハンの皿を並べる店主。
「お~これか~。頂きます~。ラーメン、お~油っこそう。」
手の平を合わせていただきますポーズをする椎葉。
ニコニコと店主の山口が小林にいつもの様に親しく話した。
どうやら小林はこのラーメン店の常連の様だった。
「小林ちゃん、今日は何の治験やん?」
「山ちゃん、あれだわ、あれ、体内の血液酸素量を一定に保つ新薬の治験だべっ。感染症の患者でも一定の酸素量を保てるかっての、治験だべさ。」
小林の肩に、自分の肩をぶつける椎葉きよし。
「何っ?今、俺っ、酸欠なのか?なんで酸欠?」
「南ちゃん見て赤くなったべや!」
「コバ、はんかくさい事いう~なょ~オメーは、よ~。こっぱずかしいべや。」
店主が口に手を添えて大笑いする。
「ハハハー、こちらの旦那、痛い所つかれてもた!でもこの娘さんメチャメチャ綺麗やんか。小林ちゃんの会社ええなぁ。連れてくる子みんな美人さんばかりで。この間なんか、小林ちゃん飲んだ帰りに連れてきた、めっちゃ綺麗な金髪の外人さんとか。すんごいスタイルも抜群で、モデルさんかなんかの……」
あっ!と眉にシワを寄せて小刻みに顔を振り、店主の話を止めさせる小林。
「あ……。」
そんな小林のリアクションに気が付き、下唇を出してごまかし笑いでカウンターの奥に歩いて行く店主の山口。睨みながら店主の背中を目で追いかける小林。
しかし、眠たい100パーセントのボケきよしは、気が付かなかったみたいだった。
横目で椎葉をみる小林。
会話に気が付かずラーメンをすすっていた。
胸をなでおろす小林。
「南さん見たら誰でも赤くなるべさ。めっちゃめちゃ可愛いい。ほ~んまに。」
と、真面目に臆する事なくラーメンすすりながらデカい声で言い放つ椎葉。
頬を赤くして箸を止める南華子。
「あっ山ちゃん、また、高血圧の新薬の治験くるから奥さんに言うたって。山ちゃんも治験受けてや。会社の目の前だけど、5,000円交通費出すやんか。」
「おおきに、何時も有難うな。ゆっくりしたってや。」
( ガラガラガラ~ッ! )
( へぃ!らっしゃい相席空いてるで! )
まだお昼前でも客足が止まらない、こってりラーメン屋。
「もぅ椎葉さんったら。照れますわぁ。ズバっと褒める方好きです。嬉しいですぅ。うふふっ」
目を細めて、椎葉を見る小林。
「ふ~ん……。あっ!おめー南ちゃんにしっかりお礼言ったか?」
「あっ!えっ?あっ、有難う御座います南さん。気ィ効くわぁ。ホント助かりました。」
小林を超えて、のけぞって身を乗り出して話すきよし。
「いいぇぇ~。ウフフッ。」
ニコニコッパクッの南さん。
美味しそうにラーメンを食べている。
小林の反対側で腕や襟足の匂いを嗅ぐきよし。
「んあ~、んあ~良い匂い。これ、南さん選んだの?ワイシャツ、背広も全部?」
コクっと、ニコニコうなずく南さん。
「椎葉さんが脱がれた服は洗ってお返しします。何処にお送り致しますっ?ご自宅?御社ですか?」
「コイツに渡して下されば。」
小林へ、箸でツンツンと指すきよし。
( ブッ! )
吹きだす小林。
「オイ!吹いたべや!もう、シー!汚なっ!」
「汚いのこっちだ!ボケッ。南さん、汁、かからなかった?」
右腕のシャツを軽く確認する南華子。
「え~あ、あ、大丈夫、大丈夫です。」
「オラの脱いだ服いいべ、オメーんとこでいいべ、預かっておいてくれだべ、コバ。」
「……もう。南ちゃん、洗った服出来たらぁさぁ。」
ジロっと横目で椎葉を睨む。
「俺の机の横に置いて。」
「かしこまりましたぁ。ウフフッ。」
こんどは、南華子が、後ろに体を反らし小林の背中を超えてきよしに話しかけた。
「あの~椎葉さん、大阪にいらっしゃらないんですか?これからご出張?」
「あ~北海道の実家経由でポーランドへ行くつもりなんです。」
ズルズルッ。ラーメンを食べながら横目で答える椎葉。
「あらまぁ素敵。えぇポーランドって中央ヨーロッパですよね。素敵~っ。ポーランドといえばショパン!ポーランドに椎葉さんが行かれるのは、小林課長もご存じだったんですねっ。ウフフ納得ぅ。」
ニタ~とする椎葉。
「コバ、(ん~?ズルズル、なんじゃシー。)南さんの話方、俺、なんか凄い幸せな気分になる~。すんごい幸せ~。マジで。」
「ぇぇ?」
頬をポッと赤くする南さん。
「幸せって!初めて言われました。うふふっ」
ほっぺたに両手を着けて照れながら話す南さん。
( うわ~。めちゃくちゃ色っぽい、俺、完全にやられた。 )
と、南の仕草を覗きながら、とっさに思う椎葉きよし。
( シルビアゴメン! )
もともと、恋愛事には奥手な椎葉だった。
初恋の女性軍人と、妻のシルビア以外、他の異性に初めて感じた感情だった。
「いや~、ウチの会社のOL達、脳が筋肉というか、脳にロボスーツかぶってるツーか、何でも暴力で現状変更させる、武闘派というか。なんというか。」
ゴンっ!と椎葉にゲンコツするコバ。
「痛でっ!なんするべっコバっ!オメー!おー痛て~っ!」
「俺の嫁、エル姫は断じて脳筋娘ではない!」
「オー痛でっ。まぁそういう事でいいんでないかい!もう。たんこぶ出来たべや。痛ててっ。」
うふふっと、2人を楽しそうに見つめる南さん。
「あ~っ美味しかったです~。暫くぶりに楽しいお昼食でしたわ。うふふ。」
声を聴いて鼻を膨らませる椎葉。
そして、振り向いた。
「えっ!もう会社戻るの?食べるの早っ。んじゃ~さぁ、幸せ有難う代で、おごるべさっ!(小林を指差して。)また御飯ば、食べに行くべ。南さん!」
「はい、必ず誘って下さいね。絶対ですよ椎葉さん。うふふっ。」
サッ!と立ち上がり、椎葉の横につかつかと寄っていく南。
しゃがんで椎葉の手を色白の柔らかい両手でギュッと握る南。
「色んな意味で、ご馳走様でした。楽しみにしてますわ椎葉さん。私の連絡先は小林課長に聞いてくださいねっ。今は、一応仕事中で上司といっしょですので。朝でも夜中でも、いつでもお供いたしますわ。失礼します。ウフフッ。」
節々がピンク色の柔らかい手で、ずっと両手を離さず喋る南。
うふふで胸が揺れ、赤くなる椎葉。
その椎葉の両手を握りながら、おっとり優しい声で話した南華子。
「小林課長、有難う御座いました。お先ですぅ。ウフフ。」
( カラカラッ、スッ。 )
椎葉には、南が締める戸の音も優しく聞こえた。
「オイ、オイ。シー。お前~、シルビアいるべや!大丈夫か!」
( オイオイ、中身はお前が小さい頃から知ってる金髪のノーラ叔母さんなのに、大丈夫かコイツは。 )
と、我が親友ながら心配して、冷たい横目で椎葉きよしを見る小林未央だった。
「アホか。そんなんじゃない。あっ!オメーの餃子ひとつくれ。」
「栗山の法事、明日、俺も行くからな。叔父さんに線香あげるわ。叔父さんって失礼だな。師匠に。椎葉師匠、何回忌だったべか。」
「あ~親父の17回忌な。それと明後日、6月25日だろ?千歳の鎮魂碑に行こうと思って。献花しにさ。3年?暫くぶりにさ……。みんな、みんなに会いにな。」
きよしの脳裏には、一緒に大気圏再突入の急襲攻撃訓練し、苦労を乗り切った黄ルオや愉快なポーランド軍の兵士、米軍、台湾軍の先輩、上司、同僚の顔が浮かんだ。
また、初恋の女性機動モービルHARMORパイロットのジェシカの顔が浮かんだ。全て千歳の鎮魂石碑の下で眠る人たちだった。
一瞬止まり、真顔になり水を飲む小林。また食べ始める。
「……なぁ、シー。」
「ああん……。」
「俺は来月の7月の公式の慰霊式典も行くつもりだ。軍の案内来てた。なんで今年から7月に慰霊式典がなったのやら。」
「そうか……。あの日は6月25日なのにな。シルビアやポーランドの母親がどうしても千歳行きたいとかで。杉さんも熊もさ。妹のオディアも帰省してるみたいだし。あと、エラも。」
「んっ?何?俺の嫁、栗山来る?エルちゃんが栗山来るの?」
「身内だべ。法事で当たり前。」
「また綺麗になったんじゃないの?随分と可愛いくなったんじゃないの?この間、お前んトコの会社でチラッと見かけたけど。」
「何こいてんだオメーはよ。会社でチラッとなんて、キモー。オッサン。何こいてんだべ、オイ。」
「こくも何もさ、今度よ、オイ!今度、エルちゃん飲みに誘っていいべか?」
赤くなりながら喋るオッサンと残ったラーメンを食べ始める椎葉。
「ん。食わず嫌いだった。こってりラーメン。まま、食えるべさ。炒飯はもろ正解。あ!山ちゃん?山ちゃん!こんどさっきの娘とくるわ!」
麺の茹で上げをしている店主の山口が、きよしの話を聞いて手を上げて答えた。
( 椎葉さん、宜しく~! )
「何、俺の話ば、シカトしてる。聞いてるか、シー!コラッ。」
肩を椎葉に当てる小林。
「イテッ。もう。だけどコバ、俺さぁ10日休みで、会社から無理やり取らされた連続休暇だべ?」
「こらシー!会話になってないべ。だからエルちゃんとさ、札幌でデートするぞ!旭山記念公園で余市ワインさ、飲みながら語らいたいんだべさ。」
「なんでよ。旭山公園で今そんな所あんの?」
「あるべさ。お前の本宅は札幌だべや~。マンションから大倉山ジャンプ場の横に毎日見えてるべさ。裏にイージスのレーダーがある。ほらっ真っ白い建物。」
「ふ~ん。このタクランケ!いやらしい事考えてんべ!いい年こいてこのチョンガーオヤジ。この機会にエラと付き合ったらええべ。だけど妹、酒癖わんるいよ!嫁も別の意味で酒癖悪いけどぉ。」
「ええなぁほんまに~。あんな美人姉妹なら酒癖くらい……えっ(うわぁしまった失言)。」
突然、口を押える小林。英国のシラス加盟国軍のパーティで各国の観戦武官の前で絡まれるシーンを思い出す。
( コ~バ~、小林~飲んどるか~うりゃ~。 )
ハハハハハ~……ガクッ。
「ん?どうした?えって、なんで止まる。なんで急に勢い消えた?んで休みの話でさ、今晩から栗山だべ、明日法事で明後日が千歳。月曜日はのんびりしてから火曜日の夜、直行便でポーランド。嫁の実家で3泊4日するのさ。その後、何故かパラオで1泊する椎葉家の大移動だ。再来週の月曜日に札幌さ、帰るわ。」
「ポーランドの実家って何処だったっけ?」
とコバ。
「トルンだべ。」
「ワルシャワ?」
「トルン~!ワルシャワは首都。俺の大学の所。(ワルシャワだべよ。)イラっ!トルンだって。オメ~っ、イギリス留学の時、1回来たべや!憧れのエル様に会えた!エル様エル様って、気持ち悪い~ロリオタが!」
「うるせ~!あっちゃこっちゃに拠点があってええなっ!オイ!」
「あっ!んだ、エルジビエタはそのままウチのポーランド支店勤務になるわ。半年な!それもトルンの実家通いで!」
「はぁ?何?なんで~!ウソだべオイッ!俺も行く絶対行く!俺のポーランドの嫁~!」
「ったく、俺の嫁って、……なんのオタク……アホ。DV嫁じゃ~……」
と、最後の力を振り絞る椎葉きよし。腹が膨らんで、稼働限界がきた椎葉だった。
「俺の嫁の悪口言ったら許さん!」
「……そぉだね。」
へなへなへな……。
「シー、オメッ稼働限界かコラッ!シー!」
襟足をゆする小林。
バタンッとテーブルを手枕にしてイビキモード。
小林はつくづく自分の微妙な境遇を恨んだ。
ヨダレを垂らしながら寝る椎葉の顔を見て、自分はシーラス内ではシルビアとエルジビエタの上官であるし、椎葉は親友であり、命の恩人でもある。
その親友を、この自分が欺いている。ずっとだまし続けている。
腕を組んで寝始める椎葉の横顔を見て、また、あの日を思い出していた。
そうだ、あれは6月25日なのだ。
……真顔で、水が入ったコップを見る小林未央。
口の中に広がる血の、鉄の様な味。
鼻の穴にこびりついた血の臭い、……そして硝煙の臭い。
……忘れたくても忘れられない、深く心に刻まれた記憶。
未央の脳裏に思い出される、鮮明な戦場。
連射するカノン砲の音。
( タンタンタンタンッ!タンタンタンタンッ! )
( ドンドンドンドンッ!ドンドンドンドンッ! )
砲弾にくだかれる巨大ロボットHARMORの爆発音と振動。
( ガガガガガガガガッ! )
( ズガガーン!ドバーン! )
泣き叫ぶ、今は亡き戦友たちの叫び声。
( 何してるの~!ジュリー逃げて! )
( ジュリー何してる!逃げろ! )
( お願いだから正気を取り戻して~ジュリー!キャー逃げてー! )
( ヘイッ!兵隊っ!立ち上がれ!ジュリー!ジュリーッ! )
( 早く逃げろー! )
今も頭の中に残る、人が巨大ロボットに踏まれる音。
( ギュー、ガシンッ! )
目の前で起きた核爆発の衝撃波や、爆風の音、全てが吹き飛ぶ音。
( バッシン!ズバババババーッ!ゴゴゴゴーッ! )
そして、大勢の人たちを失った悲しい思い。
くやしさと後悔。胸を締め付ける思い。
結局、無力だった自分への思い……それは、心に刻まれた小林の悲しい追憶だった。
敵AXIS本隊、人民解放宇宙軍の機動モービル(HARMARと呼ぶ)の大群が苫小牧に飛来したのだ。
AXISの本目標は、占冠村トマムの女真帝國の臨時遠隔政府、いわゆるトマム幕府だった。
小林達はその北海道着上陸を千歳で防いだのだ。
いや、正確には敵の進撃を千歳で、くい止める事が出来たのだ。
若かりし小林と椎葉きよしたちにとって、その6月25日はまさにグランド・ゼロ、運命の日だった。
苫小牧・千歳防衛戦。
その犠牲は、決して小さくはなかったのだ。
その戦いで失った小林の右片腕。
その人工の義手、アームをゆっくりさする小林だった。
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