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第12章 シーラス・日本 奈良橿原参謀司令本部。
第1話 大佐、小林未央。
しおりを挟む西暦2062年 6月
日本海の荒海。
対馬に向かって、白波を上げて海を進むAXISの南北朝鮮域軍の多数の武装小型艦艇。
( ニュース速報です。対馬の国連監視団・日本EEZ域本部の発表では、シラス加盟国軍は中華帝国連邦の南北朝鮮軍、AXIS軍の使う通称、南北朝鮮濊域軍を完全撃退したとの事です。今年に入り、2度に渡る攻撃です。今回は対馬より、おおむね5海里前で撃退したと報告が入って来ておりますね。 )
「そうですか。24年前の攻撃の時は、対馬も一時占領されて島民も虐殺されました。このニュースを見て思い出す遺族もいるのではないでしょうか。なぜ、今年に入ってからの2度の攻撃。南北朝鮮軍は何かをアピールするために進撃してきたのでしょうか?24年前の対馬侵攻。それから数えて今回は実質3度目の攻撃です。シラス加盟国軍側、こちらの被害はいかがですか?」
( 現在9名の負傷者がシラス加盟国軍側で出ているとの事です。今のところ、対馬の漁師など市民には全く被害が出ていないようです。それに比べAXIS側の武装コルベット艇、27隻を完全撃退。全艦撃破したと大戦果の報告が入って……あっ今、対馬基地から直接現地映像が来ております……負傷したのは日本国海軍側の兵士との報告です。 )
次々に、オスプレー3の機内から担架に運ばれる負傷兵が映った。
「詳しい情報が入り次第、またお伝え致します。」
■ シラス加盟国防衛軍【お華の補足あり】が奈良県の橿原神宮の地下にあったのだ。
AXISに対抗する為の組織、シーラス・日本 奈良橿原参謀司令本部があった。
古より建立された奈良橿原神宮。
その地下1キロ以下に巨大な空間が作られていた。
核融合電池の余剰光が、本物の太陽のように強い日差しの様に降り注いでいる。
地下の空間には緑豊かな草木が地球の草原と同じように群生していた。
その緑あふれる近代的な道路の先にtowerビルが数本そびえていた。その中でも一番立派なのがシーラス・日本の奈良橿原参謀司令本部ビルなのだ。
この広大な地下空間にはコンビニ、商店やショッピングモール、各国の役場、そして、人々が暮らす集合住宅も至る所にあった。
勤務する兵士が1万人、連れて来た家族を含むと3万人程の世界各国の兵士が働き暮らしていた。
そのビルの一角、ある監視セクション。
そこで受信された書類をとる、ポーランド特別宇宙軍の女性技術事務武官。
肩に白と赤のラインの国旗、中心には3文字で「JWK(Jednostka Wojskowa Kosmosu)」が印刷されている。
書類をファイルに入れて、そのままオペレータールームを通り、真空エレベーターで下って行った。
ここで仕事をしている軍人は体にフィットしたスーツを着ていた。
その名も汎用多機能軍用被服。通称、アーマー・アンダー・スーツ。
または古くからはジェネリック・スーツとも呼ばれた。
機密保持の為、敢えて勤務中はボディラインにフィットした薄皮スーツ着用が義務付けされていた。
薄皮の為、物理的に武器を隠す事が困難でスパイ工作等を簡単に出来ないのだ。
しかし、高度革新技術の製品でもあり、本人の体調を常時トレースするなど、マイクロ装備満載の被服なのだった。
そのスーツは、巨大なロボットや、人位の大きさのロボット・スーツにも搭乗できる基本的なパイロットスーツでもあるのだ。
高さ15メートル以上で、ビルの4階ほどの大きさの各種作業用機動モービルや、戦闘用機動モービルのHARMORにも搭乗する事が出来た。
また、2メートル以上の大きさの機動歩兵WALKER、通称ロボスーツとかパワードスーツと呼ばれる戦闘機械化被服や、技術者が着るエンジニアリング・パワードスーツの機械化被服にもリンクイン(搭乗)が出来る。
リンクイン・スーツとかインジェクション・スーツとか、運用機体によって名称が変わるのだ。
生地はナノチューブカーボン製で普段は絹より柔らかいが、衝撃で凝固。
日本の技術の結晶のハイパー・テクノロジー織布なのだ。
この素材織布があるから同盟する国が増えたとの噂がある位、画期的なカーボン製の布だった。
古い30ミリ砲弾程度には余裕で対応できる。
最近の実験では大気圏再突入(EI)でも全く問題がなかった。
エレベーターの中に立つJWKの女性技術官。
その白地に事務官を表したブルーの太いラインと、肩から腕先に描かれた下士官を表すの細い紫色のペイズリー風柄の幾何学模様。
スーツには役割や階級によって模様や側面のラインが色分けされてる。【お華の補足あり】カラフルなデザインで職種が判るようになっているのだ。
そのブルーラインに一本の黒い線が描かれたボディースーツを着た女上級技術官が普通のオフィスビルと変わらないような廊下を歩き、木製の扉の上級士官の部屋前に立った。
士官タブには漢字と英語で(日本国軍宙空対策部 シーラス作戦参謀司令本部付 大佐 小林未央)の文字。部屋のドアをわざわざノックする。
( 入れ。 )
インターホンから声。
女性上級技術官が、戸を開けると同時に通路の奥から薄っすらと機械音が聞こえる。
( キーンガチャガチャ!フィィーン! )
と作動音がした。
侵入者に対して対人装備の安全装置が外れた作動音だ。
前面には10mの白一色の廊下が広がっている。
その先の入り口には完全装備のシルバーと黒色、濃い茶色のデザイン、日本の甲冑風の機動歩兵のロボスーツを着た歩哨2名が立っていた。
ブルーのラインの技術官が歩き進むと技術官へ2mおきに薄いブルーの光の捜査線が走る。
捜査線データはその都度ロボスーツのインナーメインモニターに視覚データとして表示される。
( ビビビッ! )
ロボスーツのメインモニター。表示されたウインドー画面で(認識確認クリアー)が点滅した。
キーンガチャ、キーンガチャと対人用重金属素粒子砲の安全装置が回転しながら自動にロックされる。
「カミン」
機動歩兵のロボスーツから女性兵士の声と共に入口周辺の赤色灯が回り辺りを照らした。自動的に開いたドアに入る女技術官。
入室するとそこは巨大なシーラス日本本部のオペレーションルームが広がった。
計器、モニターだらけで約3階建て位の長いトンネルの空間が遥か奥まで続いていた。ここは地上から10キロ地下の地底なのだ。
モニタリングする各スペシャリスト。
アーマースーツを着た技術官が見渡す限り、奥の奥まで、大勢作業していた。螺旋階段を降り、警備ルームをすり抜けガラス越しの会議室前に到着。
室内には正規の制帽を被った上級士官の制服姿の男女2人がいた。
座っていた男は立ち上がり壁のインターホン・ボタンを押した。
「カミン」
( シュッシュッ、シュッ、シュッ! )
4重のガラス戸が左右に開いた。ガラス部屋に入室する女性技術官。カカトをガシッとつけ敬礼をする。
「 小林大佐。民間人・椎葉きよしの通信を傍受致しました。」
「ご苦労。」
「はっ。」
敬礼をし、回れ右をして退出する女性技術官。4重のガラス戸がスッスッスッスッと閉まる。
軍服の男はモニター付の会議テーブル椅子に座った。後ろには背広が懸けてある。そこに自分の被っていた制帽を掛けた。
「ふん。真面目なヤツめ。」
書類を見て、鼻で笑う小林大佐。女性大佐と目を合わせニッコリした。
女性大佐は背筋を伸ばして美しいラインで座っていた。小林の持った書類を見て、上品な唇の口角が上がる。小林はバサっと書類をテーブルに置いた。そして、小林はスマートハンドを指で押さえてAIを呼び出した。
「シーラス・マザー!」
( イエスキャップ。 )
落ち着いた女性の声のAIが答える。
「自衛隊オービター(スペースシャトル)に保護したビジター(オディアリーム・ウィルソン・シーバ少佐)と連絡はついたか?」
( 未だとれていませんキャップ。ビジターの判断なのかは不明です。先程、ご依頼の救助したOSS-1018自衛隊オービターから出ている不明ビーコンが解析出来ました。 )
「何のビーコンだった?救命ビーコンか?何だ?」
( はい、既に変更された予備役軍人の管理・識別波でした。 )
「誰だ」
( はい。現在は予備役の日本国宙軍、予備役の伊藤奏大尉の古い制服の用です。 )
チラッと目を合わせる両大佐。
( 伊藤奏大尉の少尉時代の識別波です。 )
「そうか、マザー。ところで、オービターやカプセルへの呼びかけは続けているのか?」
( はい。続行中です。OSS-1018自衛隊オービターや救助カプセルにも20秒おきに呼びかけています。しかし、応えません。手動航行中なのか不明ですが、私の制御ポーリング信号も一切受け付けません。 )
AXISの南北朝鮮宇宙軍による月裏の古代タワー襲撃後、一隻の救助カプセルが定期航路中の自衛隊の武装シャトルに救助されていたのだった。
女性大佐はその長い腕を組んでからガラス窓の外を遠目で見ていたが、突然マザーに命令をした。
「マザーっ!推測。」
( 自衛隊の武装オービターは所属の自衛隊三沢基地からも連絡がとれないとの事です。オービターは既に占拠されているか、もしくは乗組員、全て殺害されAXIS兵かスパイに入れ替わっている可能性がありまます。 )
「根拠は。」
厳しい顔で女性大佐を見つめる小林大佐。
( 第1はシーラスのコンポジット(支配)を拒否。第2は緊急通信含む亜空間通信、定期航行のシグナル信号の形跡がありません。 )
「今後のわれわれの行動は?もし、全スタッフの死亡確認の裏が取れたらインドネシア上空の岩国第2急襲突撃機動艦隊に確保、対処させるつもりだったが。」
( 様子見。が妥当です。キャップ。 )
「なに?シーラスマザーらしくない。」
( ……それは非論理、…… )
「んっ?どうした?」
シーラスマザーの反応が一瞬にぶり、それに反応する小林。
( イ、インドネシアの衛星軌道上で友軍は一時撤退に伴っての生存者の探索及び救助活動中だからです。 )
「マザー大丈夫か?既知の事だ。どの国の急襲突撃部隊も待機および警戒中だ。その中で適時、救助活動をしている。」
( 救助活動はPKSF国際平和維持宇宙軍。待機中だったシーラスの第3、第7宇宙艦隊の実働部隊も参加中。 )
「だから、既知の事だと、言ってる。」
呆れて女性大佐と目を合わす小林大佐。
( 救助カプセルを回収した後の航路をみるとOSS-1018は自衛隊規定通り、訓練および緊急回避航路を航行中。 )
「緊急回避……成る程、そうか。」
女性大佐と目を合わせながらマザーと話し続ける小林。ニッコリ微笑む女性大佐。
「自衛隊の緊急要綱に沿ってOSS-1018は緊急回避航路を航行中なんだな、マザー?」
( イエスマム。 )
「解った。」
女性大佐は、その真っ赤なルージュを薄く開いて、うなずいた。
少し、ニヤける小林。
「では、マザー。OSS-1018は様子見で。」
( 了解致しました。OSS-1018着陸予定の丘珠札幌宙空ステーションは先程の報告通り不発弾処理中を装い、朝6時から封鎖しています。ただ、万が一の事がありますので、英国軍ロッテルダム宙空ステーションに着陸誘導を行い、早期にRSF(英国ロイヤルスペースフォーシス)でシャトルを回収するようジョンソン提督からただ今ご指示がありま…… )
女性大佐が立ち上がった。両手をドンッ!とテーブルに付けて、マザーの発言を遮った。
「マザー!着陸は予定通り丘珠札幌宙空ステーション!」
( ……。 )
小林を見ながら話し続ける女性大佐。
「マザー?聞いてる?オービターの着陸先の変更はない。よろしいか!参謀本部命令。参謀本部に一切の変更はない。シラス加盟国軍参謀本部の作戦に、1、派遣国上級将官による現場での戦術戦略指揮および作戦指揮権は存在しない。シラス加盟国軍シーラス、軍規定・ 12条項!」
( ……。 )
反応がないシーラス・マザー。
椅子をよけて、天井を見ながらぐるっと回る女性大佐。
「どうしたマザー?参謀本部指揮中に上級士官および上級将官による単独の作戦の変更指示権は存在しない。よろしいかマザー!しっかりしなさい。」
女性大佐は強めに命令を下した。
( イエスマム。 )
再び呆れる2人。小林を見ながら椅子にゆっくり座る女性大佐。口をへの字にする小林大佐。
そして、違う案件を聞く小林だった。
「ところで、マザー。ハワイの天文台の方の裏は取れたか?」
( はい。すばる観測所の観測者の2人の身柄はシーラスの情報漏えい担当官が自衛隊の特務隊と共に確保致しました。CIAより先に2人を確保しています。交戦があった模様です。 )
「何?交戦とは2人は無事なのか。マザー?」
( ハイ。無事に確保しております。また、万が一に備え、アーネスト・フランクリン博士の離別したワシントン市の奥様とご長男も保護。スージー・マッカランの博士のご長女とアメリカ・ニューオリンズ州のご両親も保護致しました。(まるほど。)はい、大佐。現在、米国宙軍21艦隊旗艦指令長官ジョナサン・オースティン中将のご指示により、衛星静止軌道上の同 21艦隊旗艦カサブランカで両家族を保護しております。(オースティン閣下が。)はい。しかし、観測所のデータはアメリカ宙軍の妨害が効かずCIAにすでに抜き取られました。現在、第4・月面観測所は閉鎖しています。 )
「解った。CIAか。ふんっ。」
( なぜCIAが絡んできたのか調査中です。英国シーラス・ジョンソン提督から直接…… )
シーラス・マザーが沈黙した。
「どうしたマザー?」
( 大幅に情報を修正いたします。誠に申し訳ございません。(何っ?)申し訳ございません。直ちに情報の訂正を致します。アメリカ宙軍より観測所のハッキングが顕著になり、CIAが最優先で調査いたします。アメリカ宙軍に紛れ込んだチャイニーズアクシスのスパイを特定いたします。 )
「シーラス?どうし……ん~。なんでもない。」
目線を天井から、苦笑いをしながら女性大佐を見つめる小林。
( 大佐、いかがされましたか。 )
「何っ?」
小林の顔の表情や態度を認知しシーラスマザーが質問した。
こういう事も普段あり得ない事だ。
健康管理AIでない限り、指示を受けていないのに人間の動作や表情で質問をする事自体が、得体の知れない第3者がこの空間を監視している証拠でもあった。
チラッと上下を見て、制帽を深被りする女性大佐。真っ赤なルージュで笑みを浮かべながら微妙な表情をした。その仕草、その長い黒髪で後ろ姿も美しい上級士官。そんな彼女とは対照的に投げやり気味に話す小林。
「いや、何ともない。もういい。(まだ、報告があります。)もうええって。(はい、大佐。)スパイの特定はマザーに任せる。(解りました、大佐。)僕はこれから高崎の本社に戻る。急ぎの時は判るな。マザー。」
( イェッスキャップ。全部隊コード・イエロー、ファーストで待機します。 )
「宜しい。では、シーラスマザー・パージ(切り離し。)」
会議室の天井角の小さなグリーンランプが消えるのを確認する2人。
ランプが消えると、ニッコリする小林と女性大佐だった。
小林の視線に透き通る白い、しとやかな手の平が見えた。
小林は椎葉が2日間徹夜で作った書類を渡した。
その書類をなにげなく、女性大佐は書類をひっくり返した。
「この書類は私が預かりますわ。うふふっ。内方司令のジョージア(ロシアの隣国)懐柔工作が表に出ない様にぃ。うふふっ。」
チラッと書類を見て苦笑いする小林大佐。
女性大佐は、テーブルのシームレスモニターの画面で、上品で白く長い指でガラスの壁の遮蔽スイッチを入れた。
一瞬にして外が見えるガラス壁の半分から天井まで擦りガラスに変わった。
その女性大佐が立ち上がり、椎葉きよし、男・涙の徹夜書類を処分ボックスに入れて分子分解シュレッダー・ボタンを押した。そしてアッと言う間に処分されるきよしの書類。
目を閉じてから引き続きこめかみに、その長い指を当てる女性大佐。その動作を見つめる小林。
女大佐はにパッチリと目を開いて、ニッコリして小林を見下ろす。
「うふふっ。大佐?処分終了したわ。(おー、ありがとう。)関西国際医療のポーランド支社へ送った納品書・請求書は勝手に印刷したわよ。(え?大丈夫なの?)まぁ、ポーの事務所は最初に女の子が出社するから、部長へ渡してと表紙にメッセージ付きでね。(うわ、マメだなぁ。)うふふ。新大阪のワークステーションの書類作成データ、送信形跡。この橿原本部の傍受データ。すべてデリート完了。(そうか。)マザーもしっかりのぞき見してた様ですわ。(ふ~ん。)マザーからも削除完了。(そうか、あははっ。)きよしちゃんの、うふふっ。3日間の頑張りも水の泡っと言う事で。」
「あははっ。ありがとう。すまんなぁシー……。これも仕事だ。御免っ!」
天井に向かって手を合わせて謝る素のコバ。それから頭を掻きながら立ち上がり軍属の表情に戻る小林大佐。
また椅子に座り直した。
「相変わらずお忙しいですわねっ、大佐。うふふ。」
ゆっくり小林に近づき、しなやかな腰をイスに座る小林の肩に付けて反対の肩に手をかける女性大佐。女性大佐の手を持ち、再び宣言する小林。
「β、シーラス」
女性大佐の動きがピタッと止まる。
長い黒髪がパサッと揺れて止まった。
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