「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち

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第9章 ジェーンの塔。

第1話 敵の月面ローバーの進軍。

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 月裏の衛星軌道上から暗い月面を見ると、ある一点を中心に無数の小さな光が放射状に囲んでいた。

 その光の正体は、2人乗りの武装月面ローバーだった。

 その大群が月裏の暗闇の中、レゴリス(月面の砂)を巻き上げて月裏の中心部に向かっていたのだ。

 NASAが50年以上前から、一定間隔で差し込んだ20センチ程の振動環境センサーが、レゴリス(月面の砂)の煙を上げて走るローバーに、次々と潰されていく。

■  ハワイ・マウナケア展望台群(すばる)第4・月面共同観測所 深夜未明。
 
 金髪オカッパのヲタ博士が、マグカップを持ち鼻歌混じりで立ったまま自分のモニター類を確認する。
 
「ね~アニー、随分ご機嫌じゃないの?こんなクソ夜中に。」
 
 雑誌を見ながらスージーが絡む。
 
「こんなクソ夜中にウキウキするバカは、女を買いに行く、家族に逃げられて独身になった腹が出たオッサンか、キモヲタしかいない。ハハハッー。」
 
 無造作に、マグカップをもったままドスンと座る。
 口をへの字にして呆れるスージー・マッカラン博士。
 
「ヘイ、スージー、俺は超キモイ!筋金入りのキモ・ヲタだぜ!」
 
 暇つぶしの話をしている最中、金髪オカッパのキモ・オタ博士の背後のモニターのセンサーを表す点が、周囲から1つ、また1つ消え始めた。
 スージーが気が付き、雑誌をゴミ箱に捨て目を細めてアーネストの背後のモニターを見る。
 
「ヘーイ、スー?何見てんだ。後にイケメンの守護霊でも降りてきたか?あん?」
 
 指を差す女博士。振り向きモニターに顔を近づけるオタク。
 
「あんっ……?」
 
 更に机に置いたメガネを着けるキモ・ヲタ。
 
「あっ!あっ、あっなんてこった!四方の周りからセンサーが消えてやがる。おいおい何が起きてる!スー?本土へ連絡!オイッ、スー!メインに切り替える。」
 
 慌ててインカムを着けて連絡するスージー。
 アーネストが正面の大画面のメインモニター切り替えた。
 表示領域をマクロに拡大する。
 
「あーっ!どうなってる!スーッ?」
 
「やってるよ、うるさいって!」
 
「俺はセンサーのエラーチェックする。スーまだかよ!」
 
 催促がうるさいアーネストを手で遮りながら、NASAの本部へ連絡をした。
 
「うるさい!あっ、こちらマウナケア。こちらマウナケア。マウナケアの(すばる)第4・月面共同観測所スージー・マッカラン。緊急です。月裏のセンサーの電波が180キロ四方から中心に向かって受信不能です。解ります?振動計を表すポイントが真ん中に向かって消えてるの!OK!理解できる?何か、そちらで試験か何かをしてるの?本土からの試験や、その他の指示は受けてませんよ。引き継いだスケジュールにもこの時間、何も無いわよ。えっ?何だって?イエス。……イエス。ちょっと待って。」
 
 インカムのマイクを押さえて、首を伸ばしてアーネストに確認するスージー・マッカラン博士。
 
「アニー!センサーのエラーはないかって。」
 
 アーネストは手を広げたまま、計器を見渡す。
 
「無いはず。エラー、あ~、あ~、機器のエラーは1つも無し。」
 
「あっもしもし?何度も確認しましたがセンサーのエラーはないです。えっ土砂崩れ?何で月面で?地盤沈下ですか?何です?……物理的な、イエス……イエス……解ったわ。イエス、解りました。待ちます。回線このままね、了解。えっ?だから了解だってば。」
 
 両手を開いて目を大きく見開き、腕組みをするスージー。
 少しの沈黙の後、我慢が出来なくなり、大声で怒鳴るオタク研究員。
 
「全く本土のエリートは!見てないのかよ!全く!」
 
 スージーは、インカムを指差して、マイクを隠した。
 
「シッ、うるさい!繋がってる!」
 
 唇に人差し指をあてて怒るスージー。
 
「あっ!イエス!私です。そう、イエス。えっ何?なんて言いました?ジェーンの塔?何ですか?」

 モニターの頭を、こぶしで叩いてアーネストを、呼ぶスージー。

「(トントントン。)アニー、アニーって!ジェーンの塔って何よ」
 
「何っ、何?知らないぞ!なんの事だ?暗号か?ジェーンの意味の宇宙人の暗号か?」

 両手を開いて、両眉を上げてクエッションのポーズをするスージー。
 そのスージーに引き続き連絡が入る。
 
「え?えっ?どういうことです?先程の人と違うけど、あなたは誰!イエス。イエス。えっ?何ですっ?解りませんが。そちらで確認できますか?早く確認して!えっこちらのモニター?先程も確認したんですけど……あ~、あ~、ちょっと待って。(アニー、トントントンっ、アニー!モニターは壊れてないの?って。)(あ~あ~チョイ待ち、あ~あ~異常なし)ですから、こちらのモニターに機械的エラーはありませんよ。あっ、もしもし……もしもし。切れた。もしもし?なんで回線まで切るの!」
 
 怒ってスージーがインカムを、アーネストの足元に投げ捨てた。
 
「あっちでも急に騒ぎ始めた。やってらんない!」
 
「あっ!なんでインカムぶん投げた!あ~壊れた!どうすんだよ、このアマ!」

 手を広げて、訴えるスージー。
 
「向こうが勝手に回線切ったのよ!信じられない!全く。」
 
「何っ?向こうから回線切った?なんてこった!俺たちが最初に見つけたのに!ふざけてる!」

 スージーは、また椅子に座り何かのデータか、確認作業を始めた。
 慌ててインカムを装着しキーボードを打ち込む金髪オカッパのヲタ博士のアニー。
 データの取得コマンドを入力し始めた。
 
「アニー!アンタ、データとってる?」
 
「やってる!やってるって!全モニターやってるよ!なんでなんだ。チクショー。え~、え~、各部署のデータを完全保存開始。」
 
「こちらは、重回帰情報をとるよ。さかのぼってデータを取得中。ん~、ん~。よし。だけどアニー?月裏で地震?地殻変動?」
 
 大きなモニターを口を開けて見るアニー。
 
「オ、オー!なんの冗談だ、スー?ワーオ。あと5分もしないでポイントがぜんぶ消えるぞ!」
 
「アニー!深深度地震計は?」
 
( カチャカチャ、カチャカチャ。 )
 
 大急ぎでタイピングする2人。
 
「あ~同じ考えだ。まだ消えずに、画面にポイントは残ってるな。」
 
 目を細めて大きなメインモニターを眺めるスージー。加速するように周囲から振動観測ポイントの点が、点滅してから消えて行く。
 
「えー、後2~3分位で消えそう、急いで!」
 
「あ~あ~地下の20マイル地震計はあ~え~っ、チェック。15マイルの~、チェック。10マイル~チェック、8マイル~チェック、あ~えーと5マイル~振動なしチェック。地下は関係ない。(アニー画面拡大して……表示範囲が狭くなってきた。)ちょっと待て、マクロからミクロに切り替える。振動の種類もさっきから解析中だ。」
 
「アニー振動の種類は、まだ?」
 
「待て、待て、待て。解析中。」
 
「チャイニーズアクシスの新型核の攻撃とか、アニー。」
 
「んな馬鹿な。核なら中心からパッと広がって反応無くなる……来た来た何じゃこの振動パターンは。スージー、モニター見てるか?振動の振紋データもそっちに回すか?」
 
「ちょ待って。見てるわ。振動が点じゃない。機動なんちゃら歩兵とか歩いて移動するものなら点が続くけど。」
 
「振紋サンプル、今、陽の当たる基地(PKSF新月面基地)からダウンロードしてる……ヨッシャ!スージー?」
 
「まさかローバーなの?振紋合わせて。ついでに5分前へ遡った振紋トレースするわ。メインに組合わせてみる……わ、アニー見て、出るよ!わ……な、な何これ?」
 
 大画面モニターの中心に伸びる、無数の線だった。
 
「何じゃこりゃ~!」
 
「アニー、私たち観てるよね!振紋照合は?」
 
「あ~やってるよ……いいぞ、いいぞあ~出たスージー!やはりアクシスのだ。古いメイドインPROC。"People's Republic Of China"だ!」
 
 振り向いてすぐ、PKSF新月面基地からダウンロードした振紋を何点も照合するオタク研究員。
 
「この月面車、ほとんど古いアメリカのローバーのフルコピーだけどな。笑える。振紋が20年前のスクラップと同じだ。だけど、えっ、これが何百台もいるって事か!なんてこった!なんてこった!ここに何があるんだ?」
 
( キュイ、キュイ、キュイーン!キュイ、キュイ、キュイーン! )
 
 そこでハッキング警告サイレンが、赤い回転灯と共に鳴り始めた。
 全ての画面にCIAのロゴが表示される。
 
「ハックされてるよ!アニー!」
 
 パニックになる2人。
 
( キュイ、キュイ、キュイーン!キュイ、キュイ、キュイーン! )
 
 ハッキング警報の鳴る中、画面によってはアメリカ宙軍の鷲とスペースシャトルをもじったマークが表示され始めた。
 
「スー!あ~あ~今度は軍だ!CIAと軍の両方がメインモニターリンクし始めた!なんてこった!(カチャカチャ)ああ~ロックされた!こっちもロックされてる。なんだ?月裏で何が起きてる!」
 
「ジェーンの塔ってなんなの!」
 
 大型スクリーンに映し出される何百もの細い線が中心目掛けて伸びていく……。
 
 3本の長さの違う象牙のような塔が宇宙空間に向かってそびえ立つ。
 
 長い塔は3000m以上あるだろうか。
 その3本の牙の塔の周りを囲んで、何百もの武装ローバーが近づいていく。
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