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第8章 マイケル・M・S・マズル准将。

第1話 ジェーン・ゴールドウィン博士確保。

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 西暦1946年(昭和21年)4月。

テキサス州アメリカ国防省陸軍部管理室、
陸軍捕虜収容所。

 その正午過ぎ。
 
 ガラス張りの士官執務室で、ボイス大佐が電話をしていた。
 
「報告は以上です。閣下。」
 
( なるほどな。しかしここ(テキサス)に探し続けた、彼がいるとは。一昨日、彼が収容所のロス軍医の診療室に居た時は驚いたよ。僕は彼を2度助けてる。一度目はアンガウルの医療キャンプ。そして、2度目は、あはは。2度目はペリュリューで検死担当だった。2度も助けてはいない。間違いだ。その検死が終わって、僕はワシントンのオリジナル・ペンタゴンに呼ばれたから、その後の彼の行方は判らなかった。死んだと思っていたんだ。ふっ……それが生きているって。ヒロシ・ミフネは間違いなく、君たちの探している血清保持者だ。首を撃たれて、間違いなく心肺停止だった。それが3日後、遺体置き場で復活、蘇生なんて。間違いなく血清保持者だと思うよ。聞いた事がない。 )
 
 テキサス州ヒューストン市。
 その街中の高層ビル。
 そこに軍施設の上級士官の執務室。
 細身で端正な上級士官が葉巻をくすぶらせながら楽しく電話をしている。
 
 重厚な机の上にはガンメタリックのポーランド軍正規銃、ラドムVIS1935が置かれていた。足を組み、背当ての高い椅子にゆったりと座っている。そのスマートな軍人は上半身を起こし腕を伸ばして、そのラドムを握り直した。
 
「はははっ。しばらくブリに室内で、ラドムを3発ぶっ放して耳鳴りが。まだしている。3発撃ったら、うかつにも椅子からひっくり返ってしまった。はははっ!ところで彼女は無事なのか?」
 
 銃を見直して天井を見た。天井には3つの穴が開いている。
 
( もちろん無事です。ただ、 )
 
「ただ、なんだボイス大佐。」
 
( ハイ、OSS(のちのCIA)戦略事務局のエージェントが保護をしに行きましたが、銃を見て気絶したとか。無事に保護し、こちらに向かっております。もうすぐ港から到着すると思います。 )
 
「はははっ!大佐の脅しがよっぽど効いているんだな!はははっ。」
 
( ハイ、恥ずかしながら、こう言う事は久しぶりで。間合いが解らないもので。少々やり過ぎましたわ。 )
 
「全米の御婦人が憧れる、WAC婦人陸軍部隊のトップが何をいうか!はははっ。」
 
( いいえ、それはこの体を借りている協力者のメアリーの事ですから。でも、つい興奮して、ペンタゴンに連絡する!っと素性をバラしてしまいましたわ。申し訳ございません、閣・下・殿。 )
 
「はははっ。構わない。ぜんぜん構わない。でも彼女は使えそうだな。ボイス大佐。」
 
( ハイ、仰せの通りです。鋭い観察力と先を予見した素晴らしいレポートです。遺伝子の話など、今の時代の地球人には、なかなか理解出来ないでしょう。ブラッドレー元帥閣下に早速、テレタイプで至急電を致しました。 )
 
「了解。有難う。あとは、君達と星間条約を結んだ元帥閣下が判断してくれるだろう。特に心配はしていないが、あとは彼女の意志次第だな。」
 
( では閣下。彼女には、私が……。 )
 
「いや、私が機内で話をする。何があっても私の責任だ。地球の事は、私の責任だ。問題ない。名前は確か、ジェーン、ゴールド……。」
 
 経歴書を見ながら答える、ボイス大佐。
 
「はい。ジェーン・ゴールドウィン博士です。現在は臨床検査医で博士号をもっているようですが、陸軍の召集前は財団メンデル遺伝子研究所。戦時中、ナチスが入国中のオーストリアに居ました。」
 
 もう一度経歴書を見ながらボイス大佐が何かに気が付いた。
 
「あっ!あ~なるほど!」
 
 手のひらを広げて、うなずきながら上を向くボイス大佐。
 
( どうした大佐? )
 
「日本兵達に直ぐ溶けこんで、情報を探れた理由が解りました。」
 
( 何だろう? )
 
「はい、彼女はオーストリア研究所からあのミュンヘンのダッハウ強制収容所に送られています。」
 
( あ~!なるほど!わかった。あの第442連隊戦闘団【お華の補足】に助けられたんだな。 )
 
「准将閣下の仰る通りですわ。日系人部隊。日本人に抵抗が無い訳です。」
 
( そぅか、解った。それでジェーン、彼女は日本人に抵抗がないか。私と同じだな。実は私も、この日系人部隊の第442連隊の活躍を気にしてはいたんだ。そう……同じだ。そうか。ふふっ。私もそちらに向かう。それでは昼食後、機内で。 )
 
「イエッサー。では機内で。」

 電話を切るボイス大佐。
 
( チンッ♪ )

 電話を切った後、ニッコリしてから立ち上がり部屋を出る、ボイス大佐の姿を借りた異星人だった。
 
 マイケル・マゾフシェ・マズル准将は銃を内ポケットにしまいながら、口をへの字にして2回うなずいた。
 彼も立ち上がり、衣紋掛けに掛けた制帽をかぶって、両手でしっかり頭に収めた。
 四角い作りのしっかりした旅行カバンをもって部屋を後にした。
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