「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち

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第4章 復員船「ゆきかぜ」。

第2話 祖国日本へ。

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 復員船の出港が始まり、吉岡と舩橋が、満面の笑顔になった。

「お!いよいよだっぺねっ!」
 
「よっしゃ、よっしゃ!ゲロ履くまで日本の豆腐喰うぞ。」
 
「はははっ!さぁ、帰りましょう。」
 
 港から離れる舷側を、上からニコニコとのぞく3人だった。
 
 そんな中、黒いシボレーがようやく港に着いた。

( キキー! )
 
 駐車場の至る所では、軍のトラックから他の収容所から降りて来る大勢の捕虜達が居た。
 ヒューストン港は日本や朝鮮、インド、ドイツの復員兵でごった返していた。
 そんな復員兵をより分けて、埠頭に出て来たジェーン。
 
「ちょっと避けて、避けて!お願い。ちょっと、いい?」
 
 人を寄り分けて埠頭に立つと、既に御舩が乗船した第1便の復員船は出港した後だった。
 復員船の白い舷側が港からどんどん離れていく。
 
「オーマガッ!オーマガッ!マジッ!なんて事!」
 
 腕時計を見る女軍医。
 
「出港予定より30分早いじゃない!なんて事!ウソッ!ちょっと、その復員船止めて!責任者はいないの?」
 
 キョロキョロしながら人混みから出て、岸壁を走る女軍医。
 タグボードから離れて、黒い煙を出して進む武装解除した元、大日本帝国海軍駆逐艦の「ゆきかぜ」。
 
( ボーッ、ボーッ! )
 
 汽笛が鳴る。デッキの端にいる日本の復員兵たちは、祖国に帰還出来る喜びか、笑顔で各々が手を振っていた。その復員兵の前に、対岸で腕をふって叫びながら走って来る、金髪で軍服を着たチャーミングな女軍医を見かけた。熱心な見送りと勘違いして日本兵は皆で手を振った。
 
「あっ!ジェーンちゃん~!(えっ!どこ、どこ?)あそこで走ってる金髪美人。おーい、ありがとう~ゴールドウィン先生~っ!」
 
「どこだっぺ?どこだっぺね?あー、いたっぺね!おーい。こっち、こっち~!」
 
「あ~新人の美人先生だ!誰を追いかけて手を振ってるんだべ?」
 
「なんか名前、呼んでっぺ。誰だっぺね?」
 
「俺に手を振ってるんだべか?走ってる姿も、軍服も可愛いなぁ。うわー、手足、長っ!」
 
「英語でチャーミングっていうんだべっ!」
 
「オーイ!ゴールドウィン先生も元気でな~!」
 
「ゴールドウィン先生~!さようなら~!」
 
「ゴールドウィン先生~!お達者で~!ありがとう~!」
 
 見送りに来たと勘違いした日本の復員兵達は一斉に手を振る。
 
「先生!日本に戻ったらお手紙書きます~!」
 
「やっぱり俺だ!俺に手、振ってるべ!また来ます~先生~っ!舟橋はここです~!」
 
「そんな平らで、目が一重の豆腐顔を誰が好くかいな!ボケッ!アハハハ!」

( あははっー! )
 
「ほんまに、ウチの嫁に悪いけどぉ、アメさんの美人には日本人は絶対かなわん。」
 
 腕を組んで、うなずく復員兵たち。
 
「本当にあの先生、俺達日本人に、ものすごい優しかったべ。色んな収容所飛ばされて、白人に初めて優しくしてもろた。そして、ものすごい綺麗だべ!あんなに優しい先生いるんなら、俺ー、もうちょっと収容所いたかったなぁ。」
 
「こ~の!デレ~すけっ。日本に帰ったら、藤沢の豆腐屋のかかぁがぁ、怖いんだっぺっ!」
 
「バレたか!アハハハハ~!」
 
 追いかける女軍医の気持ちとは裏腹に、復員できるうれしさに湧く日本兵捕虜達であった。
 
「ちょっと待って!待って!ミフネサン~!ミフネサン~!」
 
 走り続ける女軍医。皆が手を振り叫ぶ中、耳の良い茨城県出身の吉岡が耳を澄ませる。
 
「んっ?んっ?なんて言っ?フナ、あ~舟橋、お前じゃながっぺ。」
 
「吉岡さん、耳だけ良かったな。」
 
「耳だけが余計だっぺ。いや、いや。やっぱり舩さんば、呼んでるっぺ。」
 
 追いかけてくる女軍医の声を一斉に傾ける復員兵達。
 
「御舩さん、御舩さん言ってるべね。あれっ?」
 
 見送りの中に居ると思い御舩を探す吉岡。上半身を左右、前後によじって御舩を探す。
 
「舩さんは?不死身の分隊長は?」
 
「ん?多分、後ろのベンチでのんびりしてるべ。」
 
「えっ?」
 
 後ろを振り向き、奥の方でのんびり空を仰いでいる御舩を見つけた吉岡。
 
「もう、なんだっぺ。ヒロシちゃん。」
 
 急いでデッキ中央に走り、吉岡がデッキの長椅子に座る御舩へ声をかけた。
 
「おい、舩さんっ!舩さん。新人のジェーン先生が見送りに来てるべね。あんたの名前呼んでっぺ。」
 
「えっ、なんで?なんで僕っ?」
 
 自分の顔に、指を差す御舩ヒロシ。
 
「な~んでって、走ってミフネサン、ミフネサンって!読んでるべね。こ~のっ!色男っ。モテっぺ。このぉ!」
 
 立ち上がる御舩の肩を、肩でつつく吉岡。
 
「なんで?また。いやいや、吉岡さん違いますよ。」
 
「ごじゃっぺ言わんで、早よデッキに行くっぺね。」
 
 そう言われると、御舩も気になり船尾デッキへ行った。
 アジア各国やドイツの復員兵を選り分けて、手すりに身を寄せる御舩。
 御舩を冷やかす復員兵達。

( ヒューヒュー! )
 
( 色男~! )
 
 走る女軍医を見かけると大きく手を振った。
 
「もう。違いますから、あっ!居た居た。ありがとうございました。ジェーン先生~!ジェーン先生~!ありがとうございました~!」
 
 御舩はおでこを指さしてから、大きく腕を振った。
 
「お元気で居てください~!ありがとうございました~!」
 
 帽子を脱ぎ、深々とお辞儀をした。御舩を確認した女軍医が、あるだけの声を上げた。
 
「あっ!ミフネッ!ミフネサーン!あ~!違う!ミフネサンッ!お願い戻って来て~!お願い~っ!」
 
 海の潮の音と、港の雑音、風の音で声が届く訳もなく、全力で船を追いかけた。
 気が付くと、とうとう防波堤の端まで来てしまった。アッと言う間に小さくなる復員船の「ゆきかぜ」。
 
「あ~なんて事!なんなの!ちくしょーっ!なんて事なの。」
 
 肩で息をしながら、汗だくになりベレー帽を地面に叩きつけた。
 
 額に手を当てる女軍医。腰から地面に崩れ、肩を縦に揺らして泣き始めた。
 そんな彼女の気持ちとは裏腹に船はどんどん離れていく。
 
「絶対殺される。絶対殺される。なんで私が。なんで。折角、アメリカまで帰ってきたのに。うっ、うっ。」
 
 ジェーンのその後ろにはいつの間にかMPのジープが止まっていた。
 ジープから降りてくる3人の男達。
 車を降りると同時にサイレンサーを拳銃に装着しながら歩く黒服の男と、カービン銃を構えたMP2人がジェーンに迫って来ていた。
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