「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち

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第4章 復員船「ゆきかぜ」。

第1話 テキサス、ヒューストン港。

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 アメリカ合衆国。

 テキサス州、ヒューストン港。
 
 復員船のデッキから、港の景色を見下ろす日本の復員兵達の小集団がいた。

 その中でグンソー・フクダこと、御舩大みふね ひろしが手すりにもたれて、両切りタバコを吹かしていた。

 御舩ヒロシは、目を細めてもう2度と訪れないだろうテキサスの広大な景色を目に焼き付けていたのだ。

 これから御舩ヒロシたちは、晴れて日本に帰国、復員するのだ。
 
 しかし、ヒロシの脳裏には、いつまでも気になる事があった。

 日差しが強くなる船のデッキで、後ろを振り向いて歓喜に沸く仲間たちを見るヒロシ。
 日本に帰れば解る事だから、今、この喜びに溢れている仲間に、気になる事を言う気がしなかった。
 
 収容所でアンガウル以来の再会と名乗る白人軍医、マイケル・マズル軍医の言葉を思い出した。
 頭が重くなるヒロシだった。
 これから向かう所は、廃墟となった故郷、現実の日本なのだ。
 
 再会と言っても、1人で米軍司令部キャンプを襲い瀕死の重傷を負った御舩は、アンガウルの米軍医療キャンプで治療を受けたらしいが、その時は意識が無く、全く覚えていなかった。

 意識不明の御舩を治療した、そのマイケルと言う白人軍医がヒロシの傷を消毒するロス軍医の前で、御舩に言った言葉が忘れられなかった。
 
「グンソー・フクダさん。噂は聞いているかもしれませんが、もう東京、大阪、名古屋などの日本の大首都圏や主要工業地域は、我々米軍の爆撃によって焼け野原、ガレキとなっています。(やはり、そうでしたか。)はい。事実です。(わかりました。)残念です。海軍の工業地帯の広島。そして長崎は、君たちの言う新型爆弾で何もかも無くなってしまったようだ。(えっ?そうですか……。)すまない。僕は小さい時、君達日本人に助けられた。本当であれば日本人を見たら、助けられた命のお礼を言わなければならないのに。本当に残念だ。」
 
 と。
 
 そんな感慨深く思い出して、テキサスの景色を眺めている御舩の肩を叩いて言い寄る復員兵たち。
 
ふなさん、やっとだっぺ。信じられっか?生きて帰れるべね。」
 
「不死身の分隊長殿。晴れて復員だべ。いやー!やっとだ。満州の豆腐じゃなく、日本の豆腐で、こう熱燗で、キュッっと一杯やりたいべ。あはは、あははっ!」
 
 気分を変えてニッコリ答える御舩ヒロシ。
 
「いやー!信じられないです吉岡さん。舟橋さんも。(そうだっぺ!)(だべ。)吉岡さんは水戸で、やはり農家するんですか?」
 
「当り前だっぺね。満州の大豆畑やデタラメな水田見てたら、あははっ!無性に土いじり、やりたくなったっぺね。同じ手のマメ作るんでもペリリ(ペリュリュー島)の岩盤掘ってマメ作るより、水田作業のマメがいいっぺね。はははっ。」
 
 自分の手の平を見る吉岡だった。
 吉岡は、アンガウル島と同じく玉砕したペリュリュー島の生き残りなのだ。

 戦地から送られて早くも7か月が経過したがペリュリュー島の塹壕堀りの傷跡は、今でも吉岡の手の平の「マメ」としてこびりついている。
 その手の平をのぞき込む御舩と舟橋だった。
 
「舟橋君は、藤沢で豆腐屋だっぺか?」
 
「はい!もちろんです。まだ嫁と子供1人しか作ってないべ。」
 
「こーの!湘南の種馬めが!あはははっ!」
 
「もう、吉岡さん種馬ってイヤだなぁ。不死身の分隊長殿は?」
 
「だっぺ。舩さんはどうするっぺ?」
 
 意地悪気な目をして、こめかみを書くヒロシ。
 
「僕は、3男坊だから兄達が戦地から帰って生きていればと。」
 
「そうだっぺね。末ッ子だっぺ。」
 
「栃木の実家に顔出してから、そうですねぇ。僕に、最後に任された分隊。擲弾筒分隊。部下のアンガウル守備隊、15人の実家へ報告に1年かけて行こうかと思います。(あー、そうだっぺ。)(すりゃ大変だべ。)いやいや、部下の自宅が解る範囲ですけど。まぁ兄達が既に亡くなって僕しか家に居なければ実家の農家、継ぎます。ははっ。」
 
 腕を組んで、厳しい顔をする吉岡と舟橋だった。アンガウル守備隊は玉砕したのだ。
 
「もし、兄さん達が生きてたら、3男坊はどうするべね。」
 
「はい。実はもう既に……。」
 
 一瞬、廃墟になった日本。と、言いかけたが2人を見て思い留まった。
 
「なんだっぺ?どうしたっぺ?もうって。なんだっぺ。舩さん。もう既にって。」
 
「そうだべ。もうってなんだべ。分隊長。」
 
 2人に言い寄られて、焦る御舩だった。
 
「いやいや、違います。捕虜となってアメさんの収容所を点々として。グアム、米国本土のサンフランシスコ、テキサスと渡って来て、(なぁーほんと、舩さん。色々行ったっぺ。ほんと。)はい。米国のこの近代的なハイカラな国が戦争の相手と知って、毎日が驚きの連続でした。(そうだっぺ。実際にアメさんの国に来たら、デレ助アメ公って言えんくなったべね。)(車が東京の銀座より混んでたり。びっくり驚いたべ。)本当に吉岡さん、舟橋さんそうですよ。ホントに。こんな国と戦なんて。絶対、敵わないって思いましたよ。国民全体が、良く知っていれば戦わなかったかもしれない。でも、アメさん並に日本を復興させるには知識や文化、教養も、世界に通用する力がなければ日本の将来は無いと思いまして。特に工業発展には知識が必要だと。」
 
「ふーん。で?」
 
「栃木の家を継がなくて良いのなら、東京で本屋とかやってみたいなぁと。(ひえー、東京で本屋だって、この人。)本気です舟橋さん。これからの人の為に。そして、自分の為に。それ位しか日本の発展に力を貸せないけど。どうでしょうか?」
 
 感心する舟橋。
 
「へー!天下不死身の分隊長さんがそこまで考えるってか。ふーん。発想が沸く事自体に、尊敬に値するべ。」
 
 吉岡も感心した。
 
「へー!スゴかっぺー!スゴかっぺね舩さん。へー。2、3回死んだ人だから言えるんだっぺね。」
 
「いやだなぁ吉岡さん。2回も、3回も死んでないですよ。」
 
「すりゃ、そうだっぺね。あははー!」

( はははっ。 )
 
 その時、復員船「ゆきかぜ」の汽笛が鳴った。

(( ボッボーッ!ボーッ!ボーッ! ))
 
 ガクンッとなり、いよいよ出航が始まったのだ。
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