「メジャー・インフラトン」序章3/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 FIRE!FIRE!FIRE!No2. )

あおっち

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第6章 白い悪魔。

第6話 国際緊急チャンネルの笑える真相。

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 待機している布村タンデムモービル。

 布村達も少し疲れが出たのか、ウトウト気味に戦況を眺めていた。
 
「ねぇ愛子~っあ~あくび~、ごめん、ごめん。あのさ、もう、潜水艦で何人くらい救助されたのかなぁ。」
 
 寺田麗子が布村のヘッドギアをのぞいて聞いた。鈴木絵里が向かいの寺田に言う。
 
「さっき、スミス中佐さん潜水艦、一隻で80人づつとか言ってたよね。スミスさんが浮かんで来る自衛隊とかの潜水艦が20隻って言ってたから、……1回目の救助は1600人かぁ~、ごめん。あ~わたしもあくび~。」
 
 佐藤結衣の向かいの中村・スーザン・幸子が、画面を凝視する。
 
「絵里も、麗子もさっき始まったばかりでしょ。まだまだじゃないの。ねっ結衣。」
 
 目をつむりながら、答える佐藤結衣。
 
「まぁ30分も経ってないからなぁ。これからじゃないの。って、えっ?」
 
 佐藤結衣が何かに気が付いたみたいに、大きな綺麗な目をパッチリあけて周りに聞いた。
 
「え、みんな?その潜水艦に乗って一緒に逃げたいわけ?」

( ん~な訳、ないない! )

 否定する3人の少女たち。
 
( ビー! )

 また、きよしから通信が入る。
 眠たかった目をパチパチさせて、画面を注目する4人の少女。あくびをして見入る佐藤結衣。
 
「布村さん。今、僕の手前で4機のHARMOR小隊が居ますが、おそらく僕の機体、これで最後の攻撃になります。バーニアの噴射システムのエラーが解消出来ない。もう、これから仕掛ける攻撃でこの機体を捨てます。だから、僕からの通信が途絶えたり、シグナルが消えたらそっちの機体で戦うから無条件で迎えに来て。エイモスも解るな。」

( もちろんです、椎葉少尉。 )

「本当は時間に余裕があれば……。あっ!いや、いや、違う。何言ってんだ俺は。」
 
 不思議そうに、目を合わせる4人の少女。
 
「ごめん、ごめん。今の忘れて。改めて話す、みんな、いい?」
 
 今度は、4人の少女は「ひょっとこ」のように唇をとがらせて、小さくうなずいた。
 
「せっかく救助に来てくれた潜水艦に、みんなを降ろしに行きたい。どうする?エイモス!5人を降ろしたら、ここまで迎えに来てくれ。」

( かしこまりました。5名を厳原港のフェリーふ頭に降ろします。避難している市民で混み合っていますので、バーニアによる噴煙、ジェットの被害を考え、フェリーターミナルの後方、対馬市民病院駐車場にランディング予定。計算終了。対馬共同防衛本部テント、千歳シーラスワン・ウーラノスCDCに予定飛行ルート通達終了。いつでも5名を降ろしに行けます。ご命令を。)
 
 そこで、「はあい?」と言う納得いかない顔をして、上体を起こす布村愛子。
 
「いやいやいや、パンダ隊長ぉう。な~にをおっしゃってるかぁ~意味が解りませぬぅ~。」
 
 後ろで、うなずく4人の少女。
 
「私~布村は~ど~こまでもぅ、パンダさんとぉ、ご一緒ですっ!残念っ!いやいやいや。これは心外、心外。むふっふっ。」
 
 心の中では、結衣にキスを奪われたきよしの唇を自分でキスをして更新するまでは、意地でも離れない決意だった。戦場の状況にも慣れ、戦争など当たり前になってきた布村だった。
 
「それよりもぉ結衣殿たち~、港まで送りませうか?これいかに。ムフッフッ。」
 
 腕を組みながら不敵な笑顔で時代劇の悪い代官の様に話す布村。
 うなずくヘッドギア。
 そこで、幼稚園時代「こども歌舞伎」で布村愛子と一緒だった結衣がふざけて言う。
 
「いやいやいや。それはぁそれは。こちらこそ心外っ至極。佐藤結衣もご一緒するべな。いやいやいや、これわぁまた、心外至極ぅ迷惑千万。ムウ、フフフッ」
 
 ふざける布村と佐藤結衣。
 そこで中村・スーザン・幸子が叫んだ。
 
「何やってんの!2人ともっ!きよしさん困る!時間無いってば!」
 
 寺田麗子がすかさずエイモスに頼んだ。
 
「エイモスさん、きよしさんの付近、画面アップして!マクロ拡大して。」
 
 正面の衛星戦術マクロ画面がきよし周辺のミクロ画像に切り替わった。
 きよしの前方に4体の機動HARMOR小隊が進んでいる画像。
 衛星画像と言っても鮮明に月明かりに照らされる各機体の映像が良く見えていた。
 その敵AXIS・HARMOR4機の内、最後尾の1機が足を止めて大砲を左側に向けているのが解った。
 
「きよしさん、私達はいいから!」
 
「早く、〇チガイどもをやっつけて!」
 
「きよしさん早く行ってー!あいつ等をやっつけて!」
 
 パワー全開できよしに発破をかける3人の少女。
 何となくバツが悪くなり、チロッと下を出してから、思いっきり目を閉じる布村愛子と佐藤結衣。
 
「了解!布村さんも、そちらのエイモスも!頼むっ!」
 
 元気一杯話すきよし。
 衛星画像で映るきよしの機体も歩き始めた。

(( 了解!パンダ隊長!))

 声を合わせる5人の少女達。
 そして、拡大した敵HARMOR1機の衛星戦術映像を見つめる少女たち。
 
「エイモスさん、左の建物、人がいるよね?」
 
( はい。民間人の老夫婦の楊です。)
 
「えっ。おじいちゃんとおばあちゃん?パンダ隊長!パンダ隊長!その後ろのHARMOR、おじいちゃん、おばあちゃんを狙ってるみたい。お願い。助けて!」
 
( ビー。 )
 
( 了~。状況は判っている。静かにして布村さん。 )
 
「愛っ!愛っ!」
 
 佐藤が布村を呼んだ。
 振り向いて佐藤結衣を見る布村。佐藤は首を振ってから目を絞って合図した。
 戦闘のプロにいちいち、素人が、きよしに言うな。と、合図したのだ。
 アゴを引いて、ゆっくりうなずく布村。
 
 40ミリカノン砲を持って構えている敵HARMOR。
 同時に通信も入って来た。画面には翻訳文も流れた。
 
「はははっ。そんな所で隠れているつもりか!白犬めが。逃げ遅れたのか?あの世に行けば白犬の仲間がいっぱいいるよ。イヒヒヒッ」
 
「117姜(かん)、兵隊?日本兵か?」
 
 画面上に翻訳文が流れる。生唾をゴクリと飲む布村。
 
「違う、違う~、白犬のご夫婦様だ。」
 
 佐藤たち4人も目を合わせる。
 
「構うな!姜四級軍士長!行くぞっ。」
 
 画面上部の3機小隊のHARMORは再び歩き始め画面から外れる。
 エイモスが再び画面を4機目を中心に画面を合わせた。

 同じくして、千歳第1宙域打撃群作戦本部、シーラスアサルトの極東北部指令本部オペレーション室。
 オペレーション室、ウーラノスCDCの巨大画面にも布村達が見ている同じ衛星戦術映像が流れている音声情報も同じものを共有していた。
 
 館内に響く敵国、HARMORパイロットの声。
 
 各事務武官のスタッフたちは、持ち場から各国毎に司令を受けたオペレーションを展開し忙しく端末で仕事をしている。
 
 そして御舩長官室、奥の会議室。
 その大型スクリーンにも同じ衛星戦術映像が流れていた。
 
 巨大なオペレーションルームに流れる映像と音声。
 
「40ミリ砲弾はお2人にはもったいないけど、建物ごと破壊するよね。建物ごとならスッキリするよね。ハハッ……、」
 
 忙しい手を止めて、大型スクリーンを見る各国の事務武官たち。
 オペレータ室壇上で、腕組をしてじっと見つめる御舩長官の美しいメリッサ・ガー・サイオン秘書官。
 御舩少将の会議室ではローマン・マズル大佐が腕組をしてスクリーンを見ている。
 
「さぁ、きよし。次はどうする……。」
 
 小声で話すローマン。
 そのローマンを厳しい顔をしたまま、無言でチラッと見るきよしの父、椎葉繁1等宙佐。
 
 オペレーションルームの巨大な映像に映る、射撃姿勢をとったままの敵HARMOR。
 老人夫婦にカノン砲を発砲するのではないかと、息をのむ千歳オペレーションルームの面々たち。
 しかし、直ぐ後ろにきよしHARMORが来た。
 また、敵パイロットの会話が館内に流れる。
 
「あ~これは、これは李上尉。海栗島うにじまから遠慮はるばる、ようこそ。」
 
 射撃姿勢を止め、40ミリカノン砲をいったん収める敵HARMOR。

(( オォ~。 ))
(( ムゥ~。 ))

 千歳のオペレーションルームに広がる安堵の声。
 腕組をしていたローマンが頭の後ろに指を組んで、背もたれに寄りかかり足を組んだ。
 スミス中佐や右奥の御舩長官を見てニッコリした。
 御舩は腕を組んだまま画像を見つめていた。
 衛星画像では、体ごと振り向き敬礼をするHARMORが解る。
 その時、きよしHARMORがしゃがんだらしい。上空からの映像では高低は解りづらい。
 月の黒い影が横に広がり、かろうじてきよしHARMORがしゃがんだのが解る。その時、海上の「エミリア・プラテル」からの横の映像が入って来た。
 
 スミス中佐が、即座に画面を右下に配置した。
 立体的に理解しやすい映像になった。
 その2画面の映像。敬礼をしたまま左右を見る敵HARMORがキョロキョロと動く。同時にパイロットの音声。
 
「あれっ?上尉殿は?」
 
 きよしHARMORは、赤外線映像で、白く光る何かを右アーム先端につけて敵HARMORの胸下に当てた。
 
 赤外線映像では白い光は高温の証拠だ。
 
 そして、動きが止まる敵HARMOR。
 敬礼をしたアームがだらんと下がった。
 その瞬間きよしHARMORが、バーニアを点火したのか、画面全体に広がる真っ白な光。
 
 横映像では大規模な噴煙が吹き上がった。

 きよしがバーニアを吹かしたのだ。
 バーニアの噴射力と脚力をすべて突き刺した何か1点に集中している。
 その集中した先から滝の様な火花が滝のように地面に派手に落ち始めたのだ。
 いよいよ、敵HARMORの胸部のコクピットカバーの端が真っ白になった。
 高温でコクピット内がさらされているのか、また敵パイロットの悲痛の音声。

( ギシギシ~、ガガガガッ!ガガガガッ! )
 
「えっ、えっ!何が起きてるのぉ、えっ、えっ!」
 
( 警告。警告。コクピット内急激な温度上昇。現在、摂氏780℃、800℃、警告、警告。操縦エリアの機能停止まで後9秒、8秒、な~なびよ~う、ろ~く……び……。 )

( ガガガガガッ、ズガガガガッ! )
 
「ウギャー!た、助け……ウギャー!」
 
 千歳のオペレーションルームの警備も含む、ほぼ全員が大型モニターに見入っていた。
 息を飲むスタッフたち。
 コクピットカバーがはじけ飛んだ
 敵HARMORが胸のコクピット席から、炎の柱を噴き出しながら倒れた。

( オー……。 )

 目を背けるもの、口に手を当てるもの、目を開けて驚いている者。
 様々な反応をするスタッフと各国の事務武官たち。
 映像と音声はウーラノス館内で続いている。
 きよしHARMORのバーニアが止み、噴射孔から小さな炎を飛ばしている。
 完全停止せず、アイドル状態だった。
 すると、きよしの乗ったきよしHARMORは、倒れた敵の機体をしゃがみ込んで抱え始めた。
 依然、倒れた敵HARMORのコクピットから結構な勢いの炎が噴き出し続けている。
 そしてまた、同じ小隊の敵HARMORからの音声が入った。
 衛星戦術画面が先ほど画面上方に歩いて消えた、3機の小隊HARMORに合わせる。

( 緊急通告、姜四級軍士長の機体をロスト。姜四級軍士長もロスト。確認をして下さい。 )
( 緊急通告、姜四級軍士長の機体をロスト。姜四級軍士長もロスト。確認をして下さい。 )

 今度は、正面モニターに新たにウインドーが現れて、エミリア・プラテルが放った監視ドローン「ミルバス」のカメラが、移動するきよしHARMORの後ろ姿を捉えた映像を始めた。
 
 右下のエミリア・プラテルの映像では敵HARMORを抱きかかえて、バーニアを最大噴射し、地面すれすれを移動し始めるきよしHARMORが映っていた。
 
 敵HARMORのコクピット内で繰り返されるの通告音声。
 
 歩きを止めない3機の小隊HARMORが映し出されている。その3台の後を追うきよしHARMORが右下画面に映っている。また、敵音声が入った。
 
 引き続き、息を飲んで見る千歳シーラスワンのオペレーションルームの事務武官たち。
 
「何?あの野郎!道草しやがって。年寄り夫婦でなく若い女なんじゃないのか。あの野郎!わざわざサインまで消しやがって。小隊長、様子見てきます。後ろに李上尉もいらっしゃるのに。あっ李上尉がこっちに来た。マッハで走ってきた。なんかやばくないっすか?」
 
 立ち止まる部下の2機。先頭の隊長機はそのまま歩いている。
 
「はははっ。あ~あ。あー面倒な奴。頼む。先に俺たちは、合流地点へ行く。対馬占領したら次は、九州北部。それで、この対馬は白犬の奴隷女だらけの花園になるんだ!やりまくりの花園だ。」
 
 オペレーションルームの数人の事務武官の男女が、下品な隊長の言葉に唇をへの字にして、手を振って呆れて、嫌がっていた。
 
「なんで今時の若い奴は。どうして、少しの辛抱が出来ないかな。帰ったら袋叩きだ。しっかし、李上尉。わざわざ俺たちを叱りに来るのか?なぜ上官が部下のおかしな行動を現場で止めないんだ?」
 
「小隊長、とにかく馬鹿を連れ戻してきます。」
 
 最後尾のHARMORが後ろを振り向く。
 そして後ずさりを始めた。
 
 オペレータールームの観戦武官も、来るだろうクライマックスに向かって、口をポーと開けて見ている。
 
「姜っ!お前、アホかぁ!……えっ?えっ?なんだなんだ?あ~!小隊長ーっ!小隊長ーっ!」
 
「あんっ?なんだぁ?」
 
 画面下から両足で土煙を上げて制動するきよしの機体。
 横になったままの敵HARMORが勢いよく飛び出した。

( シューッ! )
 
 きよしHARMORの抱き上げた敵HARMORが、歩く敵に向かって物凄い勢いで飛んで行った。
 その胴体の真ん中から白い炎を上げて回転する機体。
 そして地面を数回弾けてから後衛2機のHARMORの脚部へ接触したのだった。
 
 吹き飛ぶ2機のHARMOR。
 
 2機は頭部から派手に地面に激突した。
 
( ドシーン、ドシン!)
( うぎゃー! )
( ぐわーっ! )
 
 敵の断末魔の声が聞こえ、顔を背けるオペレーションルームの事務武官の面々。
 
 画像には物凄い数の部品が、ブワーと散らばった映像が映る。
 地面を転げたボーリングの玉となった燃える敵の機体は、先頭の隊長機の脚元に止まった。
 それをのぞき込む隊長機。
 
「な、なんなんだ。なんだ。どうなってる。」
 
 と、隊長の声。
 そして、上体を上げると突然、40ミリカノン砲を捨て、両手でブロックした。
 
「何っー!俺の小隊全滅っー!李ーっ!貴様、狂ったかっ!本当に第4急襲李上尉なのかっ!狂ったか!」
 
 次の瞬間、きよしHARMORが体当たりをしたのだ。
 
「うわーっ(バシーンッ!)ウゴッ。」
 
 画面上方に弾き飛ばされる隊長機。
 
 衛星戦術画像がまた、画面の外に弾かれた隊長へ、画像の焦点を合わせる衛星画像。
 物凄い衝撃が敵HARMORを襲ったのだ。恐らく下り坂なのだろうか、飛ばされたまま地面の上を止まらない機体。コクピット内でも物凄い衝撃音が入る。
 
 パイロットのマイクにも入るHARMORと地面の衝撃音。
 止まった車や小屋などに当たり、滑り落ちる。
 
「(ドン!)ウガッ(ドガッ、ザザッドガ、ザザッドガーッ、カランカランッ。)う~っ。う~っ。」
 
 とうとう漁港の防波堤の角にぶつかり、止まったAXISの隊長機HARMOR。
 その時、会議室で御舩が、ジェシカ・スミス中佐を呼んだ。
 
「はい、長官。」
 
「もし、敵パイロットが生きていたなら、2~3尋問したい事がある。椎葉少尉にパイロットの尋問を頼めないか。どうだ?」
 
 敬礼をするジェシカ・スミス中佐。
 即座に布村へ、確認を取った。
 
「解りました長官。愛ちゃん?愛ちゃん?エイモス?エイモスっ?聞こえる。」

 布村タンデムモービルの中では、5人の少女が口を開けたまま、衛星画像を見ていた。
 布村にジェシカからの通信が入った。
 彼女たちの正面画像では倒れたまま動かない敵HARMORの機体が映っている。
 
「はい、スミス中佐さん、布村です。はい。はい。えっ。……ん~はい。わかりました。エイモスさん、聞いた?」
 
( はい、直ちに椎葉少尉に、スミス中佐の指示を伝えました。 )
 
 きよしも、あえて布村たちに聞こえるように答えた。
 
( ビー。 )
 
( 了~。エイモス?尋問内容は直接エイモスへ送るようにスミス中佐に頼んで。 )
 
「愛ッ。ドしたの?」
 
 布村を注目する4人。
 
「なんか、あれだって。あの倒れてるHARMORのパイロットからなんか聞く用事があるみたい。」
 
「それって、捕虜の尋問でしょう?」
 
「そう、それっ!ジ~モンとかだって。なんか聞きたい事あるんだって。だってさ。」
 
「ハイハイ、尋問ね。了解。」
 
 イライラして目をつむって答える佐藤結衣。
 
「あっそうジ・ン・モン?警察の職務質問みたいなやつかなぁ……。」
 
「ハイハイ。そうです。そうですよ。愛子さま。」
 
 また呆れる佐藤結衣。
 
 衛星戦術画面には、敵隊長機のHARMORが倒れて既に稼働停止した姿が映っている。
 その横にきよしHARMORが立ってから、しゃがんだのが解る。
 パイロットの音声が再び入る。
 きよしHARMORがコクピットシールドを、両腕ではがし始めた。
 
「誰かぁ。た、たすけ( ギギギギ~、バシーン。ヒューゴオー……ヒュー。 )」
 
 コクピットシールドをはがされむき出しになった敵のコックピット。
 
 その中でビビるパイロット。
 
 そのパイロットのマイクが、外の風の音を拾う。
 オペレーションルームや会議室では、衛星戦術映像を少し落ち着いて見るようになってきた。
 
 それでも、瞬きもしないで見る事務武官たち。
 敵コクピットのマイクが拾う潮風の音がオペレーションルームに広がる。

( ヒューゴオー……ヒューゴォー……。 )

 きよしHARMORのコクピットシールドが開いた。

( キィーン、ガシャン。ヒュー、バシンッ! )

 敵のヘッドギアを脱いで、ぼさぼさ頭の大男。
 白いスーツを着たパイロットがコックピットシールドの上に立ったのだ。
 
 低い雲の中から覗く不気味な満月に近い月を背に、右手にヘッドギア、ワイヤーカッターを左手に持った大男が立ったのだ。
 
 敵パイロットには生首を持って、刃物を持つ白い悪魔に見えたのかもしれない。
 
 冷静さを欠いた敵パイロットは、かなりビビった。
 きよしはエイモスを使って、日本語とハングルの翻訳用で、敵パイロットに被せるためのヘッドギアと、エマージェンシー用のシートベルトを切るためのワイヤーカッターを持っていただけだったのだが。
 
「う~お、おねがい、あ、悪魔だぁ、悪魔だぁ。」
 
 きよしは敵のコクピットに入り込んだ。
 そして、普通にパイロットのベルト類を切り始めた。
 
「た、たすけ……( ガガガガッ )ウギャーア~ッ!」
 
 いよいよ殺されると思って大声で叫んで顔を腕でガードしたものの、チラッと横目で見ると、きよしは刃物ではなくワイヤーカッターでベルトを切断していた。
 
 敵の隊長は自分の早とちりに気が付いて、急に恥ずかしくなり、咳をしてごまかした。
 
「ァ~ア、ゴホッゴホッ。」
 
 普通にベルト類を切って救助するような姿を見て、安心した。
 
 敵の隊長は、捕虜になるのも覚悟した。
 
 そして、きよしの作業をそぉーっと、のぞき込んだ時、作業しているきよしの肘が敵パイロットの右目に当たった。

( ドカッ! )

( ウギャー、ガァッ…… )
 
 ついでにパイロットのマイクも切れた。

( ザザザッ……ピー。 )

 マイクが切れた、敵HARMORのコクピット内。
 
「あ、あっ。ごめんなさい。大丈夫ですか?もう作業終わりますから。目、大丈夫ですか。ぼくもこの間、目を突かれてスンゴイ痛かった。ごめんなさい。もうすぐ作業が終わるので、座っててください。」

 と、敵国の捕虜にも謝り、心配するいつもの甘い「お子ちゃまきよし」だった。
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