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第5章 バトル・オブ・苫小牧。千歳、侵入。

第8話 八雲港湾組合長の思い。

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 泣きながら、組合長の肩を持ったまま膝から崩れる伊藤武子。

 ゆっくり組合長と武子を離す山本検査士。

 しかし、そんな彼らを上空から見ている目があった。

          ◇

 監視軍事衛星の「すみれ」だった。

 ボーチャンでコントロールする鈴木1等宙佐と、ニッコリするソフノフスカ。

 「すみれ」からの送られる2箇所の映像。

 片方のビルの透過画像では苫小牧市海上保安署ビルの3人の透過赤外線映像だった。

 その2人を見て、またまた笑顔になるアメリカチーム、新人2人の情報オペレーター。

 全員とはいかないが生存者がいたのだ。

 喜び会う2人だった。

 そのボーチャンと通信している千歳シーラスワンの御舩たち。

 ウーラノスCDC正面モニター右側にはその2箇所の映像が流れた。

 腕を組んだままのメリッサに感応波通信が入って来た。

 小樽からスサノオに向かったハズのコールサイン「フェニックス」、チーム・内方の東久子少尉からだった。

「ハイッ!フェニックス。えっ?少尉、あなたはスサノ……。はい、はい。」

 メリッサを見る御舩。

 御舩もピンと来たのだ。

 恐らく共有データ傍受し「スサノオ」帰投航路から進路を変更して、東少尉は苫小牧に向かっているのだろうと予想した。

 そして、予想通りだった。

 戦場での臨機応変さは、内方中佐の部下なら全員、身に着けている。

 それを理解している第2次世界大戦、大東亜戦争から現在まで生き残っている御舩だった。

 その御舩に目を合わすメリッサ。

 メリッサへOKサインの親指を上げる御舩。

 ニッコリするメリッサだった。 

「フェニックス了解。直接、組合長に直接通信してはいかが?安心するでしょう。」

 またうなずく御舩。
 喉のインカムマイクに指を当てる御舩。

「ソフノフスカ司令、司令?鈴木君。八雲組合長のスマハンドのコールナンバー、解析は出来ているかなぁ?」

 ソフノフスカが答える。 

「ハイ、長官。解析済みですわ。フェニックスにも連絡しました。フェニックスと八雲組合長をつなぎます。」

 ボーチャンの鈴木とソフノフスカ。2人がニッコリする。

          ◇

 苫小牧フェリーターミナルビルでは、まだ4人は港湾組合出張所で、進退を決めかねていた。

 泣きじゃくる八雲と武子。

 斎藤が窓の外を覗いている。

 上空や、地面から伝わる爆発音がする市街地方面を背伸びしたりして、覗いていたのだ。

「お義父さん、どうしますか。もう、避難しないと。」

 机にもたれ掛かって床で泣いている伊藤武子の肩を叩いてから、立ち上がる組合長。

「そうだな。貴明の車はどうだべか。」

「あ!そうだ。なるほど。はい、組合のトラックは乗る前に確認しますが、動くハズです。4人ならギリギリ乗れます。」

 その時、組合長のスマハンドが振動した。


( ブルブルッ♪ ブルブル♪  )


 知らないナンバーの通知3Dが手の甲に浮き上がる。

「え?え?1時間位、この戦争が始まってから繋がらなかったのに。0025-3404-って誰だ。」

 とりあえず手の平を耳に当てる組合長。
 聞き覚えのある女性の声だった。


( もしもし、八雲組合長さんですか。 )


 手の平を一旦耳から話して周りの3人を見る組合長。

「はい~。苫小牧港湾組合、八雲です~。失礼ですがお宅様は?」


( ヒューン、シュッゴゴォー! )

 低空でマッハ1のスピードで飛ぶシーラス・情報特務科仕様のオスプレイ3。

 その高速形態のオスプレイ3が山中から低空で飛び出し、北海道・支笏湖の透明な湖面の上空を飛んだ。

 湖畔には大勢の避難民が集まっている。

 恐らく苫小牧市や周辺町民が水のある内陸部へ避難して来たのであろう。

 その避難民たちの上空を矢の様に飛び去るオスプレイ3。


(( ドンッ!シュキィーン……ゴゴゴゴゴー。))
 

 音速のショックウェーブが避難民を驚かせた。

 そして再び山中に飛び込み高速飛行を続けるオスプレー3。

 低い山、高い山のうねりを避けながら左右に回避しながら飛行している。

 コクピットに2名の男女が座っていた。

 右に座る海上保安庁の制服を着ている女性海上保安監と操縦する、同じく海上保安庁の制服の男性パイロット。

 その上官であろう女性がパイロットの肩を掴んだ。

「ブルーノート!つながった。」

「はい。良かったです。」

 ニッコリしたまま話始める「フェニックス」こと、チーム・内方の東久子少尉。

「もしもし、八雲組合長さんですか。」

 ニッコリするパイロット、シーラス情報特務部隊情報統合局潜入部員、コールサイン「ブルーノート」の田中上級准尉。

 彼は「スサノオ」の専属戦闘パイロットなのだ。そして、今回の潜入では東少尉の補佐とボディーガードを兼ねていたのだ。
 
( はい~。苫小牧港湾組合、八雲です~。失礼ですがお宅様は? )

 ブルーノートに親指とウインクをする東少尉。

 そして話し始める。

「組合長?覚えていますか?小樽海上保安署本部のアズマです。」


-----爆音が絶えない苫小牧市内。

 その外れ、港湾に立つフェリーターミナルビル。

 窓ガラスの至ところに振動によるヒビが入って、しかも埃や泥で汚れている。

 その奥にいる4人の男女。

( 組合長?覚えていますか?小樽海上保安署本部のアズマです。 )

 目を大きく開く八雲。

「あ、あ、東さん!東さん。」

 伊藤武子も、思い出し立ち上がった。

 そして組合長の腕を持って騒ぎ始める。

「組合長!私、知ってる!組合ビルに電話かけて来た人でしょ。なんで組合長にかかって来たのさ。パナマの船が何隻居るかとか、もう朝っぱらから事務所に電話かけて来てさ。」

 伊藤から嫌な顔をして腕を離す。

 そしてまた手の平を耳に付けた。
 
( 組合長、皆が聞こえるようにスピーカーにして下さい。 )
 
「え、え?すす、スピーカーって?」

 戸惑う八雲。
 腕を義理の息子の斎藤に出して、説明する。

「貴明っ。東さんがスピーカーとか何とか。」

 咄嗟に3D画面の端を押す、義理の息子の斎藤貴明。

「お義父さん、どうぞそのままで皆に聞こえますから。」 

「え?え?」


( よく聞こえてますよ、組合長。 )


 なぜかニッコリする3人の男女。

 すかさず武子が調子に乗って話そうとしたが、山本検査士が武子の口を押えた。

 その2人を見て安心して話す八雲だった。

「東さん、僕たちは今……。」


( はい、フェリーターミナルの組合事務所にいらっしゃるんですね? )


「え?え?どうしてそれが解るんだべ。」

( 詳しい事は後で話ます。それよりお願いがあります。 )

 山本検査士と斎藤が目を合わせる。
 八雲に近寄る2人の男。

( 実は私達は、皆さんの救助で、そちらに向かっています……。 )

「やたーっ!やったー!さすが海上保安……。」

 いきなり両手を上げて飛び上がる伊藤武子。
 
(( 武ちゃん!シッ!シー!))

 うるさい武子にシーっと静かにしてと口に人差し指を当てて促す3人の男達。

「もう、なんで私だけ。」


( だから、シーッ! )


 緊急時も関係なく騒ぎ立てようとする伊藤武子を睨む組合長たち。

 イジイジして奥にふくれて歩いて行く老女。

 フンと鼻で笑ってから話始める組合長だった。

「それで、東さんいつ来るんだべか?」

( はい。あと10分以内には到着します。えっ?それでブルー、田中?はい。はい。組合長ちょっと待って下さい。えー……。)

 10分以内の言葉に反応する男たち。

 伊藤武子も壁で斜めになっている時計を見てから腕を組んだ。

 スピーカーから、かすかに話声が聞こえて来た。

 話し声に耳を充てる八雲。

 東が誰かと話をしているみたいだった。

 その時、また事務室の床から複数の振動が伝わって来た。

キョロキョロとする4人の男女。

 伊藤武子が壁から背中を離して机の下に隠れた。

 段々、大きくなる振動。

 斎藤が汚れたガラス窓を開けて、上半身を乗り出し左右を見た。

 右の奥から巨大な人型の何かが、2列になって国道を走ってきた。

 バルトッシュ中隊が上半身固定のバーニアを吹かしながら国道をダッシュしてきたのだ。
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