「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち

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第13章 敵の名はチャイニーズ・アクシス。

第5話 日本国宙軍 清水明子少尉。

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 千歳シーラス・ワン、ウーラノスCDC。
 
 メリッサが、日本国軍宙軍と自衛隊航空宙空科の2人の女性事務武官の間に立って打ち合わせをしている。
 
 メリッサは少し汗ばみ、赤ら顔になり、珍しく冷静さを失っていた。
 
 うかつだった。
 
 衛星軌道上のボーチャンでは東少佐の感応波通信を受け、八雲組合長と海保本部の東とのやり取りを最初から傍受していたが、受信していた新任のアメリカ宙軍の2人のコマンダーとオペレーターは日本語が全く話せず翻訳をしていた。
 
 彼女達は正確な判断をしなければならいので、途中経過ではなくしっかり理解してから報告するつもりだったのだ。
 
 新任の2人は全て聞いてから、清水とソスノフスカに正しい報告するつもりだったのだ。
 
 しかし、その内に事象がどんどん進行して、結局八雲組合長の義理の息子と山本検査官が銃撃されてしまった。
 
 フェリーターミナルでの遺体発見の通信を、最悪でも発見した事態で報告すべきだったかもしれない。もしくは日本語が話せるソスノフスカや清水を呼ぶべきだったのだ。
 
 彼女達が学んだ教育やシュミレーション、情報武官としての情報分析および解析ドクトリン上では正しいのだ。彼女等の行動には全く間違いはない。
 
 しかしだ。リアルタイムの戦場では通用しないのだ。いや、実際の戦場では教育やシュミレーションが全く通用しない事の方が多いのだ。
 
 しかもこれは実戦・戦闘開始の現場なのだ。

 HARMORシュミレーターでは無敵の小林未央やバルトッシュ、ジェシカでさえ、実戦・実機訓練ではめちゃめちゃ強い椎葉きよしには、全く敵わないのと同じ理屈、差なのだ。
 
 通信を傍受していたアメリカ宙軍の2人のコマンダーとオペレーター。
 
 なんとなく様子がおかしいアメリカ宙軍のコンソール・コクピット。 
 
 その気配に清水少尉が気が付き、2人のコクピットに近寄り、即座に通信回帰データを見てソフノフスカへ瞬時に報告した。
 
 それから千歳シーラスワンに連絡と同時に情報接続をしたのだった。
 
 そして、そのタイミングが悪かった。シーラスワン全体が、金門県防衛戦、全勝中の台湾防衛作戦に気を少し取られていたタイミングだった。
 
 なにか歯車が狂ったのか、結果として初動が遅れてしまったのだ。
 
 その初動の遅れが、苫小牧フェリーターミナルの避難準備で勤務していた警備員を始め、役場職員、港湾組合の職員の犠牲者を出してしまったのだった。
 
 今回のAXIS防衛戦。
 
 ただでもシーラス予想から外され、手薄になった苫小牧市なのだ。
 
 その手薄の防衛準備の中、更に、手薄な対応となった苫小牧港湾だった。
 
 全てのインフラに日本国陸軍、自衛隊対モービル対空部隊を配置してもっとも重要な港湾が結局、最も手薄になったのだ。
 
 警備を厳重にしていれば悲劇が起こらなかったかもしれないし、威力偵察の少女も確保できたかも知れなかった。
 
 これも実は親中派もしくは買収されたシーラス内部の幹部によって汚染された、AIシーラスマザーの仕業のひとつだったのだが……。
 
 今回の北海道防衛戦で初めて出した日本人、一般市民の犠牲者だった。
 
 万全を期したはずのシーラスの幹部全員に物凄い衝撃が走った。
 
 シーラスマザーやシーラス・NATO共同参謀本部の予想通り、敵アクシスは、海上もしくは海中で対処するのが防衛戦術の柱だった。
 
 そのため北海道の主要港湾に防衛兵力を分散準備をしたのが、大きなおごりだったのだ。
 
 対馬で初動が遅れた日本政府を非難していた自分達が同じ様な過ちを犯してしまったのだ。
 
----しかし、AXISとの戦端は既に開かれた。
 
 過去に反省を試みる時間や、猶予は既にないのだ。
 
 厳しくとも、現状を打破するのみだった。
 特にシーラスのトップに立つ御舩などオリジナル・ペンタゴンの首脳人の落胆は並々ならぬ程だった。
 
 ところが、そんな感情を1ミリも顔や態度に出さないのが歴戦錬磨の彼等だったのだ。
 
 その御舩も、ベランダ壇上で正面モニターを見ながらインカムで指令を出している。恐らくボーチャンとだろう。その御舩が、右下に居るメリッサを呼んだ。
 
「メリッサ!どうだ!」
 
 振り向いて御舩に腕を上げるメリッサ。
 
「はい!敵HARMOR。貨物船に積載確認。威力偵察の先遣隊の裏が取れました。いま、ボーチャンが確認中。よろしい、ミュレー少尉。」
 
 一段下のオペレーションエリア。
 階段側、手前に座るフランス宙軍、男性事務武官のミュレー少尉がメリッサに目を合わせてうなずいた。その2人のやり取りを目で追う御舩。
 
「よし。」
 
 両腕をベランダに置いてから、額を掻く御舩。そして、口元を引き締めた。
 
「ソフノフスカ司令。すまん。貴殿の先ほどの警告を即応するべきだった。遅かった。先程の海保のヘリ「くまたか」の危機と、それに続く威力偵察の可能性をもっと重要視するべきだった。全ての責任は私にある。そのまま続けてくれ。」
 
 全く表情を変えない御舩だったが、その握る手は、真っ赤に成る位、握られていた。
 
 ボーチャンの球形指令室で、御舩の話を聞きながら鈴木と木村の間で目を閉じて腕組をして浮かぶソスノフスカ。

 そして、彼女も微妙な笑顔で、腕組を解いて鈴木と木村の肩を持ち、御舩を諭すように話し始めた。
 
「了解。先程、海保との市民の傍受をもっと早くこちらが気が付いて、閣下に直接、私が告げていれば。」
 
 無表情、無言の御舩。
 
「……。」
 
 正面を見たままのソフノフスカ。
 
 彼女も全く表情は変わっていなかったが、木村や鈴木の肩を持つ手に力が入った。
 
 それに気づく2人は目を合わせた。
 
 ソフノフスカの手の上に優しく手を乗せてから続きのオペレーションをする木村。
 ソスノフスカが優しく御舩に助言をする。
 
「……閣下、少し早いですが。いかが。」
 
 うなずく御舩。

 喉のインカムマイクを押さえて、右下の自衛隊、日本国宙軍コンソールを見下ろして司令を始めた。
 

「了解、ありがとう、ソスノフスカ司令。桐生君、待機中オービター確認。メリッサ!作戦コード発信。」
 
「ハイ閣下。7、8、9番機は作戦コード、デルタ(低空突入とHARMORの降下)。10番機シレーヌはリーマー(着陸とHARMORの出撃)を発信します。」
 
「よし。」
 
 即座にオペレーションをして、御舩に答える日本国宙軍事務武官の桐生上級曹長。
 
「戦略オービターより返信。7、8、9、10番機確認。作戦コード受領確認。苫小牧上空へ既に進路変更済み。10番機は北部側よりランディング進入開始。7、8、9番機はダイブ高度に向け降下中。苫小牧市西側へ進入開始。全て、オービター内ペイロードベイ(モービル格納庫)、全モービル出動準備終了確認。閣下!いつでも行けます。」
 
 力強くうなずく御舩。即座に指示を出す。
 
「10番機シレーヌのガルシア大佐に直接連絡。桐生上級曹長より7、8、9番機各機に通達、直ちに苫小牧港湾突入開始。ダイブポイント変更。7番機は苫小牧市役所、8番機は苫小牧中央公園、9番機は苫小牧東中学校上空でパージ。10番機シレーヌっ!ガルシア大佐、ローザンヌ!聞こえるか!シレーヌは、……。」
 
 司令を受けて通話をしながらオペレーションを再び始める女性事務武官たち。
 
 そして、日本の高高度上空まで移動した巨大な衛星基地司令部のシーラス2ボーチャン。
 
 ふたつの球体が地球の照り返しをうけて真っ白く光っている。
 
 その球体のひとつ、情報統合司令室。
 
 心配そうに斜め天井から、ソフノフスカを見るアメリカ宙軍の2人の新任情報武官。
 
 ソフノフスカは2人の目線を感じてはいるが、敢えて目を合わせず厳しい顔でモニターを注視している。
 
 彼女達は泣きそうになり球形司令部内部を見渡すと、全スタッフが冷静にオペレーションをしている。
 
 やりきれなく目を合わせる新任コマンダーと新任オペレーターの2人。
 
 そんな彼女達の背後から浮遊して近づく清水少尉。
 
 清水少尉は、彼女たちの肩を持って何やら話始めた。
 
 そんな清水の姿を見る、ソスノフスカ。
 
 清水は片言、何かを言った後、落ち込んでいた2人は目を輝かせて仕事に戻った。

 2人の肩をポンポンと叩いてからこちらに向かって来る清水少尉。
 
 そんな清水を見ながら笑顔に戻るソスノフスカだった。
 ソスノフスカは心の中で、やはり近い将来、自分を継ぐのは清水しかいないと思った。そう思うとなんだか楽しくなるソスノフスカだった。
 
 近づいて来た清水に、独り言のような清水に言うような微妙な距離でボソボソと言った。
 
「武道の神髄は……我が心、人の心にありか。ふっ。」
 
「はい?長官。」
 
「さぁ女サムライ!仕事、仕事っ!うふふっ。」
 
 わざわざ、清水の目をみてから楽しそうに鈴木達のモニターを見るソスノフスカ。
 
 こんな非常時に笑顔とは?不思議に思い、首をかしげてから日本側天井のフランス宙軍コクピット・コンソールに向かう清水だった。
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