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第7章 僕の愛しい娘。

第2話 出撃!小林、スミス小隊。

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( ウォウオーン!ウォウオーン!ウォウオーン! )

 サイレンが鳴り始めた、大きな千歳シーラスワンのブリーフィングルームの一角。
 
 よだれを垂らして上向いて寝ている椎葉きよし。サイレンの音でギロッと目を開いた。あくびもせず、サッと立ち上がった。
 
 きよしは小林やジェシカの達の集まっているモニター機器の所にのっそり歩いて行く。
 
 笑顔できよしを迎える5人だった。
 
 が、きよしは真顔のままだった。
 それも顎を引いて、まばたきもしないで、前を睨んでいる。
 
 ジェシカが、きよしの手を握り可愛い眉をちょっと上げて、笑顔のままできよしのほっぺにキスをした。
 
 それでも反応のないきよし。
 ところが、そんなきよしを見て、アゴを落とす小林とルオ。
 
 なぜか、震え始める2人。
 
 きよしの正面に立つ小林とルオが、ガタガタと震えて不味い顔をして目を合わせた。
 
 普段のきよしなら、人前でジェシカにキスされるとダラーっとだらしない笑顔をして、照れながら頭を掻くのだ。それがきよしのワンパターンのリアクション。
 
 人が集まる時とか、訓練の時でもデレーっとニタニタだらしない笑顔のままのきよしだったが。

 これは全く本人の自覚がない事なのだが……。
 
 一大事や大事件が起きる訓練の時は寝起き後、しばらくは真顔なのだ。
 
 小林が笑い話で、訓練の厳しさをきよしの寝起き顔で判断する為「お子ちゃまきよし、寝起き(顔)占い」をルオやジュリアに良く話している。
 
 ジェシカやリリアナは神掛かりの話は嫌いらしく、小林は2人にはしていなかった。
 
 だが、しかし。
 
 しかし、なのだ。
 
 その占いは100パーセント当たるのだ。
 その正確なエビデンスがあるのだ。
 
 貴重なお子ちゃまきよしデータを毎日日記に書いている小林。
 
 正確には、小林の(B5版ちびっこ日記帳)に、その日の出来事をマメに記述していたのだ。
 
 例えば、宇宙空間での訓練、行軍訓練、シュミレーター訓練、実機訓練。
 
 いかなる時もマメに書いていたのだった。
 
 ページの右上にお子ちゃまきよしの顔マークを書いていた。
 
 晴れ、曇り、雨のマーク代わりだった。
 
 そのきよしの顔と事件の相関性に気が付いた高校1年で、予備役訓練生の初夏から、地味に、地味に、そして、几帳面に描き続けている(コバ)こと、小林未央19歳。
 
 その寝起き神様の顔、今日の「お子ちゃまきよし寝起き(顔)占い」は大凶だったのだ。
 
 あろう事か、AXIS侵攻時にその事を告げた寝顔だった。
 
 100パーセント今日は大事件が起きる。必ず起きるというより、大勢のガッカリ者やケガ人が出る。
 
 必ず出るのだ。
 
 最近、小林の母がさっぽろ雪まつり会場で、札幌大通り公園テレビ塔前で応援に駆け付けた小林の父、小林未来みらいの応援演説。
 
 よせばいいのに調子に乗って親父ギャグ連発し、大勢の聴衆がガッカリしたばかりではないか。
 
 その日、応援演説の手伝いで小林の家に泊まったきよし、ルオ、そしてジェシカ。
 
 その時も、きよしの寝起き顔は大凶だった。
 ……生唾を飲む小林、ルオ、ジュリア。
 
 ルオとジュリアは、散々、きよしの寝起き占いを聞いていたのだ。
 
 コマンダーとしてのジュリアもチーム員のコンディション情報や分析をしていたため、ジュリアもきよしのリアクションが何かを注目していたのだ。
 
 思わず小林の腕を持つジュリア。
 
 次の瞬間、ジュリアナが膝を落とし、気絶した。

( ジュリーッ! )
 
( ジュリーおいっ、おい!ジュリアッ! )

 直ぐにジュリアナを介抱する小林、ジェシカ、リリアナだった。
 
 ジュリアの顔をピシピシ叩くジェシカ。
 
「兵隊っ!しっかりしなさい。起きろ兵隊!これからが本場よ!戦場へ行くのよ!馬鹿ものっ!」
 
 ハッと気が付くジュリア・T・ジャクソン中尉。
 
 ジェシカや小林に、不味い顔をしながら立ち上がるジュリア。

( ハハハッ! )

 爆笑する4人の機動モービルHARMORのトップパイロットたち。
 
 ひとり、ポカーンとしている寝ぼけ大魔王のきよし。
 
「未央っ!もうやりすぎ!ハハハッ。」
 
 リリアナが、小林の目を見て、胸が汚れてるとアピールして自分の胸を指さす。
 
 下を見た小林の鼻ずらを指先で下からなぞった。
 いつも引っかかる小林未央、19歳。
 
「あっ、もうリリアナっ!もう、あははっ。」
 
「未央は、隙があり過ぎるんだよ。ハハハッ。」
 
 頭を抱えて笑う小林。
 
 その横でジェシカが、再び背伸びして吐く寸前の様な顔をしてるきよしのほっぺにキスをした。
 
 続いてリリアナがルオを、ジュリアが小林の頬にキスをした。照れる3人の男たち。
 
 だらしない笑顔に戻って、エヘヘと笑うきよし。
 きよしの意識が、この世に、この現世に戻って来たようだった。
 
 その時、ブリーフィングルームに出撃のベルとアナウンスが入った。

( ジリジリジリ、ジリジリジリ、第81訓練小隊、第90訓練小隊、出撃です。第81訓練小隊、第90訓練小隊、出撃です。ジリジリジリ、ジリジリジリ~。 )

 ベルの音に反応して、精悍な顔つきになる椎葉きよし。
 
 きよしの表情を見て、不敵な笑顔になるジェシカが、こぶしを前に出した。
 
 円陣を組み、それに続く5人のパイロットたち。
 
「遊びはこれでおしまい!さ~さ~!いーかい!」
 
 各々の男女の顔を見て、さらに不敵な笑顔をするジェシカ・スミス少佐。
 
 お互いの目を見て不敵な笑顔をする面々と、掛け声をかけるジェシカ。
 
 目がランランと輝き始めるきよし。
 
「地獄の紳士淑女諸君っ!さー!行くよっ!」
 

( フーララッ、フーララッ、フーララッ、 )

(( フーッ!! ))
 

 腕を宙高く上げて、気合を入れる6人だった。
 
 円陣の後、ブリーフィングルームを駆け足で去った。
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