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第3章 内方エイモスチーム。
第1話 女戦士ベクター、謎の負傷。
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中国、海南島沿岸の深夜を過ぎた頃。
満天に広がっていた星空もそろそろ夜明けの光で薄くなり始めた。
海中で、ゆっくり進む大きな影。
巨大潜水母艦の「ワタツミ」が進んでいた。
その減圧室の(DDCルーム)で、特務科の戦士たちが減圧を終わるのを待っていた。
「あ~あ、減圧室、後35分もあるの~。腹減った……。あ~今日は疲れたぁ。徳さんのカレー食べたい。徳山料理長の。そのあと、徳さん特製プディングも!プディング!プディング!」
と女性戦士のベクター(マリアンヌ・ゴーティエ:フランス人)少尉。
ベクターは、DDCルームで、減圧を終わるのを我慢出来なくなり騒ぎたてた。
その横に座る大男の戦士が、横目でベクターを見ながら呆れて言った。
元シールズ(アメリカ海軍特殊部隊)で、携行兵器(兵士が扱う対戦車、対航空、対潜兵器)のプロフェッサーでもあるガイザー(ロナルド・ノア少尉:アメリカ人)だった。
「お前、よく敵とはいえ、人を殺した後に食欲あるなぁ。それより、お前、ベクター!ヘイッお前!肩、撃たれてるだろ!傷開いてるんだろ。それ血っ!血が流れてるだろー。大丈夫かぁ。」
自分の撃たれた肩をチラッと見るベクター。
腕を伝って、ベクターの小指から血が滴っている。
ポタポタと、床に血が滴り落ちている。
「フフ~ン。こんなもの。食欲の方が勝るのさ。ガイザー、蚊に刺されて痒くなるよりいいわよ。」
「オー、ビッチ!」
両手の平を向けて、嫌な顔をして、ベクターの方に手を振るガイザー。そして、ベクターの肩の傷口を目を細めて見た。
「あ!お前なー!減圧で、傷口の肉が盛り上がってんだろ!お前、ヤセ我慢して。どうでもいいけど、次の作戦行動の支障にするなよ。なぁベクター、聞いてるか。傷口、粉で消毒してラピットのパッチ(消毒抗炎症貼布)張ったのか?今からでも抗生剤の注射打てよ。」
「ふふん。消毒ってセロックスくらいしたわよ……。あっ!セロックスの粉、振りかけてない。でもドクたちが来るからいいわ。ふふん。パッチだけで十分、十分。」
ガイザーが、大声になる。
「お前!感染症になるぞ!パッチ張ってるのに圧力差で出血してるだろうが。バカじゃねーの。」
舌を出して、両手を広げるジェスチャーをするベクター。
ベクターはアーマー・アンダー・スーツ(衝撃硬化戦闘用の下着)の穴が開いている所をつまんだ。
「それより、ちょっとガイザー。アーマー・スーツの硬化が利かなかった事にショック~ッ!地味に傷が痛いし。」
布を引っ張って肩ごと、ガイザーに見せた。
立ち上がって覗くガイザー。
肩は、減圧対応の簡単な応急処置でパッチ膏を張っているが、血が滲み出ていた。どちらかというと、アーマースーツの穴より、この時点ではベクターの傷の方が気になるガイザーだった。
昨年の対馬戦役の時、椎葉きよしや布村愛子たちが来ていたアンダー・アーマー・スーツと同じものを内方チームが着ていたのだ。
ただし、特殊な周波数では、スーツの炭素繊維はカスケード硬化が解除されてしまうのだ。
特に緊急手術など、患部の布を切るために特殊な周波数の電波を当てて柔らかい布に戻すためなのだ。
新型のレールガンの弾が、なんらかの方法で解除周波数を発して、ベクターのアンダー・アーマー・スーツを破り、ベクターの右肩を負傷させたのだ。
「ガイザー。これー、もうこれ。新型のスーツが破られた。新型よ!あんたもショックじゃないの。」
「あ。まぁ、俺もショックだったけどな。一瞬、射撃をためらってしまった。まさかって思ったよ。」
ひたいを指先で掻いて、おとなしくなるガイザー。
ガイザーがまた、椅子に座った。
「撃って来た銃、まだ開発途中なのか、そこに立ててあるライフル弾は威力が弱くて肩を貫通せず、三角筋の中で眠ってるけどさぁ。ちょっと脈打ってるわ。親指と人差し指の内側がしびれてるし。」
「ベクッ?脈打ってるって、ダメだろ。」
触ろうとするガイザーの手をパシンと思いっきり叩くベクター。
( パシンッ。 )
「痛っ。もう、ビッチ。知らんぞ。あはははっ。よっこらしょっと。」
強がるベクターに、呆れながらガイザーがまた、立ち上がった。
のっそり壁まで歩いて行き、壁に立て掛けた銃身の長いライフルの横でしゃがんだ。
それは、新しいチームメイトの少女2人が鹵獲した新型ライフルなのだ。
「これかぁ。新人の2人、よく気が付いて持って来た。エイモス、これだな。バッテリー内臓か?結構重っ。あれっ、動かない、あっ、あれっ?さっき軽かったよな。結衣ちゃん……、あれっ、動かないや。」
一度、ライフルを持ち上げようとしたがフフフッと笑ってから、重過ぎてあきらめ壁に立て直すガイザー。
そのガイザーたちを、作戦リーダーの内方中佐がチラッと薄目を開けて見ていた。
AIのエイモスに話しかける内方。
「エイモス?これ、これ登録外か?レールガンだろ?」
AIのエイモス(対馬攻防戦で椎葉きよしと共に活躍したAI。)が答える。
( ハイ。それはレールガンです。シーラスでは登録外の新型電子ライフルです。敵の方でも未登録装備です。既にシーラス本部に直接(御舩、メリッサ)連絡させて頂きました。中佐、アーマー・アンダー・スーツを破る特殊な周波数を既にアクシスが掴んでいるとは。驚きです。後でドクター「J」の、装備チームが引き取りに来ます。 )
ガイザーがベクターと内方を見ながらまた、立て掛けた敵のレールガン・ライフルの銃口を持って眺めた。
「もしかしたら、敵潜の全艦出航の情報より、スーツ破りの情報の方が、今日一番の収穫じゃないのか?でもおかしいな。敵さんも新しいスーツ着ててもおかしくないのに。エイモス?どうだ?敵兵はいつも通り、俺たちの弾が当たれば倒れてた。なぁ?ベクター。」
「ふん。私は20人以上、倒した。」
戦果を誇るベクターに呆れて手を広げるガイザー。
「キャップ(内方中佐)?だ、そうです。あははっ。」
下唇を出して眉をあげる、チームリーダーの内方中佐だった。
そして、間をおいて解説するエイモス。
( 中佐、敵兵はAXIS軍の標準防衛被服を着用していました。 )
ドスンと椅子に座り直し、両手を後頭部で組んで、背もたれに寄りかかるガイザー。
「へ~。武器だけの開発かぁ。どういう事ですか?キャップ(内方中佐)?」
内方は椅子に座ったまま身を乗り出し、両肘を膝に付けた。
そして、内方はひたいを掻いてしゃべり始めた。
「ガイザー、これは恐らく(基本的にカスケード変形……)あはははっ。」
その内方の言葉に、かぶしてガイザーへ解答するAIのエイモスだった。
手を広げて笑う内方。
( 基本的にカスケード変形……失礼しました内方中佐。「いや、いいよ。エイモス。続けて。」ありがとうございます中佐。我々特務科のドクターやナースなど医療関係者からは絶対漏れないです。文書、通信は私が監視しています。事務武官や一般兵も、そして将官、将校全てです。 )
焦るガイザーやベクター。
「えっ?監視って、そうなの?エイモス。」
ピクッと反応するベクター。
「私たち、アンタに監視されてたの?えー!」
焦って、自分たちのスマハンドを見始めるDDCルームの内方チームたち。周りを見てにやける内方中佐。
( はい。もちろんです。軍事活動中です。情報戦は最も大切なのです。 )
(なっ!そうゆう事。)と、無言で欧米人のように、肩眉を上げ両手を開いてジェスチャーをする内方はじめだった。中村の背中を撫でながらチラッと内方の仕草をみて笑う佐藤結衣。
( そこで、そう考えると製造過程での流出かも知れません。基本的にカスケード変形炭素繊維の開発と製造は世界中で日本だけです。恐らく製造過程の一部分の情報が産業スパイにより盗まれ、エネミー(敵の中華帝国・AXIS)に流出したものと思われます。エネミー(敵のAXIS)とのビジネス協定が、我が日本も、名目中立国のドイツなどと同じように現在、有効ですので。 )
笑う結衣に気が付き、ニッコリ笑顔でまたジェスチャーを大げさにする内方。
クスクス笑う結衣。
「それでも、もうスーツ破りが出来たんだから、不味いだろ。」
隣に座るベクターの穴の開いた部分をつまみ、軽く引っ張るガイザー。
両手を広げて、唇をへの字にして、ふざけて何度も大きくうなずく女兵士のベクター。
( 既に出撃した部隊のスーツも含め、全てのシーラスでシーラス・マザーが中心となり、硬化解除周波数の更新を世界中で行いました。 )
「なるほど。エイモスさん、俺たちは?」
自分の服を引っ張るガイザー。
( ベクターが撃たれ、スーツが貫通した時から皆さん、皆さんと私が管理するエイモス全部隊のスーツ硬化解除周波数はシーラス・マザーが変更しています。 )
「おー、さすがエイモス。」
( ノア中尉(ガイザー)。ありがとうございます。ベクターが撃たれたと同時に暗号通信でマザーに報告しました。時間的に2分後には、全部隊の解除周波数は変更されているハズです。ただ、気になることがあり、万が一の為、私の管轄している部隊はもう一度、マザーの知らない周波数へ変更。(おー!さすが、エイモス!よし!スゲー!)その周波数は、目下マザーは認識していません。(うわー!エイモスは宇宙最高のAIだ。かしこすぎる。)ありがとう御座います、内方中佐。少なくとも、私の目が届くワタツミ級全艦と所属艦の全艦艇、全兵器を運営する部隊員、大気圏外では衛星基地のシーラス2ボーチャンを始め、「すみれ」「さくら」などのダイレクト・リンケージが張れる攻撃衛星の「ブロンシュ」の搭乗員そして…… )
「ハイハイ、解りました解りましたエイモス。エイモス大先生、もう参りました。あなたは凄い、凄い!御免なさい、参りました。聞いた私がバカでした。」
ふざけて、手を合わせ、ひざまずいて、神様に許しを請うように言うガイザーだった。
両手を大げさに上げて、そのまま上半身をかしずいた。
(( あははっ! ))
大笑いする減圧室の面々。
それを無視するように回答し続けるエイモス。
( ノア中尉(ガイザー)、ご心配なく。そのベクターの1発だけです。同じ周波数ではスーツは破れません。もう、ベクターの肩にある弾は、ただのAXIS製、ロシアのコピー。薬きょうがない7ミリのケースレス弾(薬きょうが無い)のスチールヘッド(鋼鉄弾)です。今では皆様の来ているアーマー・アンダー・スーツは、全弾跳ね返します。 )
「そうかぁ?あははっ。まぁ、ひと安心。安心。」
椅子に座り直し、眉をあげて手の平を広げて、澄ますガイザーだった。
内方とベクター、佐藤結衣と中村が目を合わせる。
細かく頭を上下に振りながら手を開いてジェスチャーをする内方。
また笑うチーム員と、身を乗り出し結衣に話しかける内方はじめ。
「そうか、そうか。とりあえず安心した。ところで結衣ちゃん、サッチーは?」
眉をあげて、中村をのぞき込む佐藤結衣。
「どう?サッチー気分は……。どうなの?」
内方に振り向いて話す中村・スーザン・幸子。
「ご心配おかけしました。大丈夫です。まだ頭が痛いですけど。」
「皆が落ち着いた時、いきなり減圧室で吐くからさ。ビックリした。でも良かった。」
「中村?サッチー?」
ゆっくり立ち上がり、中村の横に行ってしゃがみ、佐藤と一緒に中村の背中をさする内方。
「僕も水中訓練の時は、減圧の度にもどして、皆へ迷惑かけてた。気にするな。体が自然になれる。まぁ昔は減圧にDDC(加減圧室)に5日以上掛かってたけどさ。……今は30分ちょっとで減圧出来るなんてな。凄い世の中だよサッチー。減圧病か、どうか、わからないけど。もう少しで外に出られるから、ちょっと辛抱して。」
背中をさすりながら、中村の顔を覗いて、やさしく話す内方はじめだった。
内方は、何気なく目線が気になり見ると、佐藤結衣が内方を見ていた。ニッコリする2人。
色白の超美人の結衣が内方の手の甲を、その真っ白い手でさする。その2人を見て、「おっ!」「おっ!」っと目を合わせて、冷やかしの顔で反応するガイザーとベクターだった。
「ワタツミ」の減圧室の外に広がる廊下。
医療処置を考えて車、数台分の広い空間があった。
そのDDCの内部を映す数個のモニターの前には内方チームの一員となった、元ポーランド共和国軍・特別機動歩兵部隊( JWPZ:Jednostka Wojskowa Piechoty Zmotoryzowanej )のトラッシュ・リーバ中尉がいた。
情報特務科のディープグリーン色の制服・ベレー制帽のいで立ちで、「ワタツミ」の医療チームのドクたちと一緒にいたのだ。
トラッシュは、心配そうにDDCの小さい窓を覗いたり、モニターを見ていた。
彼は新たに加わった5人の日本人少女、エイモス5の護衛の1人であり、専任の普通科装備兵装(武器弾薬や移動兵器、車輛など)訓練教官でもあるのだった。
( タッタッタッ! )
そこに情報特務科のディープグリーンのベレー制帽を被った女の子が走って来た。
大きな胸がはじけそうな情報特務科の襟の淵が薄いグリーンの白いカッターシャツと、スカート姿のちっちゃな女の子が急いで走って来たのだった。
満天に広がっていた星空もそろそろ夜明けの光で薄くなり始めた。
海中で、ゆっくり進む大きな影。
巨大潜水母艦の「ワタツミ」が進んでいた。
その減圧室の(DDCルーム)で、特務科の戦士たちが減圧を終わるのを待っていた。
「あ~あ、減圧室、後35分もあるの~。腹減った……。あ~今日は疲れたぁ。徳さんのカレー食べたい。徳山料理長の。そのあと、徳さん特製プディングも!プディング!プディング!」
と女性戦士のベクター(マリアンヌ・ゴーティエ:フランス人)少尉。
ベクターは、DDCルームで、減圧を終わるのを我慢出来なくなり騒ぎたてた。
その横に座る大男の戦士が、横目でベクターを見ながら呆れて言った。
元シールズ(アメリカ海軍特殊部隊)で、携行兵器(兵士が扱う対戦車、対航空、対潜兵器)のプロフェッサーでもあるガイザー(ロナルド・ノア少尉:アメリカ人)だった。
「お前、よく敵とはいえ、人を殺した後に食欲あるなぁ。それより、お前、ベクター!ヘイッお前!肩、撃たれてるだろ!傷開いてるんだろ。それ血っ!血が流れてるだろー。大丈夫かぁ。」
自分の撃たれた肩をチラッと見るベクター。
腕を伝って、ベクターの小指から血が滴っている。
ポタポタと、床に血が滴り落ちている。
「フフ~ン。こんなもの。食欲の方が勝るのさ。ガイザー、蚊に刺されて痒くなるよりいいわよ。」
「オー、ビッチ!」
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「あ!お前なー!減圧で、傷口の肉が盛り上がってんだろ!お前、ヤセ我慢して。どうでもいいけど、次の作戦行動の支障にするなよ。なぁベクター、聞いてるか。傷口、粉で消毒してラピットのパッチ(消毒抗炎症貼布)張ったのか?今からでも抗生剤の注射打てよ。」
「ふふん。消毒ってセロックスくらいしたわよ……。あっ!セロックスの粉、振りかけてない。でもドクたちが来るからいいわ。ふふん。パッチだけで十分、十分。」
ガイザーが、大声になる。
「お前!感染症になるぞ!パッチ張ってるのに圧力差で出血してるだろうが。バカじゃねーの。」
舌を出して、両手を広げるジェスチャーをするベクター。
ベクターはアーマー・アンダー・スーツ(衝撃硬化戦闘用の下着)の穴が開いている所をつまんだ。
「それより、ちょっとガイザー。アーマー・スーツの硬化が利かなかった事にショック~ッ!地味に傷が痛いし。」
布を引っ張って肩ごと、ガイザーに見せた。
立ち上がって覗くガイザー。
肩は、減圧対応の簡単な応急処置でパッチ膏を張っているが、血が滲み出ていた。どちらかというと、アーマースーツの穴より、この時点ではベクターの傷の方が気になるガイザーだった。
昨年の対馬戦役の時、椎葉きよしや布村愛子たちが来ていたアンダー・アーマー・スーツと同じものを内方チームが着ていたのだ。
ただし、特殊な周波数では、スーツの炭素繊維はカスケード硬化が解除されてしまうのだ。
特に緊急手術など、患部の布を切るために特殊な周波数の電波を当てて柔らかい布に戻すためなのだ。
新型のレールガンの弾が、なんらかの方法で解除周波数を発して、ベクターのアンダー・アーマー・スーツを破り、ベクターの右肩を負傷させたのだ。
「ガイザー。これー、もうこれ。新型のスーツが破られた。新型よ!あんたもショックじゃないの。」
「あ。まぁ、俺もショックだったけどな。一瞬、射撃をためらってしまった。まさかって思ったよ。」
ひたいを指先で掻いて、おとなしくなるガイザー。
ガイザーがまた、椅子に座った。
「撃って来た銃、まだ開発途中なのか、そこに立ててあるライフル弾は威力が弱くて肩を貫通せず、三角筋の中で眠ってるけどさぁ。ちょっと脈打ってるわ。親指と人差し指の内側がしびれてるし。」
「ベクッ?脈打ってるって、ダメだろ。」
触ろうとするガイザーの手をパシンと思いっきり叩くベクター。
( パシンッ。 )
「痛っ。もう、ビッチ。知らんぞ。あはははっ。よっこらしょっと。」
強がるベクターに、呆れながらガイザーがまた、立ち上がった。
のっそり壁まで歩いて行き、壁に立て掛けた銃身の長いライフルの横でしゃがんだ。
それは、新しいチームメイトの少女2人が鹵獲した新型ライフルなのだ。
「これかぁ。新人の2人、よく気が付いて持って来た。エイモス、これだな。バッテリー内臓か?結構重っ。あれっ、動かない、あっ、あれっ?さっき軽かったよな。結衣ちゃん……、あれっ、動かないや。」
一度、ライフルを持ち上げようとしたがフフフッと笑ってから、重過ぎてあきらめ壁に立て直すガイザー。
そのガイザーたちを、作戦リーダーの内方中佐がチラッと薄目を開けて見ていた。
AIのエイモスに話しかける内方。
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( ハイ。それはレールガンです。シーラスでは登録外の新型電子ライフルです。敵の方でも未登録装備です。既にシーラス本部に直接(御舩、メリッサ)連絡させて頂きました。中佐、アーマー・アンダー・スーツを破る特殊な周波数を既にアクシスが掴んでいるとは。驚きです。後でドクター「J」の、装備チームが引き取りに来ます。 )
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「キャップ(内方中佐)?だ、そうです。あははっ。」
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「ガイザー、これは恐らく(基本的にカスケード変形……)あはははっ。」
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手を広げて笑う内方。
( 基本的にカスケード変形……失礼しました内方中佐。「いや、いいよ。エイモス。続けて。」ありがとうございます中佐。我々特務科のドクターやナースなど医療関係者からは絶対漏れないです。文書、通信は私が監視しています。事務武官や一般兵も、そして将官、将校全てです。 )
焦るガイザーやベクター。
「えっ?監視って、そうなの?エイモス。」
ピクッと反応するベクター。
「私たち、アンタに監視されてたの?えー!」
焦って、自分たちのスマハンドを見始めるDDCルームの内方チームたち。周りを見てにやける内方中佐。
( はい。もちろんです。軍事活動中です。情報戦は最も大切なのです。 )
(なっ!そうゆう事。)と、無言で欧米人のように、肩眉を上げ両手を開いてジェスチャーをする内方はじめだった。中村の背中を撫でながらチラッと内方の仕草をみて笑う佐藤結衣。
( そこで、そう考えると製造過程での流出かも知れません。基本的にカスケード変形炭素繊維の開発と製造は世界中で日本だけです。恐らく製造過程の一部分の情報が産業スパイにより盗まれ、エネミー(敵の中華帝国・AXIS)に流出したものと思われます。エネミー(敵のAXIS)とのビジネス協定が、我が日本も、名目中立国のドイツなどと同じように現在、有効ですので。 )
笑う結衣に気が付き、ニッコリ笑顔でまたジェスチャーを大げさにする内方。
クスクス笑う結衣。
「それでも、もうスーツ破りが出来たんだから、不味いだろ。」
隣に座るベクターの穴の開いた部分をつまみ、軽く引っ張るガイザー。
両手を広げて、唇をへの字にして、ふざけて何度も大きくうなずく女兵士のベクター。
( 既に出撃した部隊のスーツも含め、全てのシーラスでシーラス・マザーが中心となり、硬化解除周波数の更新を世界中で行いました。 )
「なるほど。エイモスさん、俺たちは?」
自分の服を引っ張るガイザー。
( ベクターが撃たれ、スーツが貫通した時から皆さん、皆さんと私が管理するエイモス全部隊のスーツ硬化解除周波数はシーラス・マザーが変更しています。 )
「おー、さすがエイモス。」
( ノア中尉(ガイザー)。ありがとうございます。ベクターが撃たれたと同時に暗号通信でマザーに報告しました。時間的に2分後には、全部隊の解除周波数は変更されているハズです。ただ、気になることがあり、万が一の為、私の管轄している部隊はもう一度、マザーの知らない周波数へ変更。(おー!さすが、エイモス!よし!スゲー!)その周波数は、目下マザーは認識していません。(うわー!エイモスは宇宙最高のAIだ。かしこすぎる。)ありがとう御座います、内方中佐。少なくとも、私の目が届くワタツミ級全艦と所属艦の全艦艇、全兵器を運営する部隊員、大気圏外では衛星基地のシーラス2ボーチャンを始め、「すみれ」「さくら」などのダイレクト・リンケージが張れる攻撃衛星の「ブロンシュ」の搭乗員そして…… )
「ハイハイ、解りました解りましたエイモス。エイモス大先生、もう参りました。あなたは凄い、凄い!御免なさい、参りました。聞いた私がバカでした。」
ふざけて、手を合わせ、ひざまずいて、神様に許しを請うように言うガイザーだった。
両手を大げさに上げて、そのまま上半身をかしずいた。
(( あははっ! ))
大笑いする減圧室の面々。
それを無視するように回答し続けるエイモス。
( ノア中尉(ガイザー)、ご心配なく。そのベクターの1発だけです。同じ周波数ではスーツは破れません。もう、ベクターの肩にある弾は、ただのAXIS製、ロシアのコピー。薬きょうがない7ミリのケースレス弾(薬きょうが無い)のスチールヘッド(鋼鉄弾)です。今では皆様の来ているアーマー・アンダー・スーツは、全弾跳ね返します。 )
「そうかぁ?あははっ。まぁ、ひと安心。安心。」
椅子に座り直し、眉をあげて手の平を広げて、澄ますガイザーだった。
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細かく頭を上下に振りながら手を開いてジェスチャーをする内方。
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「そうか、そうか。とりあえず安心した。ところで結衣ちゃん、サッチーは?」
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「どう?サッチー気分は……。どうなの?」
内方に振り向いて話す中村・スーザン・幸子。
「ご心配おかけしました。大丈夫です。まだ頭が痛いですけど。」
「皆が落ち着いた時、いきなり減圧室で吐くからさ。ビックリした。でも良かった。」
「中村?サッチー?」
ゆっくり立ち上がり、中村の横に行ってしゃがみ、佐藤と一緒に中村の背中をさする内方。
「僕も水中訓練の時は、減圧の度にもどして、皆へ迷惑かけてた。気にするな。体が自然になれる。まぁ昔は減圧にDDC(加減圧室)に5日以上掛かってたけどさ。……今は30分ちょっとで減圧出来るなんてな。凄い世の中だよサッチー。減圧病か、どうか、わからないけど。もう少しで外に出られるから、ちょっと辛抱して。」
背中をさすりながら、中村の顔を覗いて、やさしく話す内方はじめだった。
内方は、何気なく目線が気になり見ると、佐藤結衣が内方を見ていた。ニッコリする2人。
色白の超美人の結衣が内方の手の甲を、その真っ白い手でさする。その2人を見て、「おっ!」「おっ!」っと目を合わせて、冷やかしの顔で反応するガイザーとベクターだった。
「ワタツミ」の減圧室の外に広がる廊下。
医療処置を考えて車、数台分の広い空間があった。
そのDDCの内部を映す数個のモニターの前には内方チームの一員となった、元ポーランド共和国軍・特別機動歩兵部隊( JWPZ:Jednostka Wojskowa Piechoty Zmotoryzowanej )のトラッシュ・リーバ中尉がいた。
情報特務科のディープグリーン色の制服・ベレー制帽のいで立ちで、「ワタツミ」の医療チームのドクたちと一緒にいたのだ。
トラッシュは、心配そうにDDCの小さい窓を覗いたり、モニターを見ていた。
彼は新たに加わった5人の日本人少女、エイモス5の護衛の1人であり、専任の普通科装備兵装(武器弾薬や移動兵器、車輛など)訓練教官でもあるのだった。
( タッタッタッ! )
そこに情報特務科のディープグリーンのベレー制帽を被った女の子が走って来た。
大きな胸がはじけそうな情報特務科の襟の淵が薄いグリーンの白いカッターシャツと、スカート姿のちっちゃな女の子が急いで走って来たのだった。
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ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
「メジャー・インフラトン」序章3/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 FIRE!FIRE!FIRE!No2. )
あおっち
SF
とうとう、AXIS軍が、椎葉きよしたちの奮闘によって、対馬市へ追い詰められたのだ。
そして、戦いはクライマックスへ。
現舞台の北海道、定山渓温泉で、いよいよ始まった大宴会。昨年あった、対馬島嶼防衛戦の真実を知る人々。あっと、驚く展開。
この序章3/7は主人公の椎葉きよしと、共に闘う女子高生の物語なのです。ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。
いよいよジャンプ血清を守るシンジケート、オリジナル・ペンタゴンと、異星人の関係が少しづつ明らかになるのです。
次の第4部作へ続く大切な、ほのぼのストーリー。
疲れたあなたに贈る、SF物語です。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
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