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第4章 命をつなぐ者たち。

第6話 瞼の家族。

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■ 戦闘が終わった台湾・大金門島、その北部上空。

(( キィーンゴゴゴゴーヒュィーン……。 ))
 
 大金門島の至る所で、停戦を受け上空で待機していた巨大な武装急襲攻撃型のスペース・シャトル・オービターが、着陸の為のランディング・シークエンス(着陸準備)に入っていた。
 
 大金門島の北部海岸へ降下し、ゆっくり大きな左旋回に入るルフェーブル大佐の1番機「ビッグワン」、続くトム・レイアー大尉の4番機「ビックフォー」の2機。

 仲良くならんで島の北部海岸上空から低空で進入して来た。

 海上のヴィクトリアの02艦隊の直上を旋回しながら島の内部に向かって飛行していた。
 
 「ビッグワン」の下に映る02艦隊の姿を確認する副機長のオナー大尉。
 
 オナーが目を細めて見ると「ステファン・ヴァシンスキー」や、重巡戦艦、ミサイル軽巡洋艦などの戦闘甲板や、浮上した潜水艦隊の甲板で、自機「ビッグワン」に向かって大勢の兵士が手を振っていた。

(( ヒュィーンゴー! ))
 
(( ヒュィーンゴー! )) 
 
 コクピット中央のメインモニターには、大金門島の地図の上で、西側の友軍の2番機、5番機のオービターABチームが、島の東南部では3番機、6番機のACチームのランディング・コースに入ったアニメーションラインが動いている。
 
 コクピットの後ろを振り向くオナー副機長。
 
 操縦席の後ろ、コンバット・エリアの情報武官やガンナーたちクルー全員は無表情で、ランディング・シークエンスにともなう各部署の準備を、無言で淡々とこなしていた。
 
 機内では、だれも言葉を発っしなかった。
 横のルフェーブル大佐を見ても、楽しいリアクションもせずモクモクと計器を確認している。
 ラムジェット音、風の音、そして各コンソールなどの機械音だけがしていた。

「……ふ~。」
 
 オナーは眉を上げ、ため息をついた。
 気合を入れなおし、自分もランディング・シークエンスのコース確認を始めた。
 
 この2機にも当然、苫小牧防衛守備部隊の壊滅の報が入っていた。
 その直前には僚機、ローザンヌ・ガルシア機長の10番機、「シレーヌ」が、敵無人砲撃隊のオルカ部隊へスーサイド・アタックをした事にもショックを受けていたのだ。
 この時点では、ローザンヌ・ガルシア大佐の生死は彼らには不明だった。
 
 大金門島、帰化爆弾の爆心地で整然と並ぶローマン・マズル大佐以下、シーラスHARMAR部隊とWALKAR部隊だった。
 シーラス・台湾のオートマ部隊の英国製・無人対空対HARMORミサイル装甲車「エイジャックス」の200台以上も、ズラッと並んでいた。
 
 その整列する大部隊の姿は、息が止まるほど精悍な眺めだった。
 
 その整列する部隊正面へ、着陸態勢に入るルフェーブル機長の「ビッグワン」と続くトム・レイアー機長の「ビッグフォー」の2機のオービター。
 ラムジェット・エンジンノズルを下に向け、整列した軍団の上空で止まり、ジェット噴射を更に吹かしてゆっくり降下して来た。
 
 整列し敬礼する大隊長のローマン・マズル大佐へ、妻のオリエッタからバルトの訃報が入る。
 整列した簡易礼式中なので、部隊全体に一般オープン回線で入ったのだ。
 
 ( ビー! )
 
 聞き入る部下のHARMORパイロットたち。
 ローマンと作戦行動を共にしたチームAAのアタッカー・HARMORの2機もローマン機と並んで立っていた。

 AA2「コヨーテ」のビリー・ロドリゲス少尉、横に並ぶAA2「スティングレー」のスカーレット・ルー・ベルトラン中尉の2機が、お互いのモニターで目を合わせた。

「マム(AI)?なんだこんな時に、誰からだ。」

( オリー(妻のオリエッタ博士)よ、マズル大佐。 )

「こんな時に……。」

( こんな時だからよ。早く出なさい大佐。 )

 垂直着陸シークエンスに入り、降下を始める「ビッグワン」のコクピット・クルー全員も聞き入っていた。
 2人の戦略戦術女性コマンダーのサリー・ムーアとエバーレイ・ダンも目を合わせる。
 なぜか、ニッコリしてから腕を組んで上を向くルフェーブル大佐。
 横では、慎重に着陸操作をしているオナー副機長が、ルフェーブルに真面目に言った。

「機長、マズル夫妻のセンシティブ通話ですから、切りますか。」

 コクピットの後ろのクルーや、ルフェーブルの奥の窓に映るトム・レイアー機をチラチラ見た。
 再びニッコリして両腕を今度は頭の後ろに回して深くシートに背中を当てる機長だった。
 右眉を上げてチラッと副機長を見て、楽しそうに言うルフェーブル大佐だった。

「いや……そのままにしてくれないか。オナー。フフッ。」

 その笑顔を見て何となく意味が判ったオナー副機長だった。
 それもオナー機長が成長した証だった。
 
 命のやり取りから生還した戦士たち。
 誰かの家族との「やり取り」を直接聞くことで、自分の家族を思い出すような、なぜか安らぎを得るのだ。
 戦士たちは、自分の思いが、故郷の家族へと、つながる思いがするのだ。
 
 ルフェーブルを見ながら、ニコニコと首を振って操作を続けるオナー副機長。
 
「ハハハッ。機長了解しました。通信はそのままで。エバーレイ、カウント続けて。」

「はい!副機長。ランディングまで47メートル、降下速度25(時速25キロ)、速度……21、さらに降下速度、減速中……。」

 また、のんびりしたままルフェーブルがオナーに指示をする。
 
「オナー、ランディング・ギア。」

「はい!ランディング・ギア降ろします。」

 「ビッグワン」の腹部から、物凄い数のタイヤを付けた複数の「ランディング・ギア」が出て来た。
 本格的にランディング・シークエンス(着陸態勢)に入り、物凄いジェット噴射が下にならんだHARMOR部隊へ、土砂の噴煙を浴びせ始めた。

( キィーン!ズゴゴゴゴーッ! )
 
 ローマンのコクピット内では、引き続き、ローマンへ説教じみた事をいうAIの「マム」だった。
 ※ 実は、「マムの」正体はエイモスAIだった。

( マズル大佐、オリーが心配するでしょう。早く出なさい!ローマン。 )
 
「あ、え?はい、マム(AI)。……ハイ、ハニー(オリエッタ)?今、俺も聞いた。……バルトは残念だ。」

( パパは? )

「ふっ。明日か、明後日、一緒に、ポーに戻るよ。特に何もなければ、だけどな。」

( そうじゃなくて、パパは無事なの? )

 あっ!と妻の気持ちに気が付いて、ハッキリ無事を伝えるローマンだった。

「あっ、ごめんハニー、俺は無事だ。部隊全員無事だ。」

( うっ……うっ。うっ……。 )
 
 急に、全部隊の部下たちが、ガサゴソとローマンとオリエッタの会話を聴いて家族の写真を見始めた。
 
「ん?どうしたハニー!ハニー!」
 
( パパ、愛してるわ。chu。……ズルッズルッ。いや……ゴメンなさい。なんでもないわ。 )

「ああ。chu!シルビアと、エッラには、次、千歳の売店で売ってる函館の塩ラーメン作る約束があるのさ。ラフ(ルフェーブル大佐)も千歳からポー経由で、マルセイユに戻る。それに乗ってたまには2人で、一緒にポーに帰ろう。」

( パパ、必ず迎えに来てね。 )

「あー。」

( 必ずよ! )

「あー。」

( フフッ。必ずよパパ、愛してる。Chu! )

 「スティングレー」のスカーレット・ルー・ベルトラン中尉のモニターに映る「コヨーテ」のビリー・ロドリゲス少尉。
 ビリーは口をへの字にしてから両手を開いた。
 ビリーは、顔を掻いて、何となく泣きそうになる自分をごまかした。
 
 スカーレットも、モニターウインドーに表示した「夫ディーノと私、2歳のジェレミー」の家族写真が、写るモニターを持ってキスを手でつけた。

「フフッ。Chu! 俺もだハニー。京子姉さんや麗子ちゃんにもよろしく。ハニー、じゃな。」

 着陸体制に入って操縦するルフェーブル大佐も、副機長のオナー大尉も、コンバット・ルームの事務武官たちも、整列するHARMAR部隊全ての戦士たちが望郷の思いを馳せた。
 中には、家族を思う念で涙を流す者もいた。

 ランディング(着陸)が終了した2機の「ビッグワン」と「ビッグフォー」。
 土煙が落ち着き、青空が帰ってきた頃、号令を掛けるローマン大佐だった。

(( 全隊ーっ、敬礼っ! ))

( ガシャガシャッ! )
( ガシャガシャッ! )

 着陸したオービターに向かって一斉に敬礼をする、壮大な整列のHARMOR部隊、WALKER部隊だった。
 
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