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第4章 命をつなぐ者たち。

第5話 蒼空の、東のかなた。

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……しかしだ、今は戦時。

 うれしいニュースの裏には、必ず多くの悲しい現実も待っていた。

          ◇          ◇
 
 02機動艦隊・旗艦「ステファン・バシンスキー」CDCルーム。
 
 クォ少将からの直接連絡を中央の艦長席で聞く、02艦隊司令ヴィクトリア・カミンスカ大佐。

 バルトシュ・カミンスキ中佐の実の姉だ。
 
「ノーラ・システム」に切り変わり、正確に情報が伝わるのは千歳だけではない。

 海上に投錨して戦後処理の作戦行動中の「ステファン・バシンスキー」CDCにも艦のメインフレーム「エイモスAIシステム」を通して、正確な苫小牧防衛守備部隊、全滅の報が流れてきているのだ。
 
 戦勝放送、戦勝レポートの報を受け歓喜に沸いたのも一瞬に過ぎなかった。

 頭を抱えるCDCクルーたち。
 
「……Och !」

(……うそ!)
 
「Co za rzecz. Co za rzecz. Cała obrona Tomakomai została zniszczona.」

(なんて事。なんて事なんだ。苫小牧守備隊が全滅だなんて。)

「Całkowita anihilacja, to absurdalne. Dlaczego? O, o.」 

(全滅なんて、ばかげてる。なんでなんだ?オー……。)
 
 金門県の勝ち戦で、喜びに沸いていたCDCルーム。

 ノーラ・システムの正しいリアルタイム情報で、一瞬にして暗い重苦しいムードになるのだった。
 
 当然、いの一番に艦隊司令のヴィクトリア大佐には全滅の報は入ってきている。

 そんな中、2つの大画面で状況を映し出す戦術モニターを真顔で話をしているヴィクトリアが居た。

( ……カミンスカ艦隊司令、お悔やみ申し上げます。残念です。…… )

「お伝えて頂き感謝いたします。ありがとうございますクォ少将閣下。これも軍人の定めです。私の両親も、弟の家族もとっくに、覚悟は出来ております。これは私の部下も同じことです。それでは、これで失礼致します。」

 心配して、チラチラッとヴィクトリアの顔を見るCDCのクルーたち。

 しかし、いつも通りの全く変わらない、少し厳しい目線のままのヴィクトリア・カミンスカ02艦隊司令だった。

 台湾の内陸部、嘉義空港にある巨大管制塔。
 
 ウーラノス型3番艦「アフロダイテイ」の擬態艦橋のクォ少将の自室。

 白い壁にもたれた、顔に三角形の3つのアザのある白髪男性が、スマハンド切った。

「ふ~っ、……ヴィック(ヴィクトリア)め。無理して。」

 帽子を被り直した。

 いまだ停戦の喜びに冷めやらぬ、喧騒に沸いているオペレーションルームへ向かうジミー(クォヂーミンのあだ名)だった。

          ◇

 静けさが戻って来たAXISの東の海上玄関。
 「厦門アモン市」
 
 既に領海、領空圏、そして厦門アモン市の港湾も占領確保し、その美しい船体を接岸投錨して佇むシーラス01艦隊旗艦、「エミリア・プラテル」。

 カモメの鳴く声も港湾に帰って来ていた。
 
 その指揮官や海兵隊、戦闘部隊が、廈門アモン市の港湾に続々と上陸していた。
 
 01艦隊の急襲揚陸艦から次々降りる戦闘車両や貨物車輛。

 浮上し、接岸した潜水母艦から続々と上陸する台湾の特殊部隊員たち。
 
 上陸臨時司令部・指揮テント内に、我らが格闘師範の01艦隊司令ゾフィア・ヴィチック准将の姿があった。
 
 AXISとの停戦協定の為、これから仲介してくれるPKSF(国連平和維持宇宙軍)やPKO(国連平和維持軍)の役人たちのとの打ち合わせのために、艦から降りてテントで待機していたのだ。
 
 司令部・指揮テント前に騒然とならぶ警備用重武装の無人WALKER(ロボ・スーツ)。

 シーラス・台湾の高砂族風装飾の武装WALKERだった。
 
 来週早々には郭少将とヴィクトリア、そして御舩ヒロシが署名の為に厦門アモンに訪れる予定だったから、役人たちと事前打ち合わせをする事となるのだ。
 
 そんな時、テントのゾフィアの自室へ部下の女性事務武官が敬礼をして入って来た。

 彼女は、小さな通信紙を手に持っていた。

 プライベートの訃報と直ぐにわかったゾフィアだった。

「突然、失礼します艦隊司令。あっ……。」
 
 自室前で通話中のゾフィアに静かに、敬礼をする彼女。

 うなずくゾフィアだった。
 
 実は、同時に栗山町のサンパチトレーラーのノーラ・アバターから直接バルトシュの訃報通信を受けていたのだ。

 ノーラはエレナや双子ちゃんたちを預かっている事を伝えたかったのだ。
 
 ノーラは、バルトシュ・カミンスカの実の姉、ヴィクトリアは今だ作戦行動中で、立場上伝えられないので直接、親友でヴィクトリアの上官にあたるゾフィアへ連絡したのだ。
 
 ゾフィアは左の手の平を耳に当てて、ノーラ・アバターの話を聴いていた。
 
 正面に立って、敬礼する女性事務武官に、話中のゾフィアは手の平を向けて「そのまま」と、無言の指示を出した。

 女性事務武官は、小さな紙をもう一度見て、悲しい顔をした。
 
「Och!No.Noバルト ……Och ! Huh~.(ポーランド語)教えてくれて、ありがとうノーラ。京子ママに……えっ、栗山にエレナたちが来てるの。そう……そう。はいノーラ良くわかったわ。今?厦門アモンに上陸したわ。指揮テントよ。エレナと子供たちを頼むわノーラ。弟のきよしは?あ~エイモスってシーカママがついてるのね。……うん、……わかった。ノーラお願い。じゃあね。(日本語)」
 
 優しくノーラ・アバターとの通信を終え、組んでいた長い足を解き立ち上がると、スタスタと歩いて紙を持つ女性の前に歩いて来た。

 敬礼をする女性。

 ゾフィアは、悲しみを含んだ顔で返礼をした。
 
 女性事務武官から小さな紙を受け取って、鮮やかなブルーと薄いグレーのネイビー迷彩服の胸ポケットに入れた。

 ……ブルーのベレー帽の下で、心配をかけないように、ニッコリ柔らかく笑みを浮かべるゾフィアだった。
 
「ローラ、ありがとう。ちょっと外の空気を吸ってくるわね。(ポーランド語)」
 
 クルーに、自分の顔を見られないように急ぎテントの外に出るゾフィア。

 その珍しく、悲しいゾフィアの姿を目で追う女性事務武官やシーラス01艦隊旗艦、「エミリア・プラテル」のCDCクルー士官たちだった。
 
 テントの前に出ると、真正面に接岸している自艦の「エミリア・プラテル」が泊まっている。

 ゾフィアへ、迫るように巨大な舩舷の側面が、空に向かってそびえ立っていた。
 
 ……ゾフィアが、少し赤くなった可愛い小鼻で深呼吸をすると、少し生臭く金属が焼けたような匂いと共に、潮の香りがした。
 
 顔を右上に向けて、腕を組んだ。

 目を閉じて、小さな声で言うゾフィア艦隊司令だった。

「……Och。エレナー……マウゴジャタ(ゴーシャ)、ヨアンナ(アシャ)……Huh.(ポーランド語)」

 開いたテントの入れ口の奥に見える、背中を向けたゾフィアを見つめるCDCクルー。
 
 ゾフィアの後ろ姿を見ながら、「エミリア・プラテル」の艦長、グジェゴジュ(グレゴリー)・オズモ大佐が胸に十字を切り、手を合わせて祈った。
 
 同じく十字を切り、祈りを捧げるCDCクルーたち。
 
 腕を組んだまま美しいグリーンの瞳で日本の方角、朝の薄い青空を見続けるゾフィアだった。
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