「メジャー・インフラトン」序章6/7(僕のグランドゼロ〜少年兵の季節、終焉〜Knockin' On Heaven's Door.

あおっち

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第3章 兵士の思いは御宙神意(そらかみ)の果てへ。

第1話 混沌の先に。

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「ハァ、ハァ、ハァ。ゲームボーイ、どうだ敵の動きは止まったか。……ハァハァ。」

( 敵、壊撃-3型V-2、ハイシュ機は完全稼働停止致しました。補助機能も完全停止しました。 )

「そうか、ハァハァ。しかし、囲まれたな。」

( はい。10機の敵、壊撃-3型V-2に囲まれました。敵はすでに射撃準備が完了。当機に全機砲口を向けています。更に増援のHARMORが当機を中心に集まっています、中佐。コクピット周辺に、可変アーマー・ダンパーを集めます。)

「……フッ、そうかゲームボーイ。これまでだな。」

 砂浜に立つ首なしの「シルフZERO」。

 向かいには仰向けに倒れている敵HARMORの壊撃-3型V-2。

 バルトシュのゲームボーイに一本背負いをされて、頭部と左肩を砂浜にめり込ませたのだ。

 砂場が衝撃を吸収したとは言え、パイロットの操縦席のカバー、コクピット・シールド・バイザーも、とてつもない衝撃で吹き飛んだのであろう。

 コクピットがむき出しになった。

 コクピットの中では、パイロットシートでヘッドギアを上に向けたまま倒れている宋と、その着座したシートと床に挟まれている朴1級軍士長が倒れていた。

 周囲の砂浜の上には、壊撃-3型V-2のアーマーや部品が散らかっていた。
 
 その首の無い「シルフZERO」を、40ミリ速射カノンを向けたまま包囲し始める壊撃-3型HARMOR部隊。

 隊列が落ち着くと、敵HARMORは、40ミリを一斉に打ち込んだ。


( ズガンズガンズガンッ!)

( ズガンズガンズガンッ!)

( ズバンズバンズバンッ!)

 
 頑丈な「シルフZERO」へ、四方八方から打ち込む40ミリ速射カノン砲。


(( ドカドカドカッ! ))

(( ガンガンガンッ! ))

(( ドカドカドカッ! ))
 

 左右前後に、鋭角的な大きな振動にゆすぶられるバルトシュ。

 コクピットの内部全体に、衝撃からパイロットを守るエアバックが順番に開くが、全く役に立たなかった。

 その内、制御が出来なくなったゲームボーイ。

 ポーランドJWKのHARMOR(シルフZERO)の機体が、砂浜に倒れた。


(( ドバーンッ! ))

 
( ウガッ! )

 
 砂浜に倒れる物凄い衝撃がコクピットを襲った。


( う~ん……。 )

 
 意識が遠のく、バルトシュ中佐。
 
 バルトシュの脳裏に数々の映像が浮かんで来たのだ。

 それは宇宙の御宙神意(そらかみ)が見せてくれた、この世で最後の映像だったかもしれないのだ。
 

          ◇


 ポーランド軍の新任士官、歓迎式典の映像。
 
 大尉に昇格したばかりのバルトシュが前席に座っていると、ドレスを着た、めちゃくちゃ美人の歌姫が、歌を歌い始めた。心地よく、気持ちの良い歌だった。


 珍しく口を開けて、歌姫に見惚れるバルトシュ。


 なぜか、いつまでも心に残っていたのだ。
 歌姫は、まるでポーランド伝説のヴルゥシカ(妖精)のようだった。

 美しいシルバーゴールドの金髪、優しそうな大きな目とグリーンの瞳だった。

 バルトシュと、目が合って微笑む女性。
 もう一度、会いたいと心の底で思った。

 なぜか、いつまでも気になる女性だった。
 
 そんな時、バルトシュは機動モービルHARMORの訓練中、倒れたHARMORから部下を救出するために、軽い怪我をした。

 医務室に行くと、女性ドクターの助手の看護師が、歌姫のエレナだった。

 女性には奥手のバルトシュが、手当をしてくれる看護師のエレナへ、勇気を出して式典の事をたずねると本人が歌っていた、と言う。
 
「はい。あの時、私が歌っていたのよ。ふふっ。士官任命式で前に座って、いらっしゃったわね?カピタン(キャプテン)昇格おめでとうございます。ふふっ。」
 
 話し返されて真っ赤になるバルトシュ。

 彼女は、軍のメディック部隊所属の看護兵士だが、軍の慰安活動のオーケストラ・バンドで歌を歌っていたのだ。

 エレナの上司の女軍医が、2人をキョロキョロと見て冷やかす。
 
「あらまぁ、真面目なエレナが話かけるなんて。カピタン(大尉)?よっぽど珍しい事よ。お楽しみはケガの処置をしてからよエレナ。あはははっ。」
 
「あっ、先生、ち、違います。」
 
 真っ赤になるエレナ。

 彼女も何故かバルトシュを覚えていたのだった。

 そのエレナも誠実な人が好きだったのだ。
 なぜか気の合う2人。
 
 その内、何度か素敵なデートを重ね、恋人同士になった2人だった。

 そして念願の結婚式を迎える事となった。
 軍の部下や同僚に祝福される2人。
 至福のひと時だった。

 その内、子供が生まれたのだ。
 それも玉のように可愛い、双子の女の子ちゃんが産まれた。

 双子ちゃんをあやす夫婦。
 2人は我が子を愛してやまなかった。
 
 優しいバルトシュは、極力生活の全てをエレナに合わせた。

 軍の仕事が忙しく中々会えてなかった姉のヴィクトリアも、非番の時は双子ちゃんにバルトシュの家に、親友のゾフィアと共に遊びに来たのだった。
 
 2人の愛の巣。

 人工的な室内光より自然なロウソクの灯や、優しいランプの灯の光が好きなエレナの為に、軍のファミリー官舎では、夜は蛍光管やLEDを使わない生活をしていた。
 
 夜は優しいランプのオレンジの光が、椅子に座って赤ちゃんを抱いてるバルトシュの影を揺らしていた。

 どんどん育っていく双子ちゃん。

 双子ちゃんたちは生後3か月もなると、座って遊ぶようになった。

 春の晴れた軍の休日は、10センチくらいのぬるま湯を入れたお子ちゃまプールでバルトシュは親子で遊んだ。

 そんな親子を映す、春の気持ちの良い陽の光。そして親子を映す幸せな影。

 夫と、子供の影の写真を撮るエレナがいた。
 エレナは、子供写真家としてもwebでは、ちょっとは知れた人なのだ。
 
 幸せな家族と過ごした映像がバルトシュの脳裏に浮かんで来ていた。

 夢を見ているのかもしれない。


(( ドシンドシンッ!ガンガンガンッ! ))
 
( ギギーッ!ガガガガガーッ!ガッーギュイーン! )


 分厚い金属を叩く様な音や、チェーンソーで何かを切る音がして、一瞬目を覚ますバルトシュ。

 しかし、脳しんとうが解消されないのか、再び意識をうしなうバルトッシュ。

 また、うつらうつら夢を見始めたのだ。
 
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