「メジャー・インフラトン」序章2/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節FIRE!FIRE!FIRE! No1. ) 

あおっち

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第12章 出会い。対馬防衛戦。

第4話 カスケード硬化布、アーマーアンダースーツ。

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「これ位しか、今の私には出来ないわ。」
 
 そして、きよしの唇に軽くキスをする少女。
 
「うっ……。」
 
 再び固まるきよし。そして、照れて後ろを向く少女。
 
「ごめんなさい。さぁ、わたしはどうしたらいい?おこちゃ……、ごめん!パンダきよしさん。クスクス。遅くなりました。私は布村といいます。お名前は何きよしさん……。」
 
「椎葉きよしといいます。」
 
「椎葉きよしさん。椎葉さん、きよしさん。本名もどこかで、聞いた事ある……。パパかぁな?ママの絡みかなぁ。なんか椎葉さんって聞いた事ある。」
 
 キスをされて、真っ赤のままのなるきよし。
 どう、リアクションしたら良いかわからず、再びゆっくり、マニュピレーターに腰掛けた。
 真っ赤になりながらリュックから服を取り出した。
 取り出した手も震えるきよし。
 
「ああ、ぬ、ぬ、布村さん?布村さん。これ、ジェネリックスーツという服。色んな言い方あるけど、身を守る下着と思って着てください。命を守る服だから、今すぐ着て下さい。」

「え?そんな服あるの?」

「はい。……そしてこれは、海水でも殺菌消毒、洗浄できるシャンプーとボディソープです。そこの海岸で体洗ってから着替えてください。ボディーソープは服もしっかり洗えます。それと着替えの時用の下にひくビニールテントです。使うときはこの、赤い、ちっちゃなボタンを押してから使って。そしてボタンを押したら、すこし離れて下さい。ボワーと広がって危ないから。」
 
 きよしの手の平に載せた小さな箱が3つ。
 それと、小さな袋と小さく折りたたんだ赤いプラスチックがついたビニールだった。
 それをもらって5センチ四方の小さな箱からフタを開けて、布をつまんで持ち上げる布村。
 
「えっ!え~何この布~。」
 
 布をつまんで出すと大きく広がり上下の服になった。
 
「その黄色の箱はタオルです。」
 
 つまんで出すと、少し小さめの白いタオルになっている。
 タオルの下には、日の丸と旭日旗に囲まれて、(自衛隊宙空機動課)と書かれている。
 
「見た目と違ってフワフワタオル。え?え?なに、凄い、凄いー。」
 
「超吸収、即効に乾くタオルです。ある電流を流すと鉄より硬くなるタオルです。骨折した時ギブスに使えます。凄いですよね。」
 
「へぇぇ。」

 布村がもっている上下の薄い下着を持ち直すきよし。
 
「この上下の服は、20ミリ弾って、大きな機関銃のタマくらいは平気に弾く凄い服です。ジェネリック・スーツとか、正しくはアーマー・アンダー・スーツとか言います。アーマースーツって最近は言い始めましたが。早く着て下さいね。着てから5分もすると体にフィットします。とにかく早く着て。いつ敵がくるか判らないし。おんなじ服、僕も下に来てますよ。」
 
「ふ~ん。解りましたよ。パンダきよしさん。」
 
 きよしはすぐ後ろを向いて、また、降ろした荷物を整理し始めた。数人分ののレーション(野戦食)やらを分けて、ふたつのリュックに丁寧に仕舞った。
 そして緊急マークが描かれたジュラルミンのケースを開けて2セットの小さな携行軽機関銃や自動小銃を取り出した。
 それらのマガジンを抜いて簡単に整備、点検をし始めた。
 そんなきよしの後ろ姿を見つめる少女。
 
「ふ~ん……。」
 
 背中や肩、太い腕、鍛え上げられた下半身。
 顔は、小顔で色白なお子ちゃまだけど、することは一切無駄のない軍人そのものだった。
 そして、けなげで真剣な態度のきよしにキュンとなる少女だったのだ。
 
 少女はそんなきよしに興味を持ち、再び顔をきよしに近づける。
 作業中のきよし目に、ニコニコする少女と、ポヨンポヨンと動く大きな胸の谷間が目に入って来た。再び真っ赤になり横を向くきよし。
 
「あ~もっ。お願いですから早く着替えてください。お願いします。」
 
 照れて、部品を落とすきよし。
 
「あっ、もぅ、お願いします。」
 
「ごめんなさい。うふふっ。頑張ってください。着替えてきま~す。フフッ。」
 
 伸ばした腕で、手を後ろで組みながら、海岸側に歩いて行く少女。
 チラッと少女の歩いていく姿をみてホッとする、奥手なきよしだった。

 
「よしっ!」
 また気合を入れ直し武器の整備を始めるきよし。
 そんなきよしを横目で見ながら布村は横倒しの機動モービルHARMORの後ろ側にトコトコ歩いて行った。
 
 大きなロボットが、目の前にモービルが横倒しになっている。
 肩や頭部、背中、腰にあらゆるところが焦げたり、めくれたりしている。戦闘の激しさが誰にでも判るくらい損傷が酷かった。
 いったんモービルの横で止まり、肩の損傷個所を腕を伸ばして、のぞいて見た。

「うわ~。」
 
 中の損傷のひどかった。
 
 後ずさりして、そのパイロットだったきよしを見つめた。
 きよしは、せわしなく動いている。
 布村はニッコリ微笑んでから、波打ち際に向かった。
 倒れた機動モービルの背後には小さな入り江の海岸が広がっていた。
 
 夏の日本海の潮風が心地良かった。

 渚の潮風と波の音が、布村を癒した。

 目を細めて深呼吸をする布村愛子。

 浜辺には見渡す限りモービルの部品などが砂浜に散らばっていた。
 比較的に綺麗な砂場を見つけた愛子。
 
「ビニールテントって、これかぁ。」
 
 ビニールを広げると、このビニールも横2メートル×縦3メートルと大きく広がった。
 
「パンダきよしさんの軍隊はなんでも小さくするのが好きね。こんなに大きく広がるんだ。」
 
 キッチンラップより薄いペラペラッのビニールの端に(ここを2秒押す)と赤いプラスチック製の小さなタグにボタンが付いている。
 
 小さな字で、(ビニールの端は鋭利です。ボタンを押してから、十分離れてください。気を付けて下さい。)と、書いてある。
 波打ち際から引きずって離してそのボタンを押した。
 突然、タグが震えて、空気を吸い始めた。

( シュシュシューゴーッ! )
 
「何、何、何!」
 
 後ずさりする少女。
 空気を吸い込んだペラッペラのビニールが勝手に、入り口のある銀色のかまぼこ型のテントになった。
 
「え~凄い!凄い!本当にテントになった!」
 
 テントを触ると、壁のように固く固まっている。
 軽く持ち上げると、めちゃめちゃ軽い。
 
「えー凄いな~。透明だったのに銀色に色がついてるし。わたし、もしかして、すっごい体験してる。えー!」
 
 エマージェンシー用の緊急テントが出来上がったのだ。
 布村は、中で汚れた服を脱いで、裸で波打ち際に来た。
 真面目そうなきよしの雰囲気からして、のぞくはずがないのを知りながら、もう一度テントに戻り、のぞいていないかテントの左右から顔を出してモービルの左右を確認した。もちろん誰もいなかった。
 ニッコリする布村。
 
「さぁ、ひとっ風呂あびるか!あははっ。」
 
 腰まで海に浸かった。
 
「うわ~真夏でも冷たい~。気持ちいい~。さすが日本海!」
 
 そして、服をぬいでスッポンポンになり、軽く泳いだ。
 裸のまま、波打ち際に戻りあぐらを組んで、シャンプーを頭に振った。
 
「シャンプーはこれね。……。ん……。ほ~本当に泡がでる~!凄い、凄い~!」
 
 楽しみながら体を洗う布村だった。
 
「あ~スッキリ!へ~凄いな~。泡の量っハンパない!海水でも凄っ!うふふふっ。」
 
 今度は泥だらけの夏制服をボディーソープで洗い始める布村。

「えー、なになになに!本当にボディーソープなの?めっちゃ汚れ落ちるし。すご~い!」
 
 きよしは、きよしでコクピットに再び入ったのだろう、また手に何かを持って歩いて着ていた。手に持った大きな電池のようなものをマニュピレーターにバラまいた。その後ろからスッキリして、アーマー・アンダー・スーツを着た、布村が近づいた。
 
「有難うございます~。椎葉さん。もうスッキリスッキリ~。このシャンプーとか凄いですね~。海水なのにこんなにすっきっりするなんて、スーツはこれでいいのかな~。どう?椎葉さん。ジャジャ~ン!どう!」
 
 笑顔で振り向くきよし。
 そしてその笑顔から真っ赤になって空を見るきよしだった。
 
「ん?あっ!お~。」
 
 ジェネリックスーツは柔らかい炭素繊維特殊布なので、体にフィットしすぎて細かい凹凸をクッキリ表す。Hカップのバストから乳首、おへそ周りから股間まで裸体以上にクッキリ現れるのだった。
 
「お~お似合い。お似合いぃだけどぉ、先に下着、着て。言い忘れてた……ゴメン。」
 
 また、チラッと見ては、顔を赤くして、また目をそらすきよしだった。
 ようやく、きよしの態度の意味が判った愛子だった。自分の胸や股間の肉に気が付いた。
 
「えっ?先に言ってよ。もう。パンダきよしぃ。そっち向いてて!お子ちゃまきよし、もう。」
 
「言い忘れた、ごめんなさい。」
 
「もうぅ。面倒っちぃ、テントでもう一度着てくるわね。プンプンっ。また、海で足の砂落とすの面倒っちぃんだから。プンプンっ。」
 
 申し訳なさそうにするきよしの後ろ姿をみて、クスクス笑う布村だった。
 大手を振ってモービルの反対側にあるテントへ向かう布村。
 また着替え直して帰って来た。その間、作業をしていたきよしは、布村に気が付き作業をしている手を止めた。そして大きな体を縮こませて、後ろを向いて立った。
 布村はニコニコしながら、そんなきよしの背中を突いた。

( ツンツン。 )
 
「椎葉さん、これでいいかな~。フフフッ。」
 
 振り向いて、恐る恐るみるきよし。両手を広げて回る布村。
 
「お、OKぃです。う~っ。あ、あんまり変わらない……。て言うか、余計にエッチな気がする。女性が着るの初めて見るから、」
 
 下着のラインが、余計はっきり映るジェネリックスーツだった。
 
「もう!メンドーな男!緊急事態でしょ!もう、だからこれでいいわ。ちょと、それより、この服の機能知りたい。実験したい。」
 
 真顔になる布村。
 きよしは、なぜか少しホっとした。
 2人は短時間でジェネリックスーツの性能確認を始めた。
 
「まず、じゃあ襟元、喉の下で丸まってるのを上に持っていって。」
 
「えっ、ちょっ、これかなぁ。薄すぎて、指先で、えっ判んない、こぅ?えっ。」
 
 きよしがしゃがんで、布村の指先に丸まった布の先を、アゴの下と首筋の2箇所を持たせた。
 また、愛子の胸をまじかに見て赤くなるきよし。
 
「何赤くなってるの!兵隊っ!真面目によ!もう!」
 
「ごめんなさい。こ、こう、上にひっぱって頭、こう鼻の上まで隠すんです。こう、」
 
 布村が布を顔と頭まで両手で引っ張り上げると、あら不思議、首から顔面と頭まで覆った。
 調度、目の周り以外、隠密忍者スーツのように覆ったのだ。
 
「10秒待って。布村さんの頭部、顔面の形状を記憶するから。」
 
 きよしがリュックから、太陽光反射SOS発信用の小さな鏡を渡す。
 その鏡で顔や頭部をみる布村。
 
「へ~!これ、息は普通に出来るんだ。すごい凄い。」
 
「ゆっくり布を押してみて。それから思いっきり頭を叩いてみて。」
 
 きよしを見つめながらゆっくり頬を押すと、柔らかく、へこむ布。
 
「柔らかい!シャツより柔らかい。へ~!上品な絹みたい。」
 
 次に頭をパシンパシンッ!と叩いた。
 
「パシン!えっ?頭に何も感じない。手の平が痛い。えっ?えっ?パシン!」
 
 目がニコニコしている布村。きよしは大きな石を持った。
 
「行くよ布村さん。」
 
「えっ!あー石、大きすぎるし、怖い怖いっ!」
 
 仁王立ちしたまま目をつむり顔をそむける布村。
 
「いくよー!それ!」
 
 思いっきり布村に石を投げるきよし。

( ゴンっ! )

 はじけて、砂の上で割れる石。
 
「えーっ!何?何にも感じない。」
 
「ゆっくりしたスピードなら反応しないけど、振動で感じて固まる布なのさ。」
 
「うわ~スーパーレディになった気持ち。すごい凄い!もう1回投げて!」
 
 今度は目をカッと見開き、構える布村。
 
「じゃ~行くよ!」
 
 思いっきり投げるきよし。

( ゴンッ! )

 と、こぶしより大きな石を、布村の胸がはじいた。
 
「凄い!凄い!」
 
 ガッツポーズをする布村。そして、拳銃をリュックから出すきよし。
 
「あっ!銃は待って。待って!あ~ん、気持ちの整理が……。」
 
 両手を開いて、銃で撃たれると勘違いする布村。
 
「弾数が少ないから撃ちません。見せるだけです。」
 
「えっ?焦る~!早く言ってよ。もぅ!」
 
 銃を、上からのぞく布村。
 きよしは、その拳銃からマガジンを抜いて、1発、弾を取り出して布村に弾を見せた。
 その布村がその弾を指でつまんで取った。
 
「この令和・南部は、拳銃の9ミリ弾なんだけれど。この拳銃位ならどんな距離で撃たれても全然平気。さっき言ったのは、この弾の3倍位の大きさの20ミリ弾。まぁそれまでが限界かなぁ。爆発しても破片とか大丈夫だけど、至近距離の爆発や服に付いたままでの爆弾の爆発では、さすがに耐えられないみたいです。」
 
「限界はあるんだぁ。でも、へ~凄いな~この服。椎葉さんも?」
 
「もちろん!着てます。でもこの布スーツにも限界があって……100トンの機動モービルとかに踏みつぶされたら流石に保たない時があるみたい。ゆっくり踏まれると反応しないから潰れてしまう。だけど、スピードのある物体、例えば自動車位にはねられても平気だけどさ。それでも100キロ以下位かな。それ以上のスピードで車にはねられたらダメみたい。衝突する物体の質量、重さ、衝撃度、当たる面積なんかにも関係するみたいだって。だから日本国軍のヘッドギア、まぁヘルメットなんかも基本同じ炭素繊維なんだって。それでも限界があるみたいだべさ。」
 
「ふ~ん。なるほどぉ限界はあるんだ~。でも凄すぎ。」
 
 感心して手足や腕を揉んだり、パシンッパシンッと叩いたりする布村。
 
「あと、同じ布、素材で出来た……、これハイソックスと手袋。ソックスはそこの海水で砂、落として履いて。」
 
 布目が大き目で通気性の、よさそうなハイソックスとツルツルしたハイソックスの2セットを見せた。
 
「荒い方は下地、細かくすべすべするのは上に履いて。」
 
 手触りが違うスベスベしたハイソックスを渡した。
 
「あっ、なるほど。スベスベした方を先に履いて、砂や砂利が入らないのね。」
 
「そうゆう事。はい。」
 
 渡されたハイソックスを履きに、波打ち際にいく布村。
 きよしはまたゴソゴソとリュックを整理し始めた。そして、2本の電線を電池の様な10センチ位の楕円柱の物体にハンド溶接で溶接し始めた。

( パチパチパチ、パチパチパチ。 )

「お、くっついてる、くっついてる。」

( パチパチパチ、パチパチパチ。 )
 
 再び、ハイソックスと手袋を履いて来た布村がやって来た。
 きよしの背後からのぞいた。
 きよしは溶接した電線と電池の様な物体を持ち上げた。
 
「よし、完成。」
 
「何作ってるんですかパンダさん?ふふっ。」
 
「これから漁をするんだべさ。敵が周囲に居て、火がつかえないから電気漁プラスっ電気調理だね。」
 
「ふ~ん。」
 
「これは、さっきの網目のソックス、これなんぼでも伸びるのさ。これで布村さん、魚捕まえてね。」
 
 と、壊れた機動モービルHARMORのアルミの部品と輪で作った、手作りタモを布村に渡す。
 
「へ~。釣り道具がないけどぉ。椎葉さん。釣り竿とか針とかあるの?」
 
「いらないですぅ。電気ショックでビリビリー!ってさ。これ600ボルトの電池なんだわ。それをセットすると電気がビリビリ~と流れるんです。魚は感電して、気絶するんですよ。プカプカ浮かんでくるべさ。サバイバル訓練で何度か試してます。小林って奴はもっとカッコよく綺麗に作るんですけど。ははは、そん時は魚大量に採り過ぎて、お腹一杯になった記憶があるんです。っこれ。」
 
 アルミの棒に手の平を広げたような枝分かれした棒の先からアルミの線がぶら下がっている。
 
「魚が感電して浮かんでくるところを布村さん、そのタモですくって。大きな魚だけ選んで採って食べようね。そのジェネリックスーツ600ボルト位じゃ感電しないし。布村さんは絶対感電しませんよ。」
 
「へ~この服、感電しないの?へーすごい服。あっ、私、実家がホテルでよく魚さばくの手伝ってましたから、私がさばきます。」
 
 立ち上がるきよし。
 
「うそ!魚さがけるの?凄いですぅ布村さん。ついでに魚の種類~、判る?」
 
「もちろん!小学生の時は魚博士でした。任せてください!美味しいの選びますよ。」
 
「わ~い!よっしゃ!じゃ~僕は緊急米1キロあるから、ご飯の準備します。ご飯は農家の椎葉にお任せください。それでは、もう暗くなるからおかずゲットに行きます。布村さん。」
 
 即席、電気竿を持って立ち上がるきよし。
 
「いい?それでは電気漁スタート!」
 
「了解!パンダ隊長!」
 
「よろしくパンダ!」
 
「頑張るパンダ!はははっ」
 
 敬礼をする布村と椎葉きよし。
 ハハハッと笑いながら2人は仲良く即席道具を持って波打ち際へ歩いて行った。
 波打ち際で軽く準備する2人。
 
「ところでパンダ隊長?水とかあるんですか?」
 
「んっ?もちろん。後で取りに行くけど、核融合電池で発生した超純水、H²Oがあるよ。300リッターはある。汚染しなければ、超純水だから半年は持ちますよ。この超純水、主に被弾時の自動消火用水か、パイロットが放射能で被ばくした時やバイオ兵器で汚染された時の、その洗浄用さ。さっきタンク確認したけど、全く無傷、異常なし。こちらもサバイバル訓練で何回も取り出し練習してるからまかせて下さい。大丈夫です。」
 
「了解。じゃークラゲのようなタモもってスタンバってま~す。」
 
 波打ち際から腰まで海に浸かる背の低い布村。と、股くらいまでつかる椎葉。
 
「じゃ~いくよー!ビリビリ捕獲作戦開始~!」
 
 椎葉が電池をセット。アルミ棒をゆっくり海中で回した。
 驚くことに、プカプカプカと大量の魚が浮かんできた。
 
「うわ~凄い!凄い!魚だらけ~。捕獲しま~す。」
 
 キャーキャー言いながら、大急ぎでターゲットの魚を選んでタモですくって浜辺に降ろす布村。
 
「凄い!凄い!真鯛とか黒鯛がいる~高級魚スゴ~!」
 
 ジャバジャバと急いで波打ち際を走り、タモですくっては砂浜に魚を下す布村。
 きよしは浜辺にあがって魚をつまみ上げて見ている。布村が漁を終えて走って来た。
 息を切らして膝に手を当ててきよしをのぞいて見た。
 
「ハァ~ハァ~ハァ~!この位でいいですよね~、ハァ~ハァ~ハァ~。」
 
「有難う、大漁~!布村さん有難う、想像以上に大漁~!」
 
 10匹位の大型の魚が息を吹き返し、ピチピチ跳ねはじめる。
 
「ハァ~ハァ~、その電池、後、何回位使えるんですか?」
 
「これかぁ。」
 
 電池を持って見せる椎葉。
 
「モービル用の制御モーター用だからなぁ。100回か200回かな。この位の使い方なら1年位かなぁ。軍用だからかなりのロングライフです。」
 
「へ~今どきの軍隊さんは凄い物だらけ。それじゃ私、お魚さばきますね。」
 
 サバイバルナイフを渡すきよし。
 
「銅線でぐるぐる巻いて、鍋用のコンロと、焼き用の魚焼き台もさっき作ったから、それで調理して。電池差し込めば銅線が真っ赤になるから。鍋とかアルミの部品を洗って、それらしいの置いてあるから使って。僕はお米炊く、飯盒はんごうモドキつくります。よろしく。僕は水を用意します。」
 
「凄い!凄い!椎葉さん。いつの間に。キャンプみたい~。」
 
 椎葉が用意したビニールの袋に魚をいれる布村。
 2人のサバイバル飯の準備が始まった。
 完全に日が暮れた崖の下。
 小さな明かりがついている。
 ヘッドギアのライトをつけて、夕ご飯を食べる2人。
 楽しそうな布村の声がする。
 
「自衛隊のレーションに醤油やお塩、コショーや七味だって。味の素までついているなんて。うわ~美味しい。黒鯛の素焼き。美味しい。幸せ~。」
 
「うわ~、本当に美味しいです。うわぁ。ズズズッ。この黒タイのスープ。美味しい。すんごい美味しい。味付け塩だけですよね。ズズズッ。布村さん美味しいっ。」
 
「でも、椎葉さん炊いたご飯。めっちゃくちゃ美味しいです~。こんな緊急時にこんな美味しいご飯とか。みんなに悪いけど、ほんと幸せです。このご飯。本当に、洗った機械のカバーにご飯と水入れて、フタしただけですよね~。」
 
 対馬侵略の有事下。
 この2人の小さな入り江の空間だけは、幸せの空気が満たしていた。
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