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第8章 地獄のカップル。

第4話 先輩と後輩と。

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ハワイ島の真夜中の訓練が、無事終わった。
 
 訓練を終えた椎葉きよしたち、千歳シーラスワンの36機のHARMORは、これから千歳に戻るのだ。
 
 訓練中、上空を飛んでいた指令室の大型武装オービター4機と、麗子達ドクターオービター2機に回収されて、一般の旅客機と同じ飛行航路で、7時間以上かけて千歳に戻るのだった。

( パチパチパチパチ! )
 
( パチパチパチパチ! )

 訓練本部の司令部作戦テントでも部署の将校、兵士達が拍手をして訓練の終わりを告げていた。

( パチパチパチパチ! )
 
( パチパチパチパチ! )
 
 その拍手が止まない大型テントを出る御舩と岩井だった。
 
 ズラッと並ぶ司令装甲車の中からも、拍手の音が漏れてきていた。
 司令装甲車がズラッとならぶ奥の方からオリエッタ博士と、先程まで苦情を言って対立していた射撃場の現場指揮官ロビン・ターナー少尉と、NASAの医療部長のケイト・ストーンと3人で楽しげに話しながら御舩たちの方に歩いて来ている。
 
 爽やかで心地よいハワイの風が、御舩と岩井の頬を撫でる。
 
 真っ暗だった空がいつの間にか明るくなり、ハワイ島の訓練本部の高台から望む水平線の空が光り始めた。
 
 朝日が昇ろうとして、水平線と空の境のスカイラインが輝き始めたのだ。
 
 紙コップに暖かいコーヒーを入れた女性兵士が、ゆっくりテントから歩いて来た。足音に気が付いて振り向く御舩と岩井だ。
 
 明るくなったところで見る女性兵士は、ニッコリとして真っ白い歯が似合う可愛らしい美女だった。その美人兵士が来て、コーヒーを2人に振る舞った。
 
「閣下!コーヒー、お持ちしました。」
 
「あっ、ありがとう。」
 
「有難うございます。」
 
 お礼をする御舩たちに、微笑みながら敬礼をする女性兵士。
 
「初めて見る、HARMORによる衛星軌道からの急襲攻撃訓練!感動いたしました。閣下!素晴らしかったです。感動いたしました。それでは、岩井宙空将も。失礼致します。」
 
 興奮さめ止まぬ女性兵士は、短い言葉で感想を述べて再び敬礼をして、ニコやかにテントに引き返した。
 コーヒーに口を付ける2人の上級将官。
 装甲車両が並ぶ本部の谷から下の射撃場を見ると、まだまだ暗い訓練場は忙しくライトが動き回り、訓練の後始末をしているのが良くわかる。
 
 訓練場を見下ろしながら、岩井自衛隊宙空将がニコニコと話始めた。
 
「いや~御舩先輩。凄かった。有難うございました。物凄い迫力。今まで全てビデオ報告や、ほとんどが書面での報告でしか解りませんでしたけど、実戦に近い訓練は、我々トップや参謀以上の者も地上で直に見ないといけませんね。」
 
 ドヤ顔の御舩。
 横目で話し掛ける岩井を見ている。岩井は興奮がまだ冷めないと見え、話続ける。
 
「いかに我々のイメージがズレているか解りました。遥か上空から降下する大型シャトルと、そのシャトルから降下する機動モービルなんて。子供の頃見たロボットアニメの世界が目の前で繰り広げられるなんて。もう、感動の感動です。本部テントのモニター映像と、外を見ると本当に、本物の機動モービルだなんて。リアルに機動モービルって、いや、今はHARMORって言うんですよね。臨場感たっぷりで実感が湧いて、もう感動って言葉じゃ足りませんよ。凄かった。」
 
「な?イワン。言った通りだろう?お前さん、俺ん所の補佐で呼んだんだから、見てもらいたかった経緯もあるけどな。」
 
「こんな、凄い部隊をわたしは指揮しないといけない。本当に、本当に直に訓練を見ないと、御舩先輩の副司令職とかできないですね。以前、私は、この作戦は無駄と、参謀本部や幕僚本部の司官達で、閣下のこの訓練に猛烈に反対した事がありました。」
 
「あー、そういう事もあったなー、はははっ。もう忘れたけどぉ……。本当に忘れたょ。」

 ジーッと、横目で岩井を見る御舩。
 
「あ。あ、いやー実に。本当に、はずかしい限りです。この訓練、イヤこの急襲攻撃は近代戦の極みです。近代戦の闘いの次元が変わりました。地上兵じゃ無理。機動歩兵のWALKERではインパクト力がない。やはり機動モービルのHARMORだからこそ出来た衛星軌道上からの急襲突撃ですよね。」

「まぁな。実戦でもいい成績が出てるしな。」
 
「はい、訓練が未完とはいえ、途中で実際に行ったエマージェンシーな実戦がありました。この1か月の自衛隊、日本国宙軍、米軍、ポーランド特別軍のJWK、イギリス宙軍、あとフランス宇宙軍ですか。その合同出撃の11戦中、11勝。全作戦コンプリート!すごいなぁ。なんか納得するなぁー。それも敵の完全殲滅。凄い事です。」
 
「はははっ。私は椎葉きよしや杉山機長の進言に、私の感で答えただけだよ。実戦を数多く経験した私の感だ。はははっ。」
 
「そうなんですか?実戦を経験した感か……。たしかにシーラスの将官は全て実戦経験者とお聞きしました。お恥ずかしい。日本国軍や自衛隊の上層部に無くて、一番必要な要素かも知れませんね。実戦による感、なるほど。」
 
 後ろからオリエッタたちが、御舩と岩井の近くまで来た。
 笑顔で敬礼をする3人。

「お疲れ様でした、オリエッタ博士。」
 
「オリエッタ博士、お疲れ様でした。」
 
「はい、少将閣下、岩井空将、ありがとうございました。私は、オースティン(麗子)博士たちのオービターがもうすぐランディングするので、オービターの着陸する滑走路に向かいます。」
 
「オリエッタ博士、今日は、色々、ご苦労様でした。」
「有難うございます。それでは閣下、オービターで。」
 
 ニッコリして敬礼するオリエッタ。
 一緒に歩いて来た、横の2人にも笑顔で会釈して、先に歩いて行った。
 オリエッタへ、監視装甲車内で苦言をしていたターナー少尉が、御舩たちに再び敬礼をした。
 
「閣下!先ほどは大変失礼な事してしまいました。」
 
「ターナー少尉。あなたの職責です。当然の行為をしたまでです。お気にせず、少尉。」
 
「有難うございます。閣下。でもこの訓練を直に見て感動しました。次もお待ちしています。」
 
 敬礼をするターナー少尉。
 素早く回れ右をして隣のドクターにウインクしてから退場した。
 そして一歩前に出るNASAのストーン医療部長。
 
「閣下。次回、椎葉少尉のモニターがレッドでも訓練の中止は進言しませんわ。あはははっ。ほんとうに閣下の部下たちは。素晴らしいお仲間がいて羨ましい。それでは。」
 
 白衣に両腕を入れたまま、ニコニコして駐車場まで歩いて行くストーン医療部長だった。
 3人をはにかみながら見送る御舩と岩井。
 
「さぁて、イワン。オービターで一杯ひっかけて休もうか。なんだか、帰りの航路が混んでて、千歳まで8時間かかるらしいからな。はははっ。」
 
 手で一杯飲むフリをする御舩。
 
「えっ?オービターは禁酒では?」
 
「麗子先生の医療オービターに私の個室がある。」
 
「えっ!先輩の個室があの、ビッグドクにあるんですか!マジですか!」
 
(( ヒューン、ゴォォォォォー。ヒューン、ゴォォォォォー。 ))

 丁度、真上を通過する医療用超大型オービターのビックドクの2機。
 帽子を押さえて見上げながら笑う2人の上級司令官。
 
「わはははっ!イワン。別名、喫煙室ってな。(あぁなんだ喫煙室……。)あははっ。少々せまいが。ストレスって名前の病気があってな、その薬なんだなぁこれがまた。あははっ。イモでいいか?立ち呑みになるな!はははっ!おまけに電子タバコ吹かす麗子先生の監視付きだ!はははっ。」
 
「ハイ!喜んでご相伴いたします。立ち呑み!いいですね~っ!そうか、ストレスかぁ~。そういえば、恐れながら私もストレスを最近、ちょっと感じますよ先輩。病名も衣笠先輩、イヤイヤ、衣笠幕僚長ストレス!ですかね~。あははっ!」
 
「あっ、それっ。キヌ(衣笠幕僚長)怒るよ。絶対キヌ怒る。必ず怒る。」
 
「えっ?あっ、あっすみません御舩先輩。衣笠幕僚長には、内緒に。」
 
「えっ?うそうそっー。あはははぁ、イワン、うまい事言う。衣笠ストレスってか。麗子先生の所には色んな薬があるな。好きなの、もらったらいい。喉のイガイガが気になるなら、道産子ビールなんて薬も冷やしてあるし。あははぁ。さぁ我々も移動しようか。さ、イワン行くぞ。」
 
 2人っきりになると、防大時代の先輩と後輩の間柄になる2人だった。
 
( でも衣笠先輩の話、マジ内緒にして下さいよ。もう、洒落なんすから。 )
( ははっ……ん?どうしようかなぁ。 )
( もう~、ちょっと勘弁してくださいよ~。 )
( そうか?あはははっ~!うそうそ!イワンは昔から良く引っかかる。あははっ! )
( もう、やだな~先輩。いじらないでくださいよ~。もう、あはははっ~。 )
( あ、やっぱりキヌに言おう。 )
( いやいやいや、お願いですからぁ~。 )
( ガハハハッー。 )
( なんか、防大からズッと、いじられキャラだよ~。 )
( ガハハハッー。 )
 
 2人は大笑いしながら、訓練本部を後にした。
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