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第7章 ロフテッド軌道・急襲攻撃訓練。

第2話 コンチネンタル・バリステック13、訓練開始。

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 米陸軍・ハワイ守備防衛隊・第17機動部隊訓練場。深夜2時未明。

 今夜のハワイ島は新月で月も無く、そして雲も無く満天に星空が広がっている。その満天の星空の下で、煌々と明かりがともって居る一角があった。
 
 大型の情報装甲車両と大型の野営テントがズラリと並んでいる。
 
 忙しく歩き回る兵士達と双眼鏡で空を除くアメリカ宙軍とシーラスの上級司令官たち。その中に千歳シーラスワン最高司令の御舩少将と航空宙空自衛隊の岩井龍也宙空将が野営テントから出て、並んで星空を仰いでいた。
 スマハンドの時計を表示させてカウントダウンを見る御舩。
 
「既に全12機は千歳ローンチから飛び上がっている。え~だから後5分程でブレイクか。岩井、もうそろそろ宇宙空間手前でブレイク、まー宙返りだな。その後突入してくる。」
 
「やっと、見ることが出来ました。防衛庁長官も衣笠先輩(衣笠幕僚長)も堅い方でなかなか訓練実地を見ることができませんでした。はははっ。御舩先輩のお陰です。有難うございます。」
 
 頭を下げる岩井宙空将。
 
「はははっ。ここまで来られたのも航空宙空自衛隊のオービター全隊員のお陰様だ。俺は勝手にしゃべってるだけだ。さぁ急襲突撃とは、どの様な物か。イワン(岩井のあだ名)、じっくりよく見てくれ。」
 
「はい。」
 
 胸の双眼鏡を持ってニコニコしながら答える岩井宙空将。
 岩井は御舩の出身校、防衛大学校の2期後輩だった。

 その2人の後から、米軍の女性兵士が近寄ってきた。敬礼をしてから御舩に報告をした。
 
「エクスキューズミー、サー。時間です。」
 
「ん?そうか。よし!」
 
 御舩が岩井に振り向きニッコリとした。
 女性兵士がスマハンドの操作をして、腕を伸ばしスマハンドを御舩の口元に持っていく。
 腕を支えて発令する御舩。
 
「全予定域!ライトオフッ!」
  
(( 全予定域!ライトオフッ! ))
  
 広大な射撃訓練所にながれる御舩司令の声。
 
( ライトオフッ!ライトオフッ!ライトオフッ! )
 
 呼称がテントの中から、順番に伝わって行く。
 この野営本部から訓練場の周辺の道路の街頭など半径5キロ、全ての明かりが消えた。
 余計な光が無くなった射撃場。
 上空には全天の星空が広がったのだ。
  
( オォォ~! )
  
 夜空を見上げ、歓声を上げる士官や兵士達。
 足元から照らす非常灯のオレンジの薄い光の中で、御舩と岩井がお互いを見てニッコリとした。そして、御舩少将が女性兵士の腕を持ったまま、訓練の開始を告げた。
 
「コンチネンタル・バリステック13!訓練開始!」
  
(( コンチネンタル・バリステック13!訓練開始! ))

 暗闇に響く全館放送。全ての野営テント、装甲車内のコントロールルームの兵士やオペレーターが立ち上がり敬礼をした。
  
(( イエッサー! ))

 再び、御舩へ敬礼をしてから小走りでテントに去る女性兵士。
 
 米軍では初めての大規模な急襲突撃部隊による訓練だった。
 その暗闇中、コマンド・オペレーティング装甲車がズラーと並んでいる、その一番端。その周りで軽い人だかりが出来て、何やら騒いでいた。

「御舩先輩?なんでしょうか?」

「わからん。イワン、ちょっとのぞきに行こう。」
 
 御舩と岩井が、お互い目を見合わせてから装甲車に走った。
 装甲車の中を覗いていたアメリカ宙軍の士官たちが走ってきた御舩達に気が付き、道を開けて敬礼をした。
 
 装甲車に入る御舩と岩井。
 
 この装甲車はオリエッタ博士の医療モニタリング・システムの車両だった。
 監視オペレーター・ルームでは、やかましく警告音が鳴り響いていた。

( ビー!ビー! )
( ビー!ビー! )
 
 コンソールの前で腕組みをして黙っているオリエッタ博士。

 その横で声を張り上げてオリエッタに怒っている白衣の女医と、アメリカ宙軍の現場指揮官らしい男がいた。

 依然鳴り響く警告音。

 36名の機動モービルのパイロットの顔を映しているモニター群。
 その中で画面全体が赤くなっているパイロット・モニターがあった。

 それを指差しながら射撃場の現場指揮官、ロビン・ターナー少尉とNASAの医療部長のケイト・ストーンがオリエッタに訓練の中止を訴えていたのだった。
 
「コンディション・オールグリーンじゃなきゃ、この施設をお貸しするわけにはいきません。直ちに訓練を中止してください。博士聞いてますか?中止・して・下さい。解りますか?」
 
「あなた、ねっ聞いてるの?1人、レッドじゃない!直ちに中止しなさい。聞いてるの?英語がわからないの?あなた何人?英語、本当にわからないの?」
 
 つまらない顔で画面を見ながら、手を広げて、モニターを見ながら2人の話にうなずいているオリエッタ博士。

 小うるさいから英語が解らないフリをしていた。
 
 装甲車に乗り込んで来た御舩と岩井を見ると、話を止めて敬礼する2人の正義漢。

 御舩はひと指し指を口に当てて、2人にしゃべるなと注意を促す。
 そして、やかましく鳴る警告音を消した。
 
 御舩を座ったまま見上げるオリエッタ。

 御舩が2人を見ると、またしゃべりだしそうになる。

 すぐに口にひと差し指を当てて、2人を止める御舩。
 
 オリエッタの正面のコンソールにはブレイクまで後3分を切るカウントダウンの数字が忙しく動いていた。
 
「博士?オープン回線で。(え?日本語、日本語なの。彼女日本人?)(ちがうってヨーロッパの……。)」
 
 また、眉と手の平を挙げて、オープン回線に切り替えるオリエッタ博士。
 
 御舩が、唇に指を当てて2人をまた、黙らせた。
 手を広げたり額を掻いて、バツを悪そうにする正義漢の2人。
 
「きよし・椎葉少尉!」
 
 赤い画面の中でぐっすり寝たままのきよし。
 オリエッタが御舩と目を合わせ片手の、手の平を挙げる。

 後ろに立つ2人をチラッと見てから、ニッコリして椅子に深く腰掛けた。

 その後ろで心配そうに2人がモニターを凝視した。
 
( きよし・椎葉少尉! )
 
 オリエッタがまた唇をへの字にして、手の平を上げた。急にニヤける御舩。
 
( 少尉、椎葉少尉。起きろっ! )
 
 パイロット全員のオープン回線だから、各々のパイロットが、御舩が登場した意味がわかって、クスクス笑い始めた。

 コンソールに身を乗り出し、頬杖するオリエッタ博士。

 チラッと御舩を見る。

 鼻の穴を膨らませて息を吸う御舩。
 そして一喝!

 
( コラーっ!きよし~っ!こら薄らボケ~!起きんかこのクソガキがっ!……。ふぅ、駄目だこりゃ。 )
 

 ため息をつく御舩。

 口閉じて笑いを堪えるオリエッタ博士。

 ジッと見守っても、まったく動かないトップパイロットのきよし・椎葉少尉だった。
 
 次第に、モニターに映る各パイロットの笑い声が大きくなる。
 
 その中でとびっきり美人の白人女性のパイロットが腕を組んで、面白くない顔で正面を見ていた。
 その美人パイロットのモニターを見た御舩がある事を考えた。
 もうカウントダウンは2分を過ぎている。
 
「オリエッタ博士?京子姉さん、失礼。椎葉博士に連絡は?」
 
「もちろん。そのままで。いつでもどうぞ。(ほら、日本語じゃない。)(え、会議で英語だったよ。)」
 
 後ろでこちょこちょ言ってる2人を気にしないで、下顎をあげて頬杖を突き直すオリエッタ博士。
 手の平で、もう一度、(どうぞ)とジェスチャーした。
 
「ゴホンッ。ゴホンッ。」
 
 咳払いをして、NASAの女医と現場の少尉、後ろに立つ岩井を振り向いて見てから椎葉京子に話しかける御舩。
 
「え~、ゴホン。椎葉博士?京子姉さん聞こえる?」
 
 セカンドモニターに、椎葉京子が映るように切り替えるオリエッタ。
 
「京子~。閣下よ~。聞こえる?ア~タ、映ってるわよ。御舩閣下が来たわよ。笑ってる場合じゃないよ~。ちょっと、京子~。」
 
 日本語を話したオリエッタに口を開けたまま驚く2人の正義漢。
 
 栗山の医療サンパチトレーラーで、監視している京子を横から映すモニター。

 京子は、腹を抱えて笑っていた。自分が映されているのに気が付き、椅子ごとモニターに近づける京子。
 
「あはははっ。オリー。あっ!ごめんなさい閣下。ゴホンッ。拝見いたしてましたわ。クスクスッ。」
 
 カウントダウンは1分を切りそうだった。
 せかされる様に椎葉京子博士に話しかける御舩。
 
「あ、あ~姉さん。きよしを起こしてください、京子姉さん。この射撃場あと数回お願いしなければならない。問題を起こしたくないので。姉さん、力貸して。」
 
「あ、はいよ。んっ……。(ポチッ)ね~ジェシカ聞いてる?ジェシカ・スミス少佐ぁ。ちょっとジェシー。」

「イエスマム……。」
 
 被っているヘッドギアに、手を当てて急に赤くなる、とびっきり美人のアメリカ宙軍エリート・機動モービルHARMORパイロットのジェシカ・スミス少佐、23歳だった。
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