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第7章 ロフテッド軌道・急襲攻撃訓練。

第1話 オープン回線。

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( シュン!ゴオオォー! )
 
( シュン!シュン!ゴオオオォォー! )
 
 分厚い雲の層を突き抜けて強力に上昇する訓練用自衛隊オービターの群れ。

 そのオービターの群れが目指すのは地球の成層圏の上層部、地上からおよそ9万メートルの彼方だった。

 太陽の強烈な白い光が差し込む。

 地球を守る大気の終焉で、真空の宇宙との境目なのだ。
 
 その境目に向かって上昇してくる12本の強烈な筋。
 
 一面に広がる濃紺の蒼い空に向って、ロケットの様に打ちあがっていく12機の自衛隊オービター。

 その一番先頭のオービター「ニンジャ・ワン」に杉山、鈴木たちのプロフェッショナルチームが搭乗していた。
 
 杉山機長がいつもの様に落ち着いてコンソールを操作する。
 
 いよいよカーマンライン(宇宙と地球の境目)のビックターン・ポイントに近づく12機だった。
 
 メインエンジンを切り減速の指示を副長の鈴木にする杉山。
 
「高度8万……、81,000……時速2万4000に減速、更に慣性減速開始する。ローンチブースター異常なし。全機、ローンチ・メイン・ブースター(主力噴射エンジン)停止。」
 
「全機メイン・ブースター停止。アイドルー(待機)。」


( シュシュシュシュー、ゴンッ! )

 
 オービター最後尾の、強力なロケット・エンジンから噴射する6本の鋭角な噴射炎が止まった。
 
「2番機(クノイチ・ゼロ)から12番機(エメラルド)まで、メイン・ブースターのアイドルー確認。」
 
「よし。」
 
 地球のまだ衰えぬ重力によって、急激な慣性制動が始まるオービター。
 
 その減速による強烈なGを感じさせない動作で、発令する杉山機長と、補佐する鈴木副長のベテラン2人。

 テキパキと計器類を確認して報告する鈴木副長だった。
 
「ノーズコーン・スラスター(鼻先の制御噴射ロケット)F1からF8、L1からL7、R1からR7異常なし。」
 
「よし。全機報告せよ。」
 
「えー、2番機から12番機全機報告受信。全機、ノーズコーン・スラスター異常認められない。」
 
「よし。」
 
「全機、EIイーアイ(大気圏再突入)前再始動スターター1800℃で良好。全機サブモーター(大気圏内制御用ジェットエンジン)始動しました。」
 
 杉山が鈴木を見てニヤッとする。
 
 今回はバルトッシュ・カミンスキ中佐の第1訓練大隊、ジェシカ・スミス中佐の第2訓練大隊合同の13回目の千歳シーラスワンの急襲攻撃訓練なのだ。

 それも2大隊最後の合同訓練なのであった。

 この訓練後、正式に急襲攻撃部隊の一員として現在稼働している急襲攻撃4大隊に35名全員が正式配属される予定なのだ。
 
 12機の訓練用武装オービターは、地上から挟角で打ち上げる(ロフテッド・ローンチ)。
 
 そして成層圏のギリギリの高度で一気に宙返り(ビッグターン)をするのだ。
 その後、地球に向かって狭角80度で大気圏内に突入して一気に目的地上空に急接近するのだ。
 
 今回の訓練は、米国ハワイ島訓練場で急襲攻撃訓練を行う。
 
 訓練用オービターと言っても40メートルの大きさがあるスペース・シャトルだった。
 訓練で参加するのはこの12機の自衛隊オービターだけではない、射撃場上空にはモニタリングしているバックアップのシーラス大隊・大隊司令部が載る新型120メートル級の武装大型オービタ「通称:ビッグマム」4機と護衛するアメリカ空軍の戦闘機。
 
 麗子・オースティン博士率いる医療チームが乗る2機の高高度ランデブー用の90メートル級の緊急医療オービター「通称:ビッグドク」が射撃場の高高度を旋回していた。
 
 地上には2大隊分の最新鋭米陸軍と移動指揮・司令部が待機し、緊急医療チームなどシーラス本隊、米・陸海空軍などスタッフの総勢1,500名が参加していたのだ。
 1度の訓練で小国、一国の国家予算をはるかに超えてしまうのだった。
 
 膨大な費用の掛かる最新鋭兵器の軍事演習。
 
 シラス加盟国軍が競って優秀なパイロットを千歳シーラスワンに送り込みたいのが良くわかる。

 小国や赤貧国には、ローンチ・オービターによる急襲攻撃のための、高高度降下訓練などは夢の又、夢なのだ。
 
 杉山機長以下全員が、深くコクピットシートに腰を当てた。
 いよいよカーマンラインでのビッグターンが始まるのだ。
 
「カーマン・ラインまであと180秒。全機ブレイク準備。全機ブレイク準備。警報。」
 
 復唱する鈴木機長。そして警報の操作をした。
 クルーの各々がヘッドギアーの装着確認やシートベルトなど安全確認を始めた。
 
「全機ブレイク準備。全機ブレイク準備。警報。警報。」
 
( ビン、ビン、ビーン!ビン、ビン、ビーン! )
 
 全オービターの機内に警報が流れた。この成層圏上層部(中間圏)でビックターン(宙がえり)を行い、一気に地上目掛けて大気圏に再突入するのだ。
 
 機動モービルの中では、宙返りにかかるGに対して、身構えるパイロットたち。

 その中でも小林小隊は多少、他の訓練小隊より余裕がありそうだった。
 
「ルオッ!耳は大丈夫か!」
 
「へ、平気だわさ。それよりきよし、また寝てるけど大丈夫?」
 
「もう、俺達は、他に先駆けて12回、だからもう25回目の訓練かぁ。今まで寝たままで大丈夫だったからな!はははっ。シー(椎葉きよし)は夢の中で宙返りするんだろう~はははっ。」
 
「もう、きよしのやつ、今度は絶対!機体パージまで起きてるって言ってたクセにっ。また、訓練終わったら、なんで起こしてくれないの~もう!ってふくれるんじゃないの!はははっ。大笑いだわさ。」
 
「ホント、メンドーなヤツ~!なっルオ。はははっ!」
 
 小林、ルオ、そして、寝ているきよしなど、全ての機動モービルHARMORのコクピット内でブレイク警報が大音量で鳴り響いた。

 
( ビン、ビン、ビーン!ビン、ビン、ビーン! )

 
「あと150秒!もうそろそろ、ググ~ガクンッ!グワ~ッってくるぜ。気張れよ!パールバティ・ワン!」
 
「了解!ヴァイシュラーヴァナ(毘沙門天)!小隊長!」
 
 緊張するヴァイシュラーヴァナ(毘沙門天)の小林機とパールバディ・ワンのルオ機だった。

 その時、警報が止み、通信チャイムが鳴った。
 

( ピリンピリンッ。ピリンピリンッ。 )

 
 全機オープン回線の始まるチャイムだった。
 
「なんで?なんだべ、このタイミングでオープン回線。」
 
 怪訝な小林。そこに、御舩がモニターに現れた。
 
「えっ?御舩閣下。ルオ?なんだべ。」
 
「どうしたんだわさ。えっ何っ?」
 
 目を細めてモニターを見る小林とルオだった。御舩少将が大声で話始めた。
 
「きよし・椎葉少尉!」

 
( はぁい? )

 
 首を傾ける2人だった。
 全HARMORのコクピットでもパイロットたちが頭を傾げた。

 各オービターコクピット内ではビッグターン準備を進める全オービター・パイロットたち。
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