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第6章 千歳シーラスワン配属式。
第5話 配属式
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千歳宙空ステーションは爽やかな春の空気に満たされていた。
倉庫群から滑走路脇に続く桜並木。
北海道の春は遅い。まだ、大雪山系の山々には残雪が至る所に残っている。4月も半ばなのに桜の蕾もままならない桜の木。
その前を過去に見た事もない大型トレーラーがエンジン音も出さず静かに通る。
( ザザザ、ザザザー。 )
大きなタイヤの音だけが通過した。
青く広がる千歳の空に、ぽつんと小さな雲がいくつかあった。
その上空から静かに巨大な3つの物体が垂直に降下してきたのだ。
至る所で歓声が上がった。
( なんだー!なんだあれ? )
( UFOの母船かー!地球侵略かー!スゲー! )
( え!え!うわーUFO!本物? )
( マジっ!私、本物のUFO見てるのぉー! )
( えー何、何、何?えー!マジかよ~! )
千歳市内でも宙空ステーションの待合室、駐車場、信号待ちの車、様々な所で人々は空を見上げている。
近隣の市町村からも空からゆっくり降下する巨大な物体が確認できた。
栗山町内。
腹へー太郎の店内のテレビに中継が流れる。
奥の台所では店主の太田が水仕事や仕込みをしていた。
( ただ今、巨大な宇宙船、宇宙戦艦と思われる3隻の正体不明の物体がかなり上空から降りてきているのが、千歳宙空ステーション屋上からの固定カメラが捕らえました!見えますか金田さん!金田さん! )
( はい、スタジオモニターでしっかり確認できています。何ですかあれは?宇宙人のマザーシップですか! )
( 日本国軍の広報チャンネルの千歳配属式中継で、この物体のアナウンスがありますか金田さん。 )
( 今、スタジオで同時に軍の広報チャンネル、ライブ中継を見ていますが、倉庫前に用意した迎賓席へ座る関係者や家族達を映しています、あっ!迎賓席の皆さんが気がついて空の上を、空を見ていますね。ん~、特にテロップやアナウンスはありませんね~。 )
( それは大きな問題ですね。ただでさえ、憲法改正後から30年、国防費の極端な増額、自衛隊の過剰装備、過剰な研究開発、新設の日本国軍の急激な成長など国民の不信感が増しているのに、この様な正体不明のユーホーが参加する配属式は、更に国民の不信感を加速しそうですね。あ、巨大ユーホーがだんだん地上に近づいて来ています。雲を抜けそうです。違う望遠カメラが、あっ、あっこれは日本語で、なんていう事なんでしょう!いいのでしょうか! )
( どうしましたか。 )
( ひ、ひらがなで、「あさひ」と書いています。日本語です。日本語です。手前の宇宙船は「あさひ」です。真ん中が、あっ!あっ、英語で「キングジョージ4世」と、えー!イギリス軍!そして奥の一番大きな……アメリカの国旗と……アメリカの国旗っ!えっ、えっ!「ジョージタウン」と書かれています。私たち、マスコミに知らされていない事です。全く知らされていない事です。恐らく、世界中のマスコミも知らない事です。これは大きな日本政府の怠慢です。何が知らす國のシーラスなんでしょうか。あっ!あっ船の窓に、大勢の人の影が、一列にならんで敬礼しています。あっ!あっ、甲板でしょうか、ロボットスーツや大きなロボットも、どの船の甲板でも一列にならんで敬礼をしています。なんて事でしょうか。我々には一切、アナウンスがありませんでした。これは日本国民を……。)
太田が忙しく手を動かしながら、笑った。
( アハハハッ。ワザとらしいバカ共が。こんな大事な事、お前たちマスコミが知らんわけないだろうが。しらばっくれて。バカか。どこの国の代弁してるんだ、この局。対馬の時と、変わらねーな。日本人のスタッフがいないのか!この東京のTV局は。 )
店の玄関先から女性従業員の声が聞こえる。
( 店長ーっ!店長っ! )
( 見てみて!店長!見てみて!凄ーい! )
戸を開けっ放しで、暖簾の前で女性店員3人が大騒ぎしている。1人の店員が、暖簾をくぐりわざわざ太田を呼びにきた。
「店長ー、店長ー!凄いですよー店長!ユーホー!ユーホーッ!早く見ないと山陰や家の陰で見えなくなりますよ!早くー!来て、来て。」
「はいはいっ、解ったから、解ったから。」
嫌々、女性店員に連れられて外に出る太田。
店から出ると、道の至る所で町の人々が出て来て、空を見上げていた。
スマハンドで腕を伸ばして撮影する者、ビデオカメラで撮影する者。
3隻の空から降りてくる母艦に歓声を上げていた。
「店長、ホント凄いですねー。昨日店に来た椎葉さんの親戚ですか、マーシャパパが乗っているんですねー。凄い!凄い!あんな大きなのが地球にあるなんて。」
「あれがジョナサンの仕事場だべ。奥の方の戦艦、ジョナサンが防空隊長してる母艦のジョージタウンだ。」
シラケ気味に話す太田。
反対側に立つ年配の女性店員がまた、一方的に話をする。
「やっぱり凄すぎるわ店長。あのユーホーの下は千歳空港ですよね?」
「んだ、千歳の宙空ステーションがあんべ。」
「やっぱり凄いー。思ったより千歳ってすんごい近いんですね。栗山から。」
「はぁい?そこ?」
千歳宙空ステーションに降りていく3隻の武装急襲母艦をいつまでも見ている太田たち4人。
* *
千歳宙空ステーション内の買い物客が窓の近くに来て、写真撮影や動画撮影を慌ててしている。
その大きな物体は音もせず、小さな雲を抜け、緩やかに地上に舞い降りてきたのだ。
その物体とは最新鋭の急襲攻撃型宙空母艦の3隻。
シラス加盟国軍の多国籍軍、いわゆるシーラスの宙空艦隊の旗艦「あさひ」、英国RSFロイヤル・スペイシィ・フォーシスの第3宙空機動部隊・旗艦「キング・ジョージ4世」、USASFアメリカ宙軍急襲第2宙空急襲機動作戦群・急襲攻撃型母艦、旗艦の「ジョージタウン」だった。
いつの間にか、音もなくシーラス倉庫群の地上200メートル上空で止まった。出席した家族達は立ち上がって拍手をした。
あるテクノロジーの提供があり、今や新型の宇宙戦艦は地球空間で大気中での空中停止をすることが出来たのだった。今回はテクノロジーに関してのアナウンスはないが、暗黙の披露を兼ねていたのだ。
今回の千歳の配属式はそのテクノロジーに世界中の政府が注目していた。その為、千歳宙軍ステーションのビル屋上には例年の配属式より数倍多いマスコミのギャラリーでごった返していたのだった。
マスコミに既に知らされているハズが、報道しない自由を行い今まで知らなかったを決めこむ、近隣アジアの反日在日外国人が支配するマスコミもまだこの時代、生き残っていた。
千歳宙空ステーションは4つのエリアからなる巨大なハブ空港。
1つ目は日本国内や地球上の空港の通常エリア。その中心にある千歳宙空ステーションビル。
2つ目は最近、訓練の為再開された西側諸国で当時では最も長くて大きな旧型オービター遠心加速打ち上げ場で電磁カタパルトのローンチ・ループ2基と、オービター専用着陸滑走路。
3つ目以降は千歳宙空ステーションから少し離れていた。3つ目は更に4ブロックに分かれ、日本国空軍ブロック、航空自衛隊ブロック、PKSF国連平和維持宇宙軍ブロック。そして海上保安庁ブロック。3ブロックの中心に国防第1管制塔ビルがそびえていた。
そして4つ目のエリアがもっとも広大だった。
それは、多機能のシーラス(シラス加盟国軍)エリアだった。
建物も宙空監視管制塔の国防第2管制塔ビルで千歳シーラスワン本部が入っていた。国防第2管制塔ビルの東側には推定直径30メートルのオービター垂直地下発射孔が3基設置されているのだ。ここから120メートル級の武装オービターを発射するのだ。
今回の合同入隊及び配属式典は、この広大なシーラスエリアで執り行われたのだ。
巨大な空港ビルがそびえるシーラスエリア。
その正面で式典が行われた。千歳宙空ステーションビルからは2キロの距離があった。
いよいよ、配属式が始まった。
空港の巨大な滑走路に響く、アナウンスの声。
( これより、日本国軍、自衛隊、PKSF国連平和維持宇宙軍、シーラスによる、千歳第1宙域打撃群作戦本部、シーラス急襲突撃機動部隊、千歳シーラスワンの合同配属式を執り行います。 )
迎賓客の拍手に湧く、シーラスエリアの広大な会場。
新型の38式日本国陸軍・自衛隊共同汎用トレーラー8台の入場と共に、東千歳駐屯地の自衛隊・第7音楽隊が自衛隊伝統の陸軍分列行進曲を演奏した。
( ただ今、入場してきたこのトレーラーはシーラスと富嶽重工の共同開発による初の小型核融合電池搭載の高機動汎用タイプのトレーラーです。シラス加盟国軍で世界同時に本日、配備されました。このトレーラ自体が強力な電源車両で、膨大な電力を消費する磁気レール兵器、レーザー兵器、そしてのNATO軍名称の機動モービル:HMAE(フメイ)の運搬、HMAE(フメイ)の装備品運搬やメンテナンスに使用されます。また、緊急性の高い高度な治療が要求される救急医療用、そして、災害発生時の電源確保など多種多様な有事状況をサポートします。強力な電力を供給し、トレーラー1台で一般家庭なら500世帯程度に安定した電力を既定の二酸化炭素と重水素さえあれば半永久的に供給できます。電力稼働時に、周辺機器から圧縮冷却時に発生する大量の純水も確保できるオールインワンな自己完結型高機動トレーラーです。 )
通称:サンパチトレーラーが紹介された後、配属する兵士達が入場してきた。
第7音楽隊が航空自衛隊行進曲( 空の英雄 )の演奏が始まった。
演奏に合わせ、シーラス各倉庫から旗をもったスカート姿の女性兵士が先頭に現れた。
本日配属されるのは、訓練2大隊の新規配属35名と、各国から転属してきた加盟軍の機動モービルHARMOR現役パイロットの48名、シャトル・オービターや戦闘機・各種輸送機パイロットの23名だ。
ジョナサンやローマン、ジェシカや各司令部幹部、職員は既に前面で整列していた。
きよしの父、椎葉繁も機動歩兵連隊の司令達と共に整列していた。
本来は、オディアと迎賓席のハズだったが、御舩に言われ、司令席にいたのだ。
本日配属される、きよしたちの訓練2大隊内訳は、日本国軍所属機動モービル小隊の3名、女真帝國装甲機動小隊の3名、アメリカ合衆国宙軍の3名。自衛隊の機動モービル小隊の3名、台湾宇宙軍機動モービル小隊の3名、英国ロイヤルフォーススペーシィの機動モービル小隊の3名、訓練部隊配属となるポーランド特別宇宙軍・JWコスモス所属、HARMORのベテランおよびエースパイロットの6小隊、18名。
それら行進する約100名ものパイロット達の後ろには、付添いの各国のエンジニアや高度技術武官および情報武官、事務武官達含め、新配属の総勢約300名が続いて行進してきた。
400名以上の大規模行進が続いているのだ。
その時、行進に合わせて先頭で闊歩するきよしの元に、迎賓席半ばから小さい女の子が飛び出して来た。
可愛らしく黒の正装をしたちっちゃな女の子が、先頭を歩く椎葉きよしの手をつないで歩き始めたのだ。
数えで5歳になったオディアだ。
迎賓席に手を振るオディア。
迎賓席の人達が気がついてザワザワする。
手をつないでニコニコして行進するきよしとオディアだった。
「あれっ?オディアちゃんじゃないの?」
「オディアちゃん、あららっ。」
やがて、女の子がオディアと解ると、会場のゲストたちにも笑顔が見え始めた。
迎賓席からもオディアへ手を振り始めた。
軍隊のアイドルは迎賓席に手を振りながら早足で歩いて行く。
行進の歩く速さについて来られなくなると、きよしがヒョイとオディアを抱き上げた。
ピタッとプクプクした頬をきよしの頬にピッタリ引っ付けて抱かれるオディア。
会場から拍手が沸き起こった。
実はオディアが登場する事は軍の、シーラスの演出だったのだ。
…… このシーンは全世界中へ配信され話題になった。開かれた日本国軍の宣伝だった。
【 ♪JNF Japan National Force!日本国軍からのお知らせです♪ 僕も!私も!君も!貴女も!軍隊に入ろう!父を!母を!子を!友達を守ろう! 】
「令和20年の4月12日本日、千歳宙空ステーションのシーラスエリアで盛大な千歳シーラスワン配属式が行われました。」
「一緒に戦おう!我々が守ります!」
整列した配属兵と、先頭で立つきよしに抱かれたオディア。
もちろん、きよしの顔が映らないように上手な撮影がされている。しかし、知っている人にはきよしと直ぐ解った。
御舩少将が儀仗兵2人の後から列の先頭を歩いてきた。
きよしとオディアの前で止まる御舩。
御舩は、オディアのプクプクほっぺを優しくつまみ、頭を撫でる。
「私も守る(オディア)!」
小ちゃな手で敬礼をするオディア。
返礼する御舩少将。
( ハハハッ! )
御舩以下、整列している全員が画面に指を差して盛大に言った。もちろん、きよしの顔は抱かれたまま手を振るオディアで隠れている。
( 君達を待っている!ハハハハッ! )
このCMシーンで使われたのだった。
配属の約400名が足踏みをしながら先頭に並んだ。
先頭には各配属されたパイロットの国旗を持つ女性兵士も足踏みをしたままだった。
号令が走る。
( 全隊ー!止まれっ! )
( ザッザッザッ!……。)
( 全隊ー!敬礼っ! )
( ザッ! )
その正面の壇上に御舩少将が立ち、敬礼をしたまま左右を見回した。
その後、敬礼の手を降ろし直立した。
( 敬礼ー、止め!(ザッ!)休めー!傾聴っ! )
( ザッザッ! )
一糸乱れぬ、約400名のパイロット達と武官達の基本行動。
満足そうにうなずく御舩少将だった。
御舩は一歩前に出て、会場へ挨拶とスピーチを始めた。
「ご来場の皆様、千歳第1宙域打撃群作戦本部の配属式にようこそ。私は千歳第1宙域打撃群の作戦本部、作戦参謀司令部、司令長官を拝命しております、少将職の御舩大であります。通称千歳シーラスワンとかシーラス・イースター・アサルト・ワンと呼ばれておりご存じの方も多いと思います。本日、その千歳第1宙域打撃群に過酷な新急襲攻撃訓練を迎える、新配属のトップ・ガン・パイロット35名、そして新急襲降下作戦を支えるエキスパートのHMAE(フメイ)パイロット達71名。そのパイロット達をカバー・サポートする専門武官やオフィサーを含め、合計419名が晴れて配属となりました。もちろん兵士のご家族も入れると各国から2000名以上の方々が千歳に来られました。しかし、この自然が豊かな大地、千歳。ここ北海道は緊張の大地でもあるのです。皆様もご存じの通り、我が国日本を取り巻く安全保障環境は、年々、大変厳しい状況にあります。2年前、同盟国、女真帝国のやむをえない設立から始まった世界動乱。その後、中央アジアに設立された軍事国家のAXIS。皆様も記憶に新しい、昨年のAXIS南北朝鮮域軍による対馬の島嶼着上陸防衛戦。AXISの突然の侵攻と、市民を標的にした無差別攻撃。それも普段の訓練の賜物、島嶼奪回訓練にいそしむ日本国軍兵士諸君、自衛隊隊員諸君のお陰様で、短期間で無事完全撃退出来ました。しかし、残念ながら日本政府判断の遅れから、島民には多数の犠牲者を出してしまいました。争いは決して終結しておりません。日本海地方は地政学的にも、今も危機感を拭えないのが現状です。ただ、幸いにして世界同時の大戦には至っておりません。これは全てシラス加盟国軍、各軍の努力の賜物であります。この場を借りてシラス加盟国軍の皆様へお礼と、心から敬意を表します。しかし、残念ながら領域と利権拡大を目論むAXISとの局地戦は今でも、地球上、宇宙域の衛星軌道上、そして月面上で行われています。世界大戦におよぶ危機が危ぶまれているのです。世界は現在も綱渡り状態なのです。残念ながら、これが我が天の川銀河辺境の惑星、地球の現状なのです。東西のバランスの崩れる事が無いように本日配属された諸君には一命を持って配属軍務に日々努力で報いる様に希望します。これから心身ともに厳しい局面が多々あることでしょう。生死を、ギリギリ分ける辛い時もあるでしょう。でも、その時はどうか今日参加している、君たちを見守っている家族や友人の事を思い出してほしい。本日配属された君達、その瞼の裏に映る人達の事。家族、友人、恋人を守る事が君たちの使命、神命だと思って頂きたい。ようこそ!知らす國の兵士たちよ。配属おめでとう。君たちの武運長久を祈る。そして輝かしい戦果は君達の胸の内にあることを信じております。迎賓席の皆様。本日はお忙しい中、我が千歳シーラスワンの配属式に足を向けて頂き、誠に有難うございました。これで私の配属式歓迎の辞とさせて頂きます。ご拝聴、有難うございました。」
迎賓席から大勢の拍手が沸き起こった。
その中を最敬礼をしてから壇上からゆっくり降りる御舩少将。
そのまま、きよしの横に立った御舩大将。
オディアが御舩にちょっかいを出そうとすると、下からオディアの鼻をチロッと指で撫でた。
キャッキャと脚をパタパタして喜ぶオディアだった。
次の挨拶は日本国軍北部方面統合指揮司令、武田稔少将。
「皆様、初めまして。武田稔で御座います。私達、日本国軍北部方面統合指揮は、主に、東北から北海道の空軍、陸軍、海軍、新設の地底軍の地球大気圏内の防衛活動を統合指揮を致しております。シーラスの先制急襲突撃攻撃を鉾とすれば、我々は強靭な防衛の盾とのイメージでしょうか。打撃と防御、攻守が一体となったのが、ここ千歳なのです。北の中立を装うロシア、西の脅威のAXISの各国。この自然がむせぶ北の大地、北海道は、御舩閣下の仰られた様に緊張の大地でもあります。その最中、100年以上前からの古い友人である、同盟国のポーランド共和国より18名6小隊のHARMOR、いわゆる機動モービルのトップパイロットが2年の共同訓練の為、千歳に配属となりました。もちろんポーランドから、ご家族もご一緒です。これを機会に日波両国が、更なる深い友情と信頼へ繋がり、両国の友情に厚みが増すことを祈ります。どうか2年後にはポーランド母国の優秀なパイロット育成の一助となります事、希望いたします。35名の諸君!共に戦おう!ベテランパイロット諸君!オフィサー諸君!一緒に戦おう!これで私の配属式の挨拶の辞を終わります。」
武田が終話、敬礼と同時に会場に沸く拍手だった。
次は自衛隊北部方面 岩井龍也宙空将の挨拶。
「皆様こんにちは。航空宙空自衛隊北部方面千歳本部、岩井です。私たち自衛隊は、シーラス及び日本国軍の縁の下の力持ち、自然災害や戦後処理は元より、地球、月、火星のインフラ基盤の整備、惑星間、衛星間宙域の航路確保及びバックアップに勤しんでいる次第です。実は本日。西暦2020年、令和2年に発足しました航空宙空自衛隊の前身、宇宙作戦隊の初の定年退職者12名も同席しています。ご存じの方は少ないと思いますが私達の航空宙空自衛隊は、発足時は宇宙作戦隊でした。それが航空自衛隊と合併し航空宇宙自衛隊になりました。その後作戦行動および同盟軍作戦の援助の為、航空宙空自衛隊と名称を変え、隊を一新いたしました。航空宙空の名の通り、地球大気圏内と衛星軌道上、そして宇宙空間、惑星間の航行、すなわち宙と空の橋渡しをするスペースシャトル・オービターの運行と援護を行っております。急襲突撃部隊の護衛には、堅個な日米波英台仏同盟により開発された新型宙空汎用型F-35B、通称ネオファントムと呼ばれる先制急襲攻撃用戦闘機が既に本年3月より制式配備されております。そして、全長120メートル、新型の超大型垂直離陸型V-TOL武装型スペースシャトル・オービター、通称ビックマム10機と医療用90メートル級ドクター・オービター、通称ビックドクの2機の正式配備も終わりました。この新鋭機12が配備され、この千歳は、特に本年度は大変賑やかな年となるでしょう。また自衛隊アサルトHARMOR部隊や、WALKERと呼ばれるアサルト・パワードスーツ部隊など全ての装備がシラス加盟国軍、シーラスと日本国軍と共通に刷新され、まさしく千歳シーラスワンは世界最強の集団となりました。本日から配属される35名の諸君。そして各国のエキスパート・パイロットの諸君。君達の後には常に最強の私たち自衛隊が付いて居る事を忘れずに。安心して能力を発揮して下さい。そして疲れた週末は是非、ご家族と食堂に来て下さい。大日本帝国海軍、伝統の美味しい金曜100年カレーが待っていますよ。それでは挨拶を終わります。頑張って下さい!」
そして、最後は女真帝國、帝國宙軍・王将軍の挨拶。
「まず最初に、35名のトップ・ガン・パイロット諸君、エキスパート・パイロット諸君。配属おめでとう御座います。益々のご活躍をお祈りいたします。ゴホン。我が、女真帝国は自然あふれる占冠村で開幕して早2年。陸・海・空・そして宇宙軍は日本国政府やシーラス本部、その強固な同盟国であります米国、ポーランド、英国、台湾、フランスなどの各国の御助力により、なんとか総指揮が出来るように準備が整いました。ご協力していただいた関係諸国、ご尽力いただいた日本国の皆様に改めて感謝をいたします。軍事力の質・量を強化するAXIS、我が国の安全への直接の脅威である南北朝鮮半島域、軍事活動活発化の傾向にある我が女真帝国の北部、ロシアの動向等により、それらの中心にある我が女真帝国は地政学的に一層厳しさを増しております。その中で経済、資材、食糧支援に命がけで宇宙から、地底から我が国に直接支援して頂いている日本国軍、自衛隊の皆様には感謝の意を表しても尽きることがありません。本年度は、我が女真帝国軍よりHARMOR・パイロットを配属させて頂きました。それも千歳シーラスワンに配属させて頂いた事は、我が帝国の戦意を更に引き揚げさせていただきました。大変光栄なことです。日々の訓練で各国のパイロット達と切磋琢磨し女真帝国軍の将来の為、頑張ってください。そして同盟国の一員として同盟国を護ってください。本日はこの様な目出度い場にお呼び頂き有難うございました。そしてこの場をお借りいたしまして占冠村の村民の方々、そして周辺町村の方々に、引き続きのご厚情の程、宜しくお願いする次第です。皆様。ご拝聴、誠に有難うございました。」
(( パチパチパチー! ))
(( パチパチパチー! ))
会場では、迎賓席のゲスト全員による、スタンディング・オベーションが始まった。
シラケル空港ビル屋上のマスメディアとは打って変わって、いつまでも拍手の手が鳴りやまない広大なシーラス・エリア・滑走路だった。
倉庫群から滑走路脇に続く桜並木。
北海道の春は遅い。まだ、大雪山系の山々には残雪が至る所に残っている。4月も半ばなのに桜の蕾もままならない桜の木。
その前を過去に見た事もない大型トレーラーがエンジン音も出さず静かに通る。
( ザザザ、ザザザー。 )
大きなタイヤの音だけが通過した。
青く広がる千歳の空に、ぽつんと小さな雲がいくつかあった。
その上空から静かに巨大な3つの物体が垂直に降下してきたのだ。
至る所で歓声が上がった。
( なんだー!なんだあれ? )
( UFOの母船かー!地球侵略かー!スゲー! )
( え!え!うわーUFO!本物? )
( マジっ!私、本物のUFO見てるのぉー! )
( えー何、何、何?えー!マジかよ~! )
千歳市内でも宙空ステーションの待合室、駐車場、信号待ちの車、様々な所で人々は空を見上げている。
近隣の市町村からも空からゆっくり降下する巨大な物体が確認できた。
栗山町内。
腹へー太郎の店内のテレビに中継が流れる。
奥の台所では店主の太田が水仕事や仕込みをしていた。
( ただ今、巨大な宇宙船、宇宙戦艦と思われる3隻の正体不明の物体がかなり上空から降りてきているのが、千歳宙空ステーション屋上からの固定カメラが捕らえました!見えますか金田さん!金田さん! )
( はい、スタジオモニターでしっかり確認できています。何ですかあれは?宇宙人のマザーシップですか! )
( 日本国軍の広報チャンネルの千歳配属式中継で、この物体のアナウンスがありますか金田さん。 )
( 今、スタジオで同時に軍の広報チャンネル、ライブ中継を見ていますが、倉庫前に用意した迎賓席へ座る関係者や家族達を映しています、あっ!迎賓席の皆さんが気がついて空の上を、空を見ていますね。ん~、特にテロップやアナウンスはありませんね~。 )
( それは大きな問題ですね。ただでさえ、憲法改正後から30年、国防費の極端な増額、自衛隊の過剰装備、過剰な研究開発、新設の日本国軍の急激な成長など国民の不信感が増しているのに、この様な正体不明のユーホーが参加する配属式は、更に国民の不信感を加速しそうですね。あ、巨大ユーホーがだんだん地上に近づいて来ています。雲を抜けそうです。違う望遠カメラが、あっ、あっこれは日本語で、なんていう事なんでしょう!いいのでしょうか! )
( どうしましたか。 )
( ひ、ひらがなで、「あさひ」と書いています。日本語です。日本語です。手前の宇宙船は「あさひ」です。真ん中が、あっ!あっ、英語で「キングジョージ4世」と、えー!イギリス軍!そして奥の一番大きな……アメリカの国旗と……アメリカの国旗っ!えっ、えっ!「ジョージタウン」と書かれています。私たち、マスコミに知らされていない事です。全く知らされていない事です。恐らく、世界中のマスコミも知らない事です。これは大きな日本政府の怠慢です。何が知らす國のシーラスなんでしょうか。あっ!あっ船の窓に、大勢の人の影が、一列にならんで敬礼しています。あっ!あっ、甲板でしょうか、ロボットスーツや大きなロボットも、どの船の甲板でも一列にならんで敬礼をしています。なんて事でしょうか。我々には一切、アナウンスがありませんでした。これは日本国民を……。)
太田が忙しく手を動かしながら、笑った。
( アハハハッ。ワザとらしいバカ共が。こんな大事な事、お前たちマスコミが知らんわけないだろうが。しらばっくれて。バカか。どこの国の代弁してるんだ、この局。対馬の時と、変わらねーな。日本人のスタッフがいないのか!この東京のTV局は。 )
店の玄関先から女性従業員の声が聞こえる。
( 店長ーっ!店長っ! )
( 見てみて!店長!見てみて!凄ーい! )
戸を開けっ放しで、暖簾の前で女性店員3人が大騒ぎしている。1人の店員が、暖簾をくぐりわざわざ太田を呼びにきた。
「店長ー、店長ー!凄いですよー店長!ユーホー!ユーホーッ!早く見ないと山陰や家の陰で見えなくなりますよ!早くー!来て、来て。」
「はいはいっ、解ったから、解ったから。」
嫌々、女性店員に連れられて外に出る太田。
店から出ると、道の至る所で町の人々が出て来て、空を見上げていた。
スマハンドで腕を伸ばして撮影する者、ビデオカメラで撮影する者。
3隻の空から降りてくる母艦に歓声を上げていた。
「店長、ホント凄いですねー。昨日店に来た椎葉さんの親戚ですか、マーシャパパが乗っているんですねー。凄い!凄い!あんな大きなのが地球にあるなんて。」
「あれがジョナサンの仕事場だべ。奥の方の戦艦、ジョナサンが防空隊長してる母艦のジョージタウンだ。」
シラケ気味に話す太田。
反対側に立つ年配の女性店員がまた、一方的に話をする。
「やっぱり凄すぎるわ店長。あのユーホーの下は千歳空港ですよね?」
「んだ、千歳の宙空ステーションがあんべ。」
「やっぱり凄いー。思ったより千歳ってすんごい近いんですね。栗山から。」
「はぁい?そこ?」
千歳宙空ステーションに降りていく3隻の武装急襲母艦をいつまでも見ている太田たち4人。
* *
千歳宙空ステーション内の買い物客が窓の近くに来て、写真撮影や動画撮影を慌ててしている。
その大きな物体は音もせず、小さな雲を抜け、緩やかに地上に舞い降りてきたのだ。
その物体とは最新鋭の急襲攻撃型宙空母艦の3隻。
シラス加盟国軍の多国籍軍、いわゆるシーラスの宙空艦隊の旗艦「あさひ」、英国RSFロイヤル・スペイシィ・フォーシスの第3宙空機動部隊・旗艦「キング・ジョージ4世」、USASFアメリカ宙軍急襲第2宙空急襲機動作戦群・急襲攻撃型母艦、旗艦の「ジョージタウン」だった。
いつの間にか、音もなくシーラス倉庫群の地上200メートル上空で止まった。出席した家族達は立ち上がって拍手をした。
あるテクノロジーの提供があり、今や新型の宇宙戦艦は地球空間で大気中での空中停止をすることが出来たのだった。今回はテクノロジーに関してのアナウンスはないが、暗黙の披露を兼ねていたのだ。
今回の千歳の配属式はそのテクノロジーに世界中の政府が注目していた。その為、千歳宙軍ステーションのビル屋上には例年の配属式より数倍多いマスコミのギャラリーでごった返していたのだった。
マスコミに既に知らされているハズが、報道しない自由を行い今まで知らなかったを決めこむ、近隣アジアの反日在日外国人が支配するマスコミもまだこの時代、生き残っていた。
千歳宙空ステーションは4つのエリアからなる巨大なハブ空港。
1つ目は日本国内や地球上の空港の通常エリア。その中心にある千歳宙空ステーションビル。
2つ目は最近、訓練の為再開された西側諸国で当時では最も長くて大きな旧型オービター遠心加速打ち上げ場で電磁カタパルトのローンチ・ループ2基と、オービター専用着陸滑走路。
3つ目以降は千歳宙空ステーションから少し離れていた。3つ目は更に4ブロックに分かれ、日本国空軍ブロック、航空自衛隊ブロック、PKSF国連平和維持宇宙軍ブロック。そして海上保安庁ブロック。3ブロックの中心に国防第1管制塔ビルがそびえていた。
そして4つ目のエリアがもっとも広大だった。
それは、多機能のシーラス(シラス加盟国軍)エリアだった。
建物も宙空監視管制塔の国防第2管制塔ビルで千歳シーラスワン本部が入っていた。国防第2管制塔ビルの東側には推定直径30メートルのオービター垂直地下発射孔が3基設置されているのだ。ここから120メートル級の武装オービターを発射するのだ。
今回の合同入隊及び配属式典は、この広大なシーラスエリアで執り行われたのだ。
巨大な空港ビルがそびえるシーラスエリア。
その正面で式典が行われた。千歳宙空ステーションビルからは2キロの距離があった。
いよいよ、配属式が始まった。
空港の巨大な滑走路に響く、アナウンスの声。
( これより、日本国軍、自衛隊、PKSF国連平和維持宇宙軍、シーラスによる、千歳第1宙域打撃群作戦本部、シーラス急襲突撃機動部隊、千歳シーラスワンの合同配属式を執り行います。 )
迎賓客の拍手に湧く、シーラスエリアの広大な会場。
新型の38式日本国陸軍・自衛隊共同汎用トレーラー8台の入場と共に、東千歳駐屯地の自衛隊・第7音楽隊が自衛隊伝統の陸軍分列行進曲を演奏した。
( ただ今、入場してきたこのトレーラーはシーラスと富嶽重工の共同開発による初の小型核融合電池搭載の高機動汎用タイプのトレーラーです。シラス加盟国軍で世界同時に本日、配備されました。このトレーラ自体が強力な電源車両で、膨大な電力を消費する磁気レール兵器、レーザー兵器、そしてのNATO軍名称の機動モービル:HMAE(フメイ)の運搬、HMAE(フメイ)の装備品運搬やメンテナンスに使用されます。また、緊急性の高い高度な治療が要求される救急医療用、そして、災害発生時の電源確保など多種多様な有事状況をサポートします。強力な電力を供給し、トレーラー1台で一般家庭なら500世帯程度に安定した電力を既定の二酸化炭素と重水素さえあれば半永久的に供給できます。電力稼働時に、周辺機器から圧縮冷却時に発生する大量の純水も確保できるオールインワンな自己完結型高機動トレーラーです。 )
通称:サンパチトレーラーが紹介された後、配属する兵士達が入場してきた。
第7音楽隊が航空自衛隊行進曲( 空の英雄 )の演奏が始まった。
演奏に合わせ、シーラス各倉庫から旗をもったスカート姿の女性兵士が先頭に現れた。
本日配属されるのは、訓練2大隊の新規配属35名と、各国から転属してきた加盟軍の機動モービルHARMOR現役パイロットの48名、シャトル・オービターや戦闘機・各種輸送機パイロットの23名だ。
ジョナサンやローマン、ジェシカや各司令部幹部、職員は既に前面で整列していた。
きよしの父、椎葉繁も機動歩兵連隊の司令達と共に整列していた。
本来は、オディアと迎賓席のハズだったが、御舩に言われ、司令席にいたのだ。
本日配属される、きよしたちの訓練2大隊内訳は、日本国軍所属機動モービル小隊の3名、女真帝國装甲機動小隊の3名、アメリカ合衆国宙軍の3名。自衛隊の機動モービル小隊の3名、台湾宇宙軍機動モービル小隊の3名、英国ロイヤルフォーススペーシィの機動モービル小隊の3名、訓練部隊配属となるポーランド特別宇宙軍・JWコスモス所属、HARMORのベテランおよびエースパイロットの6小隊、18名。
それら行進する約100名ものパイロット達の後ろには、付添いの各国のエンジニアや高度技術武官および情報武官、事務武官達含め、新配属の総勢約300名が続いて行進してきた。
400名以上の大規模行進が続いているのだ。
その時、行進に合わせて先頭で闊歩するきよしの元に、迎賓席半ばから小さい女の子が飛び出して来た。
可愛らしく黒の正装をしたちっちゃな女の子が、先頭を歩く椎葉きよしの手をつないで歩き始めたのだ。
数えで5歳になったオディアだ。
迎賓席に手を振るオディア。
迎賓席の人達が気がついてザワザワする。
手をつないでニコニコして行進するきよしとオディアだった。
「あれっ?オディアちゃんじゃないの?」
「オディアちゃん、あららっ。」
やがて、女の子がオディアと解ると、会場のゲストたちにも笑顔が見え始めた。
迎賓席からもオディアへ手を振り始めた。
軍隊のアイドルは迎賓席に手を振りながら早足で歩いて行く。
行進の歩く速さについて来られなくなると、きよしがヒョイとオディアを抱き上げた。
ピタッとプクプクした頬をきよしの頬にピッタリ引っ付けて抱かれるオディア。
会場から拍手が沸き起こった。
実はオディアが登場する事は軍の、シーラスの演出だったのだ。
…… このシーンは全世界中へ配信され話題になった。開かれた日本国軍の宣伝だった。
【 ♪JNF Japan National Force!日本国軍からのお知らせです♪ 僕も!私も!君も!貴女も!軍隊に入ろう!父を!母を!子を!友達を守ろう! 】
「令和20年の4月12日本日、千歳宙空ステーションのシーラスエリアで盛大な千歳シーラスワン配属式が行われました。」
「一緒に戦おう!我々が守ります!」
整列した配属兵と、先頭で立つきよしに抱かれたオディア。
もちろん、きよしの顔が映らないように上手な撮影がされている。しかし、知っている人にはきよしと直ぐ解った。
御舩少将が儀仗兵2人の後から列の先頭を歩いてきた。
きよしとオディアの前で止まる御舩。
御舩は、オディアのプクプクほっぺを優しくつまみ、頭を撫でる。
「私も守る(オディア)!」
小ちゃな手で敬礼をするオディア。
返礼する御舩少将。
( ハハハッ! )
御舩以下、整列している全員が画面に指を差して盛大に言った。もちろん、きよしの顔は抱かれたまま手を振るオディアで隠れている。
( 君達を待っている!ハハハハッ! )
このCMシーンで使われたのだった。
配属の約400名が足踏みをしながら先頭に並んだ。
先頭には各配属されたパイロットの国旗を持つ女性兵士も足踏みをしたままだった。
号令が走る。
( 全隊ー!止まれっ! )
( ザッザッザッ!……。)
( 全隊ー!敬礼っ! )
( ザッ! )
その正面の壇上に御舩少将が立ち、敬礼をしたまま左右を見回した。
その後、敬礼の手を降ろし直立した。
( 敬礼ー、止め!(ザッ!)休めー!傾聴っ! )
( ザッザッ! )
一糸乱れぬ、約400名のパイロット達と武官達の基本行動。
満足そうにうなずく御舩少将だった。
御舩は一歩前に出て、会場へ挨拶とスピーチを始めた。
「ご来場の皆様、千歳第1宙域打撃群作戦本部の配属式にようこそ。私は千歳第1宙域打撃群の作戦本部、作戦参謀司令部、司令長官を拝命しております、少将職の御舩大であります。通称千歳シーラスワンとかシーラス・イースター・アサルト・ワンと呼ばれておりご存じの方も多いと思います。本日、その千歳第1宙域打撃群に過酷な新急襲攻撃訓練を迎える、新配属のトップ・ガン・パイロット35名、そして新急襲降下作戦を支えるエキスパートのHMAE(フメイ)パイロット達71名。そのパイロット達をカバー・サポートする専門武官やオフィサーを含め、合計419名が晴れて配属となりました。もちろん兵士のご家族も入れると各国から2000名以上の方々が千歳に来られました。しかし、この自然が豊かな大地、千歳。ここ北海道は緊張の大地でもあるのです。皆様もご存じの通り、我が国日本を取り巻く安全保障環境は、年々、大変厳しい状況にあります。2年前、同盟国、女真帝国のやむをえない設立から始まった世界動乱。その後、中央アジアに設立された軍事国家のAXIS。皆様も記憶に新しい、昨年のAXIS南北朝鮮域軍による対馬の島嶼着上陸防衛戦。AXISの突然の侵攻と、市民を標的にした無差別攻撃。それも普段の訓練の賜物、島嶼奪回訓練にいそしむ日本国軍兵士諸君、自衛隊隊員諸君のお陰様で、短期間で無事完全撃退出来ました。しかし、残念ながら日本政府判断の遅れから、島民には多数の犠牲者を出してしまいました。争いは決して終結しておりません。日本海地方は地政学的にも、今も危機感を拭えないのが現状です。ただ、幸いにして世界同時の大戦には至っておりません。これは全てシラス加盟国軍、各軍の努力の賜物であります。この場を借りてシラス加盟国軍の皆様へお礼と、心から敬意を表します。しかし、残念ながら領域と利権拡大を目論むAXISとの局地戦は今でも、地球上、宇宙域の衛星軌道上、そして月面上で行われています。世界大戦におよぶ危機が危ぶまれているのです。世界は現在も綱渡り状態なのです。残念ながら、これが我が天の川銀河辺境の惑星、地球の現状なのです。東西のバランスの崩れる事が無いように本日配属された諸君には一命を持って配属軍務に日々努力で報いる様に希望します。これから心身ともに厳しい局面が多々あることでしょう。生死を、ギリギリ分ける辛い時もあるでしょう。でも、その時はどうか今日参加している、君たちを見守っている家族や友人の事を思い出してほしい。本日配属された君達、その瞼の裏に映る人達の事。家族、友人、恋人を守る事が君たちの使命、神命だと思って頂きたい。ようこそ!知らす國の兵士たちよ。配属おめでとう。君たちの武運長久を祈る。そして輝かしい戦果は君達の胸の内にあることを信じております。迎賓席の皆様。本日はお忙しい中、我が千歳シーラスワンの配属式に足を向けて頂き、誠に有難うございました。これで私の配属式歓迎の辞とさせて頂きます。ご拝聴、有難うございました。」
迎賓席から大勢の拍手が沸き起こった。
その中を最敬礼をしてから壇上からゆっくり降りる御舩少将。
そのまま、きよしの横に立った御舩大将。
オディアが御舩にちょっかいを出そうとすると、下からオディアの鼻をチロッと指で撫でた。
キャッキャと脚をパタパタして喜ぶオディアだった。
次の挨拶は日本国軍北部方面統合指揮司令、武田稔少将。
「皆様、初めまして。武田稔で御座います。私達、日本国軍北部方面統合指揮は、主に、東北から北海道の空軍、陸軍、海軍、新設の地底軍の地球大気圏内の防衛活動を統合指揮を致しております。シーラスの先制急襲突撃攻撃を鉾とすれば、我々は強靭な防衛の盾とのイメージでしょうか。打撃と防御、攻守が一体となったのが、ここ千歳なのです。北の中立を装うロシア、西の脅威のAXISの各国。この自然がむせぶ北の大地、北海道は、御舩閣下の仰られた様に緊張の大地でもあります。その最中、100年以上前からの古い友人である、同盟国のポーランド共和国より18名6小隊のHARMOR、いわゆる機動モービルのトップパイロットが2年の共同訓練の為、千歳に配属となりました。もちろんポーランドから、ご家族もご一緒です。これを機会に日波両国が、更なる深い友情と信頼へ繋がり、両国の友情に厚みが増すことを祈ります。どうか2年後にはポーランド母国の優秀なパイロット育成の一助となります事、希望いたします。35名の諸君!共に戦おう!ベテランパイロット諸君!オフィサー諸君!一緒に戦おう!これで私の配属式の挨拶の辞を終わります。」
武田が終話、敬礼と同時に会場に沸く拍手だった。
次は自衛隊北部方面 岩井龍也宙空将の挨拶。
「皆様こんにちは。航空宙空自衛隊北部方面千歳本部、岩井です。私たち自衛隊は、シーラス及び日本国軍の縁の下の力持ち、自然災害や戦後処理は元より、地球、月、火星のインフラ基盤の整備、惑星間、衛星間宙域の航路確保及びバックアップに勤しんでいる次第です。実は本日。西暦2020年、令和2年に発足しました航空宙空自衛隊の前身、宇宙作戦隊の初の定年退職者12名も同席しています。ご存じの方は少ないと思いますが私達の航空宙空自衛隊は、発足時は宇宙作戦隊でした。それが航空自衛隊と合併し航空宇宙自衛隊になりました。その後作戦行動および同盟軍作戦の援助の為、航空宙空自衛隊と名称を変え、隊を一新いたしました。航空宙空の名の通り、地球大気圏内と衛星軌道上、そして宇宙空間、惑星間の航行、すなわち宙と空の橋渡しをするスペースシャトル・オービターの運行と援護を行っております。急襲突撃部隊の護衛には、堅個な日米波英台仏同盟により開発された新型宙空汎用型F-35B、通称ネオファントムと呼ばれる先制急襲攻撃用戦闘機が既に本年3月より制式配備されております。そして、全長120メートル、新型の超大型垂直離陸型V-TOL武装型スペースシャトル・オービター、通称ビックマム10機と医療用90メートル級ドクター・オービター、通称ビックドクの2機の正式配備も終わりました。この新鋭機12が配備され、この千歳は、特に本年度は大変賑やかな年となるでしょう。また自衛隊アサルトHARMOR部隊や、WALKERと呼ばれるアサルト・パワードスーツ部隊など全ての装備がシラス加盟国軍、シーラスと日本国軍と共通に刷新され、まさしく千歳シーラスワンは世界最強の集団となりました。本日から配属される35名の諸君。そして各国のエキスパート・パイロットの諸君。君達の後には常に最強の私たち自衛隊が付いて居る事を忘れずに。安心して能力を発揮して下さい。そして疲れた週末は是非、ご家族と食堂に来て下さい。大日本帝国海軍、伝統の美味しい金曜100年カレーが待っていますよ。それでは挨拶を終わります。頑張って下さい!」
そして、最後は女真帝國、帝國宙軍・王将軍の挨拶。
「まず最初に、35名のトップ・ガン・パイロット諸君、エキスパート・パイロット諸君。配属おめでとう御座います。益々のご活躍をお祈りいたします。ゴホン。我が、女真帝国は自然あふれる占冠村で開幕して早2年。陸・海・空・そして宇宙軍は日本国政府やシーラス本部、その強固な同盟国であります米国、ポーランド、英国、台湾、フランスなどの各国の御助力により、なんとか総指揮が出来るように準備が整いました。ご協力していただいた関係諸国、ご尽力いただいた日本国の皆様に改めて感謝をいたします。軍事力の質・量を強化するAXIS、我が国の安全への直接の脅威である南北朝鮮半島域、軍事活動活発化の傾向にある我が女真帝国の北部、ロシアの動向等により、それらの中心にある我が女真帝国は地政学的に一層厳しさを増しております。その中で経済、資材、食糧支援に命がけで宇宙から、地底から我が国に直接支援して頂いている日本国軍、自衛隊の皆様には感謝の意を表しても尽きることがありません。本年度は、我が女真帝国軍よりHARMOR・パイロットを配属させて頂きました。それも千歳シーラスワンに配属させて頂いた事は、我が帝国の戦意を更に引き揚げさせていただきました。大変光栄なことです。日々の訓練で各国のパイロット達と切磋琢磨し女真帝国軍の将来の為、頑張ってください。そして同盟国の一員として同盟国を護ってください。本日はこの様な目出度い場にお呼び頂き有難うございました。そしてこの場をお借りいたしまして占冠村の村民の方々、そして周辺町村の方々に、引き続きのご厚情の程、宜しくお願いする次第です。皆様。ご拝聴、誠に有難うございました。」
(( パチパチパチー! ))
(( パチパチパチー! ))
会場では、迎賓席のゲスト全員による、スタンディング・オベーションが始まった。
シラケル空港ビル屋上のマスメディアとは打って変わって、いつまでも拍手の手が鳴りやまない広大なシーラス・エリア・滑走路だった。
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