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第4章 涙の宇宙回廊。

第1話 椎葉家の台所。奈美ばあちゃんと。

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 道場の廊下からづづく、椎葉家の母屋。

 その、大きな台所。
 
 道場で修練している門下生と、そのご家族のための食事の準備も終わり、椎葉家の奥様達とご近所の奥様達がやっとのことで一息ついていた。
 奥様たちが、汗を拭きながら冷えた赤シソジュースを飲んでいたが、外から温泉に入った門下生の声が聞こえてきた。

( うわ~っ!涼しい~!最高~!うわ~っ! )

「ほんと、男ってバ~カね~。あははっ。冷たい空気入って喜んでるわ。」
 
 麗子が笑いながら、外から聞こえてくる温泉場の声を聞いていた。
 京子がニッコリして、赤シソジュースを一口飲んだ。
 
「ちょっと、羨ましいけどねー。みんなで入ると楽しいし、気持ちいいんでしょ。あはははっ。」
 
「お姉ちゃんさっ、性格っ、男みたいなんだから一緒に入れば。しなびパイ出しながら、はははっ。」
 
「もう、うるさいっ麗っ!キーっ!あははっ」
 
 台所にも温泉で楽しく騒ぐ門下生の声が聞こえてくる。
 なんだか、外の声を聞いて楽しくなる奥様たちでもあった。
 
 目を細めて楽しそうに奈美ばあちゃんが話し始めた。
 
「オディアも、マーシャもパパ達と一緒に居て、どんな娘に育つんだべかぁ。楽しみだべさぁ~。私らは子供っ頃から、この年になるまでこんな楽しい毎日は過ごした事ないわ。ずっと畑の土か、田んぼの泥しか知らんかった。学校に行ってもテレビ見てないから友達とも話合わないし。親もな~んもしゃべらんし。栗校の友達とかは札幌や岩見沢でOLとかしてたけど私は知らんべさ。父親が入院したお陰で、私の母さんと私で、牛が全部の牛さ、売れるっまで牛の面倒も見てたしな。」

 驚く麗子だった。

「え?奈美おばさん、ここで牛、飼ってたんですか?」

「そうだ、麗ちゃん。私が結婚してからは、お父さんが牛の面倒みてたけどさ。繁が生まれる前の話だべさ。ははっ。今の道場のところだべさ。」

 こんどは京子が驚いた。
 
「へー!お義母さん、道場って牛舎の跡だったんですね。へ~!」
 
「そうだ、京子さん。道場ば、建てる前。あそこはホル(ホルスタイン)なぁ20頭くらいの牛舎だったんだわ。」

 話に乗る、向かいの佐藤さんの奥さん。
 
「あっ。うち(佐藤)のおじいちゃんから、なんか聞いた事あります。」
 
「佐藤さんや甲賀さん、あんたら2人のお母さんたちは知ってるべさ。」

 甲賀さんの奥さんが、奥様みんなに赤シソジュースを注ぎながら話した。
 
 「ウチも牛飼ってたみたいでしたよ。結構、酪農と畑作・水田は大変だった見たいで。あははっ。」

 うなずく奈美ばあちゃん。

 「そうだべさ。甲賀さんの牛、5頭引き取ったべさ。」

 うなずきながら話す甲賀さんの奥さん。
 
「たしか、そうですよね。私が生まれるずっと前みたいで、そうですよね~。乳価も牛の値段も下がって。餌代は、円安でドンドン上ってって。それで、牛舎潰してハウスにするって父が決めて。でもガレ(お乳がでない牛)になった5頭どう処分するか考えてる時かなぁ。時機が前後してハッキリ覚えてないですけどぉ。清春叔父さんが全頭処分する何年間まで、可哀そうって引き取ってくれたんですよねぇ。たまたま、ハウスの仕事してる時、母が言ってました。ビニールハウスのここに牛を飼ってたって。」
 
 感心する佐藤さんの奥さん。
 
「へー、甲賀さんも牛飼ってた?えぇー、知らなかった。」
 
 うなずきながら、シソジュースのコップについた水滴を、タオルで拭きながら話す奈美ばあちゃん。
 
「そうだ、佐藤さん。子ッコはめんこかったけどぉ。畑作・水田の兼業の飼育はゆるくないべさ。(そうなんですかぁ)あとな、冬になると雪か。冬はずっと雪跳ねばっかりだべさ。(あははっ。ウチもかいてばっか。)なっ!佐藤さん。しかし、きよしが産まれて来て、シゲルが宇宙から帰って来てから色んな人が来るようになった。シゲルが自衛隊入るって言った時、継ぐ者いないってお父さんずっと反対してたんだ。」

 また、ちょっと驚く佐藤さんと甲賀さんの奥さん。

「え~、でも清春叔父さんも、シゲルさんも見た目は自衛隊の人ってピッタリイメージできますぅ。」

「そうそう、ザ・軍人って感じですよ。ハハハッ。」

 何となく、うれしそうな奈美ばあちゃんだった。
 
「そうだべか?ハハハッ。まぁシゲルはシゲルで、毎年農業研修で沢山生徒さんが家に来てるから、継がんでもいいべってな。そんで自衛隊に入ったけどな。まぁ、もう、死んだお父さんに悪いけど、ケガでシゲルが帰ってくれたお陰様で、私は1日、1日が楽しいべさ。(嫌だぁ、奈美叔母さん。あはは。)ハハッ。でもさ、息子も、嫁も札幌や東京じゃなくて、宇宙で仕事って。どんな世の中なんだべさ。ハハハッ。」
 
 奈美ばあちゃんの話をニコニコしながら、聞く奥様たち。
 
「気が付いたら、家の中、テレビでしか見たことのない金髪の外人さんだらけでさ。(そうですよ。奈美叔母さんの家、金髪の人ばっか。)んだべ佐藤さん。したっけ、普通に私より上手い日本語しゃべって。(皆さん日本語、お上手ですよね。)甲賀さんもそう思うべか。それもさ、正しい東京の言葉使ってさ。」
 
 麗子が身を乗り出して、日本語がうまい外人さんをほめた甲賀さんの奥さんを横目で、チロッと見る。
 
「ほんまぁ、甲賀さん。ウチの旦那、シゲル兄さんや、きよしたちより、めっちゃエグイ北海道弁だよぉ。」

( エグイって、あはははっ! )
 
( ジョナちゃんとローマンちゃんは別格よ~。 )
 
(( あはははっ! ))

 爆笑する奥様連。
 笑いながら麗子が言う。
 
「あははっ。ウチの旦那は、米軍の両親について行って米軍の極東稚内のミサイル基地や根室、小樽のレーダー駐屯地で育ってるし、近所の漁師の子供たちばっかり遊んでたみたいで、小学校も地元だったから。ヤン衆弁でさぁ。金髪外人のクセに、私に怒るときなんかさ、麗っ!ママッ!んっだべや!こ~のタクランケっ!はんかくさい事ば、言うなっママ!ってねぇ。」

( アハハハッ~! )

 手を叩いて喜ぶ佐藤さんと甲賀さんの奥様。

「もう、ジョナちゃんみたいな、どう見ても金髪の外人さんが、「こん!タクランケって」札幌の狸小路で大声で言ったら、もうみんな止まるわ。アハハハッ!」

( アハハハッ~! )

「もう「したっけ」、「したっけ」星人で。車の中で「したっけ」の連発でうるさいし。」

( 麗ちゃん、「したっけ星人」って。あはははっ! )
 
(( アハハハッ~!! ))
 
 楽しい時を過ごす、奈美婆ちゃんと奥方様だった。
 ニコニコしながら話続ける奈美婆ちゃん。
 
「あははは、笑い過ぎて入れ歯落ちるわ。( あはははっ! )和歌山の嫁(椎葉京子)も、その妹(麗子・オースティン)も軍隊のお偉いさんで学者大先生でさ。あははっ。」
 
 奈美ばあちゃんの膝を持つ麗子。
 
「奈美叔母さん、奈美叔母さん。学者大先生って止めて。もうっねっ!姉さん。はははっ。」
 
 照れる麗子だった。
 
「麗ちゃんも、ジョナちゃんと結婚してからもドンドン、千歳の軍隊で出世してさ。いい事だべさ。ジョナちゃんは今年から戦闘機の隊長さんなんだべ?本当に、見る物、聞くもの全て、未来物語みたいだ。今でも夢の中だべ。去年、去年じゃないわ、おっとし(一昨年)か?オディ子を預かった時だわ。京子さん、ユーホー(UFO)に乗ってシゲルと2人で、夜中に帰ってきたべさ。」
 
「えー!ユーホーってあのUFOですか?」
 
 と、甲賀の奥さんが驚いて聞く。
 
「違います!甲賀さん、いつもの自衛隊の小型シャトルです。違います違います。」
 
 と、あわてて否定する麗子。
 
「そーですよね、そーですよね。いつものシャトルですよね。あははっ。でも、いつものシャトルって言っても普通の人は驚くでしょうけどぁ。あはは。いつの間に自衛隊はこんなの作ったって。あはは。」
 
 2人のやり取りを気にせず、話を進める奈美ばあちゃん。
 
「それも、真っ黒焦げのユーホーか。爆発みたい跡で、ススだらけのきったないユーホー。どこかで、ビリビリって火の粉とんでたな。目の前で、燃えながらカランカラン部品落としてたし。でも、繁は怪我して自衛隊ば、休んでるハズなのにな。何で~繁と京子さんが布にくるんだ赤ちゃん抱いてるのかなって。ワケがわからんかった。それも夜中で。あれ?きよしが赤んぼの時のおしゃぶりだべ?それ、しゃぶってさ。目の前で浮かんでるユーホーの開き戸で、ボンボリ(毛糸の玉ふさ、北海道弁)着いた、おかしな服着て繁夫婦が2人で立ってるんだからさー。」
 
 京子の両眉が上がった。
 
「あー、お母さん良く覚えてますわね。ルサウカ(武装短艇)がEI(大気圏再突入)の時、隔壁に穴が開いた時の。あー思い出した。慌ててライト・スーツ(宙域活動被服)来た時です。ボンボリついてたかなぁ。」
 
「そうかぁ。まぁシゲルはシゲルで、京子さんも京子さんですすだらけでさ。(私は宇宙人の息子を産んだ覚えはない!)って、シゲル顔の宇宙人に断ったら、それがまた本物のシゲルなんだべさ。あはは。」

( アハハハッ! )

 爆笑する奥様連。
 
「丁度、今くらいの季節だべか。シゲルはたしかぁ、朝から雨降りそうだからって、夜中からハーベスター乗ってジャガイモばぁ巻き上げて、仕事してたのにおかしいなと思ってたら(何こいてんだべ。かあさん。冗談やめてけれや!早く家に入れてけれ!赤んぼ、風邪ひくべや!お湯も沸かしてけれっ!)ってな。ユーホーば、良く見たら真っ黒焦げで良く見えなかったけど、漢字で、自衛隊なんとか。って書いてあるしさ。したっけ、シゲルたちが降りたら勝手に動き始めて、家の前の駐車所にきち~んと止めてんのさ、あのユーホ。自分で勝手にしゃべってたな。(シゲルさんのお母さん、ここで~いいですか?お邪魔になりませんか?)って。どっかで聞き覚えのある優しい~女の声でさ。でも、横に立って突然声かけられたから、うわぁ!って、びっくりこいて入れ歯落としたべさ。あははっ!起きっぱなしで、入れ歯の糊つけないで、外に出てたからな。したっけ、(驚かしてごめんなさい~。落としたのそこですぅ。)って、暗闇の中で、わっざわざっ、わざわざ落とした入れ歯にライト照らしてな。余計、こっ恥ずかしかったべさっ。わははっ。」

(( アハハハッ! ))

 さらに笑する奥様方。
 
「したっけ、朝、ユーホーの部品とか散らかってんべっと思って、駐車場に掃除さ行ったらびっくりこいたべさ。」

 身を乗り出して聞く奥方様たち。興味深々な甲賀さんの奥さん。

「奈美おばさん、なんか変なのあったんですか?」

 
「変なのって言うか、ピタっとした、綺麗なほれっ!なんか裸みたいな薄くて青い空色のあれ、あれだ。」

「お義母さん、ジェネリック・スーツですか?」
 
「ん?ジョネだか、ジェネだか知らんけど、毘沙門亀甲柄の服ば着た~、どっかで見たことある長い金髪の外人さん。綺麗~なお姉ちゃんが、うちの竹ぼうきで駐車場ば、先に丁寧に掃いててくれてたのさ。あの時もびっくらこいたべさっ。あんな外人さんにウチの駐車場綺麗にしてもらって。でも、よく見たら、京子さん達の仕事仲間のノーラちゃんさ。ノラちゃん?ユーホーとおんなじ優しい声で(昨晩は驚かせてごめんなさい。)って。あっ夜のユーホーの声はノーラちゃんか!って解ったんだけどさ。はははっ。逆にもっとびっくりしたべさ。はははっ。」

 ニコニコしながら、関心して聞く甲賀さんと佐藤さんの奥さん。
 得意になって話す奈美ばあちゃんだった。
 
「その内、玄関の後ろからお父さん出て来て、(宇宙人だ!)ってお父さんも玄関で腰抜かして。あははっ。後ろにひっくり返ったわ。はははっ。あんな服、栗山で着る人いないべさ。あはははっ。後で、ノーラちゃんと解ってお父さんも笑ってたけどなぁ。はははっ。」
 
 苦笑いの京子。
 
「おかあさん。あの時は余裕が無くてごめんなさい。でもノーラ、いつもラフな格好だからね。あの時は、有事でジェネリックスーツを着てたから。」
 
「そうだそうだ。ノラって、ノーラちゃん、ドバッとおっきなオッパイでテーシャツ着てさ、いっつもプリップリしてたからな。足もスラッと長いからジーパンだべさ。カッコよかった。先月もそのカッコで来てたな。プリップリで。」
 
「もぅプリップリって、お母さん。あははっ。でも、本当にあの時は夜中に、驚かせてごめんなさい。」
 
 と、あやまる京子だった。
 
「なぁに、なんともないべ。したっけ、お父さんも腰抜かしたせいか、あれ見たからか~?早死にしたんだな。はははっ。」
 
「また、おかあさんったら。ふふふっ。」

「夜さ、ユーホ見たらなススけてたはずなんだけど、ピカピカになってたんだわ。あっちゃこっちゃに穴開いてたのに~不思議だ。ノーラちゃんとおんなじ空色の毘沙門亀甲柄の鉄板なんだわ。夜は白と黒の色で、漢字で自衛隊なんとかって文字も全部消えて、ヌルッとした感じのユーホーだな。初めて夜に見たからかぁ?夜見るより、倍ぐらいの大きさだったな。したらさ、あれって、下覗いてよく見るとズッ浮かんでるのさ。地面からひざ下位の隙間空いて。ずっと浮かんでんだな~。下から猫出てきたから、下ば、のぞいたら浮かんでんのさ。」

 何かを思い出す佐藤さんの奥さん。
 
「へー。そうですかぁ……そういえば浮かんでたかもしれないよね。甲賀さん。」
 
「佐藤さん、私も余計な事言わないようにしてるけど、浮かんでんのよ。アレ。わたしも、人に見られないように何回か、下のぞいたのよ。」
 
 おちゃめに、舌をチロッっと出す甲賀さんの奥さん。
 
「へー。やっぱり。」
 
 身を乗り出して話を聞き始める奥様たち。少し、得意になって話つづける奈美ばあちゃん。
 
「そうだべ。浮かんでるっしょ。んでな、ウチの正面の駐車場。トラクターば整備で止めたり、道場の生徒用だから結構広いと思ったけど、あのユーホーも結構大きかったな。ノラちゃんにさ、あんたひと晩、ユーホーの中で寝てたの?って聞いたら、(違いますわ。ご心配しないでください。)だって。あー、また思い出して来た。シゲルも、お父さんもノラとか言ってたな。京子さん、どっちだっけ?ノラちゃん?ノーラちゃん?」
 
「はい、おかあさん。名前はノーラですけど。でも本人はノラでも、ノーラでも、どっちでもいいみたいですよ。あはははっ。」
 
「なっ!ノーラちゃん、あははっ。ノーラちゃん何回も家に来てたのに、スッと出て来なかったべさ。も、年だべさぁ!あははっ。その掃除してたノーラちゃんと話ししていたら、突然さ。あの白髪頭のエゲレス軍の飛行機乗りのウィルちゃん(英国RSF少将アルフレッド・ウィルソン。オディアの祖父。その当時は大佐)が、おんなじようなユーホーでスッと空から来て、(奈美さん!赤ん坊!赤ん坊!ま、孫は無事でしたか?)と大慌てで言うから~、あ~京子さんが昨日連れてきた赤ちゃんって解ったからな。(あれ、あんたの孫かい?もう孫いるの?今、奥で京子ちゃんとスヤスヤ寝てるべさ。)って、言ったら家に飛び込んでさ、長い靴慌てて脱いで、廊下でスッ転んで。ドォ~タバタして京子ちゃんと寝ていたオディ子ば、抱きあげて泣いてたな。折角寝てたオディ子もびっくりして泣いてな。その時は何があったのか知らんかったけど。白髭のウィルちゃんがワァンワァン、大声で泣いてたんだわ。あん時でオディ子は生後2~3か月位か?だったべか~。京子さん。」
 
「そうです。丁度、オディ子が100日終わった後でしたから。」
 
 じっと話を聞いている、佐藤さんと甲賀さんの奧さん。
 佐藤さんの奧さんが目をウルウルさせながら聞いた。
 
「そんな事あったんですね。実は、オディアちゃんが来た経緯は私、初めて聞いたの。」
 
 うなずきながら赤シソジュースを飲む奈美ばあちゃん。
 佐藤さんを見て話した。
 
「あ~佐藤さんには、初めて話すのか。でもウィルちゃんも気の毒でさ。その後で聞いたら長男のあの、いつもお父さんが麻雀で負けてるリチャード君とエダちゃん亡くなったって聞いて。私も切なかったぁ~。」
 
 涙目の佐藤さんと甲賀さんの奥さん。
 
「そうですよね。あの時、リチャード君とエダちゃん……。亡くなったんですよね。そうです。そうですね。そうで……。」
 
 あまりの悲しさに泣きむせる甲賀さん。
 
「ごめんなさい。思い出して。……まだ2年も経ってないのかぁ。なんか、お2人が無くなった実感が、まだしてなくて。気が付いたら、居間の奥に2人がチョンと仲良く座って、お茶を飲んでるような気がするし。」
 
 身を乗り出して、居間の奧を見る佐藤さんと甲賀さんの奥さん。
 鼻をティッシュでかむ甲賀さん。
 
「本当に、本当に。……多分、オディアちゃんを助けた、その日の夕方?ですよね、奈美叔母さんと京子さんに聞いて。本当にもの凄い衝撃でした。そこの、裏の駐車場で、勝手口の前でさ、外人の真っ白い可愛い赤ちゃん抱いて、あやしてる京子さんがいて。ホントびっくりしました。御免なさい。その時、私、脳天気に、京子さんへ、エダちゃんたち遊びに来たの~!うわ~オディアちゃん初めまして~って、ウキウキして聞いてしまって。京子さんが突然、急に泣き始めて……。エダちゃん亡くなったって。もう、本当に……。」
 
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「いつの間にか奥の床の間で、グッタリしたシゲルば。お父さんがさ、無理やり起こしてさ。京子さんなっ。ウィルちゃんもノーラちゃんとさ、みんなで朝ご飯食べたな。ちょうど日曜日だったから道場も休みでさ。門下生や農業研修生も自宅に帰っててな。」

 思い出して話す京子。

「そうですね。日曜の朝でしたね。」
 
「きよしが、起きてきてな。大人がご飯食べてる間、ずっと赤ん坊のオディ子ば抱いてあやしてな。なんかさ、京子さんも、繁も大変だったんだなって思ってさ。」
 
「本当に大変でした。お母さん。本当にご迷惑もお掛けしました。」
 
「何ともないべさ。京子さんも月でノーラちゃんと働いていたんだべ?そん時だべさ。誘拐されたの。しっかし、でもなぁ、月で働くって。な!京子さんも、ノーラちゃんもかぐや姫だべ。ハハハッ。」
 
 泣き顔の佐藤さん、甲賀の奥さんが、顔を見合わせてニッコリした。
 
「ほんとあの2人の男は情けない。味噌汁すすりながら急にウィルちゃんと2人で泣き始めて。シゲルが大声で泣いたの見たの、泣きながら「チクショー!」だって。シゲルが元気に生まれた時の産声と、そん時の2回くらいだべさ。くやし涙は子供の頃何回かは、見たけどな。しかし、どこの道場の筆頭師範なんだべか。男が大声で泣くかぁ?それも大の男がな。あははっ。でも後で気が付いたけど、お父さんもリチャードとエダちゃんの2階の部屋片付けながら、1人で泣いてたんだわ。」

 驚く京子と麗子の姉妹。

「えっ?清春お義父さんも、泣いたんですか?」

「お姉ちゃん、和歌山「市」の体育館で、ウチの母の国葬の時も。稔さん(当時:武田稔1等陸佐)と、車イスの清春お義父さん(当時:椎葉清春2等陸佐)の2人共、君たちのお母さん助けられなくて、すまないすまないって、大声で泣いて謝ってたでしょ。」

「ううん……そうだね、そうかぁ。」

 チロッと2人を見る奈美ばあちゃん。

「でもさ、しっかし、本当に椎葉家の男たちは。ほんと弱いべさ、口先バッカ。」
 
「まぁ、まぁお母さん。」

 微妙な表情で目を合わせる京子と麗子の姉妹。
 
「シゲルはシゲルで、背中ケガしてたな。泣き終わったたらドテッて倒れてな。背中から血ぃ噴いてたな。ピッピ、ピッピ血ふいて。アハハッ。京子さんがドクターで良かったぁ。すぐ裏の大きなトラックで治療出来て。あははっ。シゲル、あのバカ。なんも言わないからな。寝てた布団も、シゲルの寝間着やら、そこの居間のカーペットも血だらけでもったいないけど、お父さんと捨てたわ。それはそれでカーペットに乗っかったストーブやら箪笥たんす外して、新しいカーペット引いて大変だったんだからな。アハハッ。」
 
「もう、お母さん。あの時はあの時で、オディアばっかり気にして、パパが背中撃たれてるの知らなかったの。初期のジェネリック・スーツで弱かったのね。ホント、朝食で起こさなければ出血多量であの世逝きでしたわ。」

 京子のひざをもって、手を振って否定する奈美ばあちゃん。

「ちがう、ちがう京子ちゃん。あのバカ、もう、あの世だったべさ。」

「あ!アハハハッ~!そうです。そうですお義母さん。あの世でした。ねっお母さん。あははっ。ネイジェア星の先進治療で10分後には、この世に戻りましたけど。間一髪っ!危なかったわ。アハハッ。医療トレーラーの研究室に入れた時は、すでに脈止まってました。ん~脈というか、脳波も基礎バイタルも全停止で。死亡判定が出てました。。」

(( えぇーっ! ))

 驚く甲賀さんと佐藤さんの奥さん。
 
「パパを運んで来たノーラやアルフィ(京子が呼ぶアルフレッド・ウィルソンのあだな)と、みんなでビックリしたけどね~。あはははっ。この男は簡単に死なないだろうと思ったけど、案の定、すぐ生き返ったわ。アハハハッ!」
 
( マジですかぁ……。 )

( ……ぇぇぇ~。 )
  
 思い切り引いて、目を合わせる甲賀さんと佐藤さんの奥さん。
 
「シゲルさんも瀕死の重傷だったの、えぇぇ……。それでご飯食べるって。」
 
 と、再び目を合わせる、引き気味の佐藤さんと甲賀さんだった。
 
「シゲルがトラックから、からだ直って戻ってきて着替えたらさ、(かぁさん飯!お替りっ。)って言うから、また続けて朝ご飯ば、食べたべさ。」

 また驚く奥様たち。

「えっえっ?死んでた人が、ご飯お代わりするんですか?」

「これって、TVニュースになりますよね。生き返ってすぐ、(ご飯お代わりっ!)て。アハハハッ!」

 京子と麗子が呆れながら、お盆に置いてあった赤シソジュースを飲み始めた。
 得意に続けて話す奈美ばあちゃん。
 
「したっけ、シゲルがさ、(かあさん、さっきよ。京子の医療ベットで目~開けたら、どこにいるか訳解らなかった。)て、言うから(何でさっ。)って聞いたら、(見たことない、どこかのジジ、ババたちと川辺りかわべりにいたんだけどなぁ。しゃがんで、石積んでたんだけどォ。あっこれだ。)って。テーブルにトンッと綺麗な石ばぁ置いてさ。さいの河原に繁、居たんだなって。おまけにあの世の石まで土産に持って来てな!アハハッ。京子さんに連れ戻されたんだわ。アハハッ。ウィルちゃんもノーラちゃんなんかビックリこいたのか、お茶の入れた湯飲み持ったまま止まってたべさ。アハハハッ。佐藤さんたち、そこの棚の上の~小さいガラスケース見てみ!その時の石、あるからべさ。」
 
 甲賀さんと佐藤さんは居間に小走りで入った。
 
( え~っ!うそ~っ! )

さいの河原の石って、チッチャく書いてあるわ。」
 
「うっそ~!えっ、えっ。あ~さいの河原って書いてるわ。アハハッ。」
 
 小さなガラスケースを台所に持ってきた2人。
 
「奈美叔母さん、これですよね~。何の記念の石か不思議でした。へ~さいの河原の石かぁ~。結構普通に綺麗な石だわぁ。」
 
「本当にあるんだぁ、さいの河原ぁ。へ~。本当にシゲルさん、本当に死んだんですね~。本当にあるんだぁ。後で主人に見せていいですか?」
 
「あはははっ敬之たかゆきさん、信じるべかぁ。まぁ、見せたらいいべぇ。佐藤さんの婿さん素直だから信じるべ。あははっ。」
 
 苦笑いする京子。
 京子の目線は奈美や、近所の奥様たちを見てはいたが、心の中では全く別の場所に居たのだ。
 彼女はオディアを助けたその日を思い出していた。
 忘れもしない、悔しいあの日を思い出していたのだ。
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日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

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