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揺れる思い
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「神様……」玲奈はいつしか呟いた。
……もしも本当にこの世に神様がいるのなら
私から佐倉くんを奪ったのも神様なのかもしれない、私がこんな事になっているのも神様なのかもしれない。
でもいい。
なんでもいい。
とにかく助けて下さい。
私ではなく、純一さんのお母さんを。
玲奈は佐倉くんや純一の不幸の元凶が、全て自分のせいのような気がしていた。なぜなら玲奈は佐倉くんの死を聞かされた時の事に、強い罪悪感を感じていたからだ。自分の心はいつも汚いからと。
あの時、佐倉くんからずっと連絡が来ないのは、他に好きな人が出来たからではないかと疑っていた自分。
そして、佐倉くんが亡くなっていたと聞いて他の人に盗られた訳ではなかったと安心した汚い自分。
そのくせ、都合良く過去の思い出ばかりに浸り、先のことは考えようとしない自分。
笑ってと佐倉くんに言われても笑えなかった自分。
もともと自分の事が好きではなかったけど、ますます嫌になった。佐倉くんと出会えた事にはすごく神様に感謝していた。その時の自分はすごく幸せだった。だけど自分は欲張りだったのか。佐倉くんさえいればいいと。そんな自分にバチがあたったのではないのかと。
純一がいなくなり玲奈が一人で過ごす部屋は暗く感じている。今までもふわふわと純一の部屋にいたが、はっきりとした意識を持っていたわけではなかったので気にならなかったのだ。
一度だけ佐倉くんにふれて過ごした部屋。
部屋の作りは同じなのに全く違う。家具や物にはさわれない。意識が途切れると日にちも時間も分からない。自分が幽霊として存在している自覚も芽生えたのに、佐倉くんの幻にさえ会えない。
小説やおとぎ話なら佐倉くんが出てきてくれるのでは。佐倉くんはおとぎ話の王子様のように私の手を引いて、明るく、華やかな世界に連れていってくれるんじゃないのかなと、どこかで期待する自分がいる。
でも現実の世界は違う。純一がいない部屋は暗く、時折外の車の音やアパートの他の部屋の音が時々聞こえるだけで、ただ時間だけが過ぎていく。日曜に純一は帰って来なかった。
……やはりお母さんの状態は良くないのかな……
玲奈はそう思いながら所在なく部屋を漂う。
……そうだな、そういえば私もお母さんがいるけど、特に考えた事もないな。普段から口うるさい人って印象しか持てない。なのに、お兄さんのお母さんの事は気になるなんて。私って薄情ものなんだろうな。
時折、彼女には室外の騒音の他にピッ……ピッ……と、音が聞こえる時があるが、音と一緒に「……玲奈」と誰かに呼ばれた気もしたが、深く考える事はなかった。
翌日の月曜日の昼、ガチャっと玄関の鍵が開いた。純一が帰って来た。玲奈の抱えていた気持ちとは裏腹にその様子は普通だった。
「ただいま」
「お母さんは大丈夫なんですか⁉」
玲奈は玄関まで瞬間移動のように移動していた。
「クーラーつけっぱなしかと思った」冷たい空気に純一が笑顔で答えると玲奈はその表情を見て、ほっとする。
「たいしたことなかったよ。しばらく入院にはなるけど、元気そうだった」
「良かった」
ほっとした表情を見せると
「また一人で根暗なことを考えていたんだろ?」純一が玲奈の顔を見ていたずらっぽく言った。
「そ、そんなことは……ないよ」
「でも本当、日々何が起こるかわからないなあ。今回の事で親孝行はしないとな~とか思ったりはしたよ」
純一の言葉に玲奈は答えるすべは持たない。お兄さんの不幸と思える事は回避できたとはいえ、自分は何もできてはいないし無力感さえ感じている。
神様へのお祈りが効いたとも思えないし、かと言って今の状況に陥る前に時を戻してくれたとしても、佐倉くんのいない生活を我慢して続けられるのかに自信もなく、押し黙ってうつ向いていた。
「玲奈……」
「え? なに?」玲奈は純一の言葉に顔を上げた。
「その様子じゃ、色んなことを考えて思い悩んだんじゃないのかい?」
「そ、そんなことないし……」
「図星だろ。付き合いは短いけどわかるよ俺」
「俺は玲奈に何もしてやれないし、最初は驚いたりちょっと怖かったりしたよね。でも君がいて楽しいとか良かったかな思う事もあるんだよ。ここにいる間は少しでも前向きになって、嫌なことを忘れて笑っててくれればいい。きっと佐倉くんもそんな気持ちだったんじゃないのかな?……俺も適当に言っているけどさ」
「……な、何もしてなくなんてない。きっと私の方が迷惑ばっかり掛けてる……」
純一を見つめる玲奈の頬に涙が一筋流れた。
その時、自分には感情が少ないと思っていた玲奈だったが、涙腺が緩み頬を伝わる涙が温かかったのがわかった。
玲奈自身が驚いていた。そして玲奈の意識は薄れ、純一の目の前から消えた。
……もしも本当にこの世に神様がいるのなら
私から佐倉くんを奪ったのも神様なのかもしれない、私がこんな事になっているのも神様なのかもしれない。
でもいい。
なんでもいい。
とにかく助けて下さい。
私ではなく、純一さんのお母さんを。
玲奈は佐倉くんや純一の不幸の元凶が、全て自分のせいのような気がしていた。なぜなら玲奈は佐倉くんの死を聞かされた時の事に、強い罪悪感を感じていたからだ。自分の心はいつも汚いからと。
あの時、佐倉くんからずっと連絡が来ないのは、他に好きな人が出来たからではないかと疑っていた自分。
そして、佐倉くんが亡くなっていたと聞いて他の人に盗られた訳ではなかったと安心した汚い自分。
そのくせ、都合良く過去の思い出ばかりに浸り、先のことは考えようとしない自分。
笑ってと佐倉くんに言われても笑えなかった自分。
もともと自分の事が好きではなかったけど、ますます嫌になった。佐倉くんと出会えた事にはすごく神様に感謝していた。その時の自分はすごく幸せだった。だけど自分は欲張りだったのか。佐倉くんさえいればいいと。そんな自分にバチがあたったのではないのかと。
純一がいなくなり玲奈が一人で過ごす部屋は暗く感じている。今までもふわふわと純一の部屋にいたが、はっきりとした意識を持っていたわけではなかったので気にならなかったのだ。
一度だけ佐倉くんにふれて過ごした部屋。
部屋の作りは同じなのに全く違う。家具や物にはさわれない。意識が途切れると日にちも時間も分からない。自分が幽霊として存在している自覚も芽生えたのに、佐倉くんの幻にさえ会えない。
小説やおとぎ話なら佐倉くんが出てきてくれるのでは。佐倉くんはおとぎ話の王子様のように私の手を引いて、明るく、華やかな世界に連れていってくれるんじゃないのかなと、どこかで期待する自分がいる。
でも現実の世界は違う。純一がいない部屋は暗く、時折外の車の音やアパートの他の部屋の音が時々聞こえるだけで、ただ時間だけが過ぎていく。日曜に純一は帰って来なかった。
……やはりお母さんの状態は良くないのかな……
玲奈はそう思いながら所在なく部屋を漂う。
……そうだな、そういえば私もお母さんがいるけど、特に考えた事もないな。普段から口うるさい人って印象しか持てない。なのに、お兄さんのお母さんの事は気になるなんて。私って薄情ものなんだろうな。
時折、彼女には室外の騒音の他にピッ……ピッ……と、音が聞こえる時があるが、音と一緒に「……玲奈」と誰かに呼ばれた気もしたが、深く考える事はなかった。
翌日の月曜日の昼、ガチャっと玄関の鍵が開いた。純一が帰って来た。玲奈の抱えていた気持ちとは裏腹にその様子は普通だった。
「ただいま」
「お母さんは大丈夫なんですか⁉」
玲奈は玄関まで瞬間移動のように移動していた。
「クーラーつけっぱなしかと思った」冷たい空気に純一が笑顔で答えると玲奈はその表情を見て、ほっとする。
「たいしたことなかったよ。しばらく入院にはなるけど、元気そうだった」
「良かった」
ほっとした表情を見せると
「また一人で根暗なことを考えていたんだろ?」純一が玲奈の顔を見ていたずらっぽく言った。
「そ、そんなことは……ないよ」
「でも本当、日々何が起こるかわからないなあ。今回の事で親孝行はしないとな~とか思ったりはしたよ」
純一の言葉に玲奈は答えるすべは持たない。お兄さんの不幸と思える事は回避できたとはいえ、自分は何もできてはいないし無力感さえ感じている。
神様へのお祈りが効いたとも思えないし、かと言って今の状況に陥る前に時を戻してくれたとしても、佐倉くんのいない生活を我慢して続けられるのかに自信もなく、押し黙ってうつ向いていた。
「玲奈……」
「え? なに?」玲奈は純一の言葉に顔を上げた。
「その様子じゃ、色んなことを考えて思い悩んだんじゃないのかい?」
「そ、そんなことないし……」
「図星だろ。付き合いは短いけどわかるよ俺」
「俺は玲奈に何もしてやれないし、最初は驚いたりちょっと怖かったりしたよね。でも君がいて楽しいとか良かったかな思う事もあるんだよ。ここにいる間は少しでも前向きになって、嫌なことを忘れて笑っててくれればいい。きっと佐倉くんもそんな気持ちだったんじゃないのかな?……俺も適当に言っているけどさ」
「……な、何もしてなくなんてない。きっと私の方が迷惑ばっかり掛けてる……」
純一を見つめる玲奈の頬に涙が一筋流れた。
その時、自分には感情が少ないと思っていた玲奈だったが、涙腺が緩み頬を伝わる涙が温かかったのがわかった。
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