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新しい家族

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東京に戻って来た陽斗は、また忙しい日々の始まりだった。

私はやっと西園寺家の嫁教育が終盤に差し掛かっていた。
今日はお花とお茶の最終テストがある予定だ。

お花とお茶はお義母さんが先生だ。
一番緊張する内容だ。

「それでは澪さん、この花が課題です。あなたの好きなように活けてみてください。」

今日は菊と蘭を使った組み合わせで花を活けていくのが課題だ。
菊と蘭の香りが部屋に広がっている。

課題を初めて少しした時、私は急に気分が悪くなってきた。


「お…お義母さん、すみませんが気分が悪くて…ちょっと席を外しますね。」

私はすぐにトイレに駆け込み、吐いてしまったのだ。
何か悪い物でも食べたのだろうか。

するとお義母さんは、なぜか嬉しそうに微笑んでいる。


「澪さん、もしかしてあなた子供が出来たのではないの?」

「…っえ、そんなことは…ないと思いますが…」


しかし、その日のうちに私は病院に連れていかれてしまった。

診察が始まるまで私はすごく恐かったのだ。
もしも私が妊娠していて、それを陽斗がどう思うか、とても不安で仕方がない。

しかし、そこへなぜか陽斗がやって来たのだ。
陽斗はお義母さんからの連絡を受けて来てくれたのだろう。

陽斗は不安な表情の私の隣に静かに座った。
何も言ってくれないのがすごく不安にさせる。
私は思わず声を掛けた。

「陽斗さん、もしも私が妊娠していたら、子供を産んでも良いですか。」

その質問に陽斗は驚いた表情をした。

「澪、何を言っているんだ。俺たちの子供だぞ。嬉しくない訳が無いだろ。」

「じゃあ、なんで何も言ってくれないのですか。」

すると陽斗は大きく息を吐いた。

「こういう時、男は何と言えば良いか分からないんだ。あまり喜んで妊娠じゃなかったら…とかいろいろ考えてしまうんだ。」

そして私が診察室に呼ばれると、陽斗は一緒に付き添ってくれた。


医師は陽斗と私の顔を見て笑顔を見せた。


「西園寺さん、おめでとうございます。」


その言葉を聞くと、陽斗は私を力いっぱい抱きしめたのだ。


「澪、嬉しいよ。でもここからが大変なんだからな…頑張ってくれよ。」

「はい。」




私の妊娠が分かってからというもの、陽斗の甘さはさらに加速している。

今まで行ってきますのキスは額か頬だったのに、私のお腹にも服の上からキスをするようになっている。
少しでも時間があれば、私の腰を摩って心配してくれるのだ。

出産までに私はこの甘さで溶かされてしまうのではないかと思うほどだ。


忙しい陽斗さんなのに、定期健診にも必ず一緒に来てくれる。
これだけ目立つ陽斗なので、周りのお母さんたちに見られて恥ずかしい。
頬を赤くする女性もいるくらいだ。


しかし、私はそんなことを言っていられない状況だった。
つわりが酷く、辛い日々が始まっていたのだ。

自分が母親になって初めて親の有難さが分かるとは、まさに今の状況だろう。
母はこの試練に耐えて私を生んでくれたのだから。



そして月日は流れて、私のお腹はとても大きく育っている。
いつ生まれてもおかしく無い時期に入っているのだ。

ある朝、陽斗が出かける準備をしていた時のこと、突然お腹に激しい痛みを感じたのだ。
どうやら陣痛が始まったらしい。

陽斗は自分の運転する車に私を乗せて病院に急いでくれたのだ。

それから私の闘いは一日にもおよんだ。
そして、待ちに待ったこの瞬間だ。

「おぎゃーおぎゃー!」

子供は女の子だった。
この瞬間から陽斗は娘が心配な父親になったのだ。

陽斗は私の手を握って“ありがとう”と涙を溢れさせたのだった。





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