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「澪さん、お花をそんなに乱暴に扱わないの!」

嫁教育の最初はお花の生け方などから始まった。
お茶とお花は嫁としての嗜みだと言われている。


「はぁ~もうだめだ。」

お花のレッスンが一段落して、休憩時間に西園寺のメイドさんがお茶を出してくれた。
西園寺家には執事やメイドさんが沢山働いているのだ。
執事とかメイドさんとか本物を見たのは初めてだった

「奥様、頑張ってくださいね。お疲れのようなので、ホットチョコレートにしてみました。」

まだ20代前半のメイドさんが、ホットチョコレートとクッキーを持って来てくれた。
黒いワンピースに白いエプロンがとても可愛い。
その表情にも癒される。

「ありがとうございます。」

次の教育は西園寺家の歴史だった。
先生で来てくれたのは、村瀬だった。
村瀬はこの家の執事長だったのだ。

「奥様、これから西園寺家の歴史についてお話しますね…」


村瀬は優しいが、内容が難しく眠くなってしまいそうだ。
眠気と戦うために私は何度も自分の頬を両手でパチパチと叩いた。

その様子を見ない振りをしながらも、村瀬はクスッと笑っているのだった。

長い長い嫁教育から解放されたのは、もう夕方の5時を回ったころだった。

私は近くのスーパーマーケットで買い物をして帰ることにした。




このスーパーマーケットは、初めて陽斗さんがお買い物をしたスーパーだ。
ここに来ると、当時の様子が思い出されて口角が上がる。

今日は恐らく陽斗は帰りが遅くなるだろう。
温めなおして食べることが出来る、ビーフシチューを作っておくことにした。

鍋に材料を入れてよくかき混ぜながら、コトコトと煮込む。
鍋を見ていると、以前にここでポトフを作ったことも思い出された。
結局、あのポトフは陽斗さんの実家から呼ばれてしまい食べることが出来なかったのだ。


先に夕食を済ませた私はリビングで寛ぎながら、今日の勉強の復習のため資料に目を通していた。
それから数時間後、そろそろ日付が変るころ、玄関が開く音がした。

「陽斗さん、帰って来た。」

私が玄関へ走って向かうと、そこには陽斗とスーツ姿の女性が立っていたのだ。

陽斗は女性に向かって話しをしている。

「今日はありがとう、ではまた明日よろしくな。」

女性は深々と陽斗にお辞儀をすると玄関から帰って行ったのだ。

陽斗は迎えに出た私に気が付くと、いつもの優しい微笑を浮べてくれる。

「澪、ただいま…遅くなって悪かったね。」

先程の女性は仕事の関係者なのだろうか。
ただ、陽斗にそれを聞くと、私の焼きもちに聞こえてしまいそうだったので、あえて触れない事にした。

陽斗はビーフシチューの匂いに気づいたのか、嬉しそうに私を見た。

「澪、今日はビーフシチューだね。美味しそうだ。」

笑顔で部屋に入る陽斗の後ろ姿を見た時、私はあるものに気づいてしまった。

それは、陽斗が来ている紺色のスーツの背中に白い汚れが付いていたのだ。
私はすぐに気づいてしまった。

これは女性のファンデーションだと思われる。

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