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「陽斗さん、そろそろお昼にしましょうか?」

私達は診療所の奥にある小さな家で生活している。
お昼は家に戻ってご飯を食べるのだ。

「澪、疲れているのに毎日ご飯作ってくれてありがとう。」

「私は料理が好きなので、全く問題ないですよ。それにこの辺りのお野菜は皆新鮮で甘くて美味しいですよね。」

今日のメニューは頂いた野菜と魚で天ぷらを作った。
つけ汁には沢山の大根おろしと大葉を刻んでさっぱりと食べられるようにした。

「では、神様と澪に感謝して頂きます。」

陽斗は手を合わせて挨拶をすると、嬉しそうに天ぷらに箸をつけた。

「う…美味いなぁ…澪は天才!」

「褒めてもこれ以上何も出ませんよ。」

住む場所も何もかも以前とは異なるが、私はとても幸せだった。

ただ、陽斗がたまに診察室で何か考えているところを見かけている。
やはり天才外科医と言われた陽斗さんが、どんな気持ちなのかはわからない。

そんなある日、珍しいお客さんがやって来た。




お昼の休憩が終わり、午後の診察を始めようとした時だった。

「こんにちは!」

誰かが声を掛けたのだった。

「午後の診療はもうすぐ始まるので、待っててくださいね。」

私が声を出すと、その人は診療所に入って来たのだ。

「お久しぶりです。西園寺の奥さんですよね。僕を覚えていますか?」

そこに居たのは、以前の病院で同じ外科に勤務していると言っていた大久保だった。
少し遊び人風の風貌が特徴で、その顔はよく覚えていた。

「大久保さん?ですよね。」

私が名前を言うと嬉しそうに笑顔になった。

「覚えていてくれて嬉しいな、ところで西園寺は元気かな?」

私達の声が聞こえたのか、診察室から陽斗が顔を出した。

「大久保じゃないか!こんなところまでどうしたんだ?」

大久保は両手を広げて呆れたような仕草をした。

「どうしたじゃないよ!お前こそいきなり病院をやめてしまって、翌日からお前のオペの尻ぬぐいが大変だったんだぞ!」

確かに陽斗はいきなり病院を退職することになり、周りの同僚は驚いたに違いない。

「お前の居場所を探すのに苦労したよ。でも、お前が新しい検査機械を発注したから分かったんだよ。」

「そうか、いろいろ悪かったな。」

大久保は少し心配そうな表情をした。

「お前、これで良かったのか?お前ほどの腕を持った外科医ならもっと他に行くところあっただろ?」

すると、陽斗は大久保に笑顔で応えた。

「大きな病院にいれば、親父に見つかるし、どんな嫌がらせをされるか分からないからな。それに、ここでの医療も凄くやりがいがあるんだ。皆が俺を必要としてくれているんだ。」

大久保と陽斗がゆっくりと話しをしている時だった。
診療所に一人の女性が走って来たのだ。

「先生、助けてください。お爺ちゃんが…お爺ちゃんが…胸を押さえて倒れてしまったのです。」


その女性は先程診療所に来た田中さんというお爺ちゃんの孫娘だったのだ。
とても急いで来たのだろう、ゴホゴホッとせき込むほどに走ってきたようだ。

陽斗が田中さんの家に向かって走り出すと、大久保も一緒に走り出した。
私は二人の後ろを付いて行ったのだった。


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