上 下
37 / 88

もう一度初めから

しおりを挟む

・・・・・

「陽斗さん、行ってらっしゃい。」

陽斗のマンションに戻った私は陽斗を以前のように送り出した。
しかし、以前と変わったのは陽斗だった。

「澪、行ってきます。」

そして、私の額にチュッとキスをしたのだった。
突然の口づけに驚き顔が熱くなる。
その頬に陽斗は手を添えて、微笑を浮べた。
ものすごく破壊力のある微笑だ。

「真っ赤になって、うちの奥さんは可愛いね。」

私が何か言おうとするが、陽斗はヒラヒラと手を振って玄関を出て行ってしまった。

私の実家から帰ってきて以来、陽斗さんが甘すぎるのだ。
その度に心臓がドキドキとうるさく騒ぎ出し、これから心臓が持つのだろうかと思ってしまうくらいだった。

実家からの帰り道、陽斗が言った言葉がある。

それは、“僕たちは初めからもう一度やり直そう”と言ったのだ。

最初から夫婦になってしまったが、本来は恋をして愛を育みあって結婚する。
だからまずは恋人になるところからやり直そうと言ったのだ。

しかし、もともと陽斗とは恋愛の経験値が違い過ぎる。
いくら本気の恋はしていないと言っても、陽斗は何人の女性と付き合ってきたのだろう。

世間の恋人同士はどういう接し方をしているのだろうか。
考えるとますます分からなくなる。


陽斗さんとの接し方が分からず頼ったのは、美粧室のチーフをしている安藤だ。
結婚式でも私の支度をしてくれたのは安藤なのだ。

安藤は私がフロントで婚礼担当になって以来、何かと相談に乗ってくれるお姉さんだ。
安藤は結婚したが離婚も経験している。
そして今は新しい彼と同棲していると聞いていた。
経験豊富な安藤に頼るしかないと思い連絡をしたのだった。



「澪ちゃん、久しぶりだね。あの結婚式以来だよね。澪ちゃんからお誘いを貰うなんて初めてで嬉しいわ。」

安藤の仕事終わりに合わせて、ホテル近くのカフェで待ち合わせをした。

「安藤チーフ、突然ですが、恋人との接し方について教えて欲しいの。」

安藤は私のあまりにも突然の言葉を聞いて、飲んでいたアイスコーヒーを拭き出しそうになっている。

「ちょっと、澪ちゃん!突然何を言うのかと思えば…恋人の接し方?」

安藤はケラケラと笑いながら話しているが、私はいたって真剣な表情をした。

「それはね…自分がしたいようにすればいいのよ。」

安藤の言っている事がよく理解できない。

「自分がしたい…どうしたいかわからないです。」

すると安藤は少しニヤニヤとした笑顔になった。

「ねぇ、澪ちゃんは、その恋人に触れたいとか…抱きしめられたいとか…何か思わないの?」

私は抱きしめるという言葉を聞いただけで顔が熱くなった。

安藤はさらにニヤニヤというよりニマニマという表情に変わった。

「ねぇ、澪ちゃんはその人に抱きしめられてどう感じたの?もっとして欲しいとかキスしてほしいとか…。」

「安藤チーフ!そんなキスして欲しいなんて…恥ずかしい事を言わないでください。」

安藤は私の顔をじっと見つめた。
そして大きく息を吐いてから話を始めた。

「澪ちゃん、私だったら好きな人に触れたいし、キスしたいし、抱いて欲しいと思うよ。でもそれは恥ずかしい事じゃなくて自然な事じゃないのかな?もしかして…西園寺さんの事なの?」

安藤から陽斗さんの名前を言われてさらに顔が熱くなった。
安藤はすべてお見通しのようだった。

「西園寺さんはきっと今までも相当モテる人だと思うけど、本当の恋愛はしてきているのかしら?私の経験では案外モテる男って、本当の恋愛を知らないのよね。女の方から寄って来るからそれで満足しちゃうのよ。案外恋愛経験は意外と少なくて、澪ちゃんとお互い様じゃないのかしら。」

さらに、何も言えず固まっていた私に話を続けた。

「そうかぁ、西園寺さんは澪ちゃんみたいなタイプに弱いかもしれないね。グイグイくる女の人は今までたくさん周りにいたかも知れないけど、純粋な澪ちゃんとどう接してよいか西園寺さんも分からないかもね…あっそうだ!なにかおねだりしてみたら。」

「おねだりって…何も欲しくないし…。」

安藤は私を見ながら大きく首を振ったのだ。

「物じゃなくていいのよ。例えば一緒に食事行きたいとか、買い物に行って欲しいとか、そんな些細な事でも澪ちゃんに言われたら嬉しいかもね。」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

花咲くように 微笑んで

葉月 まい
恋愛
初恋の先輩、春樹の結婚式に 出席した菜乃花は ひょんなことから颯真と知り合う 胸に抱えた挫折と失恋 仕事への葛藤 互いの悩みを打ち明け 心を通わせていくが 二人の関係は平行線のまま ある日菜乃花は別のドクターと出かけることになり、そこで思わぬ事態となる… ✼•• ┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈••✼ 鈴原 菜乃花(24歳)…図書館司書 宮瀬 颯真(28歳)…救急科専攻医

【完結】【R15】そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜

鷹槻れん
恋愛
「大学を辞めたくないなら、俺の手の中に落ちてこい」  幼い頃から私を見知っていたと言う9歳年上の男が、ある日突然そんな言葉と共に私の生活を一変させた。 ――  母の入院費用捻出のため、せっかく入った大学を中退するしかない、と思っていた村陰 花々里(むらかげ かがり)のもとへ、母のことをよく知っているという御神本 頼綱(みきもと よりつな)が現れて言った。 「大学を辞めたくないなら、俺の手の中に落ちてこい。助けてやる」  なんでも彼は、母が昔勤めていた産婦人科の跡取り息子だという。  学費の援助などの代わりに、彼が出してきた条件は――。 --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 (エブリスタ)https://estar.jp/users/117421755 --------------------- ※エブリスタでもお読みいただけます。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜

湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」 「はっ?」 突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。 しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。 モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!? 素性がバレる訳にはいかない。絶対に…… 自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。 果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。

処理中です...