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しおりを挟む陽斗は私の手を引き寄せると、そのまま私を抱きしめたのだった。
私の心臓が大きく音を鳴らした。
「澪、俺は君を利用したのに…初めてだったんだ、もっと一緒に居たいと思う女性に会ったのは。君が家で待っていると思うと仕事も早く終わらせて家に帰りたくなった。君と行った横須賀の海もいつも以上に癒されて心地よかった。澪が一緒だと俺の世界が明るくて温かい物に感じるんだ。」
「…陽斗さん。」
私はそのまま陽斗の胸の中で目を閉じた。
その時やっと気が付いたのかも知れない。
私は陽斗に惹かれている…ずっとこうして欲しかったのだと。
「澪、これから君の実家に俺を連れて行ってくれないかな。正式に君の両親にご挨拶したい。」
家に帰るとちょうどお父さんも家に帰って来ていた。
父は私を見て目じりを下げて喜んでくれたが、すぐに後ろにいる陽斗に目を向けた。
「澪、そちらの方は誰なんだい?」
私は父と母の前で姿勢を正した。
「お父さん、お母さん、紹介したい人がいるの。」
両親は私の突然の申し出に驚きながらも、私の目の前にある椅子に座ったのだ。
すると陽斗は私の前に出て、いきなり床に膝を着いた。
「順番が逆になり申し訳ございません。澪さんと結婚させて頂いた西園寺陽斗と申します。」
父は驚いたように立ち上がった。
「け…け…結婚した?それはどういう事なんだ。」
お父さんが驚くのも無理もない。
陽斗さんとの出会いは自分でも信じられないほどだった。
「出会いは、澪さんに結婚式で新婦役をお願いしたのです。お恥ずかしい話ですが、僕は政略結婚をすることになっていましたが、相手の女性は他の男性と駆け落ちしてしまったようなんです。それで急遽、フロントにいた澪さんにお願いしました。」
すると、見る見るうちにお父さんの顔が厳しくなった。
「君は澪を新婦の代役にしたってことかい。」
「はい。何と言われてもそれは事実です。申し訳ございません。そして少しの間、澪さんに妻役をお願いしました。」
今度はお母さんが私に向かって声を上げた。
「澪はなんでそんな理不尽な申し出を断らなかったの…信じられないわ。」
「私も最初はそんなこと有り得ないと思ったよ。でも、陽斗さんは約束を守ってくれて、それ以上に私を大切に扱ってくれたわ。」
父も母も大きく溜息をつきながら呆れた表情をした。
しかし、陽斗さんは床に頭が付くほどに頭を下げて話し出した。
「澪さんを巻き込んでしまった事は深くお詫びをします。…しかし、自分でもこんな気持ちは初めてなんです。僕は自分以外の誰かをこんなにも大切にしたいと思ったことは無かったんです。澪さんが笑ってくれると自分も嬉しくなるし、悲しんでいると自分の心が痛い程に悲しくなるんです。この気持ちはまだ何か理解できないのですが、僕は澪さんを一生かけて守っていきたいと思いました。これが本当の気持ちです。」
お父さんはしばらくの間、無言で目を閉じて聞いていた。
そして、少ししてゆっくりと目を開けたのだった。
「西園寺くん、その気持ちに嘘は無いんだね。」
「はい。ここに誓います。」
すると、お父さんは表情を緩めて陽斗を見た。
「澪を絶対に悲しませないでくれ。…幸せにしてやってください。親バカかも知れないが、澪は気持ちの優しい自慢の娘なんですよ。」
私は思わず両親に声を出した。
「お父さん、お母さん、ありがとうございます。私、陽斗さんと生きていきたい。」
両親は微笑みながら頷いてくれた。
陽斗は目に涙を浮かべながら私の肩にそっと手を置いたのだった。
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