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玲也の気持ちがわかり、両想いになったが、会社では今までとおり上司と部下だ。
私は努めて平然を装っていた。

しかし、玲也は廊下ですれ違う時などには、皆に気が付かれないように手を握ったり、結構大胆な合図を送ってくれる。

それは、私にとって破壊力の凄まじい爆弾のように感じるのだ。
顔が沸騰して一瞬で心臓が止まりそうになるのだ。

そして今日も真っ赤になった私を見て、理子は揶揄うのだ。

「…唯…顔が赤いけど…どうしたのかな?」

そう言いながらニヤリと笑った。

「理子!…もう揶揄わないで!」

少しくすぐったいが幸せな気持ちになっていた。


そんなある日、珍しく秘書の瀬谷さんが営業部にやって来た。

なにか急いでいる様子だ。
そして、マネージャーになにか伝えると真っすぐに私に近づいて来た。

「花宮さん、急ぎの用事があります。すぐにCEO室に来てください。マネージャーには今許可をとりました。」

「…あの…どうして…」

「とにかく急いで来てください!」

瀬谷さんはそれだけ言うと、自分に付いて来るようにと無言で歩き出した。
私は意味もわからず急いで付いて行くしかなかった。

そして玲也のいるCEO室の前で立ち止まり、瀬谷さんはノックすると返事を待つことなくすぐにドアを開けたのだった。

よほど急いでいるのだろう。

部屋に入ると応接には男性と女性が座っていた。
その正面に玲也が座っている。

すると瀬谷さんは私に玲也の隣へ座るよう促した。



ソファーに座り、そっと前を見ると、そこに座っていたのは以前の玲也の婚約者であった天王寺京子と秘書の本郷だった。
私は驚き表情を強張らせたことに京子が気づいたようだ。

「花宮唯さん、驚かせてごめんなさい。今日は橘さんに報告と御礼に来たのよ。」

確かに今日の京子は柔らかい表情を浮かべている。

そして京子はいきなり隣に座る本郷の手を取ると、恋人つなぎに手を繋いだ。

「私はここにいる本郷と結婚することになりましたの…それに…私のお腹には本郷の子供がいるのよ。」

私は突然の事に言葉が見つからず、口をパクパクしていたようだ。
すると玲也はその私をみてクスッと笑った。

「唯ちゃん、驚き過ぎて言葉が出ないといったところかな?」

さらに京子は言葉を続けた。

「私が本郷を愛していることは、ずっと前から玲也さんはご存じだったようなの。でも私は両親に逆らうことが出来ないし、橘家に嫁ぐことが決められていたから、仕方なく親の言いなりになろうと思っていたのよ。」

玲也はその話を聞いて大きく頷くと、呆れたように話を始めた。

「京子は幼馴染だからね。僕はずっと分かっていたよ。本郷君が大好きなんだってね。…それなのに、婚約はお受けします!なんて言うから驚いたよ。だから僕は断り続けていたんだ。でも真実を言うと、本郷君の立場もあるので言えなかったんだ。」



これで全てが分かった。

玲也が婚約を断る理由は言えないと言っていたのは、本郷と京子の関係を皆に言うことが出来なかったからだったのだ。
私は思わず声を出した。

「天王寺さん、本郷さん、おめでとうございます。お幸せになってくださいね。」

すると本郷が初めて重い口を開いた。

「橘さん、そして花宮さん、前回はご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。不甲斐ない私は京子との結婚を言い出せずにいたんです。しかし、本当の気持ちを京子の両親に伝えたら、驚くことに喜んでいただけて…お二人が私に勇気を出す機会をくださったのです。今では本郷家は天王寺家に仕えておりますが、古くから縁の深い家柄なので、結婚も問題ないと言って頂けました。」


本郷は、眼鏡の奥の美しい切れ長の目から涙が流れ落ちた。

そして玲也に深々とお辞儀をしたのだった。


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