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秘密の日常が始まった
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翌日、私が会社入り口のロビーに到着すると、すぐに後ろから同期入社であり親友の理子が、凄い勢いで追いかけて来た。
「ゆ…唯…どうしたの?」
「どうしたのって…なにが?」
「なにが?じぁないわよ!その服よ!今日は何があるの?」
理子は私の服装を見て近づいて来たのだった。
理子が驚くのも無理はない、この服は玲也が買ってくれた服で上品なワンピースなのだ。
普段の私は、だいたい動きやすいパンツにジャケットのような、機能性重視の服装と言ったほうが良いオフィスカジュアルである。
しかし、今日の服装はいつもとはまるで違う、お嬢様風であり、品の良い紺色のワンピースではないか。
ご丁寧にスカートの裾にはレースが施されている。
おまけに鞄もハイブランドの最新モデルだ。ヒールも7㎝以上あり、ペタンコな靴に慣れている私にはとても歩きずらい。
理子は驚きで目を大きくして、口をパクパクさせている。
「理子…これにはいろいろと事情があってね…。」
理子はますます不審な目で私を見ている。
なにか珍しいものを見る目だ。
「ゆ…ゆ…唯、どんな事情か知らないけど…ただ事じゃないよ…ね。」
「後で…そうだ、お昼休みに理子へ話すよ。ちょっと長い話になるから…ね?」
理子は興味津々といった表情に変わった。
何故か嬉しそうに見える。
「うん!お昼に絶対教えてよ!」
12時を少し回った頃。
約束の通り、理子と話をするため、社員食堂の一番奥のテーブルに私達は座ることにした。
理子は椅子に座ろうとする私の姿を、足元の靴から服の前や後ろをじっくりと観察。
「ねぇ、唯が今日着ている服って、なかなか手に入らない人気のハイブランドでしょ?」
「たぶんね…でも、私はあんまり服に詳しくないからよく分からないのよ…。」
私の言葉を聞いて、理子は大きく息を吐いて、呆れた表情をする。
「唯、もう一度聞くけど、何があったの?」
理子に嘘はつけない。
今回起こった一連の出来事をすべて話すことにした。
直人に別れを告げられたこと、天井からの水漏れ、そして、蓮と玲也の話。
そしてこの服を着る事になった理由も全て話したのだ。
すると、理子は急に目を大きく輝かせて、興奮気味に声を上げた。
「唯!すごいよ!こんなチャンスは二度とないよ。その玲也っていう人はどこの会社の経営者なの?出会えただけでも最高だよ。直人なんて、もうあんなやつ忘れちゃいな!唯のほうからあいつに見返してやりなよ!」
「う…ん。直人のことは、いろいろ事件があって少し気がまぎれたというか…でも玲也さんは、どこの会社とか何も知らないし…フランスから帰って来たことくらいしか分からないの。それに、ただ弟の代わりに責任とってくれているだけだよ。」
その日の午後、私は今日も先輩から間違えを指摘されて大目玉を食らってしまった。
いつものように凹みながら、涙目でパソコンの画面とにらめっこをしていた。
しかし、営業課では私以外なぜか皆がソワソワとしているようだ。
私にねちねちと文句を言っていた先輩達も、ソワソワとしながら、なぜか化粧直しに余念がない。
なにがあるのかと思っていた時。
「花宮さん、ちゃんと間違え直しておいてね。私達は一階のロビーに行ってくるから。」
「…はい。いってらっしゃいませ。」
先輩たちの行動は、全く意味が分からないが、逆にいないほうが落ち着いて仕事ができる。
私は少しホッとしていた。
先輩たちが、いそいそと一階に向かった後、少しして一つ下の後輩の男の子が近づいて来た。
「あんなに張り切ったって、雲の上の人っすよね!…そう思いませんかぁ?」
「っえ!雲の上の人って誰?なんの話?」
「先輩!!知らないんっすか?今日フランスの本社からうちの会社のCEOが来てるらしいっすよ。イケメンCEOを、ひと目でも見たいらしくて、あわよくば声かけてくれないかって、女性陣は朝からずっと浮かれてるんっすよ。」
「へぇ~そうなの。」
「花宮先輩は、本当に興味ないんっすか?男性社員も敏腕で、完璧な仕事をするっていうCEOを実際に見てみたいと言ってみんな行っちゃいましたよ。できる男を一目見たいってね!僕は平凡で楽に暮らせればいいんで、そういうの興味ないんっすよ。」
(…私もこの会社の商品にしか興味ない。イケメンCEOは写真もよく見たこと無いし、私には遠くの存在だし関係ない人だ…)
唯は少しの間静かになったオフィスで一人カタカタとキーボードの音を響かせていた。
しばらすくると、大きな溜息をもらしながら、先輩たちがオフィスに戻って来たのだ。
皆が同様に頬を赤くしながら、少し興奮気味に話し始めた。
「やっぱり最高だよね…あの微笑…たまらないわぁ…」
「こっち見てたよね?…嬉しい…顔覚えてくれたかも知れない。きゃーどうしよう!」
「無理、無理、話すことだって夢のような人だよ…近くで見ただけでも幸せだよ。」
後輩の言っていたCEOとは、そんなにも素敵なのだろうか。
しかし、自分には関係がない雲の上のずっと上の人。
私はその時、CEOよりも目の前の仕事で頭がいっぱいだったのだ。
就業時間を少し過ぎ、今日は嫌味な先輩方も早く帰るようだったので、私も急ぎ帰ることにした。
私には考えていた計画があったのだ。
服や沢山の物を買ってもらい、朝食まで用意してくれた玲也のために、せめて夕食でもつくろうと思っていたのだ。
「ゆ…唯…どうしたの?」
「どうしたのって…なにが?」
「なにが?じぁないわよ!その服よ!今日は何があるの?」
理子は私の服装を見て近づいて来たのだった。
理子が驚くのも無理はない、この服は玲也が買ってくれた服で上品なワンピースなのだ。
普段の私は、だいたい動きやすいパンツにジャケットのような、機能性重視の服装と言ったほうが良いオフィスカジュアルである。
しかし、今日の服装はいつもとはまるで違う、お嬢様風であり、品の良い紺色のワンピースではないか。
ご丁寧にスカートの裾にはレースが施されている。
おまけに鞄もハイブランドの最新モデルだ。ヒールも7㎝以上あり、ペタンコな靴に慣れている私にはとても歩きずらい。
理子は驚きで目を大きくして、口をパクパクさせている。
「理子…これにはいろいろと事情があってね…。」
理子はますます不審な目で私を見ている。
なにか珍しいものを見る目だ。
「ゆ…ゆ…唯、どんな事情か知らないけど…ただ事じゃないよ…ね。」
「後で…そうだ、お昼休みに理子へ話すよ。ちょっと長い話になるから…ね?」
理子は興味津々といった表情に変わった。
何故か嬉しそうに見える。
「うん!お昼に絶対教えてよ!」
12時を少し回った頃。
約束の通り、理子と話をするため、社員食堂の一番奥のテーブルに私達は座ることにした。
理子は椅子に座ろうとする私の姿を、足元の靴から服の前や後ろをじっくりと観察。
「ねぇ、唯が今日着ている服って、なかなか手に入らない人気のハイブランドでしょ?」
「たぶんね…でも、私はあんまり服に詳しくないからよく分からないのよ…。」
私の言葉を聞いて、理子は大きく息を吐いて、呆れた表情をする。
「唯、もう一度聞くけど、何があったの?」
理子に嘘はつけない。
今回起こった一連の出来事をすべて話すことにした。
直人に別れを告げられたこと、天井からの水漏れ、そして、蓮と玲也の話。
そしてこの服を着る事になった理由も全て話したのだ。
すると、理子は急に目を大きく輝かせて、興奮気味に声を上げた。
「唯!すごいよ!こんなチャンスは二度とないよ。その玲也っていう人はどこの会社の経営者なの?出会えただけでも最高だよ。直人なんて、もうあんなやつ忘れちゃいな!唯のほうからあいつに見返してやりなよ!」
「う…ん。直人のことは、いろいろ事件があって少し気がまぎれたというか…でも玲也さんは、どこの会社とか何も知らないし…フランスから帰って来たことくらいしか分からないの。それに、ただ弟の代わりに責任とってくれているだけだよ。」
その日の午後、私は今日も先輩から間違えを指摘されて大目玉を食らってしまった。
いつものように凹みながら、涙目でパソコンの画面とにらめっこをしていた。
しかし、営業課では私以外なぜか皆がソワソワとしているようだ。
私にねちねちと文句を言っていた先輩達も、ソワソワとしながら、なぜか化粧直しに余念がない。
なにがあるのかと思っていた時。
「花宮さん、ちゃんと間違え直しておいてね。私達は一階のロビーに行ってくるから。」
「…はい。いってらっしゃいませ。」
先輩たちの行動は、全く意味が分からないが、逆にいないほうが落ち着いて仕事ができる。
私は少しホッとしていた。
先輩たちが、いそいそと一階に向かった後、少しして一つ下の後輩の男の子が近づいて来た。
「あんなに張り切ったって、雲の上の人っすよね!…そう思いませんかぁ?」
「っえ!雲の上の人って誰?なんの話?」
「先輩!!知らないんっすか?今日フランスの本社からうちの会社のCEOが来てるらしいっすよ。イケメンCEOを、ひと目でも見たいらしくて、あわよくば声かけてくれないかって、女性陣は朝からずっと浮かれてるんっすよ。」
「へぇ~そうなの。」
「花宮先輩は、本当に興味ないんっすか?男性社員も敏腕で、完璧な仕事をするっていうCEOを実際に見てみたいと言ってみんな行っちゃいましたよ。できる男を一目見たいってね!僕は平凡で楽に暮らせればいいんで、そういうの興味ないんっすよ。」
(…私もこの会社の商品にしか興味ない。イケメンCEOは写真もよく見たこと無いし、私には遠くの存在だし関係ない人だ…)
唯は少しの間静かになったオフィスで一人カタカタとキーボードの音を響かせていた。
しばらすくると、大きな溜息をもらしながら、先輩たちがオフィスに戻って来たのだ。
皆が同様に頬を赤くしながら、少し興奮気味に話し始めた。
「やっぱり最高だよね…あの微笑…たまらないわぁ…」
「こっち見てたよね?…嬉しい…顔覚えてくれたかも知れない。きゃーどうしよう!」
「無理、無理、話すことだって夢のような人だよ…近くで見ただけでも幸せだよ。」
後輩の言っていたCEOとは、そんなにも素敵なのだろうか。
しかし、自分には関係がない雲の上のずっと上の人。
私はその時、CEOよりも目の前の仕事で頭がいっぱいだったのだ。
就業時間を少し過ぎ、今日は嫌味な先輩方も早く帰るようだったので、私も急ぎ帰ることにした。
私には考えていた計画があったのだ。
服や沢山の物を買ってもらい、朝食まで用意してくれた玲也のために、せめて夕食でもつくろうと思っていたのだ。
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