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その男性は意味が分からないようで、蓮に真っすぐ向き合うように立った。

「蓮、俺に分かるように説明してくれ。」

すると、蓮はその男性の威圧感に怯えたような表情をしながら話を始めた。

「僕が全部悪いんだよ…実はね…」

蓮は自分がシャワーを出したまま寝てしまった事、家じゅうが水浸しになった事、下に住んでいる私の部屋に水漏れをさせてしまった事、すべて正直に話をしたのだ。
蓮は話を終えると、深くその男性に頭を下げた。

「兄さん、だまって部屋を借りてごめん…でもそこに居る唯さんを追い出したりしないで欲しい。」

すると、その男性は蓮の肩をポンと叩き笑顔を向けた。

「蓮、やってしまった事は、もう仕方ない。でもご迷惑をかけたことにはお詫びをしないとならないな…だから頭を下げるのは俺じゃないだろ…俺も蓮の兄として責任がある。追い出すなんてするわけがない。」

蓮のお兄さんは蓮の頭に手を置いて、私の前で頭を下げさせた。
そして、自分も深く私に向かって頭を下げたのだ。

「知らなかったとはいえ、申し訳ない。弟の蓮が大変ご迷惑をお掛けしてしまい、兄としてもお詫びをしたい。」

私は頭を下げる二人に向かって慌てて声を出した。

「あ…ああの…もう頭を下げないでください。私こそ蓮君のお兄さんの家と知りながら勝手に着いて来たし…でも、明日の朝には出て行きますから…だから、それまでここに置いていただけませんか。」



こんな真夜中にどこかに放りだされても困る。

私は失礼を承知の上で、蓮のお兄さんへ明日までここに居させてくれるよう頼むことにした。
すると、蓮のお兄さんは優しい微笑を浮べた。

「もちろん、出て行けなんて言わないよ。それに蓮がご迷惑をお掛けしたのだから、部屋が元通りになるまで居てくれて構わないよ。ホテルの方が良ければこちらで手配も出来るし、君の好きな方にして欲しい。…でもホテル住まいは長くなると結構不便だから、嫌じゃなければここを使って欲しい。使っていない部屋もあるから、自分の家だと思って自由に使ってもらって構わないよ。」

蓮のお兄さんはとても優しい人で良かった。
しかも、先程まで慌てていて気が付かなかったが、美少年の蓮に負けず劣らず、むしろ大人の魅力がプラスされている。
美丈夫?眉目秀麗?ありとあらゆる言葉を浮べるが、言葉では言い表せない美しい姿。
涼しげな目元は少しブラウンで蓮と同様に日本人離れしているが、どこかエキゾチックな雰囲気もある。
ふわりとした柔らかい感じのダークブラウンの髪を少しウェットにビジネス仕様に整えている。
ローマ彫刻を彷彿とさせるのような鼻筋と、バランスの良い少し薄い唇。
どこから見ても非の打ち所がない絶妙なバランスの美形。

それにこれだけの家に住んでいるのだから、当たり前かもしれないが、紳士的でいかにも社会的地位もありそうな男性ではないか。

私が答えに困っていると、その男性は高い身長を私と同じ目線になるように屈むと、私の顔を覗き込むようにしてもう一度微笑んだのだ。
美形がこんなに近くで微笑むと、ものすごい破壊力だ。
私の心臓は急にドクリと大きく跳ねあがり、飛び出してしまいそうな勢いだ。

「唯ちゃんと言ったよね。…僕は玲也(れいや)、橘 クロード 玲也と言います。知らない男で不安だと思うけど、部屋にはそれぞれ鍵がかかるから…どうかな?それに弟のお詫びもしたいから、ここに暫く居る事にしてくれないかい。」

そこまで言われると、断りずらくもなる。
結局、部屋が直るまで、ここにお世話になることになった。
しかし、こんな魅力的な男性と一緒に暮らすなんて、心臓が持つか不安なくらいだ。

そして、今日はもう深夜と言う事もあり、私は用意してくれたゲストルームで休むことにした。
ゲストルームも思った以上に豪華なつくりだ。
部屋の中にシャワールームまでついている。
ちょっとした高級ホテルよりも、豪華なうえに居心地が良さそうだ。

大きなベッドが部屋の中央にあり、私はそこに向かって仰向けにポスっと音を立てて寝てみた。
私の家にあるベッドはまだ3年くらいしか使っていないのに、最近は寝返りを打つと、ギシリと音が出るようになってきたのだ。
安物に飛びついた自分に後悔していたところだった。
しかし、このベッドはさすがに高級なのか、音どころか体の沈み具合も心地よい。
コロンと寝がえりを打っても、体を包んでくれるような寝心地だ。

今日はいろいろなことが有り過ぎた。
自分では気が付かなかったが、そうとう疲れていたようだ。
布団に入って間もなくして意識がなくなっていた。



白皙の美青年である蓮、そして大人の色気が駄々洩れの美男子である玲也。

災難からの偶然ではあるが、こんな美しい兄弟と出会ったことはない。

そして、見ず知らずの人の家に泊まらせてもらうのも初めてだ。
私の頭の中はもうパニックで処理が追い付かない。
無意識に考えることはもうやめていたようだ。

そして、いつしか私は夢を見ていた。


どこか救われた気持ちになっていたのだろう。不謹慎ではあるが、気持ちは楽になっていた。

夢の中に、大好きだった姉が出て来たのだ。
姉は微笑んで何かを言っている。言葉は聞こえないが、何かを言いながら笑顔でうなづいて居るのだ。
まるで、『良かったね』と嬉しそうな表情にも見えるのだ。

「待って!行かないで!お姉ちゃん!」

大きな自分の叫び声で目が覚めた。
姉が夢の中で手を振って消えてしまったのだ。

「夢だったんだ…。」

私は小さな声で呟きながら、ゆっくりと起き上がった。

笑顔の姉は、私の気持ちなのだろうか。

辺りを見回すと、ここは蓮が昨日連れて来てくれた兄の玲也の家だ。
私は窓に近づきカーテンを開けた。
朝日に照らされた美しい街が視界に飛び込んでくる。
昨夜は夜のため見えなかったが、高層階からの景色はかなり遠くまで見渡せる壮大な景観なのだ。
遠くには富士山と思われる山も見えている。

「すごい!遠くのビルや富士山まで見える!」

本来なら落ち込んで朝を迎えるはずの状況だが、なんだか少し浮かれている気分になってしまう。
私はフルフルと顔を左右に振って冷静を装うと、ドアを開けて部屋を出た。

すると、パンの焼ける香りだろうか、香ばしい匂いが部屋に充満していた。

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