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マンションのエントランスに入ると、そこはまるで豪華なホテルのロビーのようだ。真夜中だと言うのに、スタッフが数人カウンターの中にいる。

そのスタッフは私達が入って来たことに気がつくと、こちらを向いて姿勢を正して、深々とお辞儀をした。

カウンターの中央にいる男性は微笑みを浮かべて、私達に話しかけてきた。

「こんばんは、橘様。お帰りなさいませ。」

蓮のことは知っているのだろう、兄弟なのだから度々来ているのだろうと思った。

私は蓮に向かって小声を出した。

「ねぇここにはよく来てるの?」

すると蓮はニヤリと口角をあげる。

「今迄に数回しか来たことないよ…あぁフロントの人は顔認証で誰だかわかるんだよ。」

「顔認証?」

私が不思議そうな顔をしても、蓮は慣れた様子でフロントスタッフへ話し出した。

「今日からこの女性がしばらく部屋を使うから、登録しておいて!名前は、唯だからよろしくね。」

スタッフは蓮の話を聞いて、私の方に向き直った。

「唯様ですね、橘様のお部屋に登録しておきます。何かお困りごとがございましたら、私どもにお申し付けください。」

「は…は…はい。」

緊張して裏声になってしまった。

蓮はクスッと笑うと、私のスーツケースを持ち上げた。


「蓮くん、いいよ!荷物くらい自分で持てるから。」

私のスーツケースを運ぼうとする蓮を止めるように声をかけた。

「大丈夫だよ。女の子に荷物は持たせるなって、小さい頃から言われているんだ。気にしないで、僕に任せて!」

蓮は私の方を向くと、片目を閉じてウィンクをする。
なんだか年下の男の子なのに、ドキッとしてしまった。
何度も言うが、美形に作られたお人形のように完璧とも言える顔をしている。
男の子なのに、美しいという言葉がよく似合う。

私のドキドキとは裏腹に、蓮はスタスタとエレベーターホールに足早で歩き、エレベーターの前に立った。

すると、センサー式なのか、エレベーターはボタンを押さなくても自動でドアが開く。

「唯ちゃん、早くおいでよ。」



私がエレベーターに飛び乗ると、ドアが滑らかに閉じて、自動で動き出したのだ。
まだ、行き先ボタンも押していない。

私がポカンとした顔をしていることに気がついた蓮が説明を始める。

「このエレベーターは、家のカギを持っているだけで、自動で最寄りの階まで言ってくれるんだよ。」

「へぇ~便利。」


「しかも、最上階は兄の部屋だけだから、このカギを持っていない人は最上階まで上れないようになっているんだよ。」

なんだか、とんでもない所に来てしまったようだ。
蓮の兄は何者なんだろう。

「唯ちゃん、到着だよ」

最上階まで上ったエレベーターが開く。

「ねぇ、蓮くん…唯ちゃんって呼んでるけど、私は年上なんだからね。」

「ハイハイ、可愛い女性は年上でもちゃん付けで呼びたいんだ。…さぁ着いたよ、兄の部屋だけど気にしないで入って来て。」

マイペースな蓮に呆れながらも、ドアを開けた蓮に続いて部屋に入る。

「ちょ…ちょっと…蓮くん!ここが本当にお兄さんの部屋なの?」

マンションの入口でも、その豪華さに驚いたが、実際の部屋に入ると、さらに驚いた。
どのくらいの大きさがあるか、わからないほど広いリビング。
一面ガラス貼りで、窓から見える夜景にも圧倒される。
東京が一望できるのではないかと思う景色だ。
これは以前にスカイツリーの展望台に登った時に見た景色に似ている。



「唯ちゃん、ゲストルームの布団とか用意してくるね…適当に座ってゆっくりしてね。」

蓮は忙しそうに廊下を歩いて行ってしまった。

ゆっくりと言われても、こんなに豪華な部屋ではどうしてよいのか分からないほどだ。
しかし、立っている訳にもいかないので、見るからに柔らかそうなレザーのソファーに腰を下ろした。
ソファーは思った通り柔らかいが、沈み過ぎず適度な弾力があり、とても快適な座り心地だった。
思わず深く座り、脚をパタパタと子供のようにしていると、カチャリと部屋の戸が開く音がした。
蓮が戻って来たのだと思い、声を出した。

「蓮くん、このソファーすごく座り心地いいね!」

すぐに蓮の返事がない。不審に思い入り口の方向に振り向いてみる。

「き…きみ…誰?」

そこに居たのは蓮ではない。
蓮よりもだいぶ年上の感じがする男性が、驚いた顔で立っていたのだ。

「あ…あの…ええと…私は…蓮くんから…」

何と説明してよいのか分からず、その男性に向かって言葉を詰まらせていると、そこへようやく蓮が走って来たのだ。

「に…兄さん…どうしたの?いつ日本へ帰って来たの?」

慌てる蓮に向かってその男性は、少し怒った表情をする。

「蓮!おまえにこの部屋は自由に使って良いと言ったが、女を連れ込むために使って良いとは言ってないぞ…どういうことだ。」

その男性に向かって蓮は“兄さん”と言っている。
だとすれば、この家の家主ではないのだろうか。
私は慌てて立ち上がって声を出した。

「あの…違うんです。私は今日、蓮君と初めてお会いしたばかりです。」

言い方が悪かったようだ。さらにややこしい事になりそうだ。

「蓮、なおさら悪い。会ったばかりの女性を連れて来たという事か?」

私と蓮はその男性に向かって同時に声を出した。

「誤解です!!」
「違うよ!!」

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