上 下
4 / 22

1-4

しおりを挟む


その後、龍崎と早乙女は私を部屋へと案内してくれた。

龍崎が部屋の入り口で声を出した。


「恵美様、こちらがお嬢様のお部屋でございます。一応必要と思われるものは用意致しましたが、足りないものがございましたら、私どもにお申し付けください。」


私は気になっていたことを、二人に尋ねた。


「あ…あの…この部屋は、恵お嬢様がお使いだった部屋ですか?」

すると、今度は早乙女が話し始めた。

「いいえ。恵様の部屋は奥様がそのままにするように…とのことですので鍵を掛けてそのままになっております。」

「鍵がかかっているということは、入ることは無理ですね…」

「はい。申し訳ございません。」

私は、恵お嬢様のことを知りたかったのだ。
同じ顔であっても別の人生を送って来た姉妹だ。

もう叶わない望みだが、恵美お嬢様に会いたかった。



早乙女は私の気持ちを落ち着かせようとしたのだろう。
優しい笑顔を向けて話し始めた。

「恵美様、そろそろお腹が空きませんか?いろいろな事でお疲れと思いますので、お部屋に昼食をお持ち致しましょうか?」

気づけば、もう12時をとっくに過ぎており、お腹も空いていた。
空腹を意識した途端に、お腹はグーグーと音を出し始めた。

「早乙女さん、昼食お願いできますか?」

「はい。畏まりました。それと…私達に敬語も“さん”も不要です。龍崎、早乙女とお呼びください。」

早乙女は一度、微笑を浮べると、深くお辞儀をして昼食の用意のため部屋を出た。


残った龍崎はクローゼットから淡いブルーのワンピースを取り出し、私に見せた。

「恵美様、学校の制服のままですので、お着替えをしましょう。こちらのワンピースでよろしいでしょうか?」

「あっ…はい。そうします。」

考えてみたら学校に行く途中だったため、制服を着ている。

私のために洋服も用意されていたのだ。
サイズも見たところあっている様に思う。

「それでは、失礼いたします。」

龍崎は返事を聞くと、いきなり私の制服の釦を外し始めた。



「--------------り----りゅう龍崎さん!何をされているのですか!!」



「もちろん、お着替えをさせて頂いておりますが…何か問題でも?」



龍崎はクスッと笑いながら少し意地悪な表情をしたように見えた。

「も---も---問題----あり---ありです。自分で着替えますから!!」

「困りましたね…お着替えは私達の仕事ですので…ご自分でなさらないでください。」

「--------うっ!嘘ですよね!!」

龍崎は騒ぐ私を気にせず、少し強引に制服を脱がし始めた。
かなり手慣れた感じで、あっという間に下着だけにされていた。

「恵美様、とても綺麗なお肌ですね…チュッ」

「-------ひゃぁ!」

龍崎が突然、肩に口づけをしたので驚きで、変な声が出てしまった。
何が起きているのだろうか。
もう顔が熱くて爆発しそうだ。

「恵美様、如何なさいましたか?」

龍崎はクスッと笑いながら、何もなかったように着替えを続けた。



龍崎は私の着替えを済ませると、何事もなかったように静かに部屋を出た。

(…なに…あの人達…私はこれからどうなってしまうのだろう…)

一人になり落ち着くと、今度は不安と寂しさが押し寄せてくる。

今思えば、朝の両親の態度は納得できる。
この家に連れて来られることを、知っていたのだろう。


(…家に帰りたい…でも、あの家は私の家では無かった…)


(…優しいお父さんもお母さんも…本当の両親じゃなかった…)


(…こんな事…知りたくなかった…)


いろいろと考えているうちに、ますます不安がいっぱいになる。
涙で前が見えなくなってくる。


「そうだ、高校はどうなるのだろう?ここから通うのかな?」

私は思わず独り言を言っていた。

何もかもが分からない状況だ。

私は高校三年生になったばかりだ、大学受験も控えている。
いろいろと聞きたいことが頭の中をぐるぐると回るばかりだ。




暫くすると、部屋をノックする音がした。

“トン、トン、トン”

「恵美様、ご昼食をお持ち致しました。」

早乙女が昼食を持って来てくれたようだ。

「…はい。お願いします。」

部屋に入って来た早乙女に、泣いた顔を見せたくなかった私は、俯いたまま動かずにいた。

「…恵美様?如何致しましたか?」

「な…なんでもありません。」

すると、いきなり早乙女はしゃがみ込み、私の顔を覗いた。

「…恵美様…突然このようなところに連れてこられて、無理もないですよね。」

早乙女は静かに頭を撫でてくれる。
少し不安が和らぐような気がした。

その優しさに涙がさらに流れ落ちる。

私は無意識に、早乙女に抱き着くようにして、大きな声で泣いていた。
早乙女はそんな私の頭をずっと撫でてくれていたのだ。


少し時間が経ち落ち着いてくると、自分の状況に気が付き急に恥ずかしくなった。

私は早乙女の胸から、勢いよく離れた。


「…ご…ご…ごめんなさい!」


顔から火が出るほど恥ずかしい。

そんな私に早乙女は優しく微笑んでくれる。


「恵美様、いつでも泣きたいときは私の腕の中をお貸ししますよ。」


「…い…いいえ…もう大丈夫です。」


真っ赤な私の頬に、早乙女はチュッと音を出して口づけた。


「っえ…えええ」


急なキスに私は、またしても爆発寸前だった。

しかし早乙女は、そんな私をまったく気にせずに昼食の用意を華麗な手捌きで始めた。


(…龍崎も早乙女も!!なんなの…この人たちは!…)



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

完結 嫌われ夫人は愛想を尽かす

音爽(ネソウ)
恋愛
請われての結婚だった、でもそれは上辺だけ。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

【完結】「お迎えに上がりました、お嬢様」

まほりろ
恋愛
私の名前はアリッサ・エーベルト、由緒ある侯爵家の長女で、第一王子の婚約者だ。 ……と言えば聞こえがいいが、家では継母と腹違いの妹にいじめられ、父にはいないものとして扱われ、婚約者には腹違いの妹と浮気された。 挙げ句の果てに妹を虐めていた濡れ衣を着せられ、婚約を破棄され、身分を剥奪され、塔に幽閉され、現在軟禁(なんきん)生活の真っ最中。 私はきっと明日処刑される……。 死を覚悟した私の脳裏に浮かんだのは、幼い頃私に仕えていた執事見習いの男の子の顔だった。 ※「幼馴染が王子様になって迎えに来てくれた」を推敲していたら、全く別の話になってしまいました。 勿体ないので、キャラクターの名前を変えて別作品として投稿します。 本作だけでもお楽しみいただけます。 ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

処理中です...