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本編
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「ディアナ、連絡もなしにすまない」
「い、いえ……」
名ばかりの婚約者であるセレスティノ・イグナシオ様は子爵家の三男で、魔法学院を首席で卒業。王宮魔術師として働いていて、多忙を極めている。
年に数回、婚約者の義務という形で食事会がある程度の──お飾りの婚約者が私だ。
侯爵家の醜い灰色、一族の汚点である私が婚約者に選ばれたのは、魔力量が他の令嬢より高い。
それだけ。
「(今まで極力関わらないと言っていたのに、急にどうしたのだろう?)……その、本日はどのようなご用件でしょう?」
本来なら屋敷の入り口前、馬車から降りた場所で尋ねる質問ではない。侯爵家のほうが子爵家より爵位が高くても、この対応は不敬にあたる。
けれど私が誰かを屋敷に招くなど使用人も執事も、家族も認めないし、指示も聞いてくれない。この屋敷で私は影のような存在なのだから。
(ああ、でもセレスティノ様に不敬な対応をしたとお父様が聞いたら……また地下室に閉じ込められる……)
「明日は君の誕生日だったね。まだ予定が埋まっていないのなら、一日私にくれないだろうか」
「いえ、気にしないでください――ん?」
空耳だろうか。
なんとも婚約者らしい発言が聞こえた気がする。
きっと半年ぶりに生セレスティノ様と会ったので、都合の良い言葉に脳内変換されたのだろう。
半年ぶりに会うセレスティノ様は、金髪碧眼で眉目秀麗のイケメンさんだ。前世にこんな人間がいるとしたら芸能人あるいは、モデルになっていただろう。肌は白いし、背丈も高くて王宮魔術師専用の制服はかなりいい。
制服好きな私からしたら眼福の一言だ。
(まあ、私がセレスティノ様の婚約者になれたのは、魔力量が他の令嬢よりもちょっぴり多いだけなのよね。貴族ではより魔力量の多い子供を産むのが妻に求められている。……私としては付与魔法研究所で働きたいんだけれど、難しいでしょうね)
「ディアナ。私は君の予定を聞いたつもりなのだが……」
「──っ!?」
現実だったようで、セレスティノ様はグッと顔を近づけて私に再度尋ねた。あまりにもパーソナルスペースが近い。その距離感にドキリとした。
私の灰色の髪を見て近づこうなんて人はいなかった。それはセレスティノ様も同じだったはずだ。
「え、あ……」
「近くで見るとディアナの髪の色は、白銀のようで綺麗だな」
「(え? セレスティノ様が壊れた!?)……そんな、ことは? いつものように『醜い灰被りの髪』だって言ってくださって構わないのですが……」
「わ、私は一度だってそんなことは──いや、口には出していなかったが、そう思っていた時がある。自分が浅慮だった。本当に申し訳ない」
「あ、頭を上げてください」
「ディアナは優しいのだな。……私は隣国で自分の視野の狭さを痛感した。本当に愚かだったと思っている」
(そう思ってしまうのは……仕方がない)
この国の判断基準は、魔力量、髪の色、そして血筋だ。
色が鮮やかであれば鮮やかであるほど、美しいと評価される。それもあって私は魔力量が高くても、周囲から距離を置かれてしまう。
お国柄だというのはわかる。
他国ではさほど髪の色は重視していない。私のような灰色の髪でも差別されないのだ。
もし叶うのなら誰かに疎まれ忌まわれない生活がしたい。そう思いながらも家を飛び出す勇気も、気力も、今の私には残っていなかった。
逃げて連れ戻された記憶が、心と体に残っているから。
(私には誰も味方が……いないもの)
「ディアナ?」
「(今日のセレスティノ様が可笑しいのは……仕事のし過ぎで壊れてしまった? あるいは両親に婚約者のフォローをするように言われた?)……あ、あの、それで明日のことですよね!」
「あ、ああ……。予定がないのなら入れてしまうがいいかな」
「は、はい。……でも、どうして急に?」
「……ディアナも、もうすぐ魔法学院を卒業するだろう。……そうしたら進路や、その後のことも……そろそろ話を詰めても良いと思うのだ。この間、君の提出した刺繍魔法を見て……その」
いつも短い単語しか発しないセレスティノ様は、少しもじもじしながらも言葉を紡ぐ。
気遣った優しい声音。
私をしっかりと見つめている。
ふと聞こえてきた聞き覚えのある単語に気付く。
「……刺繍魔法?」
「魔法学院の授業の一環で、魔糸に加護魔法を込めた刺繍魔法でハンカチを提出しただろう」
「あ、はい……(いつもお姉様に頼まれているものと同じものを作ったけれど、どうしてセレスティノ様が知っているのかしら?)」
「あれは魔術協会経由で精査するのだが、それに私も参加している。とても素晴らしいできだった」
「え」
「繊細だが魔糸に適量の魔力が込められており、加護も完璧だ。あれなら魔物避けはもちろん、高等攻撃魔法であっても弾くだろう」
「あ、ありがとうございます(お姉様は不良品といつも言っているけれど、セレスティノ様に褒めて頂けるなんて……)」
「私はディアナのすごさを、努力を何も見ようとしてなかった。……今さらかもしれないが、もっとディアナのことを教えてくれないだろうか」
少しだけ頬を染めるセレスティノ様は嬉しそうに語るので、夢か何かだと勘違いしてしまいそうになる。
「こんな……灰色の髪でも?」
「ああ。君は私の婚約者だろう。それに私は、魔導具や魔法の才能を持つ者に対して尊敬の念を持っている。ディアナの才能があれば、魔法研究所に勤めるのだって可能だ。あ、……もちろん、君が興味あれば、だが」
「あ、あり……ます」
消え入りそうな声だったが、勇気を振り絞ってセレスティノ様に訴える。
彼は目を輝かせて、自分のことのように微笑んだ。
「そうか! 明日はディアナの魔法理論や将来のことをもっと話したいが……迷惑ではないか?」
「と、とんでもない……です。あ、でも私、明日着ていく服が……」
浮かれていたが、セレスティノ様と釣り合うような服装がないことに気付く。彼は眉を下げて泣きそうな顔を見せた。
「大丈夫だよ。これからは、そんな心配をさせない」
「それはどういう──」
「ディアナ! いったいいつまで時間を……まあ、セレスティノ様!」
「──っ!」
金切り声を上げていた姉は、セレスティノ様を見た瞬間、大声を上げて歩み寄る。
私を押しのけて、わざと足を踏むことも忘れない。
艶のある長い黒髪は、いつ見ても綺麗だ。派手な赤いドレスに身を包み、これからパーティーに向かうのだろうか。高価なアクセサリーを身につけた姉は、傍から見て美しい。
私とは大違いだ。
いつもなら姉に笑顔を向けるのだが、セレスティノ様はどこか鋭い視線を向けたまま挨拶をする。
「ルナ嬢、お久しぶりです」
「貴方様が来ているのなら、客間に──」
「いや、結構。……ディアナ」
私に向き直り、両手で私の手を優しく包み込んだ。こんな風に触れられたのはいつぶりだろうか。セレスティノ様は目を細めて真っ直ぐに私を見つめる。
「明日は十時に迎えに行く。それと急な誘いだったから新しいドレスは後で届けよう。隣国から取り寄せたのだが、気に入ってくれると嬉しい」
「セレスティノ様」
自分の耳を疑ってしまう。今まで贈り物といえば、義務的な花束だけだった。
隣国でどのようなことがあったのだろう。明らかに今までのセレスティノ様ではない。
(隣国で一体何があったの? ……私も隣国に行けば……何かが変わるかしら?)
「ま、まあ、さすがセレスティノ様だわ。私の妹は灰色の髪だから、せっかく頂いたドレスが無駄にならないと良いのですが」
「ルナ嬢、今国内では髪の色による差別を問題視している。隣国との親睦を深めるためにも、この問題は近いうちに議題に上がるだろう。侯爵家の人間として、妹に対してそのような言葉を投げかけているのは憚られるようになる」
抑揚のない冷たい声に、姉はギクリと顔を青ざめていた。
(そっか。そう言えば学院でも話が出ていたっけ。……灰色を差別していた我が国と隣国との亀裂になりかねないのは、確かにそうかも)
「そ、そうだったのですね。隣国では灰褐色の髪の王子が王太子になったとか。それが今後影響してくるでしょうし、気をつけます」
「ああ、そうしてくれ。この国も……変わっていかなければいけない」
(セレスティノ様が急に私への態度が変わったのも、隣国の王太子が灰褐色の髪だから? だとしたらその方は私と違って立派だわ。私は一度逃げようと頑張って、それで失敗して折れてしまった……)
この髪の色で苦労していたのを思い出し、見知らぬ隣国の王太子もその立場に立つまで大変だったのだろうか、と自分の事のように考えてしまった。
きっとその方は一人ではなかったのだろう。それが少しだけ羨ましい。
「ディアナ、では明日」
「は、はい」
手を離す瞬間、グッと抱き寄せられセレスティノ様の胸元にぶつかってしまう。「何かあれば私を呼んでくれ」と囁く声が届く。
顔を上げるとセレスティノ様と目が合った。
エメラルドの美しい瞳が僅かに揺れる。
誰かに優しくされたのはいつぶりだっただろう。人間らしく、心配されたことなど転生してからあっただろうか。
***
「ディアナ! セレスティノ様が屋敷に寄ったのなら、どうして客間にお通ししなかったの!?」
「それ……は」
私には客間を使うなと言っていたからなのだが、それを指摘すれば逆上して平手打ちが飛んでくる。姉の癇癪はいつだって理不尽で、それでも周りがそれを許してしまう。
「はあ、まただんまり? もう良いわ。明日はセレスティノ様が朝から訪れるのだから髪や肌の手入れをしなきゃ」
「え」
姉が私のことを慮ってくれたことに驚いていると、口角を釣り上げて美しく微笑んだ。
「明日はお前の代わりに、私がセレスティノ様と一緒に出かけるのだから。なに? お前は毎日仕事があるでしょう。まさかそれをサボるつもりなんじゃないわね!?」
「そんなっ」
いつもならここで黙っただろう。けれど明日は自分の誕生日で、婚約者であるセレスティノ様が祝ってくれると言う。隣国の同じ髪の王太子の台頭は、私に少しばかりの勇気をくれた。
震える手をグッと強く握りながら、叫んだ。
「明日は私の誕生日で、セレスティノ様と約束したのはお姉様ではありません!」
「チッ、煩いわね! ああ、もう良いわ。そんなに私の言うことが聞けないのなら言うことを聞くまで閉じ込めるだけよ!」
姉がタクトを取り出し、謳うような詠唱を行う。
(──っ、あの場所に転移する!?)
「明日は私がセレスティノ様と、たーっぷり楽しんでくるわ。お前はあの場所で反省することね! 仕事導具はあとで放り込んであげるけれど、終わるまでは食事は抜きよ」
パキン。
「──っ」
タクトが折れると、私は真っ暗な屋敷の地下室に転移した。
小さな小窓がある石造りの部屋は頑強な扉だけで、ベッドや毛布、灯りさえない。
いつもならここで縮こまって、姉に許してもらうことばかりで動けずにいただろう。でも今日はセレスティノ様が私を見て、私の能力を認めてくれた。
それはもしかしたら政治的な部分や、私の能力が役に立ちそうだと判断したからかもしれない。
(そうだったとしても、宮廷魔術師であるセレスティノ様から求められたのなら……それに応えたい!)
今の自分に何ができるだろう。
セレスティノ様に助けを求めたら、迷惑をかけないだろうか。
思い出すのはセレスティノ様の手の温もりだ。とても大きくて、温かかった。
インクの匂いがしたのは、直前まで仕事をしていたのだろう。指先も硬くてマメがいくつもあった。
華やかで気品のあるセレスティノ様は、いつも穏やかに笑うけれど、魔導具や魔法の話になると、子供のように目を輝かせて前のめりになるのを初めて知った。
セレスティノ様は私のことを何も知らなかったと言ったけれど、私だってセレスティノ様のことを何も知らないままだった。知らないままでも良いと思っていた。
今はセレスティノ様のことが知りたい。
どんな魔法を使うのかとか、好きな色はなにか。
好きな食べ物は?
オススメの本は?
次にお会いしたら、沢山お話をしたい。
祈るように両手を合わせて、空気中にあるマナを魔糸に変換させ、セレスティノ様へと紡ぎあわせる。
(大丈夫、セレスティノ様の魔力の特徴と、インクの匂いは覚えている)
どれだけ時間を費やしだろう。
糸はセレスティノ様に届いただろうか。
誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、私が覚えているのはそこまでだった。
***
「××、ハンドメイドの売れ行きどう?」
「ふふっ、やっと固定客もついて、ネット販売も好評なの。もう少しお金を貯めたら、店を出そうかなって」
「良いじゃん。そしたら私も買いにいくよ」
副業で始めたハンドメイドは思いのほか楽しくて、アクセサリーから刺繍、魔法雑貨などは特に評判がよく、ピルケースなどは魔法陣や幾何学模様を駆使して作っていた。
(そうだ……私は、魔法雑貨を作るのが好きだった。デザインにももっと拘って……)
いつの間にか、忙殺されてしまった前世の記憶。
私の夢見た職業があまりにも過酷で、楽しむ気持ちを失っていた。
忙しかったけれど、そこには作ることへの喜びがあったのだ。
転生して劣悪な環境と差別で、大事なことを忘れてしまっていた。
けれど思い出したのなら、もう一度──立ち上がって、現状を変えるために動こう。
(今なら……セレスティノ様が手伝って下さるかもしれない……)
空に向かって手を伸ばす。誰もいないはずなのに、右手に熱が伝わってきた。
これが夢でなければいいのに、と思い私は夢から醒める。
***
目が覚めると石造りの部屋ではなく、何処かの貴賓室のベッドの上だった。すぐそばにはセレスティノ様の姿がある。
「ディアナっ」
「セレスティノ……様?」
「ああ。ディアナが私を呼んでくれたから良かった。……君の身柄は婚約者である私が預かっている。少し狭い部屋だが我慢してくれるか」
(狭い!?)
部屋を見渡すと小綺麗に整っているが、作業机には大量の書類と本が積み上がっているのが見えた。私の部屋と比べると倍以上の広さがあるのだが、セレスティノ様は申し訳なさそうな顔をしているのが気になった。
「せ、狭くなんてないです。とても綺麗ですし、魔法関係の書物は分厚い本ばかりですから、積み上がってしまうのは……しょうがない、かと」
「ん、あ、そうだな。……君は魔法学院の生徒だから見慣れているか」
「はい……?」
安堵した顔は少し幼さがあって、胸をズキュンと射貫いた。今日は婚約者の表情がコロコロ変わって心臓に悪い。
「……私の兄は二人とも優秀でね。一番上の兄は宰相の補佐官をしているし、二番目の兄は若くして第二騎士団の団長だ。……私は昔から二人の兄に勝るものがなかった。魔力量や魔法に興味があったけれど、才覚が出たのは魔法学院に入ってからだ」
「(セレスティノ様が苦労していたなんて……知らなかったわ。社交界でも有望株の三兄弟として有名だったから)……意外です。セレスティノ様の人生はもっと、私とは違って華やかなものだと……思っていました」
「まさか。……自分が落ちこぼれだとわかっていたからこそ、そう言われないために努力しただけだ。この容姿だって私の才覚が出てきたらこそ、両親が「身なりを整えるように」と専属の執事を雇ったのだから。私の髪はくせっ毛だし、服装も適当だからね」
「研究者あるあるですね」
「だろう。集中すると周りのことが雑になるし、どうでもよかった」
セレスティノ様は私の手をギュッと掴んだまま、ポツポツと自分のことを話してくれた。
思えば私はセレスティノ様を形だけの婚約者として受け入れていたので、彼に寄り添うなどおこがましいと距離を取っていた。
自分から距離を取って、離れていれば、それ以上傷つくことはないと考えていたからだ。
いつの間にか自分が灰色の髪というだけで、駄目な人間だと思い込んでいた。
「……隣国の王太子というのが、私の知人なのだが彼は我が国の魔法学院に通っていた」
「え……灰褐色の髪で、ですか……?」
「いや。当時は灰色の髪を魔法で、黒くしていたという。彼自身、公の場に姿を見せたことは殆どなかったから、元は灰褐色の髪だと知っているのは王族だけだった。……そこで隣国の差別を目の当たりにして、ショックを受けたそうだ。生まれた国が違っていたら、差別対象になっていたと考えて彼は王位に就くことで、隣国の灰褐色の髪の差別を緩和できないか私に相談をしてきた」
「セレスティノ様に?」
「ああ。……私が灰色の髪を持つディアナと、婚約していると知ったからだろうね。私は、知人が灰褐色の髪だったと聞いて、脳天を叩き割られた衝撃を受けた。……ただ髪の色が違うだけで勝手に見下して優位に立つことで、安堵していたことに気付いた。ああ、だから差別はなくならないのだとも思ったよ」
不幸比べ。
あの人よりはマシだ。
そう思えば、自分の価値を守ることができる。
けれどそこに視点を向けたままでは、ずっと他人と比べ続けていかなければ不安になってしまう。自分の中心が他人なのだから。
「それから魔法学院から商品化できそうな魔導具の採点を頼まれて、君の刺繍入りハンカチを見てドキリとした。髪の色に関係なく、優れた者はいること。その事実は変わらない」
王宮魔術師は魔導具に関して、お世辞を言うことはない。辛辣な言葉で酷評することが多いのに、セレスティノ様は手放しで私の作った物を賞賛してくれた。
それは自分を褒められるよりも、胸にグッとくる。
「この国の基準はただ髪の色の違いだけで、今後も有能者を潰していく可能性は大いにある。……だから君と話をしようと思った」
「私……と」
「君は素晴らしい才能を持っているし、とても優しくて強い人だ。君が灰色の髪というだけで搾取されるのは、間違っている。……微力ではあるが君の力になりたい」
「どうして……そこまでしてくださるのですか?」
まだ夢でも見ている気分だ。
誰も味方がいないと思っていた世界で、こんなにも近くに私のことを考えてくれる人が現れるなんて思ってもみなかった。
「君があの刺繍を作った人だから、かな。……君の作品、そして才能に惚れた……とても素晴らしい、そう思って君と接していったら、君自身も可愛い人だって思えてきて」
「ふぁ!?」
やっぱりセレスティノ様は、壊れてしまったようだ。
私を見て、か、可愛いなど目が腐ってしまったのかもしれない。
百歩譲って仕事を評価してくれるのは、飛び上がるほど嬉しい。だが私個人に好意的なのは何とかかんとか的な効果、吊り橋効果? 上手く言葉が出てこないがとにかくセレスティノ様が壊れてしまったのは確かだ。
「セレスティノ様、最近しっかり眠りましたか? 食事なども三食摂っているのでしょうか? それとも書類を読みすぎて目が腐っているのなら治癒魔法を」
「腐っ!? ……ディアナ、確かに急に態度を変えるなど胡散臭いのは分かるが、本心ですよ」
「発熱している可能性は?」
手を額に当てたら、セレスティノ様の頬が少し赤い。やはり熱があるのかもしれない。
(セレスティノ様の瞳、見る角度で少し青が入っているのかも。……綺麗。睫毛も長いし、仕事で忙しいのに肌つやもいい……)
「ディアナ。……あまり凝視されると、照れるというか」
(か、可愛い……)
「ディアナに触れたくなるのですが……良いのですか?」
「なっ!?」
熱を帯びた視線に慌てて額から手を離して、ベッドの布団に包まる。
やっぱりセレスティノ様は、可笑しくなってしまった。
「……ディアナ。貴女は姉のルナ・サルガードから大量の魔導具を作るように指示されていたと思うのですが、その商品は魔術協会の許可を取ったものではないそうです」
「え?」
「恐らく侯爵家ぐるみで売りさばいていたようだ。貴女は何も知らず仕事を押しつけられていたという証言も取れましたので、罪に問われることはない」
「そう……ですか」
無許可で魔導具を販売することは、違法であり重罪だ。
今の言葉は侯爵家が取り潰されることを示唆していた。貴族でなくなる私の価値はなくなるだろう。
(セレスティノ様との婚約も……)
一家の呪縛から唐突に解き放たれたが、その代償として私は貴族ではなくなる。魔法学院に在籍することも、セレスティノ様との婚約継続も、不可能だ。
下唇を噛みしめ涙を堪えた。
今日は本当に目まぐるしいことばかりが起きる。嬉しさ、悲しさ、苦しさ、怒り、喜びと戸惑い。最後に残ったのは──少しだけの後悔。
絶望ではない。
本当の絶望は、すでに経験している。
(家族に疎まれるよりもずっといい。……機械人形のように物を作らないですむのなら、そのほうがいい。……セレスティノ様と少しだけ仲良くなれた、それだけで奇跡のようなことだったと思えば……前に進める)
先のことは不安だけれど、希望は残っているのだ。
そう自分を奮い立たせる。
(全部手続きが終わったら……隣国に行ってみるのもいいかもしれない)
「それで、君がよければ隣国の魔法学院に編入してみないか?」
「え」
「ああ、もちろん、君に興味があれば。支援もするし、出来るだけ会いに行こうと思っている。このまま魔法学院に残ることも考えたが、この国は灰色の髪には厳しい扱いをする者も多くいる。子爵家の婚約者だけでは、君を守り切れないかもしれないし……だから、その」
「私、学院に通っても良いのですか?」
「当然だろう。君にはその才能があるのだから」
「セレスティノ様の婚約者のままでも? 婚約破棄なさったほうが……」
「冗談じゃない。私はディアナを気に入ってきているのに、どうしてそんなことをしなければならないのかな」
(思いのほかぐいぐいくる!)
セレスティノ様は胸ポケットからリングケースを取り出した。ドラマとか映画でしか見たことのない箱を開けると、金色の指輪が収まっていた。
「!」
「改めて婚約指輪を君に贈りたい。……受け取って貰えないだろうか」
「セレスティノ様……」
彼の必死さが伝わってくるけれど、自分の気持ちが追いつかない。
この人は私が知らないだけで、ずっと努力をしてきた人なのだろう。それなのに私は努力を怠って流されて、雁字搦めだった生き方を「しょうがない」と諦めていた。
誠実で、自分の非礼に対して謝れる人であり、婚約者として義理を通そうとしている。この人の隣に、今の私では立てない。
そんな資格が──ない。
「……ごめんなさい」
「ディアナ……」
「今の私には、セレスティノ様の気持ちを受け入れる資格はありません」
「そんなことは……」
「だから……その、もう少し、自分に自信が付いて……胸を張れるようになったら、その指輪を着けても……いいですか?」
「ディアナ!」
セレスティノ様は布団に包まったまま、私を抱きしめた。ギュッとされる腕の中は、ポカポカに温かくて泣きそうになる。
「そうだな。今までの分を取り戻すように一緒に居よう。魔法学院に通いづらいのなら、私の助手として仕事をしてみないかい?」
「え、ええ!?」
「そうすれば一緒の時間が増える」
「隣国の魔法学院に編入は?」
「君があの国に行ったら、その才能と愛らしさに求婚者が増えてしまうだろう。それは…………っ、困る」
「そんな訳ないじゃないですか」
「君の自己肯定感の低さも改善しないとな。……私も不慣れだが、好きだという気持ちを言葉にするとしよう」
ちゅっ、と額にキスをするセレスティノ様に、卒倒したのは言うまでもない。
「きゅう」
「ディアナ? ……ディアナ!?」
***
それからサルガード家は今回の一件で没落の一途を辿り、両親と姉は投獄された。一度だけセレスティノ様の屋敷に手紙が届いたそうだが「うっかり暖炉に落としてしまったため、内容は覚えていない」と笑っていた。目は一切笑っていなかったのでたぶん、わざとだと思う。
私がディアナ・イグナシオと名乗るまで、順風満帆──とは言えなかった。隣国の王太子が遊びに来て求婚されたことや、セレスティノ様の元婚約者だと名乗る女性が現れてこじれに拗れた。
私が婚約指輪を貰った頃、セレスティノ様の好きな食べ物や、好きな本、どのような人なのかわからないことだらけだったけれど、あの時よりは寄り添い合うことができていると思う。
まだ灰色の髪を疎む人は少なからずいるけれど、それだけで貶す人はいなくなった。
「魔術長、こちらの書類は明日までサインを」
「セレスティノ、だよ。ディアナ」
「……仕事中なのですが」
「今は私と二人きりなのだから、良いじゃないか。あー愛しい妻から名前で呼ばれたい。できることならハグをしてキスをしてくれれば、仕事がパパッと終わるのに……」
作業机に突っ伏しているセレスティノ様は、疲れがピークに達すると壊れて甘えモードが炸裂する。
同じ職場で不謹慎なのではないかと思ったが、求められることが嬉しくてついついギュッと抱きしめてしまう。
あの時と変わらないインクの匂いが鼻腔をくすぐる。
セレスティノ様は甘え上手だと知ったのは、婚約指輪を着けた頃だろうか。最初は目とか脳が腐ったのではないかと心配したが、すでに手遅れだと国王も言っていたので間違いないだろう。
進行を遅らせるのは、私の協力が必要不可欠だと言われてしまったのもある。
「ふふっ、ディアナは純粋だよね」
「意味が分かりません……」
「うん、分からないままで良いかな。この通り、仕事馬鹿だから、これからも君に甘えてしまうと思う」
「悪いと思っていないですよね」
「うーん、そんなことは……」
「良いですよ。私も……セレスティノ様に頼られるのも、甘えてくれるのも……嫌いじゃないので」
「ディアナ!」
愛情表現はまだまだだけれど、セレスティノ様の言うように言葉を積み重ねる。彼の隣に胸を張っていられるようになったことで、自信が芽生えたからだろう。
さらりと、セレスティノ様は私の灰色の髪を愛おしく撫でた。
「綺麗だ」
そう呟いた先に言葉はなかった。
私はそっと、目を閉じた。
「い、いえ……」
名ばかりの婚約者であるセレスティノ・イグナシオ様は子爵家の三男で、魔法学院を首席で卒業。王宮魔術師として働いていて、多忙を極めている。
年に数回、婚約者の義務という形で食事会がある程度の──お飾りの婚約者が私だ。
侯爵家の醜い灰色、一族の汚点である私が婚約者に選ばれたのは、魔力量が他の令嬢より高い。
それだけ。
「(今まで極力関わらないと言っていたのに、急にどうしたのだろう?)……その、本日はどのようなご用件でしょう?」
本来なら屋敷の入り口前、馬車から降りた場所で尋ねる質問ではない。侯爵家のほうが子爵家より爵位が高くても、この対応は不敬にあたる。
けれど私が誰かを屋敷に招くなど使用人も執事も、家族も認めないし、指示も聞いてくれない。この屋敷で私は影のような存在なのだから。
(ああ、でもセレスティノ様に不敬な対応をしたとお父様が聞いたら……また地下室に閉じ込められる……)
「明日は君の誕生日だったね。まだ予定が埋まっていないのなら、一日私にくれないだろうか」
「いえ、気にしないでください――ん?」
空耳だろうか。
なんとも婚約者らしい発言が聞こえた気がする。
きっと半年ぶりに生セレスティノ様と会ったので、都合の良い言葉に脳内変換されたのだろう。
半年ぶりに会うセレスティノ様は、金髪碧眼で眉目秀麗のイケメンさんだ。前世にこんな人間がいるとしたら芸能人あるいは、モデルになっていただろう。肌は白いし、背丈も高くて王宮魔術師専用の制服はかなりいい。
制服好きな私からしたら眼福の一言だ。
(まあ、私がセレスティノ様の婚約者になれたのは、魔力量が他の令嬢よりもちょっぴり多いだけなのよね。貴族ではより魔力量の多い子供を産むのが妻に求められている。……私としては付与魔法研究所で働きたいんだけれど、難しいでしょうね)
「ディアナ。私は君の予定を聞いたつもりなのだが……」
「──っ!?」
現実だったようで、セレスティノ様はグッと顔を近づけて私に再度尋ねた。あまりにもパーソナルスペースが近い。その距離感にドキリとした。
私の灰色の髪を見て近づこうなんて人はいなかった。それはセレスティノ様も同じだったはずだ。
「え、あ……」
「近くで見るとディアナの髪の色は、白銀のようで綺麗だな」
「(え? セレスティノ様が壊れた!?)……そんな、ことは? いつものように『醜い灰被りの髪』だって言ってくださって構わないのですが……」
「わ、私は一度だってそんなことは──いや、口には出していなかったが、そう思っていた時がある。自分が浅慮だった。本当に申し訳ない」
「あ、頭を上げてください」
「ディアナは優しいのだな。……私は隣国で自分の視野の狭さを痛感した。本当に愚かだったと思っている」
(そう思ってしまうのは……仕方がない)
この国の判断基準は、魔力量、髪の色、そして血筋だ。
色が鮮やかであれば鮮やかであるほど、美しいと評価される。それもあって私は魔力量が高くても、周囲から距離を置かれてしまう。
お国柄だというのはわかる。
他国ではさほど髪の色は重視していない。私のような灰色の髪でも差別されないのだ。
もし叶うのなら誰かに疎まれ忌まわれない生活がしたい。そう思いながらも家を飛び出す勇気も、気力も、今の私には残っていなかった。
逃げて連れ戻された記憶が、心と体に残っているから。
(私には誰も味方が……いないもの)
「ディアナ?」
「(今日のセレスティノ様が可笑しいのは……仕事のし過ぎで壊れてしまった? あるいは両親に婚約者のフォローをするように言われた?)……あ、あの、それで明日のことですよね!」
「あ、ああ……。予定がないのなら入れてしまうがいいかな」
「は、はい。……でも、どうして急に?」
「……ディアナも、もうすぐ魔法学院を卒業するだろう。……そうしたら進路や、その後のことも……そろそろ話を詰めても良いと思うのだ。この間、君の提出した刺繍魔法を見て……その」
いつも短い単語しか発しないセレスティノ様は、少しもじもじしながらも言葉を紡ぐ。
気遣った優しい声音。
私をしっかりと見つめている。
ふと聞こえてきた聞き覚えのある単語に気付く。
「……刺繍魔法?」
「魔法学院の授業の一環で、魔糸に加護魔法を込めた刺繍魔法でハンカチを提出しただろう」
「あ、はい……(いつもお姉様に頼まれているものと同じものを作ったけれど、どうしてセレスティノ様が知っているのかしら?)」
「あれは魔術協会経由で精査するのだが、それに私も参加している。とても素晴らしいできだった」
「え」
「繊細だが魔糸に適量の魔力が込められており、加護も完璧だ。あれなら魔物避けはもちろん、高等攻撃魔法であっても弾くだろう」
「あ、ありがとうございます(お姉様は不良品といつも言っているけれど、セレスティノ様に褒めて頂けるなんて……)」
「私はディアナのすごさを、努力を何も見ようとしてなかった。……今さらかもしれないが、もっとディアナのことを教えてくれないだろうか」
少しだけ頬を染めるセレスティノ様は嬉しそうに語るので、夢か何かだと勘違いしてしまいそうになる。
「こんな……灰色の髪でも?」
「ああ。君は私の婚約者だろう。それに私は、魔導具や魔法の才能を持つ者に対して尊敬の念を持っている。ディアナの才能があれば、魔法研究所に勤めるのだって可能だ。あ、……もちろん、君が興味あれば、だが」
「あ、あり……ます」
消え入りそうな声だったが、勇気を振り絞ってセレスティノ様に訴える。
彼は目を輝かせて、自分のことのように微笑んだ。
「そうか! 明日はディアナの魔法理論や将来のことをもっと話したいが……迷惑ではないか?」
「と、とんでもない……です。あ、でも私、明日着ていく服が……」
浮かれていたが、セレスティノ様と釣り合うような服装がないことに気付く。彼は眉を下げて泣きそうな顔を見せた。
「大丈夫だよ。これからは、そんな心配をさせない」
「それはどういう──」
「ディアナ! いったいいつまで時間を……まあ、セレスティノ様!」
「──っ!」
金切り声を上げていた姉は、セレスティノ様を見た瞬間、大声を上げて歩み寄る。
私を押しのけて、わざと足を踏むことも忘れない。
艶のある長い黒髪は、いつ見ても綺麗だ。派手な赤いドレスに身を包み、これからパーティーに向かうのだろうか。高価なアクセサリーを身につけた姉は、傍から見て美しい。
私とは大違いだ。
いつもなら姉に笑顔を向けるのだが、セレスティノ様はどこか鋭い視線を向けたまま挨拶をする。
「ルナ嬢、お久しぶりです」
「貴方様が来ているのなら、客間に──」
「いや、結構。……ディアナ」
私に向き直り、両手で私の手を優しく包み込んだ。こんな風に触れられたのはいつぶりだろうか。セレスティノ様は目を細めて真っ直ぐに私を見つめる。
「明日は十時に迎えに行く。それと急な誘いだったから新しいドレスは後で届けよう。隣国から取り寄せたのだが、気に入ってくれると嬉しい」
「セレスティノ様」
自分の耳を疑ってしまう。今まで贈り物といえば、義務的な花束だけだった。
隣国でどのようなことがあったのだろう。明らかに今までのセレスティノ様ではない。
(隣国で一体何があったの? ……私も隣国に行けば……何かが変わるかしら?)
「ま、まあ、さすがセレスティノ様だわ。私の妹は灰色の髪だから、せっかく頂いたドレスが無駄にならないと良いのですが」
「ルナ嬢、今国内では髪の色による差別を問題視している。隣国との親睦を深めるためにも、この問題は近いうちに議題に上がるだろう。侯爵家の人間として、妹に対してそのような言葉を投げかけているのは憚られるようになる」
抑揚のない冷たい声に、姉はギクリと顔を青ざめていた。
(そっか。そう言えば学院でも話が出ていたっけ。……灰色を差別していた我が国と隣国との亀裂になりかねないのは、確かにそうかも)
「そ、そうだったのですね。隣国では灰褐色の髪の王子が王太子になったとか。それが今後影響してくるでしょうし、気をつけます」
「ああ、そうしてくれ。この国も……変わっていかなければいけない」
(セレスティノ様が急に私への態度が変わったのも、隣国の王太子が灰褐色の髪だから? だとしたらその方は私と違って立派だわ。私は一度逃げようと頑張って、それで失敗して折れてしまった……)
この髪の色で苦労していたのを思い出し、見知らぬ隣国の王太子もその立場に立つまで大変だったのだろうか、と自分の事のように考えてしまった。
きっとその方は一人ではなかったのだろう。それが少しだけ羨ましい。
「ディアナ、では明日」
「は、はい」
手を離す瞬間、グッと抱き寄せられセレスティノ様の胸元にぶつかってしまう。「何かあれば私を呼んでくれ」と囁く声が届く。
顔を上げるとセレスティノ様と目が合った。
エメラルドの美しい瞳が僅かに揺れる。
誰かに優しくされたのはいつぶりだっただろう。人間らしく、心配されたことなど転生してからあっただろうか。
***
「ディアナ! セレスティノ様が屋敷に寄ったのなら、どうして客間にお通ししなかったの!?」
「それ……は」
私には客間を使うなと言っていたからなのだが、それを指摘すれば逆上して平手打ちが飛んでくる。姉の癇癪はいつだって理不尽で、それでも周りがそれを許してしまう。
「はあ、まただんまり? もう良いわ。明日はセレスティノ様が朝から訪れるのだから髪や肌の手入れをしなきゃ」
「え」
姉が私のことを慮ってくれたことに驚いていると、口角を釣り上げて美しく微笑んだ。
「明日はお前の代わりに、私がセレスティノ様と一緒に出かけるのだから。なに? お前は毎日仕事があるでしょう。まさかそれをサボるつもりなんじゃないわね!?」
「そんなっ」
いつもならここで黙っただろう。けれど明日は自分の誕生日で、婚約者であるセレスティノ様が祝ってくれると言う。隣国の同じ髪の王太子の台頭は、私に少しばかりの勇気をくれた。
震える手をグッと強く握りながら、叫んだ。
「明日は私の誕生日で、セレスティノ様と約束したのはお姉様ではありません!」
「チッ、煩いわね! ああ、もう良いわ。そんなに私の言うことが聞けないのなら言うことを聞くまで閉じ込めるだけよ!」
姉がタクトを取り出し、謳うような詠唱を行う。
(──っ、あの場所に転移する!?)
「明日は私がセレスティノ様と、たーっぷり楽しんでくるわ。お前はあの場所で反省することね! 仕事導具はあとで放り込んであげるけれど、終わるまでは食事は抜きよ」
パキン。
「──っ」
タクトが折れると、私は真っ暗な屋敷の地下室に転移した。
小さな小窓がある石造りの部屋は頑強な扉だけで、ベッドや毛布、灯りさえない。
いつもならここで縮こまって、姉に許してもらうことばかりで動けずにいただろう。でも今日はセレスティノ様が私を見て、私の能力を認めてくれた。
それはもしかしたら政治的な部分や、私の能力が役に立ちそうだと判断したからかもしれない。
(そうだったとしても、宮廷魔術師であるセレスティノ様から求められたのなら……それに応えたい!)
今の自分に何ができるだろう。
セレスティノ様に助けを求めたら、迷惑をかけないだろうか。
思い出すのはセレスティノ様の手の温もりだ。とても大きくて、温かかった。
インクの匂いがしたのは、直前まで仕事をしていたのだろう。指先も硬くてマメがいくつもあった。
華やかで気品のあるセレスティノ様は、いつも穏やかに笑うけれど、魔導具や魔法の話になると、子供のように目を輝かせて前のめりになるのを初めて知った。
セレスティノ様は私のことを何も知らなかったと言ったけれど、私だってセレスティノ様のことを何も知らないままだった。知らないままでも良いと思っていた。
今はセレスティノ様のことが知りたい。
どんな魔法を使うのかとか、好きな色はなにか。
好きな食べ物は?
オススメの本は?
次にお会いしたら、沢山お話をしたい。
祈るように両手を合わせて、空気中にあるマナを魔糸に変換させ、セレスティノ様へと紡ぎあわせる。
(大丈夫、セレスティノ様の魔力の特徴と、インクの匂いは覚えている)
どれだけ時間を費やしだろう。
糸はセレスティノ様に届いただろうか。
誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、私が覚えているのはそこまでだった。
***
「××、ハンドメイドの売れ行きどう?」
「ふふっ、やっと固定客もついて、ネット販売も好評なの。もう少しお金を貯めたら、店を出そうかなって」
「良いじゃん。そしたら私も買いにいくよ」
副業で始めたハンドメイドは思いのほか楽しくて、アクセサリーから刺繍、魔法雑貨などは特に評判がよく、ピルケースなどは魔法陣や幾何学模様を駆使して作っていた。
(そうだ……私は、魔法雑貨を作るのが好きだった。デザインにももっと拘って……)
いつの間にか、忙殺されてしまった前世の記憶。
私の夢見た職業があまりにも過酷で、楽しむ気持ちを失っていた。
忙しかったけれど、そこには作ることへの喜びがあったのだ。
転生して劣悪な環境と差別で、大事なことを忘れてしまっていた。
けれど思い出したのなら、もう一度──立ち上がって、現状を変えるために動こう。
(今なら……セレスティノ様が手伝って下さるかもしれない……)
空に向かって手を伸ばす。誰もいないはずなのに、右手に熱が伝わってきた。
これが夢でなければいいのに、と思い私は夢から醒める。
***
目が覚めると石造りの部屋ではなく、何処かの貴賓室のベッドの上だった。すぐそばにはセレスティノ様の姿がある。
「ディアナっ」
「セレスティノ……様?」
「ああ。ディアナが私を呼んでくれたから良かった。……君の身柄は婚約者である私が預かっている。少し狭い部屋だが我慢してくれるか」
(狭い!?)
部屋を見渡すと小綺麗に整っているが、作業机には大量の書類と本が積み上がっているのが見えた。私の部屋と比べると倍以上の広さがあるのだが、セレスティノ様は申し訳なさそうな顔をしているのが気になった。
「せ、狭くなんてないです。とても綺麗ですし、魔法関係の書物は分厚い本ばかりですから、積み上がってしまうのは……しょうがない、かと」
「ん、あ、そうだな。……君は魔法学院の生徒だから見慣れているか」
「はい……?」
安堵した顔は少し幼さがあって、胸をズキュンと射貫いた。今日は婚約者の表情がコロコロ変わって心臓に悪い。
「……私の兄は二人とも優秀でね。一番上の兄は宰相の補佐官をしているし、二番目の兄は若くして第二騎士団の団長だ。……私は昔から二人の兄に勝るものがなかった。魔力量や魔法に興味があったけれど、才覚が出たのは魔法学院に入ってからだ」
「(セレスティノ様が苦労していたなんて……知らなかったわ。社交界でも有望株の三兄弟として有名だったから)……意外です。セレスティノ様の人生はもっと、私とは違って華やかなものだと……思っていました」
「まさか。……自分が落ちこぼれだとわかっていたからこそ、そう言われないために努力しただけだ。この容姿だって私の才覚が出てきたらこそ、両親が「身なりを整えるように」と専属の執事を雇ったのだから。私の髪はくせっ毛だし、服装も適当だからね」
「研究者あるあるですね」
「だろう。集中すると周りのことが雑になるし、どうでもよかった」
セレスティノ様は私の手をギュッと掴んだまま、ポツポツと自分のことを話してくれた。
思えば私はセレスティノ様を形だけの婚約者として受け入れていたので、彼に寄り添うなどおこがましいと距離を取っていた。
自分から距離を取って、離れていれば、それ以上傷つくことはないと考えていたからだ。
いつの間にか自分が灰色の髪というだけで、駄目な人間だと思い込んでいた。
「……隣国の王太子というのが、私の知人なのだが彼は我が国の魔法学院に通っていた」
「え……灰褐色の髪で、ですか……?」
「いや。当時は灰色の髪を魔法で、黒くしていたという。彼自身、公の場に姿を見せたことは殆どなかったから、元は灰褐色の髪だと知っているのは王族だけだった。……そこで隣国の差別を目の当たりにして、ショックを受けたそうだ。生まれた国が違っていたら、差別対象になっていたと考えて彼は王位に就くことで、隣国の灰褐色の髪の差別を緩和できないか私に相談をしてきた」
「セレスティノ様に?」
「ああ。……私が灰色の髪を持つディアナと、婚約していると知ったからだろうね。私は、知人が灰褐色の髪だったと聞いて、脳天を叩き割られた衝撃を受けた。……ただ髪の色が違うだけで勝手に見下して優位に立つことで、安堵していたことに気付いた。ああ、だから差別はなくならないのだとも思ったよ」
不幸比べ。
あの人よりはマシだ。
そう思えば、自分の価値を守ることができる。
けれどそこに視点を向けたままでは、ずっと他人と比べ続けていかなければ不安になってしまう。自分の中心が他人なのだから。
「それから魔法学院から商品化できそうな魔導具の採点を頼まれて、君の刺繍入りハンカチを見てドキリとした。髪の色に関係なく、優れた者はいること。その事実は変わらない」
王宮魔術師は魔導具に関して、お世辞を言うことはない。辛辣な言葉で酷評することが多いのに、セレスティノ様は手放しで私の作った物を賞賛してくれた。
それは自分を褒められるよりも、胸にグッとくる。
「この国の基準はただ髪の色の違いだけで、今後も有能者を潰していく可能性は大いにある。……だから君と話をしようと思った」
「私……と」
「君は素晴らしい才能を持っているし、とても優しくて強い人だ。君が灰色の髪というだけで搾取されるのは、間違っている。……微力ではあるが君の力になりたい」
「どうして……そこまでしてくださるのですか?」
まだ夢でも見ている気分だ。
誰も味方がいないと思っていた世界で、こんなにも近くに私のことを考えてくれる人が現れるなんて思ってもみなかった。
「君があの刺繍を作った人だから、かな。……君の作品、そして才能に惚れた……とても素晴らしい、そう思って君と接していったら、君自身も可愛い人だって思えてきて」
「ふぁ!?」
やっぱりセレスティノ様は、壊れてしまったようだ。
私を見て、か、可愛いなど目が腐ってしまったのかもしれない。
百歩譲って仕事を評価してくれるのは、飛び上がるほど嬉しい。だが私個人に好意的なのは何とかかんとか的な効果、吊り橋効果? 上手く言葉が出てこないがとにかくセレスティノ様が壊れてしまったのは確かだ。
「セレスティノ様、最近しっかり眠りましたか? 食事なども三食摂っているのでしょうか? それとも書類を読みすぎて目が腐っているのなら治癒魔法を」
「腐っ!? ……ディアナ、確かに急に態度を変えるなど胡散臭いのは分かるが、本心ですよ」
「発熱している可能性は?」
手を額に当てたら、セレスティノ様の頬が少し赤い。やはり熱があるのかもしれない。
(セレスティノ様の瞳、見る角度で少し青が入っているのかも。……綺麗。睫毛も長いし、仕事で忙しいのに肌つやもいい……)
「ディアナ。……あまり凝視されると、照れるというか」
(か、可愛い……)
「ディアナに触れたくなるのですが……良いのですか?」
「なっ!?」
熱を帯びた視線に慌てて額から手を離して、ベッドの布団に包まる。
やっぱりセレスティノ様は、可笑しくなってしまった。
「……ディアナ。貴女は姉のルナ・サルガードから大量の魔導具を作るように指示されていたと思うのですが、その商品は魔術協会の許可を取ったものではないそうです」
「え?」
「恐らく侯爵家ぐるみで売りさばいていたようだ。貴女は何も知らず仕事を押しつけられていたという証言も取れましたので、罪に問われることはない」
「そう……ですか」
無許可で魔導具を販売することは、違法であり重罪だ。
今の言葉は侯爵家が取り潰されることを示唆していた。貴族でなくなる私の価値はなくなるだろう。
(セレスティノ様との婚約も……)
一家の呪縛から唐突に解き放たれたが、その代償として私は貴族ではなくなる。魔法学院に在籍することも、セレスティノ様との婚約継続も、不可能だ。
下唇を噛みしめ涙を堪えた。
今日は本当に目まぐるしいことばかりが起きる。嬉しさ、悲しさ、苦しさ、怒り、喜びと戸惑い。最後に残ったのは──少しだけの後悔。
絶望ではない。
本当の絶望は、すでに経験している。
(家族に疎まれるよりもずっといい。……機械人形のように物を作らないですむのなら、そのほうがいい。……セレスティノ様と少しだけ仲良くなれた、それだけで奇跡のようなことだったと思えば……前に進める)
先のことは不安だけれど、希望は残っているのだ。
そう自分を奮い立たせる。
(全部手続きが終わったら……隣国に行ってみるのもいいかもしれない)
「それで、君がよければ隣国の魔法学院に編入してみないか?」
「え」
「ああ、もちろん、君に興味があれば。支援もするし、出来るだけ会いに行こうと思っている。このまま魔法学院に残ることも考えたが、この国は灰色の髪には厳しい扱いをする者も多くいる。子爵家の婚約者だけでは、君を守り切れないかもしれないし……だから、その」
「私、学院に通っても良いのですか?」
「当然だろう。君にはその才能があるのだから」
「セレスティノ様の婚約者のままでも? 婚約破棄なさったほうが……」
「冗談じゃない。私はディアナを気に入ってきているのに、どうしてそんなことをしなければならないのかな」
(思いのほかぐいぐいくる!)
セレスティノ様は胸ポケットからリングケースを取り出した。ドラマとか映画でしか見たことのない箱を開けると、金色の指輪が収まっていた。
「!」
「改めて婚約指輪を君に贈りたい。……受け取って貰えないだろうか」
「セレスティノ様……」
彼の必死さが伝わってくるけれど、自分の気持ちが追いつかない。
この人は私が知らないだけで、ずっと努力をしてきた人なのだろう。それなのに私は努力を怠って流されて、雁字搦めだった生き方を「しょうがない」と諦めていた。
誠実で、自分の非礼に対して謝れる人であり、婚約者として義理を通そうとしている。この人の隣に、今の私では立てない。
そんな資格が──ない。
「……ごめんなさい」
「ディアナ……」
「今の私には、セレスティノ様の気持ちを受け入れる資格はありません」
「そんなことは……」
「だから……その、もう少し、自分に自信が付いて……胸を張れるようになったら、その指輪を着けても……いいですか?」
「ディアナ!」
セレスティノ様は布団に包まったまま、私を抱きしめた。ギュッとされる腕の中は、ポカポカに温かくて泣きそうになる。
「そうだな。今までの分を取り戻すように一緒に居よう。魔法学院に通いづらいのなら、私の助手として仕事をしてみないかい?」
「え、ええ!?」
「そうすれば一緒の時間が増える」
「隣国の魔法学院に編入は?」
「君があの国に行ったら、その才能と愛らしさに求婚者が増えてしまうだろう。それは…………っ、困る」
「そんな訳ないじゃないですか」
「君の自己肯定感の低さも改善しないとな。……私も不慣れだが、好きだという気持ちを言葉にするとしよう」
ちゅっ、と額にキスをするセレスティノ様に、卒倒したのは言うまでもない。
「きゅう」
「ディアナ? ……ディアナ!?」
***
それからサルガード家は今回の一件で没落の一途を辿り、両親と姉は投獄された。一度だけセレスティノ様の屋敷に手紙が届いたそうだが「うっかり暖炉に落としてしまったため、内容は覚えていない」と笑っていた。目は一切笑っていなかったのでたぶん、わざとだと思う。
私がディアナ・イグナシオと名乗るまで、順風満帆──とは言えなかった。隣国の王太子が遊びに来て求婚されたことや、セレスティノ様の元婚約者だと名乗る女性が現れてこじれに拗れた。
私が婚約指輪を貰った頃、セレスティノ様の好きな食べ物や、好きな本、どのような人なのかわからないことだらけだったけれど、あの時よりは寄り添い合うことができていると思う。
まだ灰色の髪を疎む人は少なからずいるけれど、それだけで貶す人はいなくなった。
「魔術長、こちらの書類は明日までサインを」
「セレスティノ、だよ。ディアナ」
「……仕事中なのですが」
「今は私と二人きりなのだから、良いじゃないか。あー愛しい妻から名前で呼ばれたい。できることならハグをしてキスをしてくれれば、仕事がパパッと終わるのに……」
作業机に突っ伏しているセレスティノ様は、疲れがピークに達すると壊れて甘えモードが炸裂する。
同じ職場で不謹慎なのではないかと思ったが、求められることが嬉しくてついついギュッと抱きしめてしまう。
あの時と変わらないインクの匂いが鼻腔をくすぐる。
セレスティノ様は甘え上手だと知ったのは、婚約指輪を着けた頃だろうか。最初は目とか脳が腐ったのではないかと心配したが、すでに手遅れだと国王も言っていたので間違いないだろう。
進行を遅らせるのは、私の協力が必要不可欠だと言われてしまったのもある。
「ふふっ、ディアナは純粋だよね」
「意味が分かりません……」
「うん、分からないままで良いかな。この通り、仕事馬鹿だから、これからも君に甘えてしまうと思う」
「悪いと思っていないですよね」
「うーん、そんなことは……」
「良いですよ。私も……セレスティノ様に頼られるのも、甘えてくれるのも……嫌いじゃないので」
「ディアナ!」
愛情表現はまだまだだけれど、セレスティノ様の言うように言葉を積み重ねる。彼の隣に胸を張っていられるようになったことで、自信が芽生えたからだろう。
さらりと、セレスティノ様は私の灰色の髪を愛おしく撫でた。
「綺麗だ」
そう呟いた先に言葉はなかった。
私はそっと、目を閉じた。
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